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'''アルコール性肝疾患'''(アルコールせいかんしっかん、[[英語|英]]'''Alcoholic liver disease''')または、'''アルコール性肝障害'''とは、[[アルコール乱用]]によって引き起こされる一連の[[肝臓]]疾患のこと。
'''アルコール性肝疾患'''(アルコールせいかんしっかん、[[英語|英]]'''Alcoholic liver disease''')または、'''アルコール性肝障害'''とは、飲用用途の[[エタノール]]常用飲用(アルコール乱用によって引き起こされる一連の[[肝臓]]疾患のこと。アルコール性肝炎の状態では自覚症状はほとんど無い<ref>[http://kompas.hosp.keio.ac.jp/sp/contents/000816.html アルコール性肝炎] 慶應義塾大学病院 KOMPAS</ref>。アルコール性肝硬変は、全肝硬変の20%程度と考えられている<ref name=kanzo.59.312 />


アルコール性脂肪肝アルコール性肝炎アルコール性肝硬変の順に進行する。
アルコール性脂肪肝 <ce>-></ce> アルコール性肝炎 <ce>-></ce> アルコール性肝硬変 <ce>-></ce> 肝細胞癌 の順に進行する。


== 病因 ==
== 病因 ==
主要要因は、エタノールと代謝物の[[アセトアルデヒド]]による肝臓への直接的な作用であるが、[[肥満]]や[[2型糖尿病]]などの基礎疾患と栄養状態<ref name=kanzo.59.342 />は進展促進因子とされるほか<ref name=kanzo.59.312 />、腸内細菌叢の多様性喪失が重症化に関与していると報告されている<ref name=kanzo.59.342>池嶋健一、[https://doi.org/10.2957/kanzo.59.342 アルコール性肝障害機序の最先端] 肝臓 2018年 59巻 7号 p.342-350, {{doi|10.2957/kanzo.59.342}}</ref><ref>Dugum M, McCullough A. Diagnosis and management of alcoholic liver disease. J Clin Transl Hepatol 2015; 3 (2): 109-116, {{doi|10.1038/ajg.2009.593}}</ref>。
飲酒によって血中に入った[[アルコール]]([[エタノール]])は消化管で吸収され[[門脈]]を通って[[肝臓]]で[[代謝]]される。

肝臓では主に、以下によって代謝される。
飲酒によって血中に入った[[アルコール]](エタノール)は消化管で吸収され[[門脈]]を通って[[肝臓]]で[[代謝]]される。(胃でも代謝される<ref name=mastumoto />が本記事の対象外であるため記述しない)
*アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase:ADH)

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肝臓では主に、以下によって代謝される。代謝に関与する物質は、主にカラターゼ・アルコール脱水素酵素・チトクロームP-450 2E1,1A2,3A4<ref name=kanzo.59.312 /><ref name=mastumoto>松本博志、[http://www.j-arukanren.com/file/14.pdf 14.アルコールの基礎知識] 日本アルコール関連問題学会 アルコール・薬物3学会合同飲酒運転対策プロジェクト報告書</ref>
*アセトアルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH)

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*ミクロゾームエタノール酸化系(Microsomal Ethanol-Oxidizing System:MEOS)
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酢酸は[[クエン酸回路]](TCA回路)によりエネルギー源となり、最終的に二酸化炭素と水になる。


[[画像:説明図 酵素 複合酵素.jpg|thumb|right|複脂肪酸生合成系<br />クリックで拡大・解説]]
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[[脂肪酸の合成|脂肪酸生合成]]は[[アセチルCoA]](炭素数2)を出発物質として、ここに[[マロニルCoA]](炭素数3)が脱炭酸的に結合していく経路である。すなわち、炭素数2個ずつ反応サイクルごとに増加し、任意の炭素鎖を持った[[脂肪酸]]が作成されることとなる([[脂肪酸#脂肪酸生合成系]]参照)<ref>[[脂肪酸の合成|脂肪酸生合成]]</ref>。
[[脂肪酸の合成|脂肪酸生合成]]は[[アセチルCoA]](炭素数2)を出発物質として、ここに[[マロニルCoA]](炭素数3)が脱炭酸的に結合していく経路である。すなわち、炭素数2個ずつ反応サイクルごとに増加し、任意の炭素鎖を持った[[脂肪酸]]が作成されることとなる([[脂肪酸#脂肪酸生合成系]]参照)<ref>[[脂肪酸の合成|脂肪酸生合成]]</ref>。


