阿部薫 (サックス奏者)

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阿部 薫
生誕 (1949-05-03) 1949年5月3日
神奈川県川崎市
出身地 日本の旗 日本 神奈川県
死没 (1978-09-09) 1978年9月9日(29歳没)
学歴 川崎市立橘高等学校中退
ジャンル フリー・ジャズアヴァンギャルド・ジャズ
職業 ミュージシャン
担当楽器 アルト・サクソフォーン、ソプラニーノ・サクソフォーン、バスクラリネットハーモニカ
活動期間 1968年 - 1978年
レーベル DIWレコード

阿部 薫(あべ かおる、1949年5月3日 - 1978年9月9日)は、フリー・ジャズのアルトサックスプレイヤー。他にソプラニーノサックス、バスクラリネットハーモニカ等もプレイする。神奈川県川崎市出身。

来歴[編集]

高校中退後、本格的にアルトサックスを吹き始め、1968年川崎市のジャズスポット「オレオ」でサックス奏者としてデビュー[1]

1970年フリージャズギタリスト高柳昌行とのデュオ・アルバム『解体的交感』を発表する。ライブ活動の傍ら、1973年3月には初のソロ・アルバム『彗星パルティータ』を、劇作家の芥正彦のプロディースで録音(発表は死後の1981年)、1975年音楽評論家間章プロディースによるソロ・コンサート「なしくずしの死」を録音した同名のアルバムを翌年に発表、これが生前唯一のソロ・リリースとなる。

1976年には、メジャー・レーベルのトリオ・レコードで初のレコーディング・セッション(プロディースは稲岡邦彌)を行うが、当時は発表されず、1992年に『スタジオ・セッション1976.3.12』として発売された。1977年ミルフォード・グレイヴスのアルバム『メディテイション・アマング・アス』、1978年にはデレク・ベイリーのアルバム『DUO&TRIO IMPROVISATION』に参加、同年に公開された若松孝二監督の映画『十三人連続暴行魔』では音楽を担当し、映画には本人の演奏姿も収められている。

1973年小説家/女優の鈴木いづみと婚約。一人娘を授かるが、1977年に離婚。

1978年9月9日、薬物の過剰摂取により29歳で急死した。

歌手の坂本九は叔父に当たる[1]。坂本九の次姉・喜久代が阿部の母。

再評価[編集]

死後、再評価の気運が高まり、1981年には1973年録音の『彗星パルティータ』(ソロ)、1975年録音の『北(NORD)』(吉沢元治とのデュオ)が相次いでリリースされる。なお『北(NORD)』は1976年発売の『なしくずしの死 (MORT A CREDIT)』と同様、タイトルはルイ=フェルディナン・セリーヌの小説のタイトルに由来する。

また1989年には『Last Date 8.28, 1978』の発売に合わせ、阿部薫覚書編纂委員会編『阿部薫覚書:1949-1978』が刊行。1991年にはテレビ朝日の深夜番組『プレステージ』でも特集される。その後もDIWレコードより『ソロ・ライヴ・アット・騒』シリーズ(全10作)、P.S.F.RECORDSのJ・Iコレクション・シリーズ(全7作)、福島にあったジャズ喫茶「パスタン」での演奏を収めた『Live At Passe-Tamps』シリーズ(全12作)をはじめとして、死後に発掘された多くのライブ音源がリリースされている。1992年には阿部薫と鈴木いづみをモデルにした稲葉真弓の小説『エンドレス・ワルツ』が刊行され、1995年に若松孝二監督・町田康主演で映画化もされた。

高柳昌行は、阿部と共演した1970年当時に阿部のことを「20年ジャズをやっているが、こんなに恐ろしいミュージシャンに会ったことがない。彼は今迄のミュージシャンとは次元が違う。感性、知性どちらにも溺れず、総合的な意味で音楽家として自立している」[2]と述懐している。

ディスコグラフィ[編集]

アルバム(録音順)[編集]

