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ミジンコウキクサ属
手についた Wolffia arrhiza
分類
界 : 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
目 : オモダカ目 Alismatales
科 : サトイモ科 Araceae
亜科 : ウキクサ亜科 Lemnoideae
属 : ミジンコウキクサ属 Wolffia
学名
Wolffia Horkel ex Schleid, 1839[1]
シノニム
英名
watermeal[1]

ミジンコウキクサ属 (学名: Wolffia) はサトイモ科ウキクサ亜科に属する水生植物の1属である。池など淡水域の水面に浮遊して生育する。植物体は極めて微小 (0.3–1.5 mm 前後) であり、根を欠く (右図)。世界最小の種子植物の属であり、また世界最小の花をつける[3][4][5]。

特徴

微小な浮遊植物であり、水面上または直下に生育する[6]。植物体は葉状体 (葉と茎の区別がない；フロンド frond ともよばれる[7]) だけからなり、根を欠く[2][6] (下図1)。ただし Wolffia microscopica では葉状体底面から偽根 (pseudoroot) とよばれる突起が伸長する[8]。葉状体は長径 0.3–1.5 mm、球状から卵形で厚さは厚く、脈を欠く[2][3][6][9]。葉状体全面が緑色であり、ウキクサのように裏面が赤味を帯びることはない[6]。airspaceを欠く[2]。葉状体基部に1個の出芽嚢があり、そこから新たな葉状体を形成して出芽状に増殖するため、葉状体は単体または2個がつながった状態でいる[2][3][6] (下図1)。増殖速度が極めて速く (被子植物の中で最速ともされる)、倍加時間が1日以下のこともある[10]。

1a. Wolffia borealis
1b. Wolffia columbiana: 中央付近の花孔中に花がある
1c. Wolffia columbiana: 光学顕微鏡像

葉状体上面中央付近の窪み (花孔とよばれる) の中に、1個の雄しべと1個の雌しべからなる微小な花をつける[2][6] (上図1b)。一般的に花をつけるのはまれであるが、Wolffia microscopica は他の種よりも頻繁に花を形成する[7]。雄しべの葯は2花粉嚢からなる[6]。雌しべの柱頭は漏斗状であり、分泌滴を分泌する[7]。子房は1個の直生胚珠を含む[2][6]。種子はほぼ平滑[2][6]。維管束は雄しべに痕跡的に存在するのみである[3]。

Wolffia australiana において核ゲノム塩基配列 (357 Mb; Mb = 100万塩基対)、およびトランスクリプトーム (転写産物) 日周変化が報告されている[10]。一方、同属の Wolffia arrhiza のゲノムサイズは 1,881 Mb と推定されている[11]。またミジンコウキクサ (Wolffia globosa) では、色素体DNAの塩基配列が報告されている (169,405 bp)[12]。

分布・生態

2. 水面を覆う Wolffia arrhiza (オハイオ州オーグレイズ郡)

南北アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ、西アジア、南アジア、東アジア、東南アジア、オーストラリアなど世界中の熱帯から温帯域に分布している[2][3]。湖沼や水路など、淡水止水域または緩やかな流水域の水面に生育する[13] (右図2)。

人間との関わり

ミジンコウキクサ属は増殖が速く、タンパク質含量が高い (乾燥重量の30%前後)[14]。また他のウキクサ類とは異なり、シュウ酸塩を含まない[15]。そのためミジンコウキクサ属を食用とするための研究が行われており、また実際にタイのいくつかの地域ではミジンコウキクサが市場で食用に売買されている[12][15]。家畜や観賞魚用の飼料に用いられている例もある[15][16]。また環境浄化 (栄養塩の除去など) への利用を目的とした研究も行われている[17][18]。

系統と分類

ミジンコウキクサ属にはおよそ11種が知られており[6][2]、日本には、ミジンコウキクサ (Wolffia globosa) が生育している[3] (下表)。ただし分子系統学的解析からは、この中で Wolffia brasiliensis は他のミジンコウキクサ属の種よりも別属である Wolffiella に近縁であることが示唆されている[19]。

ウキクサ亜科
 

ウキクサ属 (Spirodela)

 
 
 

ヒメウキクサ属 (Landoltia)

 
 
 

アオウキクサ属 (Lemna)

 
 
 
 

Wolffiella

 
 

Wolffia brasiliensis

 
 
 
 

Wolffia borealis

 
 

Wolffia microscopica

 
 

Wolffia australiana

 
 
 
 

Wolffia angusta

 
 
 

Wolffia neglecta

 
 

ミジンコウキクサ (Wolffia globosa)

 
 
 
 
 
 

Wolffia elongata

 
 

Wolffia columbiana

 
 
 
 

Wolffia cylindracea

 
 

Wolffia arrhiza

 
 
 
 
 
 
 
 