アルコールを大量・持続飲用することで、上記の代謝経路によって分解が追いつかず、かつ、代謝・合成された脂肪[[肝臓]]に蓄積され、[[肝細胞]]障害与えて行く
アルコールを大量・持続飲用することで、上記の代謝経路によって分解が追いつかず、かつ、代謝・合成された脂肪酸の酸化障害と<ref name=kanzo.59.312 />、エタノールの代謝中間生成物の[[アセトアルデヒド]]の有する肝毒性<ref name=kanzo.59.312>谷合麻紀子、[https://doi.org/10.2957/kanzo.59.312 アルコール性肝障害の現況] 肝臓 2018年 59巻 7号 p.312-318, {{doi|10.2957/kanzo.59.312}}</ref>とエタノール自体の影響によって肝細胞に炎症や壊死生じる

== 診断 ==
長期(通常 5年以上)にわたる過剰の飲酒が肝障害の主な原因と考えられる病態で,以下の条件を満たすもの
# 過剰の飲酒とは,1 日平均純エタノール 60 g 以上の飲酒(常習飲酒家)をいう.ただし女性や ALDH2 活性欠損者では,1 日 40 g 程度の飲酒でも AL 性肝障害を起こしうる。※60 gは絶対的な基準では無い。" 禁酒により,血清 AST([[アスパラギン酸アミノ基転移酵素]]),ALT([[アラニンアミノ基転移酵素]]) およびγ-GTP([[γ-グルタミルトランスフェラーゼ]]) 値が明らかに改善する。
# 肝炎ウイルスマーカー,抗ミトコンドリア抗体,抗核抗体がいずれも陰性である。
<附記>
# 肥満者
# 肝炎ウイルスマーカー,抗ミトコンドリア抗体,抗核抗体の取り扱い
※谷合麻紀子(2018)、「アルコール性肝障害の現況」<ref name=kanzo.59.312 />より引用し改変。


== 病理 ==
== 病理 ==
[[image:Pathogenesis alcoholic liver injury.jpg|300px|thumb|]]
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病理組織学的に以下へ進行していく
病理組織学的に以下へ進行していく
*アルコール性[[脂肪肝]]
* アルコール性[[脂肪肝]]
:{{main|脂肪肝}}
:{{main|脂肪肝}}
*アルコール性[[肝炎]]
* アルコール性[[肝炎]]
:{{main|肝炎}}
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*アルコール性[[肝硬変]]
* アルコール性[[肝硬変]]
:{{main|肝硬変}}
:{{main|肝硬変}}


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=== 血液検査 ===
=== 血液検査 ===
*[[アスパラギン酸アミノ基転移酵素|AST]][[アラニントランスアミナーゼ|ALT]]:AST優位の上昇を示すことが多い。
* アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)・アラニンアミノ基転移酵素(ALT):AST優位の上昇を示すことが多い。
*[[γ-GTP]]:上昇傾向を示す
* [[γ-GTP]]:上昇傾向を示す


=== 画像検査 ===
== 治療 ==
禁酒


==脚注==
==脚注==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
*[[アルコール乱用]]
* [[アルコール乱用]]
*[[ウイルス性肝炎]]
* [[ウイルス性肝炎]]
*[[肝臓学]]
* [[肝臓学]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* 竹井謙之、[https://doi.org/10.2957/kanzo.59.305 アルコール性肝障害の研究史] 肝臓 2018年 59巻 7号 p.305-311, {{doi|10.2957/kanzo.59.305}}
* [http://www.j-arukanren.com/file/14.pdf 14.アルコールの基礎知識] 日本アルコール関連問題学会 アルコール・薬物3学会合同飲酒運転対策プロジェクト報告書


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2018年12月4日 (火) 03:44時点における版

アルコール性肝疾患
マロリー小体が見られる肝細胞
概要
診療科 消化器
分類および外部参照情報
ICD-10 K70
ICD-9-CM 571.1
MedlinePlus 000281
MeSH D008108

アルコール性肝疾患(アルコールせいかんしっかん、Alcoholic liver disease)または、アルコール性肝障害とは、飲用用途のエタノール常用飲用(アルコール乱用)によって引き起こされる一連の肝臓疾患のこと。アルコール性肝炎の状態では自覚症状はほとんど無い[1]。アルコール性肝硬変は、全肝硬変の20%程度と考えられている[2]

