周郷博

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周郷 博(すごう ひろし、1907年6月14日 - 1980年2月28日)は、日本教育学者お茶の水女子大学名誉教授。

来歴[編集]

千葉県八千代市生まれ。第一高等学校を経て、1933年東京帝国大学文学部教育学科卒。東京大学助手の後、いくつかの大学の非常勤講師を経て、1947年東京女子高等師範学校講師。その後、新制お茶の水女子大学教育学部教授。晩年は、付属幼稚園園長も兼務。

人物[編集]

教育の詩人と呼ばれ、青年期から詩作をし、『母と子の詩集』などもある。テイヤール・ド・シャルダンの著作を座右の書とした。戦後、日本の教育界に影響のあったハーバート・リードの『平和のための教育』、レスター・スミスの『教育入門』を岩波書店から翻訳刊行している。平和教育、芸術教育な関心が深かったが、後年は、育児、子育てについての文章も多い。

児童文学の関係で懇意にしていた巽聖歌の義弟に当たる(巽聖歌夫人である野村千春の妹である武居百代と結婚)。

戦前は国民精神文化研究所教育科に所属し、戦意高揚に努めたが、戦後は進歩的文化人となる。宮原誠一矢川徳光梅根悟ら、戦前・戦中期に活躍した教育学者には、戦後、戦時中の戦争協力を煽った論文や文書や業績を省略・削除・隠蔽する者がいたが[1][2][3]、「進歩的文化人」が戦時中は「戦争は人類進歩の原動力」と極言して体制迎合し、戦後になると平和主義者・民主主義者に豹変したという暴露本『進歩的文化人 学者先生戦前戦後言質集』[4]には周郷について、つぎの副題が付けられている。

周郷博(お茶の水大学教授)日教組お抱え講師で論旨一変 — 『進歩的文化人 ――学者先生戦前戦後言質集』 全貌社全貌編集部 編 全貌社、1957年

ビブリオグラフィ[編集]

単著[編集]

  • 『教育社会学』光文社 1951年
  • 『幼児の芸術』博文社 1958年
  • 『教師の良心と責任』明治図書出版 1960年
  • 『母ありてこそ 最初の人間形成』国土社 1963年
  • 『人間讃歌』講談社現代新書講談社 1965年
  • 『母と子の詩集』国土新書 1966年
  • わたしのおかあさんは日本一 1~6ねん 婦人生活社 1970 
  • 『失われた季節をもとめて 詩集』国土社 1973年
  • はちあわせ こばやしのりこえ 国土社 1974
  • 『教育の風向きをかえよう』文化書房博文社 1978年
  • 『幼な子の如くならずば あるヒューマニストの教育随想集』フレーベル館 1979年
  • 教育の詩人 周郷博著作集』全6巻、別巻1 柏樹社 1980-1981年

編著[編集]

  • 新しい道徳教育 幼児期から少年少女期までの指導 牧書店 1951
  • 教育詩集 牧書店 1952
  • 児童問題講座 第2巻 家庭篇 清水慶子共編 新評論社 1954
  • 幼児教育講座 木田文夫,三木安正共編 国土社 1955
  • たのしい劇あそび 落合聡三郎共編 フレーベル館 1955.4
  • 美術教育入門 湯川尚文,井手則雄共編 河出新書、河出書房(河出書房新社) 1956
  • 幼年の文学 幼年教育のために 与田準一共編 国民図書刊行会 1956
  • 幼年の美術 幼年教育のために 藤沢典明共編 国民図書刊行会 1956
  • 明治図書講座学校教育 第9巻 図工・音楽 明治図書出版 1957
  • 音楽とリズム 幼年教育のために 酒田富治共編 国民図書刊行会 1957
  • 幼年の社会性 幼年教育のために 井坂行男共編 国民図書刊行会 1957
  • 社会科の指導計画 歴史・地理教育の系統的展開 徳武敏夫共編 国土社 1957
  • 中学校美術科の新教育課程 国土社 1958
  • 小学校図画工作科の新教育課程 国土社 1958
  • 現代教育用語辞典 大日本出版 1959
  • 子どものしつけ21章 牧書店 1959
  • 小学一~六年生、中学一~三年生の学級改造 宮原誠一,宮坂哲文共編 国土社 1961
  • 母と子のうた 東都書房 1969
  • きびしい道へいけ 十五歳の少年少女がみつけた人生の道 国土社 1970
  • 矢沢宰詩集『光る砂漠』増補改訂版 少年 株式会社サンリオ 1974 

翻訳[編集]

  • 乳児及び幼児の教育 人間理解のための基礎知識 A.トーリス 大日本図書 1950
  • 子供たちはどのように発達するか オハイオ州立大学附属学校編 新教育協会 1951
  • 平和のための教育 ハーバート・リード 岩波書店 1952
  • 児童心理学 ポール・セザリ 白水社 1954 文庫クセジュ
  • 学童の心理学 五歳から一〇歳まで アーノルド・ゲゼル 共訳 新教育協会 1954
  • 美術と社会 ハーバード・リード 牧書店 1955
  • 思春期の美術 子どもの美術から大人の美術へ W.ジョンストン 熊谷泰子共訳 黎明書房 1958
  • 教育入門 W.O.レスター・スミス 岩波新書 1958
  • ソ連の教育 ディアナ・レヴィン 岩波新書 1959
  • どうしたら幸福になれるか B.W.ウルフ 岩波新書 1960-61 
  • 人間の発見と創造 21世紀への教育の提言 ブロノフスキー 講談社現代新書 1966
  • 新しい児童心理学 ジャン・ピアジェ,ベルベル・イネルデ共著 波多野完治,須賀哲夫共訳 白水社 1969 文庫クセジュ
  • ある未来の座標 テイヤール・ド・シャルダン C.キュエノ 伊藤晃共訳 春秋社 1970
  • 人間らしき進化のための教育 モンテッソーリをどう理解するか マリオ・M.モンテッソーリ ナツメ社 1978.12

脚注[編集]

  1. ^ 長浜功『教育の戦争責任』明石書店、1984年
  2. ^ 小熊英二『〈民主〉と〈愛国〉』新曜社、2002年
  3. ^ 竹内洋「革新幻想の戦後史」『諸君!』2008年9月号
  4. ^ 内閣調査室主幹であった志垣民郎は回想録『内閣調査室秘録 ――戦後思想を動かした男』(文藝春秋、2019年)で、志垣が執筆したと記している。