矛盾都市TOKYO

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矛盾都市 TOKYO』(ゼノンシティ とうきょう)は、川上稔の代表作『都市シリーズ』の作品。川上稔とさとやすの共著である。

概要[編集]

異世界の東京を舞台にした小説で、「主人公の回想」という形で、1ページ毎に短編を繋げていく形式をとっている。電撃hp Volume.10から連載がスタートし、『創雅都市S.F』と交互に掲載された。主人公は信頼できない語り手であり、作中で書かれていることが全て真実とは限らないことが、連載時のおまけコーナーで示唆されている。著者の手掛けたゲーム版『奏(騒)楽都市OSAKA』とほぼ同時期であり、また、小説版奏(騒)楽都市OSAKAの主要登場人物が一部登場している。

通販限定の完全本には書き下ろしのストーリーが大幅に追加されている。

あらすじ[編集]

何もかもが完全にして不完全である、それ故に矛盾都市(ゼノンシティ)と呼ばれる街、東京。

その総長連合で副総長を務める“僕”は、ある事件を封印する為に自身の記憶を封印することにした。

しかし記憶を忘れる為に、一つ一つの記憶を断片的に思い出していく事となる。

それは1997年から1999までの、2年間の記憶。“僕”が“君”や仲間達と一緒にいた日々の記憶。

楽しい事も大切な事も全て思い出し、しかし“僕”は全て忘れていく……。

用語[編集]

東京(とうきょう)
都市世界における日本の首都、東京のこと。都市名は「矛盾都市(ゼノンシティ)-東京」。
「矛盾力」という力によって、市内ではあらゆる事が起こりえる。住人の一部は矛盾力を利用し、記動力という能力を用いる事が出来る。また、第二次世界大戦東京大空襲によって市の東側が大陥没、国立から三鷹までの間に「東京大断層」と呼ばれる深い断層がある事になっている。その陥没した部分を「地下東京」、上にある部分を「地上東京」と呼ぶ。
東京圏総長連合(とうきょうけんそうちょうれんごう)
曰く「学生による自治集団」。
この世界観の中では学生が大人からほぼ完全に独立しており、「御山」と呼ばれる研修所で修行した学生を中心とする組織が各地域毎に点在、当地の学生を統括している。それが総長連合であり、幹部陣は全員が大卒以上の学力を持ち、記動力を用いる事が出来る。総長を頂点に副総長、更に副総長補佐が2名、その下に特務がある。
八十年代に関西圏と関西圏の総長連合が衝突して日本は東西に分裂(これを近畿動乱という)、九十六年末に併合された(これを和解動乱という。ちなみにこれは小説版ソウ楽都市OSAKAの事)。しかしBABELを巡り、小競り合いの域を出ないとはいえ、昨今は東西学生間の争いが再発している。
ある事件(-じけん)
“僕”が忘れようとしている事件のこと。
これによって“先輩”が死に、“君”が害され、東京圏総長連合の面々は分断される事となった。東西学生間の衝突を利用した大人達の陰謀によるものらしい。本編内でその全貌が語られる事はなく、電詞都市DTの一部にこれと思しき事件が示されている。
記動力(きどうりょく)
東京在住者の一部が使える能力。
矛盾力を起源とし、各個人が特有の能力を有している。それを修行や自己分析によって見出す事によって発揮され、主にそれは御山での修行で覚醒する。東京圏総長連合の幹部陣は全てこれが使える。
BABEL(バベル)
大阪に設置された超巨大広報塔。
第二次世界大戦以来、衛星通信が使用不能となっているこの世界では長距離通信が出来なくなっているが、BABELは全世界へと情報を送る事が出来る。故にBABELが完成すれば否応もなく大阪が世界の中心となる為、日本では学生達が諍いを始め、大人達が暗躍している。
尚、大阪ではBABELの初使用権をかけて、学生間でのマスコミ情報戦争が開催されている。これに関してはゲーム版「ソウ楽都市OSAKA」で語られる。

物語の背景[編集]

矛盾都市TOKYOは、記憶の断片の集合により成り立っている都市である。すべての存在は「誰かが覚えていること」により立証される。この都市においては、「絶対にありえない」ということが存在しない。

