「ヤイトムシ目」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
大幅追記|画像|形態
7行目: 7行目:
|門=[[節足動物門]] [[:en:Arthropoda|Arthropoda]]
|門=[[節足動物門]] [[:en:Arthropoda|Arthropoda]]
|亜門|[[鋏角亜門]] [[:en:Chelicerata|Chelicerata]]
|亜門|[[鋏角亜門]] [[:en:Chelicerata|Chelicerata]]
|綱=[[クモ綱]] [[:en:Arachnida|Arachnida]]
|綱=[[クモガタ綱]] [[:en:Arachnida|Arachnida]]
|綱階級なし=[[四肺類]] [[:en:Tetrapulmonata|Tetrapulmonata]]
|亜綱階級なし=[[脚鬚類]] Pedipalpi
|下綱階級なし=[[有鞭類]] Uropygi
|目='''ヤイトムシ目''' [[:en:Schizomida|Schizomida]]
|目='''ヤイトムシ目''' [[:en:Schizomida|Schizomida]]
|学名='''[[w:Schizomida|Schizomida]]'''<br><small>Petrunkevitch, 1945</small>
|下位分類=
|下位分類=本文参照
|下位分類=[[科 (分類学)|科]]
|下位分類=
*ケリヤイトムシ科 Calcitronidae
*サワダムシ科 Hubbardiidae
*ムカシヤイトムシ科 Protoschizomidae
*ヤイトムシ科 Schizomidae
}}
}}
'''ヤイトムシ目'''([[学名]]:'''[[w:Schizomida|Schizomida]]''')は、[[鋏角亜門]][[クモ綱|クモガタ綱]]に所属する[[節足動物]]の分類群。'''ヤイトムシ'''(ヤイトムシ類)と総称される小さな[[土壌生物]]である。
{{wikispecies|Schizomida}}
'''ヤイトムシ目'''([[学名]]:Schizomida)は、[[節足動物門]][[鋏角亜門]][[クモ綱]]に所属する分類群である。
[[サソリモドキ]]と似たような外見を持つ微小動物。かつて、サソリモドキと同じ仲間と見なされたこともある。


[[サソリモドキ]]と似通った外見を持ち、英名も「'''short-tailed whipscorpion'''」(尻尾の短い[[サソリモドキ]]/ムチサソリ)と呼ばれている。両者は系統的にも類縁であり、かつては同じ仲間と見なされた<ref name=":0">{{Cite journal|last=A.|first=Dunlop, Jason|last2=C.|first2=Lamsdell, James|title=Segmentation and tagmosis in Chelicerata|url=https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata|journal=Arthropod Structure &amp; Development|volume=46|issue=3|language=en|issn=1467-8039}}</ref>。
== 特徴 ==
[[File:Hubbardia pentapeltis 1.jpg|right|thumb|節に分かれた背甲と垂直の触肢|250px]]
[[File:Hubbardia pentapeltis male flagellum.jpg|right|thumb|雄の尾節|180px]]
大きさは1cmに満たない小型の[[動物]]、胴体は縦長い。
頭胸部は細長く、背甲は前後に分かれ、前半部が大きく、後半部は細く更に左右に分かれている。この特徴は "分かれた中心" を意味する学名 "''Schizomida''" の由来となる。


== 形態 ==
[[鋏角]]は[[モ]]のものに似た鎌状で毒を持たず、餌を食いちぎるようになっている。触肢は太短く垂直鎌状となり、捕獲用に使えそうにっている。第1脚は細長く、前に伸ばして[[触角]]のように使う。脚は丈夫できている。
[[ファイル:Schematic schizomid.gif|サムネイル|200ピクセル|ヤイトムシの体<br>PP:propeltidium<br>MS:mesopeltidium<br>MT:metapeltidium<br>T1:後体第1節(腹柄)<br>T2-T9:後体第2-9節<br>AP:後体第12節(尾部第3節)<br>FL:[[尾節]](雄)]]
<gallery mode="packed" heights="150">
ファイル:Hubbardia sp.jpg|''Hubbardia pentapeltis'' とヒトの指先
ファイル:1911 Britannica-Arachnida-Schizomus crassicaudatus3.png|ヤイトムシの側面(II:[[触肢]]、III:感覚用の第1脚、IV-VI:歩行用の第2-4脚)
</gallery>
大きさは1cmに満たない小[[動物]]である。胴体は縦長く、分節のある前体(頭胸部)と楕円形の後体(腹部)からなり、その間はややくびれる。


前体は細長く、[[背甲]]は3セットの「[[w:Peltidium|peltidium]]」という[[外骨格]]に分かれる<ref name=":0" />。前の1枚(propeltidium)は鋏角から第2脚までを覆う。そこにある眼は往々にして退化的である<ref name=":0" />。残りの2枚(mesopeltidium・metapeltidium)はそれぞれ第3と第4脚に対応しており、いずれも更に中心から左右2枚に分かれる。この特徴は「分かれた中心」を意味する学名「Schizomida」の由来ともなる。前体の腹側は、前後に三角形の腹板をもつ<ref name=":0" />。
腹部は楕円形で体節に分かれ、頭胸部とつながる部分はやや狭まる。末端は細くなり、短い尾節を持つ。雄の尾節は節に分かれず、雌は3 - 4節ほど分かれる。

