塩分濃度

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世界の海の年間平均塩分濃度[1]。海水1kg中に溶けている塩分のグラム数を色で表したもの。青が低濃度、緑が平均的、赤が高濃度であることを示している。

塩分濃度(えんぶんのうど、英語: Salinity(サリニティ))はに溶けているの量。塩化ナトリウムだけでなく、硫酸マグネシウム硫酸カルシウム炭酸水素塩などの塩類を含めて言うことが多い。オーストラリアや北アメリカではSalinityの語が土壌に含まれる塩分を指すことも多い。

定義

水の塩分濃度
淡水 汽水 食塩水 塩水ブライン
< 0.05 % 0.05 – 3 % 3 – 5 % > 5 %
< 0.5 ‰ 0.5 – 30 ‰ 30 – 50 ‰ > 50 ‰

水中の塩分濃度の指標として、水中に溶けている陰イオンの中で最も濃度が高いハロゲン化合物、特に塩化物の濃度に着目することも多く、これをハリニティ(halinity)と言う。なお、「halo-」は「塩の」「海の」を表す接頭語であり、塩分濃度と同じ意味で使われることも多い。

世界の海水の塩分濃度を色で表すと(冒頭図参照)、同じ塩分濃度の場所が等高線のように現れる。この「等高線」を等塩分線(isohale)と呼ぶ。

塩分濃度は、水に溶解している塩分(正確には溶解している固形物質全て)の量である[2]。水1リットルに溶けている量を意味する場合と、水1kgに溶けている量を表す場合とがあり、値にそれほど大きな違いは無いが、正確な値が必要な場合にはその区別に注意する必要がある。

海洋学では伝統的に、塩分濃度を海水1キログラムに塩分が何グラム溶けているかで表す(これを絶対塩分という)。つまり、単位はg/kgまたはパーミル(‰)である。(パーミルの単位記号に「ppt」parts per thousandを使うことも多いが、現在ではpptは1兆分の1を意味するparts per trillionの意味で使われることが多いので注意。)そのほか伝統的には、物理化学では溶媒1キログラムに溶けている溶質が何グラム溶けているか(g/kg 溶媒)、分析化学では溶液1リットルに溶質が何グラム溶けているか(g/L 溶液)で表すことが多かった[3]。海洋学では塩分の「分」の文字に「濃度」の意味が含まれていることから「塩分濃度」という言葉を使っておらず、塩分または塩濃度という言葉を使っている。

定義の歴史

昔は塩分濃度を硝酸銀滴定、あるいは蒸発残渣の量で求めることが多かったが、これはいずれも手数がかかり、正確に測定するのも難しかった。1960年代になって液体用の電気伝導率計が発達したため、それ以降しばらくはコペンハーゲンの研究所が濃度を測定した海水「コペンハーゲン水」(Copenhagen water)を標準海水として、それとの電気伝導率の比較で求めることが多くなった(標準海水の塩分濃度は従来どおり硝酸銀滴定で求めた)[3][4]

1978年、海洋学者は標準海水の代わりに、塩化カリウムの標準液を作り、それとの電気伝導率の比率で表すことを提案した。この値をPractical Salinity Scale (PSS) という。単位はパーミル(つまり無次元数)である[5][6]。パーミルの代わりに単位PSU(Practical Salinity Unit、日本語では実用塩分単位という。単位はつかない)を使うこともあるが、正式なものではない[3]

塩分濃度で見た水の区分

海水区分
>300 --------------------
hyperhaline(超塩層)
60 - 80 --------------------
metahaline(高塩層)
40 --------------------
mixoeuhaline(混合塩層)
30 --------------------
polyhaline(多塩層)
18 --------------------
mesohaline(中間塩層)
5 --------------------
oligohaline(少塩層)
0.5 --------------------

海水の塩分濃度は大体が30~35パーミルであるが、内陸には海水よりも塩分濃度が濃い水、薄い水がある。塩分の濃淡を表す区分方法はいろいろあるが、よく使われるものの一つにhaline(塩分量)がある。halineの区分に日本語の定訳は無いが、海水と同じ30~35パーミルの水をeuhaline sea(同塩海)、これよりも薄い0.5~30パーミルの水(いわゆる汽水)をmixohaline sea(混合塩海)、36~40パーミルの水をmetahaline sea(高塩海)と呼ぶ。右の表は1959年に定義され、1972年にPorにより修正された[7]ヴェニス系と呼ばれる区分である[8]

塩分濃度が季節を通じて海水とほぼ同じ水はhomoiohaline(類似塩層)と呼ばれる。homoiohalineの湖は、海と常に繋がっている場合がほとんどである。これに対して塩分濃度が変化する水はpoikilohaline(乱鹹層 らんかんそう)と呼ばれ、その塩分濃度は0.5から300超までさまざまである。poikilohalineが生物環境に与える影響は大きい[9]。塩分の変化は1年ごとの周期を持っていたり、それよりも長期であったりとさまざまである。

周囲への影響

塩分濃度の大小は、周りに住む生物にとって重要である。まず、陸上植物に影響する。植物に影響するのは地表の水溜りだけではなく、地下水もである。塩分濃度が高い環境に適している植物は、塩生植物と呼ばれている。また、極端に高い塩分濃度で生きられる生物は極限環境微生物と呼ばれ、とりわけ好塩菌が重要である。また、塩分濃度が大きく変化しても生きていける生物は好塩性 (euryhalineであると言われる。

人間が飲用に使う場合、水から塩分を取り除くのは非常に困難であり、コストがかかる。この意味でも塩分濃度は重要である。

関連項目

参考文献

  1. ^ World Ocean Atlas 2005.
  2. ^ 中村泰男 海水の物性と水塊分布
  3. ^ a b c 角皆静男 海水の塩分の定義と単位
  4. ^ Lewis, E.L. (1980). The Practical Salinity Scale 1978 and its antecedents. IEEE J. Ocean. Eng., OE-5(1): 3-8.
  5. ^ Unesco (1981a). The Practical Salinity Scale 1978 and the International Equation of State of Seawater 1980. Tech. Pap. Mar. Sci., 36: 25 pp.
  6. ^ Unesco (1981b). Background papers and supporting data on the Practical Salinity Scale 1978. Tech. Pap. Mar. Sci., 37: 144 pp.
  7. ^ Por, F. D. (1972). Hydrobiological notes on the high-salinity waters of the Sinai Peninsula. Mar. Biol., 14(2): 111–119.
  8. ^ Venice system (1959). The final resolution of the symposium on the classification of brackish waters. Archo Oceanogr. Limnol., 11 (suppl): 243–248.
  9. ^ Dahl, E. (1956). Ecological salinity boundaries in poikilohaline waters. Oikos, 7(I): 1–21.
  • Mantyla, A.W. 1987. Standard Seawater Comparisons updated. J. Phys. Ocean., 17: 543-548.
  • 中内清文 英和海洋辞典 一部の訳語

外部リンク