TOKYOは1999年8月に大きな危機を迎えた。日本政府と惑星達が協力して、世紀末破滅を回避するため、破滅の原因となる不幸をTOKYOに押し込めたうえでTOKYOの時間を停止させる計画を実行しようとしたのである。

これを阻止したのが、彼らを裏切ったお月様によりこの事態を知った、一人の少年である。その少年の手により、TOKYOは時が3日分だけ殴り飛ばされ、TOKYOは1999年8月7日から10日の4日間が繰り返される閉鎖状態になる。これによりその後のTOKYOは、外部からはごく一部の人しか入れなくなってしまっている。

この出来事の調査の一環として、この少年がこの事件以前に何をしていたのかの調査を目的に、この少年が封印していた1997年度から1999年度までの2年間の記憶を解析することとなる。その少年こそ本作品の主人公である“僕”であり、本作品はその主人公の記憶を記したものである。そのため、本作品で書かれていることの中には虚偽の記憶(都合のいいように改変されて憶えられている記憶)が存在している。

なお、これらの事情は本作品内や完全版では書かれておらず、電撃hpで連載時のおまけコーナーで解説されている。

登場人物[編集]

この都市では設定上「本名を知ること」に意味があり、そのため全ての登場人物について本名が明かされていない。

主要人物[編集]

“僕”(ぼく)
本編の主人公。東京圏総長連合副総長を務める少年。
生存する中で「ある事件」の全てを知る唯一の人物であり、それを完全に封印する為に記憶を封印する。“君”とは高校に入る前からの付き合いであり、また“先輩”に影響されて彼女と共に東京圏総長連合に入った。“先輩”が唯一腹を割って話せる人間であり、また彼を止められる唯一の人間とされている。また中学生時代に陸上部に入部しており、そこで“君”やゲーム版ソウ楽都市OSAKAの主人公と面識を持った。総長連合に入る際、“君”と「“僕”が“君”を一度でいいから心から助ける、“君”が“僕”を一度でいいから心から応援する」という約束をしている。
記動力は「思い信じて打撃すれば、エネルギー保存の法則に従い、いかなるものも打撃力を受ける」。“僕”が強い意思の下に放った拳は、有形無形、感情や味などといったものまであらゆる全てを殴り倒す事が出来る。“先輩”や“小坊主”と種が近い。
“君”(きみ)
“僕”の旧友。東京圏総長連合第一特務隊長を務める少女。
中学生時代からの“僕”の友人であり、二番手であった“僕”を唯一見ていた人物。“先輩”を支えたい、という一念から“僕”と共に東京圏総長連合に入った。意外とアグレッシヴな所があり、毎回“僕”へ痛烈なツッコミをいれる。「ある事件」によって害され、それを助ける為に“僕”は事件に関わった。総長連合に入る際、“君”と「“僕”が“君”を一度でいいから心から助ける、“君”が“僕”を一度でいいから心から応援する」という約束をしている。
記動力は「言葉のやる気は熱量になる」。“君”が言葉にして放った応援は熱量となり、応援をかけられた相手の力を大幅に強める。
“先輩”(せんぱい)
“僕”の上役。東京圏総長連合総長を務める青年。
不滅型吸血系の異族で八重歯が長く、常に目を伏せている。極度の心配性で常に「心配だ」と呟き、あらゆるものを危惧している。記動力との兼ね合いで常に日本刀を携えている。「ある事件」で大人達の陰謀を向けられ、“君”を害して消息不明となる。
この人物はあまりに“僕”と正反対であることから、本当に存在した人物なのか疑わしい(“僕”が記憶内で作った人物の可能性がある)と見られている。
記動力は「思い信じて斬撃すれば、いかなるものも分子結合を砕かれて断ち割られる」。“先輩”が強い意思の下に起こした切断は、あらゆるものを切断する事が出来る。
“雪の字”(ゆき-じ)
“僕”の部下。東京圏総長連合副総長補佐を務める少女。
胸を病んでいるがそれを隠しており、知っているのは“僕”のみ。“大佐”の娘。“僕”とは入試の時に出会い、御山の副総長の座をめぐる最終試験で対戦、持病の発作を起こして敗退した。“僕”の実質的な補佐役だが、微妙に仲が悪く連携する事は殆どない。
記動力は「女が持つものは何でも武器になる」。“雪の字”が所持したものはどんなものでも刀としての武器の特性を帯びる。
“令嬢”(れいじょう)
“僕”の同僚。神罰都市-横浜から転校し、東京圏総長連合に属した少女。
大きな丸めがねをかけた小柄で、真面目な風でいて意外と狡っ辛い所がある。“僕”とは同じクラス。
記動力は「共鳴するものの性質は等しい」。“令嬢”が能力をかける対象、及びそれと接続した物体に音を鳴らす事で対象を自在に変質させる事が出来る。
“大将”(たいしょう)
“僕”の同僚。関西からの転校生でありながら東京総長連合に属する青年。
金髪リーゼントでオープンカーを乗り回す。性格的に女性主体の東京圏総長連合で“僕”が同じ目線で話せる数少ない相手であり、またリーダーシップもある事から“先輩”や“僕”がいない時は“大将”が総長連合を指揮する。
記動力は「加速は無限に重ねることができる」。記動力発動中の“大将”が乗る車両は、六速まで上げたギアをいきなり一速まで下げる事で「六速分の速度を持つ一速」とし、無制限に速度を上げる事が出来る。
“博士”(はかせ)
“僕”の悪友(?)。科学部の部長。
“僕”とは出会う度に罵詈雑言を交わす間柄で、曰く「ヒヒみたいな顔をしている」らしい。毎回トンデモ理論の発明品を造っては騒動を起こし、“僕”に殴り倒される。“僕”が記憶を封印する為に感情喪失機構を造った。総長連合ではないためか、記動力は登場しない。
“先生”(せんせい)
“僕”や“令嬢”のクラスの担任。
天然ボケで幼げな性格だが、“僕”が「大人」や「教師」として認める人徳を持つ。その為か、同僚の教員陣からはアイドル扱いされている。“小坊主”に好意を寄せられている。
“小坊主”(こぼうず)
“僕”の後輩。東京戦総長連合副総長補佐の少年。
生意気な性格で“僕”に反目するが実力で大きく劣るため、毎回負けている。“雪の字”の同僚だが未熟である為、実質的には“雪の字”が“僕”を補佐する。
記動力は“僕”のものの近い種類で、拳ではなく蹴りによってそれを発揮するものらしい。
大太郎(だいたろう)
“僕”や“君”が世話する幼い狐型の聖獣。
大人になると変化などの様々な能力を得るが、現状では人語を話す以外の能力を持たない。ちなみに喋れる言葉は「餌」のみ。

