おんせん部!

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おんせん部!
小説
著者 河里一伸
イラスト しまちよ
出版社 宝島社
レーベル このライトノベルがすごい!文庫
発売日 2013年6月
巻数 1巻
テンプレート - ノート
プロジェクト ライトノベル

おんせん部!』(おんせんぶ)は、河里一伸による日本ライトノベルイラストしまちよが担当している。このライトノベルがすごい!文庫から刊行されている[1]

概要[編集]

本書について著者の河里は、「温泉で温戦」というダジャレのような発想から生まれた話としつつも、アニメなどによくある温泉話をメインに据えた物語が出来ないかと企画を練っていたところ、出版にたどり着いたと述べている[2]

また本書では実際に存在する温泉地が登場するがこれについて河里は、現地の地名や店名については可能な限りそのまま登場させていくとしているが、おんせん部が宿泊する旅館はまったくの架空であると説明している[2]

あらすじ[編集]

中学校時代野球部のエースだった高宮健吾は、腰を痛めてしまい以来やりたいことが見つからず完全に目標を見失っていた。そんな健吾は高校入学直後、幼馴染で恩人でもある原田由香に「おんせん部に入らないか」と誘いを受ける。そこで健吾が見たものは、温泉地を舞台に男女が覗きをかけてバトルをする「温戦」だった。最初は軽い気持ちで入部した健吾だったが、その面白さに徐々にのめり込んでいくこととなる。

登場人物[編集]

