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余弦定理

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余弦定理(よげんていり)とは、平面上の三角法において三角形の辺の長さと内角の余弦の間に成り立つ関係を与える定理である。

三角形の角と辺の関係

概要

余弦関数 y = cos x は 0 < x < π において狭義単調減少関数であり、xy の値は 1対1 に対応し x = arccos y である。三角形の内角の大きさはこの範囲内に収まるため、三角形の内角の大きさを知ることと、その余弦の値を知ることは同じことである。余弦定理は三角形の内角の余弦と辺の長さの関係を示す等式である。

△ABC において、a = BC, b = CA, c = AB, α = ∠CAB, β = ∠ABC, γ = ∠BCA としたとき



が成り立つ。これらの式が成り立つという命題を(第二余弦定理という。

余弦定理は2つの辺の長さと1つの内角の大きさが分かっていれば、もう1つの辺の長さが決まるという定理である。逆に 3つの辺の長さが分かっていれば

のように余弦について解く事によって逆に内角の大きさを知ることができる。

また、 α = π2 であれば、 cos α = 0 なので、(第二)余弦定理の特殊な場合として、ピタゴラスの定理(三平方の定理)

などが導かれる。すなわち、(第二)余弦定理は、全ての三角形に一般化されたピタゴラスの定理である。

ユークリッド原論の第2巻命題12では ABC を γ が鈍角の鈍角三角形としたとき

が成り立つことと、命題13で鋭角三角形の場合が示されている。ユークリッド原論では余弦関数は使われていないが、辺の長さを用いて余弦定理と本質的に同じ命題が示されている。

イスラム世界では 10世紀に活躍した天文学者であり数学者アル・バッターニーは、これらの結果を球面幾何学にまでひろげ星の間の距離を測定した。15世紀には、アル・カーシーが精密な三角関数表を作成し、余弦定理を三角測量に使いやすい形にした。このためフランスでは余弦定理の事を アル・カーシーの定理(Théorè me d'Al-Kashi) と呼ぶ。

西洋での余弦定理は16世紀にフランソワ・ビエタによって独自に発見されたことで有名になり、19世紀初頭から現代のような数式で書かれるようになった。

定理

△ABC において、a = BC, b = CA, c = AB, α = ∠CAB, β = ∠ABC, γ = ∠BCA とすると第一余弦定理

a = b cos γ + c cos β
b = c cos α + a cos γ
c = a cos β + b cos α

と、第二余弦定理

a2 = b2 + c2 − 2bc cos α
b2 = c2 + a2 − 2ca cos β
c2 = a2 + b2 − 2ab cos γ

が成り立つ。単に余弦定理というと第二余弦定理を指す。

三角形の内角の和は π ラジアンであるため 2つの内角の大きさが分かっていれば、もう 1つの内角の大きさは定まる。すなわち、第一余弦定理は三角形の 3つの角の大きさと 2辺の長さが分かっているときにもう一つの辺の長さが決まるという定理である。

第一余弦定理の証明

鋭角三角形の時、第一余弦定理の一つ c = a cos β + b cos α は図のような関係を表している。

β = π2直角)であるとき cos β = 0 となり cos β を含む第一余弦定理は

a = b cos γ
c = b cos α

のようになり b は直角三角形の斜辺であるため余弦関数の定義そのものになる。

以下、β と γ は直角ではないとする。すなわち cos β と cos γ は 0 ではないとする。

正弦定理によれば

であり、加比の理から

さらに三角関数の加法定理から

よって、最初の式と最後の式より

a = b cos γ + c cos β

となる。

正弦定理では外接円の半径との関係もあるがその部分を除けば、この証明から逆に第一余弦定理を仮定して正弦定理を示すこともでき、両者は同値である。


第二余弦定理の証明

第一余弦定理の利用

第一余弦定理のそれぞれの式の両辺に左辺の値をかけて

a2 = ab cos γ + ca cos β
b2 = bc cos α + ab cos γ
c2 = ca cos β + bc cos α

を得る。

a2 + b2 = ca cos β + bc cos α + 2ab cos γ = c2 + 2ab cos γ

などとして第二余弦定理が示される。

ユークリッド原論にみる原型

ユークリッド原論第1巻命題47においてピタゴラスの定理が示され、第2巻の最初の方では

(x + y)2 = x2 + y2 + 2xy

などの二次式の関係が図形問題として述べられる。

ユークリッド原論で扱われているのはこのような数式ではなく x2x を一辺の長さとする正方形の面積として xyxy を辺の長さとする長方形の面積として表され、正方形や長方形を比べることによって命題が述べられる。

それらを背景として第二余弦定理とほぼ同値な命題が現れる。しかし三角関数が無かった時代のものなので、現代のように角度と辺の長さの関係として捉えられていたわけではない。余弦が明示的に使われているわけではなく、特定の辺の長さを現代的に余弦を用いて表現すると一致するという意味である。同じ意味で第一余弦定理

c = a cos β + b cos α

に対応するものも考えてみると、 C から AB におろした垂線の足を H としたとき 辺 AB の長さは AHHB の長さの和という事を言っているだけの定理なので、三角形の辺の長さの関係を表し、特に第一余弦定理を表しているといえる命題といったものはユークリッド原論の中には無い。敢えて言えば、三角形ではなく線分の内分、外分に関する命題ということになる。

第2巻命題12

ユークリッド原論第2巻命題12では AB2 = CA2 + BC2 + 2 (CA)(CH) が示されている

ユークリッド原論第2巻命題12では、鈍角三角形の鈍角に対応する第二余弦定理がピタゴラスの定理を用いて示されている。現代的に書けば

γ > π2 のとき B から AC におろした垂線の足を H とする。 H は線分 AC 上ではなく ACC の方へ延長した半直線上にある。 d = CH, h = BH として△ ABH と△ CBH にピタゴラスの定理を適用すると

c2 = (b + d)2 + h2
d2 + h2 = a2

となり

c2 = b2 + 2bd +d2 + h2 = a2 + b2 + 2bd

となる。

余弦関数を用いた表現では、鈍角に対する余弦が負になることに気をつければ d = − a cos γ である。

第2巻命題13

ユークリッド原論第2巻命題13では、鋭角三角形に対する第二余弦定理が示されている。

ABC において A から BC におろした垂線の足を H とし p = BH, q = HC, h = AH とする。

第2巻命題7で示されている

a2 + p2 = 2ap + q2

という関係を使うことで

a2 + (p2 + h2) = 2ap + (q2 + h2)

ABH と △ ACH にピタゴラスの定理を使って

a2 + c2 = 2ap + b2

となる。

余弦関数を用いた表現では p = c cos β である。

鋭角と三角関数

ABC において γ が鋭角の時 B から AC におろした垂線の足を H とすると BH = a sin γ, CH = a cos γ, AH = |ACCH| = |ba cos γ| であり △ ABH にピタゴラスの定理を使えば

c2 = (ba cos γ)2 + (a sin γ)2 = b2 − 2ab cos γ + a2 (cos2 γ + sin2 γ) = a2 + b2 − 2ab cos γ

となる。

α が鋭角になるか鈍角になるかによって ACCH の大小関係が入れ替わるが、どちらが大きくても二乗によってこの符号の違いは関係なくなる。

ベクトルによる計算

ベクトルを用いて


関連項目

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