  • 『1970年3月、新宿』阿部薫TRIO / 1970.3.15録音(P.S.F.RECORDS / PSFD-56 / 1995)
  • 『STATION '70』高柳昌行・阿部薫 / 1970.6.18&5月or6月録音(JINYA DISC / B-33 / 2020)
  • 『解体的交感(ニュー・ディレクション)』高柳昌行・阿部薫 / 1970.6.28録音(Sound Creators Inc. / SCi - 10101 / 1970)
  • 『集団投射 - Mass Projection』高柳昌行・阿部薫 / 1970.7.9録音(DIW / DIW-424 / 2001)
  • 『漸次投射 - Gradually Projection』高柳昌行・阿部薫 / 1970.7.9録音(DIW / DIW-425 / 2001)
  • 『LIVE AT JAZZBED』高柳昌行・阿部薫・山崎弘 / 1970.9.27録音(JINYA DISC / B-32 / 2020)
  • 『Jazz Bed』阿部薫・山崎弘 / 1971.1.24録音(P.S.F.RECORDS / PSFD-67 / 1997)
  • 『アカシアの雨がやむとき』阿部薫・佐藤康和 / 1971.10.31録音(WAX / TKCA-71098 / 1997)
  • 『風に吹かれて』阿部薫 / 1971.12.4録音(WAX / TKCA-71097 / 1997)
  • 『暗い日曜日』阿部薫 / 1971.12.6録音(WAX / TKCA-71096 / 1997)
  • 『またの日の夢物語』阿部薫 / 1972.1.21録音(P.S.F.RECORDS / PSFD-40 / 1994)
  • 『光輝く忍耐』阿部薫 / 1972.4.11録音(P.S.F.RECORDS / PSFD-46 / 1994)
  • 『木曜日の夜』阿部薫 / 1972.7.13録音(P.S.F.RECORDS / PSFD-66 / 1997)
  • 『WINTER1972』阿部薫 / 1972.12.16録音(P.S.F.RECORDS / PSFD-158 / 2004)
  • 『彗星パルティータ』阿部薫 / 1973.3録音(Nadja / PA-6137-38 / 1981)
  • 『遥かな旅路』阿部薫 / 1973.3.30録音(P.S.F.RECORDS / PSFD-207 / 2012)
  • 『Live At Passe-Tamps 6』阿部薫・吉沢元治 / 1974.3.11&1976.2.28録音(Passe-Tamps's Disk / 6 / 1999)
  • 『なしくずしの死 (MORT A CREDIT)』阿部薫 / 1975.10.16&18録音(ALM Records / AL-8-9 / 1976)
  • 『北(NORD)』阿部薫・吉沢元治 / 1975.10.16&18録音(ALM-Uranoia / UR-5 / 1981)
  • 『Live At Passe-Tamps 8』阿部薫 / 1976.1.25録音(Passe-Tamps's Disk / 8 / 1999)
  • 『Live At Passe-Tamps 9』阿部薫 / 1976.1.25録音(Passe-Tamps's Disk / 9 / 1999)
  • 『Live At Passe-Tamps 10』阿部薫 / 1976.2.28&8.30録音(Passe-Tamps's Disk / 10 / 1999)
  • 『Live At Passe-Tamps 16』阿部薫 / 1976.2.28&8.30録音(Passe-Tamps's Disk / 16 / 1999)
  • 『Live At Passe-Tamps 11』阿部薫 / 1976.2.29録音(Passe-Tamps's Disk / 11 / 1999)
  • 『スタジオ・セッション 1976.3.12』阿部薫 / 1976.3.12録音(VIVID SOUND / VSCD-304 / 1992)
  • 『Live At Passe-Tamps 12』阿部薫 / 1976.5.30録音(Passe-Tamps's Disk / 12 / 1999)
  • 『Live At Passe-Tamps 13』阿部薫 / 1976.6.20録音(Passe-Tamps's Disk / 13 / 1999)
  • 『Live At Passe-Tamps 14』阿部薫 / 1976.9.16録音(Passe-Tamps's Disk / 14 / 1999)
  • 『Live At Passe-Tamps 15』阿部薫 / 1976.9.23録音(Passe-Tamps's Disk / 15 / 1999)
  • 『Meditation Among Us』Milford Graves / 1977.7.28録音(Kitty Records / MKF 1021 / 1977)
  • 『Live at 八王子アローン Sep.3.1977』阿部薫・井上敬三・中村達也 / 1977.9.3録音(DIW / DIW-3044 / 2015)
  • 『19770916@AYLER. SAPPORO』阿部薫 / 1977.9.16録音(doubtmusic / DMH171 / 2020)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.1』阿部薫 / 1977.9.30 & 10.29 & 12.17録音(DIW / DIW-371 / 1990)