高宮 健吾(たかみや けんご)
本作の主人公。一年生でクラスはA組。由香とは幼馴染
中学校時代は野球チームのエースピッチャーとして活躍していたが、不運な事故で腰を痛めてしまった。一時は歩行すら困難な状態で、どこまで回復するか判らないと主治医に言われるほど重傷な怪我だったが、その時に由香から湯治を勧められ三週間ほど行ったところ、主治医が驚くほど劇的に回復した。しかし、腰に負担をかけすぎると再び腰を痛める恐れがあるため野球に復帰できず、さらに野球選手になることだけを目指してプレーをしていたため、完全に目標を見失ってしまった。
高校では恩人でもある由香に誘いを受け、実際に温戦を体験したところはまってしまい、そのまま「おんせん部」に入部した。現在は温戦を新たな目標とし、日々トレーニングに励んでいる。
由香に好意を寄せており、今の友達以上恋人未満の関係から一歩先に進みたいと思っているが、本人には言い出せずにいる。
温戦では、亀の子たわしを武器として使用する[注 1]
原田 由香(はらだ ゆか)
一年生でクラスはA組。健吾とは幼馴染。
身長は155cmと小柄で童顔。このため、服装次第で3~4歳ぐらい下に見られることがある。
健吾が怪我をしたときに、健吾の両親に温泉療法医や湯治について熱心に説明し、健吾が湯治を始めるきっかけを与えた。
子供のころから護身術を習っており、その腕前はかなりのもの。中でも濡れタオルを使った護身術はかなり強力で、その威力は健吾が一発で気絶してしまうほど。このため温戦では濡らしたタオルを武器として使用している。
健吾に好意を寄せているが、健吾同様に言い出せずにいる。
速水 駿太郎(はやみ しゅんたろう)
一年生でクラスはC組。
なかなかのハンサム。髪はミディアムの長さで、癖毛風のパーマをかけている。
美少女を見つけると連絡先を聞き出し、飛びつこうとする癖がある。この癖は最初の温戦でも発揮されたが、ルールを破ったことによりきついお仕置きを受けた。それ以降、温戦中ではこの癖は発揮されなくなった。
温戦では湯桶を円盤のように投げることで武器として使用する。
獅子堂 麗那(ししどう れいな)
鷺ノ山高校おんせん部の部長。イギリス人と日本人のハーフ。金髪で抜群のスタイルを誇る。獅子堂グループのお嬢様でもある。
中学三年生の時に旅行先で偶然に温戦を見たのがきっかけで温戦に興味を持った。高校では廃部寸前だったおんせん部を自ら部長になることで阻止、再建を行った。
重度の冷え性の持ち主で、その影響は温戦にも出ることがある。
栗沢 俊秀(くりさわ としひで)
鷺ノ山高校おんせん部の副部長。おんせん部男子のリーダーで、男子側の温戦の作戦を考えるのも俊秀の役目。
麗那とは幼馴染の関係であるが、ライバル視している。しかし成績、体力ともに一度も勝ったことがない。
温戦では手桶2枚を武器に使用する。
椎名 晴美(しいな はるみ)
高校二年生。徹底した合理主義者で、髪も「ロングヘアは非合理的」という理由からショートヘアにしている。
普段は必要最低限の言葉しか発しないが、温泉のことになると饒舌になる。
肩凝りの持ち主で、試合に勝てば安く温泉に入れるためと言う理由から温戦の世界に飛び込んだ。
温戦ではトラップなど技術を尽くして参戦する。
重森 飛鳥(しげもり あすか)
高校二年生。身長は172cmと高く、筋肉質でもある。
格闘が大好きで中学二年生の時点で大人の空手の有段者を倒すほどの実力を持っていた。しかし自由な戦いを求める飛鳥には柔道や空手などの競技の枠は小さすぎた。その時に麗那から基本的なルール以外は自由に戦うことのできる温戦の誘いを受け、おんせん部に入部した。
力岡 豪記(りきおか ごうき)
高校二年生。
筋トレを趣味としており、暇があればいつでも筋トレをしている。飛鳥と唯一まともに相手をすることが出来る。
作戦行動は苦手。
塚本 詩織(つかもと しおり)
引っ込み思案な性格で、男子と話すのは苦手。そんな自分を変えたいと思いおんせん部に入部した。しかし温戦では男子に迫られると逃げ出してしまい、自ら失格になることも少なくない。
麗那に憧れを抱いている。
富田 康江(とみた やすえ)
おんせん部の顧問。国語を教えている。温戦活動の渉外担当も行っている。
年齢は三十路に達しているらしいが、顔立ちだけを見れば、二十代半ばでも十分に通用する。またおっとりした性格から「富田先生」ではなく「康江ちゃん」や「康江先生」と呼ばれ生徒に親しまれている。
 温泉巡りが趣味で、あまりお金を掛けずに温泉に行けるという理由からおんせん部の顧問をやっている[注 2]
鎌田 弓子(かまた ゆみこ)
おんせん部元部員。彼氏が出来たため部を辞めた。

用語[編集]

温戦[編集]

本作のメインとなっている競技。基本的には男女間で行われる覗きバトルのことを指す。いくつかのルールを元に行い、男子が勝つと入浴を覗く権利を得ることが出来るが、女子が勝った場合交通費以外の宿泊費用や一定の範囲の土産代といった費用を負担するのが現在の温戦の主流となっている。なお、他校とのバトルは覗きの権利をかけるのみで、費用の負担は一切行われない。

歴史[編集]

温戦の歴史は江戸時代後期まで遡る。江戸時代後期まで入浴は混浴が当たり前だったが、1791年に老中松平定信が混浴禁止令をだし、全国で徹底的な取り締まりを行った結果、江戸時代末期には男女別の入浴が当たり前になった。この出来事の後、女湯を覗こうとする若者が次々に現れ、女性がそれを妨害するということが幾度となく繰り広げられた。これが温戦の原型とされている。
明治時代初期には男女間で幾つかの取り決めが交わされ、正式に「温戦」と名付けられた覗きバトルが、温泉地を中心に行われるようになった。ところが、時代や価値観の変化、更に太平洋戦争などの出来事を経るうちに、温戦を知る人が殆どいなくなるほどまで衰退してしまった。その後、日本が高度経済成長期に沸いていた頃、温泉部で細々と行われていた温戦が再び脚光を浴び、いくつかのルール変更や追加を行い現在の形になった。

