情報倫理

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 情報倫理(じょうほうりんり、英語:information ethics)とは、人間が情報をもちいた社会形成に必要とされる一般的な行動の規範である。個人が情報を扱う上で必要とされるものは道徳であり、社会という共同体の中では、道徳が結合した倫理が形成される。現在の、情報社会では、道徳を元に結合された倫理が行動の規範の中核とされ、情報を扱う上での行動が社会全体に対し悪影響を及ぼさないように、より善い社会を形成しようとする考え方である。

概観

 情報倫理を統制するしくみは、法律を用いることが一般的である。法律は、道徳に反する行動が発生したときに、倫理の質を高める手段として、規制を法律に求めることで、倫理の最低限度で運用される性質がある。インターネットを情報手段とする社会では、人とのつきあいで必要なマナーやモラルを求める傾向も強く、情報モラル・情報マナーと言った情報社会での習俗が日常化している。道徳及び法律ならびに習俗は、性質は異なったものであるが、道徳が結合し共同体として倫理が形成されるのであるなら、基本的に倫理と法は独立し、習俗は倫理をスムーズに運用し維持するための形式的な手段である。道徳、法律、習俗は独立しているが、それらが結合しより善い社会形成を維持する手段として、情報倫理が存在する。

情報倫理と現代社会の問題

メディア・リテラシー

 情報が重要な価値とされ、社会形成の中核を担う現代社会では、インターネットだけでなく、新聞やテレビ、ラジオなどの外部メディアから得た情報を、適切に入手し真偽を見抜き、活用し理解及び判断する能力であるメディア・リテラシーが重要視されている。

プライバシー問題

 近年のインターネット社会では、技術が進化し情報が個人レベルで、容易に発信・複製・加工・編集・流通・共有できるため、無意識に加害者になり、または、間接的に被害者になるケースも多く出現し、個々のプライバシーを中心とした、権利が侵害される事件が、社会問題に発展しており配慮し注意する必要がある。情報技術の面では、情報セキュリティ対策なども求められる。

情報倫理の学術側面

情報倫理と倫理学

 情報倫理を学術的に論じるときに母体となる学問は倫理学である。道徳が善悪の判断を個人にゆだね、道徳の結合が倫理であるときに、情報倫理は、秩序を乱さず、個人と共同体の意志行動を遵守し社会に問い評価される学術的側面をもつ。

情報倫理と美学

 情報倫理の骨子は、より善い社会形成を遂行することが目的となる。情報は個々の判断に委ねられ社会に反映する性質を従来から持っていた。技術の発展によるインターネット社会の到来により、日常生活の指標として情報が欠かせない社会である現代では、情報が個人レベルで、容易に発信・複製・加工・編集・流通・共有できる。そのため情報倫理を遵守及び尊重する手段も、個々による差異があり多様化している。ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインは、論理哲学論考の命題6・422にて「倫理は超越論的である。(倫理と美はひとつである。)」と表現している。つまり情報社会における美と倫理は根底において等しいとされ、個々の価値の遵守及び尊重と置き換える事ができ、道徳が倫理の骨子であると見るならば、道徳の価値は、「善い行為」が社会全体の純粋な動機であり、「悪い行為」である、人に迷惑をかける行為は慎むという考えである。美学の骨子である芸術は、美的意識という精神が根底にあり、倫理の根底にも「より善い社会形成の遵守及び尊重」という精神理念が存在する。つまり、個々の道徳に内在する美的意識を社会という共同体に求め、より善い社会を形成し個々の価値を遵守及び尊重しながら反映していく事であり、情報倫理が情報化社会の礎とよばれ、倫理の中核に美的意識が存在する学術的考え方である。

情報倫理の統制

法律による統制

 情報倫理自体に成文法は存在しないが、情報社会の秩序の維持を遵守するために、法律が制定される。情報倫理の考えから派生した法律は、不正アクセス禁止法著作権個人情報保護法刑法電子計算機損壊等業務妨害罪及び電子計算機使用詐欺罪知的財産権の保護といった、多岐の分野に反映されている。

情報倫理教育

 情報倫理教育では、道徳倫理学という、それ自体の表現が困難なため、社会における外観的規範である習俗に置き換えて教育する傾向が強い、インターネットを手段として情報を扱う上での習俗としてのネチケットや統制として各種法律の遵守が代表例としてあげられる。法律や習俗は、情報技術慣習が変化すれば順応する性質がある。道徳や倫理の本質は、法律及び習俗の外観定義を超越するものであるが、情報を扱う上での社会形成の手段として、情報倫理の遵守を教育に反映する考え方が一般的であり、法律及び習俗を手段とした教育は、情報倫理の理解に貢献している。

情報倫理の社会的取組

 情報処理学会では、1996年5月20日の第38回通常総会にて「情報処理学会倫理綱領」を制定し行動規範として組織活動を展開している。現在、コンピュータソフトウェア著作権協会 (ACCS) が、情報倫理への取組みでとても注目されている。  今後も高度化する情報関係においては、ネットワーク上でのエチケット、マナーなどに加え、著作権法を始めとする関連法律などに違反しないような情報倫理教育の徹底が求められており、私たちの良識ある認識・姿勢が、今後の高度情報社会を成立させていくものといえる。

参考文献

訳書

参考論文

  • 松崎俊之 『ウィトゲンシュタインと美学の(不)可能性』 美學 第55巻2号(218号)、2004年。

参考Webサイト

関連項目

外部リンク