アキアカネ
アキアカネ | ||||||||||||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Sympetrum frequens (Selys, 1883) | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Autumn darter |
アキアカネ(秋茜、Sympetrum frequens)は、トンボ科アカネ属に分類されるトンボの一種。日本では普通に見られる。俗に赤とんぼと呼ばれ、狭義にはこの種だけを赤とんぼと呼ぶことがある。季節的な長距離移動(後述)がよく知られている。
特徴
腹長23-31mm、後翅長23-30mm、体長は約40mm程度。日本特産種で、大陸部では極東アジアからヨーロッパにかけて広く分布する近縁種・タイリクアキアカネ S. depressiusculum (Selys, 1841)と置換する。タイリクアキアカネは、秋の後半に北西の季節風が吹き出す頃に、日本列島に吹き寄せられたものが各地で記録されるが、繁殖はしていないようで幼虫の発見例はない。
同様に人里でよく知られた赤とんぼにはナツアカネ S. darwinianum (Selys, 1883)がある。アキアカネは夏に一旦低地から姿を消し、秋に成熟成虫が大挙して出現するのに対して、ナツアカネは生活史を通じて低地から姿を消さない。そのために夏にも低地で見られる方にナツアカネの和名が与えられたのであり、活動時期自体は両種にほとんど差はない。
生活史
繁殖するのは通常平地または丘陵地、低山地の水田、池沼、溝などであるが、まれに標高2000m代の高所からの羽化記録もある。5月末から6月下旬にかけて夜間に羽化した成虫は朝になると飛び立って水辺を離れ、1-2日間草に止まったまま体が十分固まるのを待つ。その後近辺の樹林、植栽木などに集合して群れとなり、4-5日間を摂餌に費やして様々な小昆虫を空中で捕食し、長距離飛翔に必要なエネルギーの蓄積を行う。
十分に体力がついた個体は単独で、あるいは群れを成して日中の気温が20-25℃程度の3000mぐらいまでの高標高の高原や山岳地帯へ移動して、7月-8月の盛夏を過ごす。未成熟成虫が水辺を離れて生活するのは他のアカネ属の赤とんぼのみならず、非常に多くのトンボに共通した習性ではあるが、アキアカネの場合この移動が極端に長距離となる。低温時におけるアキアカネの生理的な熱保持能力は高く、活動中の体温は外気温より10-15℃も上昇するが、高温時の排熱能力は低い。そのため暑さに弱く、気温が30℃を超えると生存が難しくなり、このことが季節的な長距離移動の原因と考えられている。酷暑の年には移動先はより高い標高の地域となり、冷夏の年にはそれほど高いところまでは移動しないことが示唆されている。なお夏の昼間、日差しが強いときにアキアカネが逆立ちをするのは日光が当たる面積を減らし、体温の上昇を抑えるためである。
夏の間、高地で摂食を続けている間に生殖腺などの内部組織が発達、充実し、最終的に体重が2-3倍にまで増加する。昆虫などの節足動物は脱皮後に体の大きさは増大するが、それは消化管内にのみこんだ水や空気の圧力で外側の外骨格だけを膨張させているため、しばしば内部はすかすかの状態である。そのため、脱皮後は成長しないように思われがちだが、実は外骨格の膨張に伴っていなかった内部組織の成長が起こるのである。
十分成熟した成虫、特に雄は体色が橙色から鮮やかな赤に変化し、通常秋雨前線の通過を契機に大群を成して山を降り、平地や丘陵地、低山地へと移動する。成虫の群れは低地に到着すると雌雄が結合したまま飛びまわり、稲刈りの終わった水田の水溜りのような産卵適所を探索する。このような浅い水溜りを発見すると、近くの草むらや地面で約10分ほど交尾を行い、交尾が終了するとやはり雌雄がつながったまま水面の上に移動する。産卵は水面の上で上下に飛翔しながら雌が水面や水際の泥を腹部先端で繰り返し叩き、その度に数個ずつ産み落とす。産卵が終わると雌雄は連結を解き飛び去り、夕方は単独行動を行うが朝になると再び雌雄が連結して生殖活動に移る。成虫は11月まで見られ、中には12月上旬まで生き延びるものもいる。
卵は水中や湿った泥の中で越冬し、春に水田に水をはる頃になると孵化し、幼虫(ヤゴ)となる。アキアカネのヤゴは、体は短めで、肢は比較的細長い。頭部は横長で複眼は前側方に突出している。終齢幼虫に達した段階のヤゴの体長は17-20mm、頭幅は6.5-8mm。ヤゴは田植え直後の水田に大発生するミジンコなどを活発に捕食して急速に大きくなり、初夏の夜にイネなどによじ登って羽化する。
民俗
乾燥させた成虫は民間薬として用いられ、解熱剤や強壮剤として効果があるとされる。その一方で捕まえると罰が当たるとする言い伝えもあり、東北地方では雷に打たれるとして「かみなりとんぼ」と呼び、東海地方では目が赤くなったり腹が痛くなる、あるいは瘧(おこり)、即ちマラリアの発熱発作を起こすとする伝承がある。この伝承が秋に大群で出現するアキアカネに何らかの霊性を認めたためであったのか、それとも害虫を食べるトンボをむやみに殺生することを戒めたものであるのかは明らかではない。
参考文献
- 朝比奈正二郎/著「アカトンボ」『世界大百科事典1』より(平凡社、1988年)ISBN 4-582-02200-6
- 石田昇三ら/著『日本産トンボ幼虫・成虫検索図説』(東海大学出版会、1988年)ISBN 4-486-01012-4
- 日浦勇/著「アキアカネ」石原保/監修『学研生物図鑑 昆虫III』より(学習研究社、1990年改訂版)ISBN 4-05-103850-5
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