GRIA2

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GRIA2
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2WJW, 2WJX, 2XHD, 3R7X, 3RN8, 3RNN, 3UA8, 5H8S

識別子
記号GRIA2, GLUR2, GLURB, GluA2, GluR-K2, HBGR2, glutamate ionotropic receptor AMPA type subunit 2, gluR-B, gluR-2, NEDLIB
外部IDOMIM: 138247 MGI: 95809 HomoloGene: 20225 GeneCards: GRIA2
遺伝子の位置 (ヒト)
4番染色体 (ヒト)
染色体4番染色体 (ヒト)[1]
4番染色体 (ヒト)
GRIA2遺伝子の位置
GRIA2遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点157,204,182 bp[1]
終点157,366,075 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
3番染色体 (マウス)
染色体3番染色体 (マウス)[2]
3番染色体 (マウス)
GRIA2遺伝子の位置
GRIA2遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点80,588,757 bp[2]
終点80,710,142 bp[2]
RNA発現パターン




さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 イオンチャネル活性
血漿タンパク結合
ionotropic glutamate receptor activity
extracellularly glutamate-gated ion channel activity
excitatory extracellular ligand-gated ion channel activity
AMPA glutamate receptor activity
アミロイドβ結合
シグナル伝達受容体活性
細胞の構成要素 integral component of membrane
endocytic vesicle membrane
postsynaptic membrane
endoplasmic reticulum membrane

細胞膜
シナプス
integral component of plasma membrane
細胞結合
小胞体
AMPA glutamate receptor complex
external side of plasma membrane
樹状突起
樹状突起スパイン
excitatory synapse
postsynapse
postsynaptic endocytic zone
シナプス後肥厚
生物学的プロセス イオン輸送
イオン経膜輸送
ionotropic glutamate receptor signaling pathway
輸送
シグナル伝達
化学的シナプス伝達
興奮性シナプス後電位
synaptic transmission, glutamatergic
regulation of NMDA receptor activity
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_000826
NM_001083619
NM_001083620
NM_001379000
NM_001379001

NM_001039195
NM_001083806
NM_013540
NM_001357924
NM_001357927

RefSeq
(タンパク質)

NP_000817
NP_001077088
NP_001077089
NP_001365929
NP_001365930

NP_001034284
NP_001077275
NP_038568
NP_001344853
NP_001344856

場所
(UCSC)
Chr 4: 157.2 – 157.37 MbChr 4: 80.59 – 80.71 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

GRIA2またはGluA2GluR2(glutamate ionotropic receptor AMPA type subunit 2、ionotropic glutamate receptor 2)は、ヒトではGRIA2遺伝子によってコードされるタンパク質である[5][6][7]

機能[編集]

グルタミン酸受容体哺乳類における主要な興奮性神経伝達物質受容体であり、さまざまな正常な神経生理学的過程で活性化される。GRIA2遺伝子の産物は、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)に対する感受性を持ち、リガンド依存性カチオンチャネルとして機能するグルタミン酸受容体ファミリーに属する。これらのチャネルは4つの関連するサブユニット、GluA1–4から組み立てられている。GRIA2遺伝子にコードされるサブユニット(GRIA2、GluA2、GluR2)の2番目の膜貫通ドメイン内の領域でRNA編集によってグルタミン(Q)がアルギニン(R)に変化し、チャネルはCa2+に対する透過性を失うと考えられている。ヒトと動物での研究からは、pre-mRNAの編集は脳の機能に必要不可欠であり、Q/R部位でのRNA編集の編集の欠陥は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因となる可能性が示唆されている。この遺伝子には選択的スプライシングによるバリアントが記載されており、シグナル伝達性質の異なるflip型、flop型と呼ばれるアイソフォームが含まれている[7]

相互作用[編集]

GluA2はSPTAN1[8]GRIP1英語版[9]PICK1英語版[9]と相互作用することが示されている。

RNA編集[編集]

いくつかのイオンチャネルと神経伝達物質受容体のpre-mRNAがADARの基質となり、pre-mRNAのアデノシン(A)がイノシン(I)へ編集される。その標的には、AMPA型グルタミン酸受容体のサブユニット(GluA2、GluA3GluA4英語版)とカイニン酸型グルタミン酸受容体のサブユニット(GluK1GluK2)が含まれている。ADARはpre-mRNAの二本鎖領域内のアデノシンを認識し、イノシンへの脱アミノ化を行う。イノシンは翻訳装置によってグアノシン(G)として認識されるため、コードされるアミノ酸が変化する場合がある。グルタミン酸作動性イオンチャネルは4つのサブユニットから構成され、各サブユニットがポアのループ構造に寄与している。ポアループ構造はK+チャネル(ヒトKv1.1チャネルなど)にみられるものと関係しており[10]、Kv1.1チャネルもまたAからIへのRNA編集を受ける[11]

位置[編集]

GluA2のpre-mRNA中のQ/R編集部位は607番目のアミノ酸残基である。この残基はイオンチャネルのポアループ領域、タンパク質の2番目の膜貫通セグメントに位置する。編集によってグルタミン(Q)コドンはアルギニン(R)コドンに変化する。また、R/G編集部位は764番目のアミノ酸残基で、アルギニン(R)からグリシン(G)へ変化する。グルタミン酸受容体の全ての編集は二本鎖RNA領域に行われ、これらはエクソン中の編集部位ととイントロン中のECS(editing complementary site)との相補的な塩基対形成によって生じたものである[12]