アルコール性脂肪肝 アルコール性肝炎 アルコール性肝硬変 肝細胞癌 の順に進行する。

病因

主要要因は、エタノールと代謝物のアセトアルデヒドによる肝臓への直接的な作用であるが、肥満2型糖尿病などの基礎疾患と栄養状態[3]は進展促進因子とされるほか[2]、腸内細菌叢の多様性喪失が重症化に関与していると報告されている[3][4]

飲酒によって血中に入ったアルコール(エタノール)は消化管で吸収され門脈を通って肝臓代謝される。(胃でも代謝される[5]が本記事の対象外であるため記述しない)

肝臓では主に、以下によって代謝される。代謝に関与する物質は、主にカラターゼ・アルコール脱水素酵素・チトクロームP-450 2E1,1A2,3A4[2][5]

1次代謝
  • アルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase:ADH)
エタノール アセトアルデヒドへと分解[2][3]
  • ミクロゾームエタノール酸化系(Microsomal Ethanol-Oxidizing System:MEOS)
エタノール アセトアルデヒドまたはアセトアルデヒド 酢酸(アセチルCoA)へと分解[3]
2次代謝
  • アセトアルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH)
アセトアルデヒド 酢酸(アセチルCoA)へと分解[2][3]

酢酸はクエン酸回路(TCA回路)によりエネルギー源となり、最終的に二酸化炭素と水になる。

複脂肪酸生合成系
クリックで拡大・解説

脂肪酸生合成アセチルCoA(炭素数2)を出発物質として、ここにマロニルCoA(炭素数3)が脱炭酸的に結合していく経路である。すなわち、炭素数2個ずつ反応サイクルごとに増加し、任意の炭素鎖を持った脂肪酸が作成されることとなる(脂肪酸#脂肪酸生合成系参照)[6]

アルコールを大量・持続飲用することで、上記の代謝経路によって分解が追いつかず、かつ、代謝・合成された脂肪酸の酸化障害と[2]、エタノールの代謝中間生成物のアセトアルデヒドの有する肝毒性[2]とエタノール自体の影響によって肝細胞に炎症や壊死を生じる。

診断

長期(通常 5年以上)にわたる過剰の飲酒が肝障害の主な原因と考えられる病態で,以下の条件を満たすもの

  1. 過剰の飲酒とは,1 日平均純エタノール 60 g 以上の飲酒(常習飲酒家)をいう.ただし女性や ALDH2 活性欠損者では,1 日 40 g 程度の飲酒でも AL 性肝障害を起こしうる。※60 gは絶対的な基準では無い。" 禁酒により,血清 AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素),ALT(アラニンアミノ基転移酵素) およびγ-GTP(γ-グルタミルトランスフェラーゼ) 値が明らかに改善する。
  2. 肝炎ウイルスマーカー,抗ミトコンドリア抗体,抗核抗体がいずれも陰性である。

<附記>

  1. 肥満者
  2. 肝炎ウイルスマーカー,抗ミトコンドリア抗体,抗核抗体の取り扱い

※谷合麻紀子(2018)、「アルコール性肝障害の現況」[2]より引用し改変。

病理

病理組織学的に以下へ進行していく

臨床像

症状

基本的に肝硬変に至るまで目立った症状はない。またアルコール依存症である場合も多く、治療コンプライアンスが維持できないことも多い。

血液検査

  • アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)・アラニンアミノ基転移酵素(ALT):AST優位の上昇を示すことが多い。
  • γ-GTP:上昇傾向を示す

治療

禁酒

脚注

  1. ^ アルコール性肝炎 慶應義塾大学病院 KOMPAS
  2. ^ a b c d e f g h 谷合麻紀子、アルコール性肝障害の現況 肝臓 2018年 59巻 7号 p.312-318, doi:10.2957/kanzo.59.312
  3. ^ a b c d e 池嶋健一、アルコール性肝障害機序の最先端 肝臓 2018年 59巻 7号 p.342-350, doi:10.2957/kanzo.59.342
  4. ^ Dugum M, McCullough A. Diagnosis and management of alcoholic liver disease. J Clin Transl Hepatol 2015; 3 (2): 109-116, doi:10.1038/ajg.2009.593
  5. ^ a b 松本博志、14.アルコールの基礎知識 日本アルコール関連問題学会 アルコール・薬物3学会合同飲酒運転対策プロジェクト報告書
  6. ^ 脂肪酸生合成

関連項目

外部リンク