ジェス・ウェイド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ジェス・ウェイド
Jess Wade
ジェス・ウェイド、2017年
生誕 ジェシカ・アリス・ファインマン・ウェイド
1988年/1989年( 34歳–35歳)[1]
研究分野 材料工学
キラル媒質英語版
円偏光
研究機関 インペリアル・カレッジ・ロンドン
出身校 インペリアル・カレッジ・ロンドン (MSci, PhD)
主な業績 導電性高分子材料を用いた電子工学
アウトリーチ
WISEキャンペーン英語版
プロジェクト:人物伝
テンプレートを表示

ジェス・ウェイド(英語:Jessica Alice Feinmann Wade)は、イギリスの物理学者である。 インペリアル・カレッジ・ロンドンにおいて、高分子有機発光ダイオード (OLED ) の研究を行なっている[2][3]。また、STEM教育に関連した取り組みでも著名で、特に物理学における女性の地位の確立[4]や、ウィキペディアにおけるジェンダー・バイアスに対する取り組みで有名である[5][6]。大英帝国メダル (BEM)の受賞者。

教育[編集]

両親ともに医師の娘であったウェイドは[7][8]、ロンドンの高校を2007年に卒業。その後、チェルシー・カレッジ・オブ・アーツの芸術・デザインの基礎コースに在籍[9]。2012年には、物理学専攻で理学修士号 (MSci)をインペリアル・カレッジ・ロンドンにて授与される 。2016年には引き続き、同校にて物理学博士号を取得した[10][11]博士論文は、ジソン・キム英語版教授の元で有機半導体におけるナノメトロロジー技術について研究した[10]

研究とキャリア[編集]

ウェイドは主に、 材料工学の中でもキラル媒質英語版円偏光の研究を専門とする[2]。 2020年現在 ウェイドは、インペリアル・カレッジ・ロンドン固体物理学グループの導電性高分子材料を用いたエレクトロニクスに関する博士研究員であり、アラスデア・キャンベルおよびマット・フクターとの共同研究を通し、発光ポリマー薄膜の開発と特性評価に焦点を当てている[12][13]

社会活動とアウトリーチ[編集]

ウェイドは、研究のほか、活発なアウトリーチで知られており、特に、科学、技術、工学、および数学 (STEM)におけるジェンダー・ギャップの是正への貢献が知られている。

米国国務省主催の、専門家の交換研究プログラム(IVLP英語版)で、女性研究者のエンパワーメントキャンペーンにて英国代表を務めた[14]。またWISEキャンペーン英語版を通して、英国中の教師とともに工学と物理学における若い女性の活発な参画を目指す活動を行なっている。同時に、英国内で行われている女性のSTEM参加キャンペーンの一部について、的外れで高額な広告費の割に効果が不透明であるとの批判もしている[注 1]

ウィキペディアにおける女性科学者の記事[編集]

ウェイドは、STEMでの女性の活躍を推進するため、著名な女性学者に関するウィキペディアの記事を作成するキャンペーンに大きく貢献していることで知られている[16][5][6][17]。2020年2月の段階では、900件以上の伝記記事をウィキペディアで執筆した[18]

ブラックホールの画像を初めてとらえたイベントホライズンテレスコープチームのケイティ・バウマンの記事を立項した際、特筆性がないとして削除依頼にかけられた[19]。これを受けて、2019年4月12日、マリアム・ザリンガラムとウェードが共著でワシントンポストにおいて「ブラックホールの写真は女性の科学的な偉業の一例にすぎない」[注 2]と題された論説を発表し、英語版ウィキペディアにおいて女性の科学者についての記事が相対的に少なく、男性科学者の記事に比べ削除されやすいことを指摘し、女性科学者の社会的評価の低さとの関連性を指摘した[20]

受賞[編集]

ウェードは現在までに物理学の分野とアウトリーチの分野で様々な賞を受賞している。2018年にはネイチャーの選ぶ、科学で最も重要な10人のうちの1人に選ばれる[21]。また、同年、ウィキメディアン・オブ・ザ・イヤーの選外賞を受賞する[22]。また、翌年にはウィキメディア財団のイギリスローカル・チャプターのウィキメディアン・オブ・ザ・イヤーを受賞する[23]

2019年には、科学におけるジェンダーの多様性への貢献を評して、大英帝国勲章である大英帝国メダル (BEM)を受賞する[24][25]

ギャラリー[編集]

厳選された一部著作[編集]

  • Fei, Zhuping; Boufflet, Pierre; Wood, Sebastian; Wade, Jessica; Moriarty, John; Gann, Eliot; Ratcliff, Erin L.; McNeill, Christopher R. et al. (2015-05-21). “Influence of Backbone Fluorination in Regioregular Poly(3-alkyl-4-fluoro)thiophenes” (英語). Journal of the American Chemical Society 137 (21): 6866–6879. doi:10.1021/jacs.5b02785. PMID 25994804. https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.5b02785. 
  • Razzell-Hollis, Joseph; Wade, Jessica; Tsoi, Wing Chung; Soon, Ying; Durrant, James; Kim, Ji-Seon (2014-10-30). “Photochemical stability of high efficiency PTB7:PC70BM solar cell blends” (英語). J. Mater. Chem. A 2 (47): 20189–20195. doi:10.1039/C4TA05641H.  ウィキデータ ウィキデータ (Reasonatorで見る)

