高カリウム性周期性四肢麻痺

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高カリウム性周期性四肢麻痺
分類及び外部参照情報
ICD-10 G72.3
ICD-9 359.3
OMIM 170500
DiseasesDB 6252
MeSH D020513
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
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高カリウム性周期性四肢麻痺(こうかりうむせいしゅうきせいししまひ、: Hyperkalemic periodic paralysis, HYPP, HyperKPP)とは、ウマインプレッシヴ症候群としても知られる、常染色体優性遺伝する遺伝病であり、筋細胞ナトリウムチャネル、および、血液中のカリウム濃度を調節する機能が侵される。ウマでよく知られるが、ヒトも発症し、Gamstorp episodic adynamyとも呼ばれる。

ウマのHYPP[編集]

症状および特徴[編集]

この遺伝病は、発症したウマに激しい筋力低下または麻痺を引き起こすのが特徴である。麻痺だけでなく、逆の筋緊張の症状であるミオトニーを合併することが非常に多い。HYPPは優性遺伝の疾患なので、統計的確率として子孫の50%が発症する。

HYPPを発症したウマは、治療により臨床的症状を緩和できる確率がいくらかあるが、個体によって医学的治療の効果は大きくばらつく。完治することはない。HYPPに罹患したウマは、突然麻痺のエピソードを生じる可能性があることを第一の理由として、乗馬するのは危険であるとされる。そういったウマは肉体のコントロールを失って、転倒することも多い。そういった発作は素早く進行するので、騎手に負傷を負わせることがあり、すぐには安全に降馬することができない。

ウマの中には他のウマよりも重度に罹患するものがあり、同じウマでさえ普段よりも重度の発作を引き起こすことがある。HYPP発作の症状としては以下のことを含む。

  • 筋痙攣
  • 第三眼瞼の脱出 - これは第三眼瞼が見え隠れすること、または、正常よりも眼の多くの部分をカバーしていることより気付かれる。
  • 全身的な筋力低下
  • 後半身の筋力低下 - ウマが「イヌ座り」をしているかのように見える。
  • 全身虚脱
  • 異常ないななき声 - これは、他の筋と同様に、喉頭の筋が侵されることによる。
  • 死亡 - 重度の発作では、横隔膜も麻痺し、ウマは窒息することがある。

HYPP発作は偶発的に引き起こされ、運動中だけでなく、ごく平易な状態で馬屋の中で落ち着いて立っているウマを襲うこともある。HYPP発作の後では、ウマは正常に戻り、疼痛を伴わず、ウマ労作性横紋筋融解症(Equine Exertional Rhabdomyolysis、ER)と容易に区別することができる。ウマ労作性横紋筋融解症は、別名、窒素尿症(Azoturia)、月曜の朝病(Monday morning disease)、タイングアップ(Tying-up)としても知られる。ERの発作は通常、運動に伴って引き起こされ、回復に12時間から数日間を必要とする。また、ERの発作では筋組織が損傷を帯び、発作の最中および発作後に、疼痛を伴う。ERのエピソードの後では、血液検査を行うと、特定の筋酵素が上昇しているため、これらの二つの疾患は表面上類似しているが、分析すれば容易に鑑別できる。

てんかんと違って、ウマは発作の間にも完全に意識を保ち、正気を維持している。HYPP発作の間、ウマは呼吸器系の麻痺のために窒素することがある。また、エピソードの間に虚脱したウマは、再び立ち上がろうとして、目に見えて繰り返しもがこうとする。乗馬している最中や、引いて歩いている最中に、発作が起こると、騎手や引いている者はウマの動作により負傷するリスクがある。

遺伝および罹患率[編集]

