核沸騰

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核沸騰(かくふっとう、: Nucleate boiling)は、表面温度が液体の沸点より低いが、熱流束が臨界熱流束を下回る場合に起こる沸騰の形態である。水を例にとると、下のグラフのように 104℃ から 130℃ の範囲でこのような沸騰が起こる。臨界熱流束はグラフの変曲点として現れ、ここが核沸騰と遷移沸騰の境界となる。

機構[編集]

ホットプレート上での水の挙動。縦軸は熱流束 q、横軸は水の沸点 TS を何度上回っているかを示す。

核沸騰が起こる温度領域は2つに区分することができる。水の沸点 (100℃) をTS とすると、TS+4℃からTS+10℃の範囲では表面から離れた核生成部位で泡が発生する。 これは表面付近で液体が強く混合されているためで、対流熱伝達係数と熱流束は急激に増加する。この領域では熱移動のほとんどは表面から直接に起こり、泡の寄与は小さい。

TS+10℃からTS+30℃の範囲では、核生成部位が増加することで泡の干渉・融合が発生する。この領域では、蒸気は塊となった後、柱状のジェットとなって逃げていく。

密な泡同士の干渉は表面付近の液体の動きを妨げる。これはグラフ上では変曲点として現れ、この温度を超えると熱伝達係数は減少し始める。

温度差の増大と熱伝達係数の減少がつり合う温度で、熱流束が最大となる。この熱流束はグラフの極大値として現れ、臨界熱流束と呼ばれる。この温度では大量の蒸気が生成され、表面から液体に直接熱が移動することが難しくなっている。このため、これ以上の温度では熱流束は減少していく。超高温での膜沸騰ではライデンフロスト効果が観察される。

核沸騰中には、熱移動物質移動熱伝達率に大きな影響を及ぼす。この熱移動プロセスを用いると表面から素早く、効率的にエネルギーを持ち去ることが可能であり、冷却材として液体を用いた原子力発電所などでは望ましいタイプの熱移動である。

核沸騰は、液体と固体の境界・泡と液体の境界の2つの表面で起こり得る。

核沸騰は複雑な現象であり、少数の実験結果から様々な洞察が行われている。だが、液体のカオス的挙動は古典的熱力学の手法で扱えないため、これらの洞察とは矛盾したデータが得られることがあり、確定的なモデルや式は未だ得られていない。この現象の解明にはさらなる研究が必要である[1]

沸騰と熱移動との相関[編集]

適度な温度差において高い熱流束が得られるため、核沸騰は工学的に重要である。次の形の相関があることが解っている[2]

Nu_\mathrm{b} = C_{fc} ( Re_\mathrm{b}, Pr_\mathrm{L} )

ここでNu bヌセルト数Pr L は液体のプラントル数Re b は泡のレイノルズ数であり、次のように定義される。

Nu_\mathrm{b} = \frac{(q/A)D_\mathrm{b}}{(T_\mathrm{s}-T_\mathrm{sat}) k_\mathrm{L}},
Re_\mathrm{b} = \frac{D_\mathrm{b} G_\mathrm{b}}{\mu_\mathrm{L}}

ここでq /A は全熱流束、D b は表面を離れる泡の最大直径、T s - Tsat は温度差、k L は液体の熱伝導率G b は蒸気が表面を離れる質量平均速度、μL は液体の粘度である。

Rohsenow によって、現在核沸騰に対して最も広く用いられている式が考え出された[3]

\frac{q}{A} = \mu_\mathrm{L} h_{fg} \left[ \frac{g(\rho_\mathrm{L}-\rho_\mathrm{v})}{\sigma}\right]^{\frac{1}{2}} \left[ \frac{C_\mathrm{pL} (T_\mathrm{s}-T_\mathrm{sat})}{C_\mathrm{sf}\, h_\mathrm{fg}\, Pr_\mathrm{L}^{1.7}} \right]^{3}

ここでC pL は液体の熱容量C sf は液体/表面の組み合わせによって変化する係数である。例えば水/ニッケルではC sf = 0.006である。

様々な液体/表面でのC sf の値[4]
液体/表面 C sf
水/ 0.013
水/ニッケル 0.006
水/白金 0.013
水/黄銅 0.006
水/ステンレス鋼(機械的研磨) 0.0132
水/ステンレス鋼(化学エッチング) 0.0133
水/ステンレス鋼(研削・研磨) 0.080
四塩化炭素/銅 0.013
ベンゼン/クロム 0.0101
n-ペンタン/クロム 0.015
エタノール/クロム 0.0027
2-プロパノール/銅 0.0025
1-ブタノール/銅 0.003

核沸騰限界[編集]

熱流束が系の臨界熱流束(CHF)を超えると、液体のバルク部分が急激に沸騰する。これによって大きな泡ができ、液体の通路を塞ぐこともある。これは核沸騰限界(departure from nucleate boiling、DNB)と呼ばれる。DNBは遷移沸騰(Transition boiling)、不安定境膜沸騰(unstable film boiling)、部分境膜沸騰(partial film boiling)とも呼ばれる。これは沸騰曲線上で極大値と極小値の間にあり、水においてはTS+30℃からTS+120℃の範囲である。極小値は遷移沸騰と膜沸騰の境界であり、ライデンフロスト点と呼ばれる。

遷移沸騰中は泡の形成は非常に速く、表面に蒸気の膜ができ始める。この時点では、表面の全ての地点において核沸騰と膜沸騰の間を振動している状態である。だが温度の上昇につれて、蒸気の膜が覆う面積は増えていく。蒸気の熱伝導率は液体より低いため、対流熱伝達率と熱流束は減少していく。

沸騰の様相と福島原発事故[編集]

この沸騰の様相の理解は、2011年に発生した福島第一原子力発電所事故で起きていたことを考える上でも重要である。

原発において炉心溶融といった事態が懸念され、その対策も特許として多く出されていた。その中に指摘されていたことを総合すれば、冷却水の強制循環が停止した状態では、核沸騰状態から膜沸騰状態へと沸騰状態の遷移が起こった可能性が想定されるからである。

関連項目[編集]

出典[編集]

  1. ^ "Nucleate Boiling Heat Transfer Studied Under Reduced-Gravity Conditions", Dr. David F. Chao and Dr. Mohammad M. Hasan, Office of Life and Microgravity Sciences and Applications, NASA.
  2. ^ Fundamentals of Heat and Mass Transfer 6th Edition by Incropera. 
  3. ^ James R. Welty; Charles E. Wicks; Robert E. Wilson; Gregory L. Rorrer., "Fundamentals of Momentum, Heat and Mass transfer" 5th edition, John Wiley and Sons
  4. ^ James R. Welty; Charles E. Wicks; Robert E. Wilson; Gregory L. Rorrer., "Fundamentals of Momentum, Heat and Mass transfer" 5th edition, John Wiley and Sons