ルール[編集]

基本的なルールは「温戦十カ条」に則る。温戦十カ条は以下の通り。
  • 一、温戦は宿の了解を得た上で、原則として貸切露天風呂で行う。
  • 二、温戦の際は入浴時以外、原則として男女共に旅館の浴衣を着用する。
  • 三、女子は入浴の際、バスタオルで体を隠してはならない。
  • 四、温戦に勝利した時以外の覗き行為をしてはならない。
  • 五、カメラによる撮影は厳禁(携帯電話を含む)。
  • 六、入浴中の女子に手を触れてはならない。
  • 七、温戦の際は旅館のあるもののみを使用する。
  • 八、温戦による怪我は自己責任とする。
  • 九、敗北判定は以下の通りとなる。
A. 温戦中に、浴衣の帯を取られた場合(バスタオルで体を隠しているときは、上下どちらかが外れた場合)。
B. 気を失うなど、戦闘継続が不可能と審判が判断した場合。
C. あらかじめ設定された、温戦のフィールドから出た場合。
  • 十、温泉を行う際は、必ず勝敗の判定をする審判をおき、その判定に従うこと。
この他にも、
  • 温戦で敗北した女子は直ちに旅館へ戻って、貸切露天風呂に入る。破った場合、女子全体にペナルティが科せられる。
  • 温戦に部員以外の人間を巻き込むのは厳禁。破った場合は失格となる。
など、様々なルールが定められている。
また、写真撮影が目的のような人物は、男女が協力して温戦から排除するのが暗黙の決まりとなっている。

バトル方式[編集]

通常戦
温戦で最も多く行われるパターン。男子がゴールを目指し、女子が戦闘やトラップを駆使しながらゴールを守るオーソドックスなバトル形式を示す。
学校対抗戦
温戦のパターンの一つ。共学校同士のバトルでは通常戦と同じ方式で行われるが、男子校など女子が不利になる場合に行われる。基本的には男子同士のバトルとなるが、男子の人数に差がある場合には女子もバトルに参加することがある[注 3]

その他[編集]

私立鷺ノ山高校(しりつさぎのやまこうこう)
健吾たちが通っている学校。群馬県高崎市にある。
部活動が非常に盛んで、「おんせん部」など変わった部がいくつかあるのが特徴。また、アルバイトをある程度の範囲で認めている。
獅子堂グループ
ティッシュペーパーから人工衛星の製造、販売まで手掛けている世界有数の大企業。現在の日本の一般家庭で獅子堂グループの商品やサービスを排除すると、まともな生活は送れないと言われるほど影響は大きい。
温戦秘伝書
おんせん部の男子に代々引き継がれている書物。温戦で使用できる技が記載されているが、毛筆の上に全言一致運動以前に書かれたものであるため、読むのはかなり困難。さらに記載されている技の殆どは再現をすることも難しい高度な技ばかりとなっている。
伊香保温泉
言語たちが初めて温戦をやった温泉地。石段いがいは普通の道を走るだけで、温戦初心者にはちょうどいい場所として知られている。
鬼怒川温泉
健吾たちが二回目の温戦を行った温泉地。難易度は伊香保温泉より少し高め。川や崖などが多く、自然をどのように利用するかが勝敗の鍵となる。
老神温泉
琴能高校と学校対抗戦を行った温泉地。道幅が狭く、草が生い茂っているところが多いためトラップを仕掛けやすい。

既刊一覧[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 野球のボールに最も形が近いという事から。
  2. ^ 生徒の引率であれば交通費や宿泊費を経費として学校に申請することが出来るため。
  3. ^ 男子同士のバトルの際は女子は露天風呂に入って待ってないといけない。

出典[編集]

  1. ^ a b おんせん部! 詳細ページ”. このライトノベルがすごい!文庫. 宝島社. 2013年10月1日閲覧。
  2. ^ a b 小説第1巻あとがきより。

外部リンク[編集]