 
ウキクサ亜科 (特にミジンコウキクサ属) の系統仮説[19]

ミジンコウキクサ属の種までの分類体系[2]
3a. Wolffia arrhiza
3b. Wolffia borealis
3c. Wolffia columbiana
3d. ミジンコウキクサ

脚注

[脚注の使い方]

出典

  1. ^ a b GBIF Secretariat (2021年). “Wolffia”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年6月22日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m “Wolffia”. Plant of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年6月22日閲覧。
  3. ^ a b c d e f 邑田仁 (2015). “ミジンコウキクサ”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 111. ISBN 978-4582535310 
  4. ^ 角野康郎 (1994). “ミジンコウキクサ”. 日本水草図鑑. 文一総合出版. pp. 76-77. ISBN 978-4829930342 
  5. ^ “ミジンコウキクサ”. 植物図鑑. 筑波実験植物園. 2021年6月20日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j Flora of China Editorial Committee (2010年). “Wolffia”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年6月22日閲覧。
  7. ^ a b c “Lemnoideae　ウキクサ亜科”. 植物発生進化学：読む植物図鑑. 基礎生物学研究所生物進化研究部門 (2015年10月9日). 2021年6月20日閲覧。
  8. ^ “Wolffia microscopicaの偽根”. 植物発生進化学：読む植物図鑑. 基礎生物学研究所生物進化研究部門 (2015年9月20日). 2021年6月20日閲覧。
  9. ^ Pandey, A. & Verma, R.K. (2018). “Nutritional composition, taxonomical and phytoremediation status of duckweed (Wolffia): Review”. Annals of Plant Sciences 7 (1): 1928–1931. doi:10.21746/aps.2018.7.1.13. 
  10. ^ a b Michael, T. P., Ernst, E., Hartwick, N., Chu, P., Bryant, D., Gilbert, S., ... & Lam, E. (2021). “Genome and time-of-day transcriptome of Wolffia australiana link morphological minimization with gene loss and less growth control”. Genome Research 31 (2): 225-238. doi:10.1101/gr.266429.120. 
  11. ^ An, D., Li, C., Zhou, Y., Wu, Y. & Wang, W. (2018). “Genomes and transcriptomes of duckweeds”. Frontiers in Chemistry 6: 230. doi:10.3389/fchem.2018.00230. 
  12. ^ a b Park, H., Park, J. H., Jeon, H. H., Woo, D. U., Lee, Y. & Kang, Y. J. (2020). “Characterization of the complete chloroplast genome sequence of Wolffia globosa (Lemnoideae) and its phylogenetic relationships to other Araceae family”. Mitochondrial DNA Part B 5 (2): 1905-1907. doi:10.1080/23802359.2020.1754948. 
  13. ^ “Wolffia”. The North Carolina Extension Gardener Plant Toolbox. 2021年6月23日閲覧。
  14. ^ Appenroth, K. J., Sree, K. S., Böhm, V., Hammann, S., Vetter, W., Leiterer, M. & Jahreis, G. (2017). “Nutritional value of duckweeds (Lemnaceae) as human food”. Food Chemistry 217: 266-273. doi:10.1016/j.foodchem.2016.08.116. 
  15. ^ a b c Appenroth, K. J., Sree, K. S., Bog, M., Ecker, J., Seeliger, C., Böhm, V., ... & Jahreis, G. (2018). “Nutritional value of the duckweed species of the genus Wolffia (Lemnaceae) as human food”. Frontiers in Chemistry 6: 483. doi:10.3389/fchem.2018.00483. 
  16. ^ “ミジンコウキクサ”. Google. 2021年6月21日閲覧。
  17. ^ 川畑祐介, 池道彦 & 藤田正憲 (2002). “ミジンコウキクサによる排水処理: デンプン生産システムの構築”. 日本水処理生物学会誌 22: 111. NAID 10010360745. 
  18. ^ 惣田訓, 川畑佑介, 高井雄一郎 & 池道彦 (2011). “ミジンコウキクサを用いた排水からの栄養塩類除去システムの動力学解析”. 日本水処理生物学会誌 31: 36. 
  19. ^ a b Tippery, N. P., Les, D. H. & Crawford, D. J. (2015). “Evaluation of phylogenetic relationships in Lemnaceae using nuclear ribosomal data”. Plant Biology 17: 50-58. doi:10.1111/plb.12203. 

外部リンク

ウィキメディア・コモンズには、ミジンコウキクサ属に関連するメディアがあります。
ウィキスピーシーズにミジンコウキクサ属に関する情報があります。
  • “Wolffia”. Plant of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年6月23日閲覧。 (英語)
  • GBIF Secretariat (2021年). “Wolffia”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年6月22日閲覧。
  • Flora of China Editorial Committee (2010年). “Wolffia”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年6月23日閲覧。 (英語)
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