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 若い女性にSTEM参加を促す広告で、マニキュアや口紅の化学物質についての研究を勧めるなどの広告も見られた[15][7]。ウェイドによるとそのような広告を含めた女性の参画を促すキャンペーンに500から600万ポンドの予算が使われている[7]
  2. ^ 英: "The Black Hole Photo Is Just One Example of Championing Women in Science"

出典[編集]

  1. ^ Jackson, Marie; Scott, Jennifer (2018年). “Women in science: 'We want to be accepted into the club'”. BBC News. https://www.bbc.co.uk/news/uk-45717060 
  2. ^ a b ジェス・ウェイドの出版物 - Google Scholar
  3. ^ Dr Jessica Wade: Faculty of Natural Sciences, Department of Physics”. imperial.ac.uk. 2018年5月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月18日閲覧。
  4. ^ Tesh, Sarah; Wade, Jess (2017). “Look happy dear, you've just made a discovery”. Physics World 30 (9): 31–33. Bibcode2017PhyW...30i..31T. doi:10.1088/2058-7058/30/9/35. ISSN 0953-8585. 
  5. ^ a b Curtis (2019年). “This physicist has written over 500 biographies of women scientists on Wikipedia”. The Next Web. 2020年6月18日閲覧。
  6. ^ a b Wade, Jessica. “This is why I've written 500 biographies of female scientists on Wikipedia”. The Independent. https://www.independent.co.uk/voices/science-women-wikipedia-biography-sexism-academia-physics-a-level-a8773631.html 
  7. ^ a b c Devlin, Hannah (2018年7月24日). “Academic writes 270 Wikipedia pages in a year to get female scientists noticed” (英語). theguardian.com. London: The Guardian. 2018年7月24日閲覧。
  8. ^ Highfield, Roger; Wade, Jess (2019年7月4日). “We're all to blame for Wikipedia's huge sexism problem”. Wired. https://www.wired.co.uk/article/jess-wade-wikipedia-diversity 2019年7月4日閲覧。 
  9. ^ Anon (2017年10月30日). “A Day in the Life of a Physicist at Imperial College, London”. independentschoolparent.com. 2018年7月17日閲覧。
  10. ^ a b Wade, Jessica Alice Feinmann (2016). Nanometrology for controlling and probing organic semiconductors and devices. imperial.ac.uk (PhD thesis). hdl:10044/1/56219. OCLC 1065331693. EThOS uk.bl.ethos.733084 閲覧は自由
  11. ^ Anon (2016年). “Early career researcher wins the Jocelyn Bell Burnell Medal and Prize” (英語). iop.org. Institute of Physics. 2018年1月31日閲覧。
  12. ^ ジェス・ウェイドの出版物 - エルゼビアが提供するScopus文献データベースによる索引 (Paid subscription required要購読契約)
  13. ^ Experimental Solid State Physics - Research groups - Imperial College London”. imperial.ac.uk. 2018年7月17日閲覧。
  14. ^ Fox's 'Hidden Figures' inspires historic State Department program to support women in STEM around the world”. Impact.21.cf.com" (2017年11月27日). 2020年6月18日閲覧。
  15. ^ Physicist Writes 270 Wikipedia Profiles In Less Than A Year So Female Scientists Get Noticed”. Huffingtonpost.co.uk (2018年7月24日). 2018年7月31日閲覧。
  16. ^ “Why are so few women biographies included in Wikipedia?”. BBC Newsday. (2019年7月25日). https://www.bbc.co.uk/programmes/p07hs3sn 2019年7月28日閲覧. "She's been writing biographies of women and other minorities in science and engineering since 2017 and adds a new entry almost on a daily basis." 
  17. ^ Zachary Zane (2019年1月2日). “This Scientist Is Updating Wikipedia with Women, POC, & LGBTQ+ History”. pride.com. 2019年1月2日閲覧。
  18. ^ Physicist writes 900 Wikipedia entries to boost diversity in science” (英語). ITV News. 2020年2月13日閲覧。
  19. ^ 北村紗衣「ウィキペディアにおける女性科学者記事」『情報の科学と技術』第70巻第3号、2020年、127-133頁、doi:10.18919/jkg.70.3_127 
  20. ^ Zaringhalam, Maryam (2019年4月12日). “The black hole photo is just one example of championing women in science”. The Washington Post. https://www.washingtonpost.com/opinions/it-matters-who-we-champion-in-science/2019/04/12/50a1781a-5d3d-11e9-9625-01d48d50ef75_story.html 
  21. ^ Gibney, Elizabeth; Callaway, Ewen; Cyranoski, David; Gaind, Nisha; Tollefson, Jeff; Courtland, Rachel; Law, Yao-Hua; Maher, Brendan et al. (2018). “Ten people who mattered this year”. Nature 564 (7736): 325–335. doi:10.1038/d41586-018-07683-5. PMID 30563976. 
  22. ^ Elsharbaty, Samir (2018年). “Farkhad Fatkullin named Wikimedian of the Year for 2018”. blog.wikimedia.org. Wikimedia Foundation. 2020年6月18日閲覧。
  23. ^ UK Wikimedian of the Year 2019”. Wikimedia.org.uk (2019年7月18日). 2020年6月18日閲覧。
  24. ^ "No. 62666". The London Gazette (Supplement) (英語). 8 June 2019. p. B30.
  25. ^ Birthday Honours lists 2019”. gov.uk (2019年6月7日). 2019年6月7日閲覧。