調節[編集]

脳のGluA2の転写産物ではQ/R部位の編集は100%の頻度で生じており、これは100%の頻度で編集される既知の唯一の例である[10]。しかしながら、線条体皮質の一部の神経細胞では編集頻度は低下しており、これらの特定の神経細胞で高レベルの興奮毒性が生じる理由であると示唆されている[13]。R/G部位は発生過程で調節されており、胚の脳ではほぼ編集されていないが、出生後に編集レベルが上昇する[14]

編集の影響[編集]

構造[編集]

Q/R部位での編集によって、グルタミンをコードするCAGコドンがCIGへ変化することでアルギニンとして翻訳されるようになる[15]。この編集部位は2価カチオンの透過性を制御する領域であることが知られている。他のイオンチャネル型AMPAグルタミン酸受容体はグルタミン残基をコードしているが、GluA2ではアルギニンとなる。

機能[編集]

Q/R部位でのRNA編集はチャネルの透過性を変化させ、Ca2+を透過させないようにすると考えられている。Q/R部位の編集は、カイニン酸受容体のサブユニットであるGluK1とGluK2にも生じる。GluA2のQ/R部位の編集はチャネルのカルシウム透過性を決定し[10]、編集されたサブユニットを含むチャネルはカルシウム透過性が低くなる。一方、GluK1のQ/R部位の編集は、I/V部位とY/C部位が共に編集されている場合にはチャネルのカルシウム透過性を増加させる可能性がある。このように、編集の主な機能はチャネルの電気生理の調節である[16]

線条体皮質の神経細胞の一部では興奮毒性に対する感受性が高く、それはこうした神経細胞では編集頻度が100%よりも低下していることが原因であると考えられている[13]。編集によって、いくつか他の影響も生じる。編集はチャネルの成熟と組み立てに変化が生じる。未編集型のGluA2は四量体化しシナプスへ輸送される傾向がある。しかし、編集型のGluA2は単量体として主に小胞体に位置しており、GluA2のポアループのアルギニン残基が小胞体保持シグナルとなっていると考えられる。そのため、編集はこのサブユニットの受容体への組み込みを調節している[17]

調節異常[編集]

筋萎縮性側索硬化症[編集]

ヒトと動物での多くの研究により、GluA2のpre-mRNAのRNA編集は正常な脳機能に必要であることが明らかにされている。編集の欠陥は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などいくつかの疾患と関係している。ALSは2000人に1人が発症し、多くの場合1–5年で致死となる。症例の大部分は孤発性で、家族性のものは少数である[18]。これらの疾患では、運動神経細胞の変性によって最終的には麻痺と呼吸不全が引き起こされる。グルタミン酸の興奮毒性が孤発性症例において疾患の拡大に寄与していることが知られている。グルタミン酸レベルは40%上昇し、グルタミン酸受容体の活性化によるカルシウムの流入の増加とその後の神経細胞死の原因となっていることが示唆される[19]。Q/R部位の編集の低下や喪失はカルシウムの透過性を増加させるが、疾患の影響を受けた運動神経細胞ではGluA2の編集レベルが低下していることが判明している(62-100%)[20][21][22][23]。編集の異常はこの疾患に特異的であると考えられ、球脊髄性筋萎縮症では編集レベルの低下はみられない[23]

てんかん[編集]

マウスモデルでは、編集の欠陥はてんかん発作を引き起こし、出生後3週間以内に死に至る[10]。ほぼ100%の転写産物が編集されるものの、なぜゲノムにアルギニンとしてコードするのではなく、グルタミンコドンからの編集を行うのかは不明である。

がん[編集]

Q/R部位の編集の低下は、ヒトの一部の脳腫瘍でもみられる。ADAR2英語版の発現の減少は、悪性神経膠腫におけるてんかん発作と関係していると考えられている[24]

免疫組織化学診断における利用[編集]

GRIA2は孤立性線維性腫瘍英語版(SFT)の免疫組織化学的診断マーカーとして、他の類似疾患との鑑別に利用される。他のCD34陽性腫瘍と同様、GRIA2は隆起性皮膚線維肉腫英語版(DFSP)でも発現している。しかし、臨床的、組織学的特徴を鑑別に利用できる。GRIA2は他の軟部組織腫瘍ではわずかな分布しかみられない[25]

出典[編集]

  1. ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000120251 - Ensembl, May 2017
  2. ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000033981 - Ensembl, May 2017
  3. ^ Human PubMed Reference:
  4. ^ Mouse PubMed Reference:
  5. ^ HGNC. “Symbol Report: GRIA2”. 2017年12月29日閲覧。
  6. ^ “Molecular cloning, chromosomal mapping, and functional expression of human brain glutamate receptors”. Proc Natl Acad Sci U S A 89 (4): 1443–7. (Mar 1992). doi:10.1073/pnas.89.4.1443. PMC 48467. PMID 1311100. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC48467/. 
  7. ^ a b Entrez Gene: GRIA2 glutamate receptor, ionotropic, AMPA 2”. 2020年11月2日閲覧。
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関連文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]