[[鋏角]]は[[サソリドキ]]のように、[[はさみ (動物)|はさみ型]]に近亜鎌状となる。触肢は頑強で垂直に畳んだ鎌状となり、捕獲用の付属肢となる。第1脚は細長く歩行には用いず、前に伸ばして[[触角]]のように使う。残りの3対の脚は歩行られ<ref name=":0" />
<gallery mode="packed" heights="200">
ファイル:1911 Britannica-Arachnida-Schizomus crassicaudatus.png|腹面(a-b:腹板、1 opisth:生殖口蓋、pa:[[尾節]]
ファイル:Rowlandius ubajara PLOS One 02.png|''Rowlandius ubajara'' の雄の[[尾節]](A-C)、[[触肢]](D-E)と雌の生殖器(F)
</gallery>
後体は楕円形で12節からなり、前体とつながる第1節はやや狭まる(腹柄)。次の第2節は生殖口蓋と1対の書肺をもつ<ref name=":0" />。[[サソリモドキ]]とは異なって第3節は書肺を欠如しており、これは二次的に退化による結果と考えられる<ref name=":0" />。末端の3節(尾部)は短い環状で細くなり、短い[[尾節]]を持つ<ref name=":0" />。
[[ファイル:Hubbardia pentapeltis male flagellum.jpg|200px|サムネイル|左|''Hubbardia pentapeltis'' の雄の[[尾節]]]]
{{multiple image
| align = center
| width = 200
| footer = ''Rowlandius potiguar'' の雌(左)と雄(右)、[[触肢]](矢先)に[[性的二形]]をもつヤイトムシの1種。[[尾節]]の相違点にも注目。
| image1 = Rowlandius potiguar PLOS One 03.jpg
| caption1 =
| image2 = Rowlandius potiguar PLOS One 02.jpg
| caption2 =
}}
[[性的二形]]は[[尾節]]から明瞭に見られる<ref name=":0" />。雌の尾節は単純の短い糸状で3-4節に分かれるが、雄の[[尾節]]は特殊化して節に分かれていない。一部の種類では、雌に比べて雄の[[触肢]]は明らかに長くなる個体をもつ<ref>{{Cite journal|last=Santos|first=Adalberto J.|last2=Ferreira|first2=Rodrigo Lopes|last3=Buzatto|first3=Bruno A.|date=2013-05-22|title=Two New Cave-Dwelling Species of the Short-Tailed Whipscorpion Genus Rowlandius (Arachnida: Schizomida: Hubbardiidae) from Northeastern Brazil, with Comments on Male Dimorphism|url=https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0063616|journal=PLoS ONE|volume=8|issue=5|pages=e63616|language=en|doi=10.1371/journal.pone.0063616|issn=1932-6203|pmid=23723989|pmc=PMC3661548}}</ref>。


== 習性 ==
== 習性 ==
[[肉食性]]を持ち、湿潤な環境を好む、光を避ける。[[森林]]の落ち葉や朽ち木の間、[[洞窟|洞穴]]の[[礫|れき]]の隙間などに生息する。
[[肉食性]]湿潤な環境を好む、光を避ける。[[森林]]の落ち葉や朽ち木の間、[[洞窟|洞穴]]の[[礫|れき]]の隙間などに生息する。


[[配偶行動]]としては、婚姻ダンスを行うものが知られている。雌は雄の尾に掴まり、前後につながって移動し、雄が地上においた精包を受け取る。産卵時には雌は地中に小さな穴を掘って潜り、卵を腹につけて孵化まで保護するという
[[配偶行動]]としては、婚姻ダンスを行うものが知られている。雌は雄の[[節]]に掴まり、前後につながって移動し、雄が地上においた精包を受け取る。産卵時には雌は地中に小さな穴を掘って潜り、卵を腹につけて孵化まで保護する。


== 分布と分類 ==
== 分布と分類 ==
世界の[[熱帯]]を中心に広く分布する。[[日本]]では[[琉球列島]]にヤイトムシ、ウデナガサワダムシ、[[小笠原諸島]]にサワダムシなどを産する。
世界の[[熱帯]]を中心に広く分布する。[[日本]]では[[琉球列島]]にヤイトムシ、ウデナガサワダムシ、[[小笠原諸島]]にサワダムシなどを産する。
[[ファイル:Uropigio.jpg|220px|サムネイル|右|[[サソリモドキ]]]]

