サンヨウブシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
サンヨウブシ
長野県上高地 2022年8月下旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
: キンポウゲ目 Ranunculales
: キンポウゲ科 Ranunculaceae
: トリカブト属 Aconitum
: サンヨウブシ A. sanyoense
学名
Aconitum sanyoense Nakai (1935)[1]
シノニム
  • Aconitum sanyoense Nakai var. piliferum Tamura et Namba (1960)[2]
  • Aconitum sanyoense Nakai var. intermedium Tamura et Namba (1960)[3]
和名
サンヨウブシ(山陽附子)[4][5]

サンヨウブシ(山陽附子、学名Aconitum sanyoense[1])は、キンポウゲ科トリカブト属の大型の疑似一年草[4][5][6]

ふつう有毒植物であるトリカブト属トリカブト亜属のなかで、数少ない無毒ののひとつである[注釈 1][4][7]

特徴[編集]

地下の塊根は径1-4cmになる。は太く、斜上して高さは60-200cmになり、上部で湾曲して先端は垂れ、中部ではよく分枝する。根出葉と下部の茎は、花時には枯れて存在しない。葉質は膜質から草質、中部の茎葉の葉身は腎円形で、長さ4-21cm、幅8-22cm、ときに径30cm近くになるものもあり、掌状に5-7浅裂から中裂し、裂片は羽状に欠刻するか粗い鋸歯縁になる。欠刻片または鋸歯は卵形から披針形になり、幅5-10mmになる。葉の両面ともに無毛で、まれに裏面の基部に屈毛が生え、裏面の葉脈が隆起する。中部の茎葉の葉柄は長さ3-10cmになり、無毛[4][5][6]

花期は7-10月。は長さ5-22cmの総状または円錐状の花序に2-15個つくか単生し、下方から順に開花する。花柄は長さ2-8cmで、毛はまったく無く、花柄の小苞は中部付近につき、線形から披針形で長さ3-5mmになる。花は青紫色から赤紫色、ときに黄白色から白色で、長さは3.5-4.5cmになり、鈍い光沢がある。花弁にみえるのは萼片で、上萼片1個、側萼片2個、下萼片2個の5個で構成される。かぶと状になる上萼片は僧帽形になり、長さ20-60mm、幅16-24mmで、外面は無毛、前方の嘴は長くとがる。花弁は上萼片の中にかくれて見えないが、柄、舷部、を分泌する距、唇部で構成される。1対あり、無毛で、柄は長さ12-17mm、舷部は長さ12-19mmあって距に向かってしだいに細くなり、距は太くて長く、180度以上内曲し、唇部は長さ2-6mmになり、先端は浅く2裂し、反り返る。雄蕊は多数あり、ふつう無毛であるが、ときに開出毛が生え、雌蕊は3個あり、無毛または斜上する直毛が生える。果実は長さ15-22mmの袋果になり、斜開する。種子は長さ4mmになる。染色体数2n=16の2倍体種である[4][5][6]

雄蕊や雌蕊の毛の有無、雄蕊の歯牙の有無で細分されたことがあったが、それらは個体変異であると整理された[6]

分布と生育環境[編集]

日本固有種[8]。本州の関東地方群馬県から中国地方島根県広島県までと、四国高知県に分布し、山地帯の林縁や林内に生育する[5]。沢沿いなど水が流れる場所に生えることが多い[6]

名前の由来[編集]

和名サンヨウブシは、「山陽附子」の意で、山陽地方に多いことから名付けられたが、実際には山陰地方に多い[5][6]

種小名(種形容語)sanyoense も山陽地方から。中井猛之進 (1935) による命名記載[9]

種の保全状況評価[編集]

国(環境省)のレッドデータブックレッドリストでの選定はない。
都道府県のレッドデータ、レッドリストの選定状況は次の通り[10]。福島県-絶滅危惧IB類(EN)、埼玉県-絶滅危惧IA類(CR)、奈良県-情報不足種、島根県-絶滅危惧II類(VU)、広島県-準絶滅危惧(NT)、徳島県-準絶滅危惧(NT)、高知県-絶滅危惧IB類(EN)。

下位分類[編集]

  • シロバナサンヨウブシ Aconitum sanyoense Nakai f. leucanthum Nakai (1953)[11] - 白花品種品種leucanthum は、「白い花の」の意味[12]

分類[編集]

サンヨウブシは、トリカブト属のうち、トリカブト亜属 Subgenus Aconitum、サンヨウブシ節 Section Flagellaria、サンヨウブシ列 Series Latifolia に分類される。サンヨウブシ列には、日本産の種としては本種の他、ジョウシュウトリカブト Aconitum tonenseガッサントリカブト A. gassanenseおよびイイデトリカブト A. iidemotanus が属する。サンヨウブシ列の種は、温帯に分布し、葉身は膜質から草質で、腎円形となり5-7中裂から浅裂、ときに五角形となり3深裂する共通点をもつ。本種とジョウシュウトリカブトは、花柄と上萼片は無毛となり、ジョウシュウトリカブトは、葉腋にむかごをつける。ガッサントリカブトの花柄と上萼片には短い屈毛が生え、イイデトリカブトの花柄と上萼片には開出毛と腺毛が生える[7]

ギャラリー[編集]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ トリカブト属のうち、日本国内に分布するトリカブト属レイジンソウ亜属 Subgen. Lycoctonum の種は無毒であるが、同亜属のうち、中国大陸からヒマラヤ地域に分布する種については毒性の高いものもある[7]

出典[編集]

  1. ^ a b サンヨウブシ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ サンヨウブシ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  3. ^ サンヨウブシ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  4. ^ a b c d e 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.214
  5. ^ a b c d e f 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.489
  6. ^ a b c d e f 門田裕一 (2016) 「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物 2』p.125
  7. ^ a b c 門田裕一 (2016) 「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物 2』pp.120-122
  8. ^ 『日本の固有植物』p.56
  9. ^ Takenoshin Nakai, Notulæ ad Plantas Japoniæ & Koreæ XLVII, The botanical magazine, 『植物学雑誌』, Vol.49, No.584, p.en503, (1935).
  10. ^ サンヨウブシ、日本のレッドデータ検索システム、2023年1月21日閲覧
  11. ^ シロバナサンヨウブシ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  12. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1500

参考文献[編集]

外部リンク[編集]