解熱薬

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イブプロフェンの錠剤。解熱薬として一般的に用いられる

解熱薬(げねつやく、英:Antipyretics)は、発熱を弱める薬物である[1]

多くの解熱薬は他の用途がある。最も一般的なイブプロフェンアスピリンはどちらも主に鎮痛剤に使われる。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)には、解熱、抗炎症、鎮痛作用がある。

発熱には、感染症に対する身体の免疫系の反応の一部であるとして、こうした医薬品の適切な使用に対する議論がある[2][3][4]王立協会によって公表された研究は、熱を抑えることでインフルエンザによる死亡症例を1%以上増加させると結論し、アメリカでは毎年700人以上が余分に死亡することになる[5]

非薬物療法[編集]

ぬるま湯か冷水による入浴やタオル・スポンジでのマッサージは、熱中症において体温を効果的に減少させるが、発熱では一般的ではない[6]

医薬品[編集]

解熱作用のある多くの医薬品は発熱に対しては役立つが、熱中症に対してではない。

植物[編集]

解熱作用のある高等植物の伝統的な使用は、多くの民族植物学的文化における世界的に共通した特徴である。 民族植物学では、解熱の性質を天然に生じさせる植物を、一般にfebrifugesと呼ぶ[7][8]

子供において[編集]

小児への解熱剤の投与については多くのリスクが挙げられている。医師の指示なく解熱剤成分を含む市販薬を小児に使用することは非常に危険である[9] アメリカ食品医薬品局(FDA)は、不適切な投薬としてアセトアミノフェンを子供に投与するのは最大の問題のひとつであると注意している[10]。子供における解熱薬としてのアセトアミノフェン単独の有効性は不明だが、一部の証拠はスポンジで体を拭くよりも効果的であったことを示している[11]。アセトアミノフェンとイブプロフェンを交互に投与する方法は、それぞれの単剤よりも大きな解熱作用を示した[12]。1つのメタアナリシスは、子供において、単剤で投与されたイブプロフェンは単剤のアセトアミノフェンよりも、解熱作用が高いことを見出している[13]

ライ症候群に関する懸念から、イギリス国民保健サービス(NHS)[14]アメリカ疾病予防管理センター(CDC)、アメリカ公衆衛生局、米国小児科学会 (AAP)、またアメリカ食品医薬品局(FDA)は、子供や十代の若者に対して、発熱が原因の病気の期間中に、アスピリンやアスピリンを含有する製品を投与しないよう推奨している[15]。しかし、アスピリンの使用の減少、あるいは逆にアセトアミノフェンの増加が、喘息やほかの自己免疫疾患の増加に関連していることを、いくつかの研究が示している。医師がアセトアミノフェンを用いる際には、喘息または他の自己免疫疾患の、遺伝的または環境的体質に注意することが推奨されている。[16]

感染症と解熱薬[編集]

感染症の場合、患者の体温の上昇は生体の防御反応を高め、特にウイルスが病原体の場合は増殖を抑制するとされており、患者にとり有益な面があり、解熱には慎重になるべきである[4][17]。医師が患者の状態を総合判断して解熱剤を処方する場合はあるが、受診せずに(解熱剤成分を含む)市販薬を飲むことは、死に至る可能性を上げ危険である[18][19][20]

出典[編集]

  1. ^ Definition of antipyretic”. Merriam-Webster Online Dictionary. 2007年12月19日閲覧。
  2. ^ Mayo Clinic”. 2015年10月25日閲覧。
  3. ^ Medline Plus”. 2015年10月25日閲覧。
  4. ^ a b 加地正郎 2003, p. 115.
  5. ^ Kupferschmidt, Kai (2014年1月21日). “Fight the Flu, Hurt Society?”. ScienceNow. http://news.sciencemag.org/health/2014/01/fight-flu-hurt-society 
  6. ^ UpToDate Inc”. 2015年10月25日閲覧。
  7. ^ Schultes, R.E.; Raffauf, R.F. De Plantis Toxicariis e Mundo Novo Tropicale Commentationes. XXXIX. Febrifuges of northwest Amazonia. Harvard Papers in Botany Vol. 5, pp. 52-68. 1994.
  8. ^ Biren N. Shah and Avinash K. Seth Medicinal Plants as a Source of Anti-Pyretic Agents – A Review http://scholarsresearchlibrary.com/aasr-vol2-iss3/AASR-2010-2-3-188-195.pdf
  9. ^ 松永貞一 2007, p. 56.
  10. ^ Reducing Fever in Children: Safe Use of Acetaminophen
  11. ^ Meremikwu M, Oyo-Ita A (2002). Meremikwu, Martin M. ed. “Paracetamol for treating fever in children”. Cochrane Database Syst Rev (2): CD003676. doi:10.1002/14651858.CD003676. PMID 12076499. 
  12. ^ E. Michael Sarrell, MD; Eliahu Wielunsky, MD; Herman Avner Cohen, MD (2006). “Antipyretic treatment in young children with fever: acetaminophen, ibuprofen, or both alternating in a randomized, double-blind study”. Archives of Pediatrics & Adolescent Medicine 160 (2): 197–202. doi:10.1001/archpedi.160.2.197. PMID 16461878. http://archpedi.ama-assn.org/cgi/content/full/160/2/197 2010年9月25日閲覧。. 
  13. ^ Kauffman, Ralph; Sawyer, L.A.; Scheinbaum, M.L. (1992). “Antipyretic Efficacy of Ibuprofen vs Acetaminophen”. Am J Dis Child. 146 (5): 622–625. http://archpedi.ama-assn.org/cgi/content/abstract/146/5/622. 
  14. ^ Reye's syndrome - Prevention
  15. ^ CDC Study Shows Sharp Decline in Reye's Syndrome among U.S. Children
  16. ^ Varner, A. E.; Busse, W. W.; Lemanske, R. F. (1998). “Hypothesis: Decreased Use of Pediatric Aspirin Has Contributed to the Increasing Prevalence of Childhood Asthma”. Annals of Allergy, Asthma & Immunology 81 (4): 347–351. doi:10.1016/S1081-1206(10)63127-4. PMID 9809499. 
  17. ^ 岡部信彦 2008, p. 38.
  18. ^ 松永貞一 2007, pp. 42–44.
  19. ^ 松永貞一 2007, p. 166.
  20. ^ 順天堂大学医学部 2006, p. 49.

参考文献[編集]

  • 加地正郎 編『インフルエンザとかぜ症候群』(改訂2版)南山堂、2003年11月4日。 
  • 岡部信彦『かぜとインフルエンザ』少年写真新聞社、2008年11月15日。ISBN 4879812757 
  • 松永貞一『風邪の話―たかが風邪、されど風邪、風邪対策の知恵とヒント』日本医学館、2007年3月10日。ISBN 4890440054 
  • 順天堂大学医学部 編『かぜとインフルエンザ―日常生活の注意、予防、治療 (順天堂のやさしい医学)』学生社、2006年4月10日。ISBN 4311700636 

関連項目[編集]