縫合船

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Halsnøy boat、船首の詳細。

縫合船Sewn boat)は、木を重ねるクリンカー技法英語版を使って、板材同士を動物の腱や植物の根やの枝などの柔軟な素材で縫い合わせたり縫い付けたり縛ったり結んだりしたタイプの木造船である[1]。金属を使った釘や鋲のような部品が発明されるまで、世界各地で縫合船の技術を使った船が作られていた。その後も、金属が高価すぎる場合の造船費用節約のためにこの技術は長期間使われた[2]

技術名と類似した技術[編集]

十分に定着しているが、「縫合sewn」という言葉は、カヤックのようなまたは皮革を使ったボートを誤って連想させるとして、代替として、laced boats(: geschnürte Boote。直訳すると紐締め船)の語が提唱されることもある。

縫合船に似た現代の合板工法に、ステッチ・アンド・グルー(stitch and glue)がある。この技術では、合板パネルを銅などのワイヤーで縫い合わせ(=ステッチ)、板の合わせ目を接着剤(=グルー)で埋めて、さらにガラス繊維で補強している。ステッチは取り除いてもいいし、そのままにしてもよい。バイキングの船として知られている木釘船英語版も技術的に近いものがある。

建設[編集]

普通の船は竜骨のような枠材で構造を作るが、縫製船は船の外板そのものが構造になるモノコックである。慎重に形作られた厚板は、通常はクリンカー技法で板の端と端が繋ぎ合わさるように、重なり合う部分が縫い合わされていく。厚板を配置していくと、船の表面を望むとおりに曲げることができる。結果として得られる構造は非常に柔軟になる。板同士を縫い合わせた後で、さらに船の内側に枠を追加して、剛性を高めることもできる。

木製のペグ(しばしば木釘treenailsと呼ばれる)を使用して、より厚いクリンカー板を固定することができるが、この手法は、板がペグを保持するのに十分な厚さがある場合にのみ機能する(薄ければ摩擦力の不足で釘がすっぽ抜けてしまう)。このため、大型船はペグを使用して建造されることが多く、小型船は縫い付け技法を使用していた[3][4]

歴史[編集]

縫合船はアジア全体に広まっており、有史以前に製造されていた可能性がある[5]。縫合船の最も初期の既知の例は、エジプトのギゼのピラミッドの近くで展示されている長さ40メートル以上の「太陽の船」(クフ王の船)であり、紀元前2500年頃のものである。それよりさらに数千年前からあったであろうイカダ葦船の製造工程から見れば、縫合構造は自然な進化である。世界の他の地域で見つかった最も古い縫合船はイギリスのイースト・ライディング・オブ・ヨークシャーで発見されたFerriby Boatsであり、標本の一つ( F2と呼ばれる)の放射性炭素年代測定によれば紀元前1930年から紀元前1750年までさかのぼる。その後の年代の発見物には、初期のギリシャ船が含まれている。北欧で最も古い発見は、デンマークのアルス島で発見されたHjortspring boat(紀元前300年頃)になる。フィンランドロシアカレリアエストニアといった旧ロシアの貧しい地域では、1920年代まで小さな縫合船が作られていた[6]

縫製構造で建造された最もよく知られている船は、インド太平洋オーストロネシア人プロア船英語版(これはラッシュラグ技術英語版も使用している)[5]と、紅海・ペルシア湾・インド洋の原産で中東南アジアで使われているダウ船である[7] [8]。これらは地理的な近接性と類似性にもかかわらず、互いに著しく異なり、それぞれが独立して発達したことを示している。オーストロネシアの縫合は不連続であり、船体の内面からのみ見ることができるが、南アジアと中東の縫合は連続しており、船体の外側と内側の両方で見ることができる[9]

縫合船の例[編集]

脚注[編集]

  1. ^ A.H.J. Prins, 1986. Handbook of Sewn Boats: The Ethnography and Archaeology of Archaic Plank-Built Craft. Maritime Monographs and Reports No.59. Greenwich, London: The National Maritime Museum.(187 p’s)
  2. ^ McGrail S. and Kentley, E., 1985. Sewn plank boats: Archaeological and Ethnographic papers based on those presented to a conferences at Greenwich in November 1984. National Maritime Museum, Greenwich
  3. ^ McCarthy, M., 2005. Ships' fastenings: from sewn boat to steamship. Texas A&M University Press. ISBN 1-58544-451-0
  4. ^ 釘が木でなく金属の場合、打ちっぱなしでなく貫通した反対側を叩いて潰すリベットとして使えば薄板でも固定可能である。ロングシップ参照。
  5. ^ a b Horridge, Adrian (2006). “The Austronesian Conquest of the Sea - Upwind”. In Bellwood, Peter; Fox, James J.; Tryon, Darrell. The Austronesians: Historical and Comparative Perspectives. ANU E Press. pp. 143–160. ISBN 9781920942854. https://books.google.com/books?id=9uyuHAXBuRkC 
  6. ^ e.g. Litwin, J., 1985. Sewn Craft of the 19th Century in the European part of Russia. In McGrail S and Kentley: 253-268.h
  7. ^ Ralph K. Pedersen. "Traditional Arabic watercraft and the ark of the Gilgamesh epic: interpretations and realizations." Proceedings of the Seminar for Arabic Studies 34 (2004) 231-238, p.231.
  8. ^ Jett, Stephen C. (2017). Ancient Ocean Crossings: Reconsidering the Case for Contacts with the Pre-Columbian Americas. University of Alabama Press. pp. 196–205. ISBN 9780817319397. https://books.google.com/books?id=EgOUDgAAQBAJ 
  9. ^ Pham, Charlotte Minh-Hà L. (2012). Asian Shipbuilding Technology. UNESCO. p. 9. ISBN 978-92-9223-414-0. http://www.unesco.org/new/fileadmin/MULTIMEDIA/HQ/CLT/images/630X300/UNIT14.pdf 

外部リンク[編集]