  • 『Live At Passe-Tamps 17』阿部薫 / 1977.11.23録音(Passe-Tamps's Disk / 17 / 1999)
  • 『Live At Passe-Tamps 18』阿部薫 / 1977.11.24録音(Passe-Tamps's Disk / 18 / 1999)
  • 『阿部薫/アカシアの雨がやむとき』阿部薫・豊住芳三郎 / 1977.11.25 & 1978.3.26録音(DIW / DIWS-2 / 1991)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.2』阿部薫 / 1978.1.12録音(DIW / DIW-372 / 1990)
  • 『MANNYOKA』阿部薫・豊住芳三郎 / 1978.1.13 & 7.7録音(NO BUSINESS RECORDS / NBCD-107 / 2018)
  • 『Overhang Party / Senzei』阿部薫・豊住芳三郎 / 1978.2.25 & 4.15 & 4.30録音(Qbico / QBICO 22/23 / 2004)
  • 『Aida’s Call』阿部薫・吉沢元治・近藤等則・Derek Bailey / 1978.3.3録音(STARLIGHT FURNITURE COMPANY / *09 / 1999)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.3』阿部薫 / 1978.3.10録音(DIW / DIW-373 / 1990)
  • 『Duo & Trio Improvisation』Derek Bailey / 1978.4.19録音(Kitty Records / MKF 1034 / 1978)
  • 『The Music ... Hardcore Jazz』阿部薫・近藤等則・高木元輝・Derek Bailey・土取利行・吉沢元治 / 1978.4.19録音(Kitty Records / BCC-1018 / 2003)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.4』阿部薫 / 1978.4.29録音(DIW / DIW-374 / 1990)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.5』阿部薫 / 1978.5.21録音(DIW / DIW-375 / 1990)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.6』阿部薫 / 1978.5.26 & 6.16録音(DIW / DIW-376 / 1990)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.7』阿部薫 / 1978.6.16録音(DIW / DIW-377 / 1991)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.8』阿部薫 / 1978.7.7録音(DIW / DIW-378 / 1991)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.9』阿部薫 / 1978.7.7録音(DIW / DIW-379 / 1991)
  • 『オーヴァーハング・パーティー』阿部薫・豊住芳三郎 / 1978.8.5&13録音(ALM-Uranoia / UR-2W / 1979)
  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒vol.10』阿部薫 / 1978.8.19録音(DIW / DIW-380 / 1991)
  • 『Last Date 8.28, 1978』阿部薫 / 1978.8.28録音(DIW / DIW-335 / 1996)
  • 『The Last Recording』阿部薫 / 1978.8.29録音(DIW / DIW-458 / 2003)

ボックス・セット[編集]

  • 『ソロ・ライヴ・アット・騒・コンプリートボックス』(CD11枚組 / DIW / AK-001 / 1995)
  • 『阿部薫 CD BOX 1970~1973』(CD7枚組 / Youth Inc / YOUTH-142 / 2012)
  • 『阿部薫 未発表音源+初期音源』(CD4枚組 / Youth Inc / YOUTH-165 / 2012)
  • 『完全版 東北セッションズ 1971』阿部薫・佐藤康和(CD3枚組 / King International / KKJ9003 / 2020)

関連書籍[編集]

関連映画[編集]

  • 『十三人連続暴行魔』監督:若松孝二/音楽・出演:阿部薫/1978年
  • 『エンドレス・ワルツ』監督:若松孝二/主演:町田康/1995年
  • 『阿部薫がいた – documentary of kaoru abe -』監督:イギー・コーエン/出演:坂本喜久代 大谷能生、他/2020年

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b コトバンク:20世紀日本人名事典「阿部 薫」の解説より
  2. ^ 雑誌『スイング・ジャーナル』1970年7月号(スイング・ジャーナル社) p.212