ポリケチド

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ポリケチド (polyketide) とは、アセチルCoAを出発物質とし、マロニルCoAを伸張物質としてポリケトン鎖を合成した後、様々な修飾を受けて生合成された化合物の総称である。

「脂肪酸の生合成」と「ポリケチドの生合成」の過程は非常に良く似ているが、前者はカルボニル基 (−CO−) の還元を受けて炭化水素鎖を形成するのに対し、後者はカルボニル基の還元を受けずにポリケトン鎖を形成する点で差異がある。両者の生合成の過程を合わせて酢酸・マロン酸経路と総称する。

代表的なポリケチド

生合成

ポリケチド合成酵素 (PKS)

ポリケチドはポリケチド合成酵素 (PKS) により生合成される。PKSはI型、II型、III型の3種類が存在する。後に詳しく述べるがI型PKSは複数のドメインが一つのポリペプチド上に連なった長大な蛋白質、II型PKSは異なる機能を持った蛋白質の複合体、III型ポリケタイド合成酵素はケトシンテースドメインのみからなる小型の蛋白質である。いずれの酵素もスターター基質と呼ばれるCoAエステル(もしくはACP体)に伸長鎖基質(マロニルCoAなど)を複数回縮合する反応を触媒する。スターター基質としてはアセチル-CoA、脂肪酸CoAエステル、ベンゾイルCoA、クマロイルCoAなどが通常用いられる。

ポリケチド生合成において最も重要なポリケトメチレン鎖伸長反応
(R-CO-S-CoA (or ACP) + マロニルCoA (メチルマロニルCoA、エチルマロニルCoA) → R-CO-CH2-CO-S-CoA (or ACP))

I型PKS

I型ポリケタイド合成酵素はさらにモジュール型 (module) と反復型 (iterative) の2種類に分けることが出来る。モジュール型I型PKSは複数のドメインが集まって出来たモジュールが複数連なった長大な蛋白質である。通常1つのモジュールが一回のポリケトメチレン鎖伸長反応を触媒する。最も代表的なI型PKSであるエリスロマイシン合成酵素は6つのモジュールから構成される。モジュール型I型PKSはマクロライドやポリエンなどを含む化合物を生合成することが多い。

ドメイン(代表的なもの)
  • ケトシンテース (KS): 伸長鎖基質の縮合反応を触媒する
  • アシルトランスフェレース (AT): スターター基質や伸長鎖基質をACPへと移す
  • ケトリダクテース (KR):ポリケトメチレン鎖のケトン基を還元する (水酸基が生じる)
  • デハイドラテース (DH):ケトン基を還元することによって生じた水酸基を脱水する(二重結合が生じる)
  • エノイルリダクテース (ER):生じた二重結合を還元する
  • アシルキャリアープロテイン (ACP):スターター基質や伸長鎖基質と結合する
  • チオエステレース(TE):生成物を酵素から切り離す

この中でポリケトメチレン鎖縮合反応に必須なドメインはKS、AT、ACPドメインである。その他のドメインは任意でありその有無がそれぞれの伸長反応に差を与える。例えば、あるモジュールが KS-AT-KR-ACPで構成されていれば R-CO-S-ACP→R-(CH-OH)-CH2-CO-S-ACP のような反応を触媒するし、KS-AT-ACPで構成されていれば R-CO-S-ACP→R-CO-CH2-CO-S-ACP のような反応を触媒する。

また、反復型I型PKSは一つのモジュールで複数回伸長反応を触媒する酵素でありその多くは芳香族ポリケチドを生合成する。

II型PKS

II型PKSはI型PKSでは一つのポリペプチドに乗っていたドメインが個々のペプチドに分かれたものであると言える。その個々のペプチドのことをサブユニットと呼ぶ。多くは芳香族ポリケチドを生合成する。

サブユニット (代表的なもの)
  • ケトシンテース (KS):伸長鎖基質の縮合反応を触媒する
  • アシルトランスフェレース (AT):スターター基質や伸長鎖基質をACPへと移す
  • チェインレングスファクター (CLF):ポリケチドの鎖長を決める酵素と言われている
  • アシルキャリアープロテイン (ACP):スターター基質や伸長鎖基質と結合する
  • チオエステレース (TE):生成物を酵素から切り離す
  • サイクレース (CYC): ポリケトメチレン鎖の環化芳香化を触媒する

このなかでポリケトメチレン鎖の縮合に必要なのはKS、AT、CLF、ACPであり後は任意であるが欠落すると本来の生成物を作らない場合が多い。

III型PKS

III型PKSはカルコン合成酵素 (CHS) に代表されるPKSでKSのみから構成される。他の2つのタイプが数多くのドメインやサブユニットを必要とするのに対しIII型PKSはKSのみで縮合などの反応を触媒する。フラボノイドスチルベンのように俗にポリフェノールと言われる化合物の多くはIII型PKSにより生合成されることが明らかとなっている。最も代表的なIII型PKSであるカルコン合成酵素は、クマロイルCoAに3分子のマロニル-CoAを脱炭酸を伴いながら縮合した後に環化、芳香化を触媒し、フラボノイドの前駆体であるカルコンを合成する。

参考文献

  • J. saunton &, K. J. Weissman, Nat. Prod. Rep., 18, 380-416 (2001)
  • B. Shen, Curr. Opin. Chem. Biol., 7, 285 (2003)
  • M. B. Austion, J. P. Noel, Nat. Prod. Rep., 20, 79 (2003)

関連項目