この疾患は、有名な米国の競技馬であるインプレッシヴの種馬の血統である、現存する55,000頭(2003年年現在)の子孫に引き継がれている。この疾患は基本的には、米国のクォーターホースの血統および、現在は米国の駁毛馬およびアパルーサ種などの近縁種の血統に限られていたが、交雑により雑種や他の血統種にも広がり始めている。AQHAがこの疾患を有するウマの登録を制限するまで、罹患したウマがショーのホルター競技において評価を得やすいことから、広がり続けた。罹患したウマの評価が良いのは、HYPPの副作用として、N/HおよびH/Hのウマが重量感があって凹凸のある筋肉を持っているため、ストックホースの審判員から高い評価を受けやすく、疾患の近代的な理解に先だって、インプレッシヴ以来の傾向であった。クォーターホースの血縁のあるストックホースの血統では、HYPPが引き継がれているのを防ぐため、未だに登録を禁止されている。

規制[編集]

近年、この広く拡大してしまった疾患を根絶しようとして、ウマの関連協会は規則を制定し始めた。アメリカン・クォーター・ホース協会(AQHA)は現在、「インプレッシヴ」の変異に対する検査を行っており、2007年時点でホモ接合型(H/H)の子ウマをもはや登録しない予定で、ヘテロ接合型の子ウマについては議論を保留中である。アパルーサ・ホース・クラブ(ApHC)は、2008年時点で、もはやホモ接合型の子ウマを受理しない予定である。これら両方のパロミノ種を元にしたウマのレジストリでは、2007年時点で、「インプレッシヴ」変異を有する子ウマを排除する予定とみられている。他にもHYPPの影響を受ける組織には小さなものが多くあるが、大きな組織の中で、まだ行動を起こしていないのは、アメリカン・ペイント・ホース協会(APHA)がある。

ヒトの疾患[編集]

高カリウム性周期性四肢麻痺は、ヒトでも観測される。患者の多くは幼児期に発作が始まり、極度の筋力低下のエピソードを引き起こす。高カリウム性周期性四肢麻痺のタイプと重症度によるが、40年から50年後には、発作がやんだり、少なくなったりする場合がある。発作を引き起こす要因としては、運動後の休息、カリウムに富む食品、ストレス、疲労、気候の変化、特定の汚染物質(例、煙草のけむり)、空腹の期間などが挙げられる。発作が止んでから次の発作までの期間には、筋力は改善されることが多いが、患者のいくらかは疾患の進行に伴い筋力低下の発作期間が長くなる(abortive attacks)。患者の中には、患っている筋肉が強張って痙攣(ミオトニア)を経験する場合がある。これは麻痺を引き起こすのと同じ原因によるもので、引き起こすミオトニアにも複数のタイプがある(パラミオトニアを参照)。

患者によっては、発作の間、血液カリウム濃度が上昇する場合がある(高カリウム血症)。その一方で、正常な血液カリウム濃度で発作が起こる症例もある(正カリウム性周期性四肢麻痺)。たとえ血液カリウム濃度がカリウムの摂取に応じて変化せずとも、その摂取が発作のトリガーとなることがある。

遺伝[編集]

1994年にピッツバーグ大学の研究者らが、様々なウマの関係機関からの補助金を用いて、責任変異を突き止め、血液検査を確立した。この検査を用いると、ウマは以下のタイプに分類される。

  • H/H : ホモの変異を持つ。こうしたウマは例外なく疾患により死亡する。
  • N/H : ヘテロの変異を持つ。こうしたウマは軽度に患い、寿命はおよそ半分である。
  • N/N : インプレッシヴの子孫であっても変異が存在せず、この疾患で死亡することはない。

ヒトでは、SCN4A遺伝子点変異が複数存在し、そのうちの1つが最もよく疑われている遺伝的原因である。[1] この遺伝子は神経筋結合に見られる電位開口型ナトリウムチャネル Nav1.4をコードしている。この疾患の症状は優性遺伝のパターンで伝わる。つまり変性した遺伝子のコピーが各細胞に1つ含まれるだけで疾患を引き起こす。

