トーションビーム式サスペンション

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トーションビーム式サスペンション(Torsion beam suspension)とは、自動車のサスペンション形式のひとつ。カタログには「車軸式」などと表記されることもある。英名でTwist-beamとも呼ばれる。

VW Golf Mk 3のリアサスペンション

前輪駆動(FF)車の後輪に用いられ、左右のトレーリングアームやリンクが、「ねじれ」(トーション)を許容する「横梁」(クロスビーム)でつながれている。左右の車輪はある程度個別に上下動(ストローク)でき、車軸懸架(固定車軸)と独立懸架の中間的な存在となっている。

長所としては、ストロークに伴う対地キャンバートレッドの変化がほとんど無いことと、簡素な構造による省スペース性、部品点数と可動(摺動)部分を大幅に少なくできるためにコストを抑えられること、間の空間を燃料タンクやトランクなどの空間として使えること、クロスビームがピボット寄りの場合はバネ下荷重が車軸式より軽くなることなどが挙げられる。さらに、クロスビームがトーションバー・スプリングとして働き、スタビライザーと同様の抗ロール性が得られる利点もある。

一方、短所としては、キャンバーなどのサスペンションジオメトリを変化させることができないこと、独立懸架に比べて左右の車輪が逆ストロークとなる悪路での接地性が低くなることなどが挙げられる。

初代フォルクスワーゲン・ゴルフの成功により、多くのメーカーが追従し、低コストFF車におけるリアサスペンションのスタンダードとなった。日本では軽自動車から大衆車、そのやや上級のファミリーカーにまで多く見られるリアサスペンション形式であるが、中には、トヨタ・アルファード/ヴェルファイアのように、車両総重量が2トンに達し、車両価格も高額な車種での採用例もある。この2車ではFFのみに留まらず、4WDもトーションビームとしている。

クロスビームの断面形状は、丸形や角形の中空鋼管のほか、I形、<形、⊂形、∩形などが見られる。トレーリングアーム(トレーリングリンク)とハブは剛結である。サスペンションスプリングには通常コイルばねが組み合わされるが、PSA・プジョーシトロエンは荷室へのばねの張り出しを嫌い、小型車では2本のトーションバー・スプリングを用いている。

種類

大きく分けるとクロスビームとトレーリングアームの接合位置により以下の三種類に分類される。 図中の橙色の部分がクロスビーム、黄色はトレーリングアーム(トレーリングリンク)、緑色はラテラルロッド(パナールロッド)となる。

  • ピボットビーム:クロスビームが車軸と離れているため両輪の独立性が高くとれる。前述の初代ゴルフはこの方式をとっている。タイヤからの横力の影響をクロスビーム、トレーリングアームともに受けやすいため高い曲げ剛性が必要となる。
  • カップルドビーム(カップルドリンク):現在の主流といえるレイアウト。形状の自由度が高く設計次第で剛性を高く取りやすい。また左右輪が逆ストロークした際には、ビームやアームの捩じれにより車体がロールしても対地キャンバーの倒れを低減する。近年の形状解析や材質の進歩から軽量かつ高剛性のトーションビームを低コストで製造できるようになったため廉価帯の車両を含めカップルドビームを採用する事が多くなっている。
  • アクスルビーム:クロスビームにかかるねじれは最も大きく、形状的に横剛性が低いためラテラルロッドによる保持が必要となる[1]。車軸とほぼ同軸にクロスビームがあるため他よりも車軸懸架に近い。設計が簡素で済むことから一時期は多用されたが、ホイールストロークと同等のビーム可動域が車室・荷室を圧迫することもあり、現在はカップルドビームに移行しつつある。3リンク式サスペンションも参照。

どの方式も横力による影響は避けられず、ブッシュやアームが歪む事によりトーアウトの傾向を示す。これは結果的にコンプライアンスステアがオーバーステアを示す事となるため市販車に求められる操縦安定性能の点から好ましくない。

このため現在はカップルドビーム方式でセミトレーリングアームと同様にアームのピボット軸を斜めとしている。これによりコーナー横力によりブッシュが撓みユニット全体が回転して外輪がコーナー内側および前方に移動しトーインとなることで安定性を高める方式が一般的となっている。

関連項目

  1. ^ 日産が採用していた「マルチリンクビーム」式は、横方向の規制をスコットラッセルリンクとしたものである。