牡丹灯籠
牡丹灯籠(ぼたん どうろう)は、中国明代の小説集『剪灯新話』に収録された小説に基づき、三遊亭圓朝によって落語の演目として翻案された怪談噺である。圓朝没後は、四代目橘家圓喬・五代目三遊亭圓生・六代目三遊亭圓生・五代目古今亭志ん生・初代林家彦六など歴代の大真打が得意とした。
明治25年(1892年)7月には、三代目河竹新七により『怪異談牡丹灯籠』(かいだん ぼたん どうろう)として歌舞伎化され、五代目尾上菊五郎主演で歌舞伎座で上演されて大盛況だった。
以後、演劇や映画にも広く脚色され、特に二葉亭四迷は圓朝の速記本から言文一致体を編み出すなどその後の芸能、文学面に計り知れない影響を与えた。
概要
「牡丹灯籠」は、中国から伝えられたのち、江戸中期の怪談集「奇異雑談集」・「伽婢子」に翻案され、そのモチーフは上田秋成の「雨月物語」・山東京伝の「復讐奇談安積沼」などの読本、四代目鶴屋南北の脚本「阿国御前化粧鏡」に採用されるなど、我が国でもなじみ深いものであった。現行の「牡丹灯籠」はそれらの先行作を集大成したものである。
「四谷怪談」や「皿屋敷」と並び、日本三大怪談と称せられる。但し、他の2作が深い怨恨を遺して死んだ亡霊を主人公とし、また「累ヶ淵」では宿世の因縁による何代にもわたる怨恨の連鎖を主たるテーマとしているのと比して、亡霊と人間との恋愛を描くという点で、原作に見られる中国的な趣きを強く残しているものと言える。このモチーフは、映画『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』に取り上げられた『聊斎志異』収録の「聶小倩」などと通じるものがある。
また、日本の幽霊には足が無いのが一般的であるのに対して、牡丹灯籠のお露は、カランコロンと駒下駄の音を響かせて夜道を歩いて来る、という演出にも、中国的な幽霊の名残りが見られる。
あらすじ
- 旗本飯島平左衛門の娘、お露は浪人の萩原新三郎に恋したあげく焦れ死にをする。お露は後を追って死んだ下女お米とともに、夜な夜な、牡丹灯籠を手にして新三郎のもとに通うようになる。その後、新三郎の下働き、関口屋伴蔵によって、髑髏を抱く新三郎の姿が発見され、お露がこの世の者でないことがわかる。このままでは命がないと教えられた新三郎は、良石和尚から金無垢の海音如来をもらい魔除けの札を張るが、伴蔵の裏切りを受け、露の侵入を許してしまう。
- 以上の主筋に、飯島家のお家騒動。伴蔵と女房お峰の因果噺がからむ。
原作となる「牡丹灯記」(『剪灯新話』所収)では、元朝末期の明州が舞台となっている。主人公は喬某という書生であり、符麗卿と金蓮というのが、亡霊と侍女の名前である。
長編人情噺の形をとっており、多くの部分に分かれているが、六代目三遊亭圓生はお露と新三郎の出会いを「お露新三郎」・お露の亡魂が新三郎に通い祟りをなすくだりを「お札はがし」・伴蔵の悪事の下りを「お峰殺し」「関口屋のゆすり」にそれぞれ分けて演じていた。
参考文献
- 三遊亭圓朝作『怪談牡丹燈籠』(岩波文庫 緑-296、1955年) ISBN 400310031X
- 三遊亭円朝著『怪談牡丹燈籠 怪談乳房榎』(ちくま文庫、1998年) ISBN 448003420X
- 太刀川清著『牡丹灯記の系譜』(勉誠出版、1998年) ISBN 4585030565