リアプノフ指数

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リアプノフ指数(リアプノフしすう、: Lyapunov exponent)とは、力学系においてごく接近した軌道が離れていく度合いを表す量である。リャプノフ指数とも記される。定量的に表すと、位相空間内の2つの軌道の初期の距離を \delta \mathbf{Z}_0 としたとき、ある時点 t における距離は次のように表される:

 | \delta\mathbf{Z}(t) | \approx e^{\lambda t} | \delta \mathbf{Z}_0 |

ここで、 | \cdot | ベクトルの絶対値(大きさ)を意味する。

離れていく度合いは、初期のベクトルの向きの違いによっても変わってくる。従って、位相空間の次元数で分解した「リアプノフ指数のスペクトル」が存在する。そのうち最大のものを採用するのが一般的である。すなわち、最大リアプノフ指数(MLE) は力学系の予測可能性を決定づける値である。正の最大リアプノフ指数は系がカオス的であることを示唆する基準の一つとされている。

最大リアプノフ指数の定義[編集]

最大リアプノフ指数は次のように定義される。

 \lambda = \lim_{t \to \infty} \lim_{|\delta \mathbf{Z}_0| \to 0} \frac{1}{t}
\log\frac{| \delta\mathbf{Z}(t)|}{|\delta \mathbf{Z}_0|}

極限の順番は入れ替えると定義が無意味になるので注意が必要である。すなわち、最大リアプノフ指数は非常に長い(無限の)時間差での軌道の離れ方の極微な指数関数的速度と定義される。

リアプノフ・スペクトルの定義[編集]

n–次元の位相空間で発展方程式 f^t で表される力学系について、リアプノフ指数のスペクトルは次のようになる:

 \{ \lambda_1, \lambda_2, \cdots , \lambda_n \} \,,

これは一般に出発点 x_0 に依存する。リアプノフ指数は位相空間の対象空間内のベクトルの振る舞いを表し、次のヤコビ行列から定義される:

 J^t(x_0) = \left. \frac{ d f^t(x) }{dx} \right|_{x_0}.

J^t 行列は x_0 における小さな差がどのように最終的に f^t(x_0) まで伝達されるかを示している。次の極限

  \lim_{t \rightarrow \infty} (J^t \cdot \mathrm{Transpose}(J^t) )^{1/2t}

は、行列 L(x_0) を定義する(極限が存在する条件は乗法的エルゴード定理により与えられる)。L(x_0)固有値 \Lambda_i(x_0) とすると、リアプノフ指数 \lambda_i は次のように定義される。

 \lambda_i(x_0) = \log \Lambda_i(x_0).\,

リアプノフ指数の集合は、その力学系のエルゴード的成分の全初期値とほぼ等しい。

単位[編集]

対数の底に 2 を使用して計算した場合には、ビット/時間を単位として使用することがある。 これは、λ > 0 の場合、単位時間あたりλビットの情報が失われ、λ < 0 の場合λビットの情報が生成することに相当する。[1]

基本特性[編集]

保存系の場合、位相空間の全エネルギーは保存される。従って全リアプノフ指数の総和はゼロになる。散逸系ではリアプノフ指数の総和は負になる。

力学系が何らかの流れである場合、1つのリアプノフ指数は常にゼロとなる。つまり、流れの方向の固有ベクトルに対応する固有値から得られるリアプノフ指数がゼロになる。

リアプノフ・スペクトルの重要性[編集]

リアプノフ・スペクトルは、力学系のエントロピープロダクションやフラクタル次元の概算値を求めるのに使われる。特にリアプノフ・スペクトルが分かれば、以下のように定義されるカプラン・ヨーク次元 D_{KY} を計算できる:

 D_{KY}= k + \sum_{i=1}^k \lambda_i/|\lambda_{k+1}|

ここで k は大きい方から k 個の指数の総和が負にならない最大個数である。 D_{KY} は系の情報量次元の上限を表している[2]。さらに言えば、Pesin's theorem によれば、正のリアプノフ指数の総和はコルモゴロフ・シナイ・エントロピー(Kolmogorov-Sinai entropy)の近似値を与える。

最大リアプノフ指数の逆数を「リアプノフ時間; Lyapunov time」と呼ぶことがあり、e-folding time の特性を定義する。カオス的軌道ではリアプノフ時間は有限であり、正規の軌道では無限大となる。

参考文献[編集]

  1. ^ Chaotic oscillators: theory and applications, Tomasz Kapitaniak,pp287
  2. ^ J. Kaplan and J. Yorke Chaotic behavior of multidimensional difference equations In Peitgen, H. O. & Walther, H. O., editors, ``Functional Differential Equations and Approximation of Fixed Points Springer, New York (1987)

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

ソフトウェア
  • TISEAN 2.1 R. Hegger, H. Kantz, and T. Schreiber, Nonlinear Time Series Analysis (December 2000).