幻視芸術
ヴィジョナリーアート(英: Visionary Art)は、欧米においてファンタスティックアート(Fantastic Art)とほぼ同じ芸術のジャンルを指して使われる言葉である。
概要
ファンタスティックアートが幻想文学やサイエンス・フィクションとの相互影響を含むニュアンスがあるのに対し、ヴィジョナリーアートはサイケデリック・アートやアウトサイダー・アートあるいはシャーマニズムから生まれたアートも広く意味している。
対応している日本語としては 幻想芸術、幻想美術、幻想絵画といったものがある。
語源
ヴィジョナリーアートという言葉が初期の段階で使用された例としては、ポール・ラフォリーが1967年に参加したニューヨークの展覧会 "The Visionaries" がある。この展覧会の企画者であるチャールズ・ジュリアーノ (Charles Giuliano ) がヴィジョナリーアートという言葉を主張した理由はポール・ラフォリーが ドラッグと無縁なアーティストであるためサイケデリック・アートという言葉は展覧会の方向性に相応しく無かったからである。
ギルバート・ウィリアムズ (Gilbert Williams ) によるインターネット上でのインタビューで確認できることは、1960年代後半にアメリカ西海岸におけるサイケデリックなファンタジーアートムーブメントを指すためにヴィジョナリーアートという言葉が使われたということである。基本的に「ヴィジョナリーアート」はアメリカを発端とした言い方であるが、幻想的な芸術分野に対する呼称として現在ではヨーロッパを含め広く国際的に使用されている。
アウトサイダー・アートとヴィジョナリーアート
しばしばアウトサイダー・アートとヴィジョナリーアートは相互に言い換えられる場合があり、そのためウィーン幻想派のように伝統技術を重視する芸術と、障害者の芸術を含むアウトサイダー・アートとの歴然とした違いに対する認知が不明瞭になりうるという問題がある。そのためウィキペディア英語版では、「ヴィジョナリーアートは独学の芸術家(アウトサイダー)と専門教育を受けた芸術家の双方によって制作が続けられている。」という記述によって誤解を避けようとしている。
アメリカ合衆国メリーランド州のボルチモアに所在するアメリカン・ヴィジョナリー・アート・ミュージアム(American Visionary Art Museum)におけるヴィジョナリーアートの定義は、
「正式な教育を受けない独学の個人によって生み出された芸術作品であり、それは内なる個人のヴィジョンの中から現われた、とりわけ創造的な活動そのものを最大限に楽しむものである。」
といったものである。しかしながら多くのヴィジョナリー・アーティスト達は正式な教育を受けており、なおかつ彼らの多くは西洋美術史の中核をなしてきた伝統技術や想像力を重視している。そのため、アメリカン・ヴィジョナリー・アート・ミュージアムの活動趣旨と多くのヴィジョナリー・アーティスト達との方向性が必ずしも一致しているわけではない。
アメリカン・ヴィジョナリー・アート・ミュージアムにおいて、著名なヴィジョナリー・アーティストのアレックス・グレイの作品が展示された記録はあるものの、ウィーン幻想派やH・R・ギーガー、ズジスワフ・ベクシンスキーをふくむ現代の幻想的なリアリズムを積極的に紹介する活動は今のところ確認できていない。つまりこの美術館はアウトサイダー・アートの方向性を基本としていることが伺われる。
現代の動向
欧米におけるヴィジョナリーアートの言葉の定義はいまだ曖昧であるにもかかわらず、現代のヴィジョナリーアートの動向そのものはインターネットという新しいメディアを手段の一つとして国際的な広がりと輪郭を形成しつつある。そしてどのような芸術家が影響力があるのかも次第に明らかになってきている。抽象表現主義、ミニマリズム、コンセプチュアル アート、ポップアートといった欧米における戦後の現代美術が上流階級による経済支援と公的な美術館によって大規模に喧伝されてきたのに対して、ヴィジョナリーアートの動向の多くは一般庶民によって支援されてきている。
アーティスト達は公的な美術館や出版の領域に対して新たな参入の余地を見いだすために活動を続けている。彼らはヨーロッパの古典芸術や象徴主義、超現実主義あるいはサイケデリック・アートなどを自らの先駆とみなし、ヴィジョナリーアートの美術史的な意義を主張している。現代のヴィジョナリーアーティストにとって影響力のある過去の巨匠はヒエロニムス・ボス、ウィリアム・ブレイク、ギュスターヴ・モローといった画家達であり、また神話や民族芸術、あるいはアーティスト自身の霊的体験などがヴィジョナリーアートを創造するための源泉になっている。
エルンスト・フックス、エーリッヒ・ブラウアー、ルドルフ・ハウズナーらによって構成されたウィーン幻想派は、現代のヴィジョナリーアーティスト達にとって重要である。それは彼らにとって技術的、哲学的に強い影響力のある触媒となっているからである。無数のヴィジョナリー アーティスト達がウィーン幻想派のもとで学んでいる。アブドゥル・マチ・クラーライン、ロバート・ヴェノーサ、ローレンス・カルアーナ、アンドリュー・ゴンザレス (A. Andrew Gonzalez ) 、フィリップ・ルビノブ・ジェーコブソン (Philip Rubinov-Jacobson ) らは、北アメリカにおいて、入れ替わり立ち代り、ウィーンでの研鑽をもとに後進を教えている。
また、1960年代初頭にブリジッド・マーリンによって設立された幻想芸術のための組織、AOIはヴィジョナリーアートに関わるための重要な入り口を提供している。さらに最近ではLilaといったウェブマガジンや、Beinartが代表するオンラインギャラリーがインターネットや自主出版を手段としてヴィジョナリーアーティスト達をサポートしている。