ローズウッド (クスノキ科)

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ローズウッド
保全状況評価
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
亜綱 : モクレン亜綱 Magnoliidae
: クスノキ目 Laurales
: クスノキ科 Lauraceae
: アニバ属 Aniba
: ローズウッド A. rosaeodora
学名
Aniba rosaeodora
Ducke
英名
Rosewood

ローズウッド(Rosewood、学名:Aniba rosaeodora)は、南米に自生するクスノキ科の樹木である。フランス語名であるボアドローズ (Bois de Rose) で呼ばれることも多い。心材のチップを水蒸気蒸留することにより精油を得ることができ、甘く、ややウッディでフローラルスパイシーな香りがする。これが香料アロマテラピーに利用されていた。(精油は伝統的に香料として利用され、医療における用法はないため、アロマテラピーでいわれる効能が何に由来するかは不明である。)ローズウッドの学名は Aniba rosaeodora Duckeとされることが多いが、実際には単一種の植物ではなく、数種類の樹木を指しているとする分類もある。

なお、紫檀などのマメ科ツルサイカチ属もローズウッドと呼ばれるが、精油を得る用途には用いない。

現在は、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)、通称ワシントン条約の規制の対象となる植物(附属書Ⅱ)のリストに記載されており、輸出入には、輸出国の政府が発行する許可書が必要となる。

利用

ローズウッドの中で最初に利用されたのはギアナに生育していたものである。この樹木の材質はマホガニーに似ており、重く硬い。そして精油を含むため、バラの花のような香りがする。そのためフランスで珍重され、精油を得るほかに家具や日用品を作る材木としても利用された。

ギアナからの輸出はカイエンヌから行なわれたため、ローズウッドの精油はカイエンヌ油とも呼ばれていた。ギアナのローズウッドの精油の主成分は (R)-リナロールで9割近くを占めている。(R)-リナロールの慣用名であるリカレオール (Licareol) は、ローズウッドをギアナで Licari Kanali と呼んでいたことに由来するとされる。ただし Licari Kanali はローズウッドとは別の植物 Licaria cannella としている分類もあり、誤解による命名である可能性もある。

ギアナに続いてローズウッドの生産が始まったのがブラジルマウエス近郊であった。ブラジルのローズウッドはおそらくはギアナのものとは種が異なっており、得られた精油の品質も異なっていた。そのため、市場の獲得は思うように進まなかった。しかし、1920年代にはギアナのローズウッドの乱獲が進んで資源が枯渇し、ギアナ産のローズウッドはほとんど生産されなくなってしまった。そのためブラジルのローズウッドが市場に受け入れられるようになっていった。

ブラジルのローズウッドの精油の主成分もリナロールではあるが、ほぼラセミ体である。しかし、単独の木から水蒸気蒸留で得た精油のリナロールは光学活性体であり、木によってどちらの鏡像異性体が過剰かが異なっていたとの報告もある。

1960年代前半まではローズウッドの精油はリナロールの供給源として重要であった。1960年代前半の最盛期には年間500トンの精油(木材に換算すると5万トン)が生産されていた。しかし1960年代後半にリナロールの合成方法が確立するとその生産は急激に衰退した。現在のローズウッドの主な生産地はブラジルとパラグアイであり、高級香水アロマテラピー向けに生産が行なわれている。

精油は、粉砕した木を水蒸気蒸留または熱水蒸留して抽出する。甘く、ややウッディでフローラルスパイシーな香りで、専ら香水用に生産されてきた[1]。現在はワシントン条約の規制の対象となる植物であるため、流通している真性とされる精油はおそらく違法品であるか、木ではなく葉から抽出した精油、または合成品である[1]。代替品として、化学組成が近い安価なホーリーフ(クスノキ科)の精油が増産されている。

精油は香料として利用され、医療には用いられなかったため、伝統医学における用法はない[1]。アロマテラピーでは近年までさかんに利用され、ニキビやしわ、免疫系の強化などに有効であると言われた。皮膚感作性があるため、皮膚に問題のある人には有害作用を及ぼす可能性がある[1]

脚注

  1. ^ a b c d マリア・リス・バルチン 著 『アロマセラピーサイエンス』 田邉和子 松村康生 監訳、フレグランスジャーナル社、2011年