ゲストキャラ[編集]

“西風”(にしかぜ)
東京の矛盾力によって擬人化した西風。ちょっと迂闊な性格。
“北風”(きたかぜ)
東京の矛盾力によって擬人化した北風。優等生だが諸処に未熟な所が見られる。
“守護役”(しゅごやく)
“僕”が御山で修行していた頃に来ていた関西圏のVIPで、古都圏守護役。小説版ソウ楽都市OSAKAに登場する結城・夕樹。ちなみに陽坂・勝意も同行していた。
“教官”(きょうかん)
“僕”が修行していた御山の教官。蹴り技主体だが、拳が主体である“僕”のスタイルを「懐かしい」と言う。小説版ソウ楽都市OSAKAに登場する中村・久秀。ちなみに池丸・孝弘らしき人物も僅かながら登場する(葵・聖と学生結婚をした模様)
nobady(ノーバディ)
東京の矛盾力によって擬人化した「何もない所」。
ケリー・バンサム男爵(-だんしゃく)
東京の矛盾力によって擬人化した彗星。かつて「毒や不幸を呼ぶ」として誰にも見てもらえなかった頃、唯一見てくれた神田時館の時読み自動人形に恩義を感じており、機能停止される彼女の為に見せようと九九年の惑星十字列を仕掛ける。

単行本[編集]

  • 『矛盾都市TOKYO』(通販限定発売。現在はTENKYの公式オンラインショップ「テンキーストア」にて購入可能)

外部リンク[編集]