中枢神経系からの活動電位が神経筋接合(NMJ)で終板電位を引き起こし、それによってナトリウムイオンがNav1.4を通過して、筋細胞を脱分極する。この脱分極がトリガーとなって、カルシウムイオンが筋小胞体から取り込まれ、筋の収縮(緊張)を引き起こす。筋が永続的に収縮するのを避けるため、チャネルには速い不活性化ゲートが備えられており、開口の後非常に素早くナトリウムの通過口を塞ぐ。この機構によってさらにナトリウムが流入するのを防いでいる。やがて、カリウムイオンが筋細胞を去り、細胞を再分極して、カルシウムが収縮装置から排出される。

正常なナトリウムチャネルの構造および機能が、変異によって変性を起こし、それによって筋収縮の制御が崩壊し、重度の筋力低下や麻痺のエピソードへとつながる。膜貫通ドメインIIIおよびIVの間の残基に変異が同定されており、その残基はNav1.4の速い不活性化ゲートを形成している。ドメインII, III, IVの螺旋構造S4およびS5の間の細胞質ループにも変異が見出されており、それは不活性化ゲートが結合する部位である。[2][3]

SCN4Aに変異がある患者では、チャネルを不活性化することができないため、ナトリウムイオン伝導度が維持され、脱分極した状態のままである。神経から運動終板を通じて脱分極するよう信号が届いても、すでに脱分極したままであるため、筋を収縮させることができない(麻痺)。これは高カリウム血症の状態であり、この状態になると細胞外カリウムイオン濃度が高いことで、さらにカリウムが細胞から去りにくい状態となっている。再分極するには、カリウムが細胞から排出される必要があるのだが、それができないことで、さらにナトリウムイオンの伝導を延長する。このため、細胞外(血清)カリウムイオン濃度を低く維持できると、重症化するのを避けることができる。[4][5]

ウマのインプレッシヴの場合には、筋は常に運動しているのと同様に、収縮したままである。これが「インプレッシヴ」の筋が発達している理由である。

HyperKPPと比較して、特にヒトの低カリウム性周期性四肢麻痺は、筋の脱分極を防ぐチャネルの機能欠失型の変異を意味し、カリウムイオン濃度が低いことにより悪化する。

治療[編集]

  • グルコースや他の炭水化物を、発作中に摂取すると、重症度を低減できる。[6]
  • 静脈カルシウム投与によりナトリウムチャネルの活動を減少させる。突然の発作を停止できることがある。[6]
  • フロセミドなどの利尿薬が、突然の発作を停止できることがある。[6] アセタゾラミドおよびクロロチアジドなどのサイアザイド系利尿薬もまた効果的である。[6]
  • グルコースおよびインスリンの静脈注射により、カリウムがNa-K ATPaseにより細胞中にカリウムが取り込まれるのを促進し、全身カリウムを失うことなく筋力低下を減じることができる。[6]
  • 高炭水化物食が推奨される。[6]
  • その他の既知の発作トリガーを避けること。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  1. ^ OMIM
  2. ^ Rojas CV, et al. A Met-to-Val mutation in the skeletal muscle sodium channel α-subunit in hyperkalemic periodic paralysis. Nature. 1991;354:387–389.
  3. ^ Bendahhou S, Cummins TR, Kula RW, Fu YH, Ptácek LJ. Impairment of slow inactivation as a common mechanism for periodic paralysis in DIIS4-S5. Neurology. 2002;58:1266–1272.
  4. ^ Rüdel R, Lehmann-Horn F, Ricker K, Küther G. Hypokalemic periodic paralysis: in vitro investigation of muscle fiber membrane parameters. Muscle Nerve. 1984 Feb;7(2):110-20.
  5. ^ Jurkat-Rott K, Lehmann-Horn F. Muscle channelopathies and critical points in functional and genetic studies. J Clin Invest. 2005 Aug;115(8):2000-9.
  6. ^ a b c d e f MedlinePlus: Hyperkalemic periodic paralysis Update Date: 7/25/2006. Updated by: David M. Charytan, M.D., M.Sc., Department of Medicine, Division of Nephrology, Brigham and Women's Hospital, Boston, MA.

外部リンク[編集]