[[クモガタ類]]の中で、ヤイトムシ目と[[サソリモドキ目]]は近縁であり、かつてヤイトムシ類は[[サソリモドキ目]]に含まれる時期もあった([[有鞭類#定義の変遷]]、および[[サソリモドキ#呼称]]も参照)。この2群は、捕脚状の[[触肢]]・尾部の形・感覚用の第1脚など多くの共通点をもち、まとめて[[有鞭類]](Uropygi)をなす<ref>{{Cite journal|last=Garwood|first=Russell J.|last2=Dunlop|first2=Jason|date=2014-11-13|title=Three-dimensional reconstruction and the phylogeny of extinct chelicerate orders|url=https://peerj.com/articles/641/|journal=PeerJ|volume=2|pages=e641|language=en|doi=10.7717/peerj.641|issn=2167-8359}}</ref>。
捕脚状の触肢、腹部の形状、細長い第1脚など多くの共通点を持つ[[サソリモドキ目]]の姉妹群となり、共に有鞭類(Uropygi)を構成する。


===下位分類===
===下位分類===
41行目: 67行目:
*ムカシヤイトムシ科 Protoschizomidae
*ムカシヤイトムシ科 Protoschizomidae
*ヤイトムシ科 Schizomidae
*ヤイトムシ科 Schizomidae

== 参考画像 ==
<gallery>
ファイル:Arachnida, Schizomida, Hubbardia briggsi, adult female (8627013240).jpg|''Hubbardia briggsi''(雌)
ファイル:Hubbardia pentapeltis male 1.jpg|''Hubbardia pentapeltis''(雄)
ファイル:Hubbardia pentapeltis male.jpg|''Hubbardia pentapeltis''(雄)
ファイル:Hubbardia pentapeltis 1.jpg|''Hubbardia pentapeltis''(雌)
ファイル:Rowlandius ubajara PLOS One 01.jpg|''Rowlandius ubajara(雌)''
ファイル:Rowlandius potiguar PLOS One 01.jpg|''Rowlandius potiguar''(雄)
</gallery>


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
*内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、中山書店。
*内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、中山書店。


==脚注==
{{Animal-stub}}
<references />


==関連項目==
*[[有鞭類]]
*[[サソリモドキ]]
*[[コヨリムシ]]
{{wikispecies|Schizomida}}
{{Animal-stub}}
{{デフォルトソート:やいとむしもく}}
{{デフォルトソート:やいとむしもく}}
[[Category:クモ形類]]
[[Category:クモ形類]]

2018年11月30日 (金) 12:17時点における版

ヤイトムシ目
Hubbardia pentapeltis
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: クモガタ綱 Arachnida
階級なし : 四肺類 Tetrapulmonata
階級なし : 脚鬚類 Pedipalpi
階級なし : 有鞭類 Uropygi
: ヤイトムシ目 Schizomida
学名
Schizomida
Petrunkevitch, 1945
  • ケリヤイトムシ科 Calcitronidae
  • サワダムシ科 Hubbardiidae
  • ムカシヤイトムシ科 Protoschizomidae
  • ヤイトムシ科 Schizomidae

ヤイトムシ目学名Schizomida)は、鋏角亜門クモガタ綱に所属する節足動物の分類群。ヤイトムシ(ヤイトムシ類)と総称される小さな土壌生物である。

サソリモドキと似通った外見を持ち、英名も「short-tailed whipscorpion」(尻尾の短いサソリモドキ/ムチサソリ)と呼ばれている。両者は系統的にも類縁であり、かつては同じ仲間と見なされた[1]

形態

ヤイトムシの体
PP:propeltidium
MS:mesopeltidium
MT:metapeltidium
T1:後体第1節(腹柄)
T2-T9:後体第2-9節
AP:後体第12節(尾部第3節)
FL:尾節(雄)

大きさは1cmに満たない小動物である。胴体は縦長く、分節のある前体(頭胸部)と楕円形の後体(腹部)からなり、その間はややくびれる。

前体は細長く、背甲は3セットの「peltidium」という外骨格に分かれる[1]。前の1枚(propeltidium)は鋏角から第2脚までを覆う。そこにある眼は往々にして退化的である[1]。残りの2枚(mesopeltidium・metapeltidium)はそれぞれ第3と第4脚に対応しており、いずれも更に中心から左右2枚に分かれる。この特徴は「分かれた中心」を意味する学名「Schizomida」の由来ともなる。前体の腹側は、前後に三角形の腹板をもつ[1]

鋏角サソリモドキのように、はさみ型に近い亜鎌状となる。触肢は頑強で垂直に畳んだ鎌状となり、捕獲用の付属肢となる。第1脚は細長く歩行には用いず、前に伸ばして触角のように使う。残りの3対の脚は歩行に用いられる[1]

後体は楕円形で12節からなり、前体とつながる第1節はやや狭まる(腹柄)。次の第2節は生殖口蓋と1対の書肺をもつ[1]サソリモドキとは異なって第3節は書肺を欠如しており、これは二次的に退化による結果と考えられる[1]。末端の3節(尾部)は短い環状で細くなり、短い尾節を持つ[1]

Hubbardia pentapeltis の雄の尾節
Rowlandius potiguar の雌(左)と雄(右)、触肢(矢先)に性的二形をもつヤイトムシの1種。尾節の相違点にも注目。

性的二形尾節から明瞭に見られる[1]。雌の尾節は単純の短い糸状で3-4節に分かれるが、雄の尾節は特殊化して節に分かれていない。一部の種類では、雌に比べて雄の触肢は明らかに長くなる個体をもつ[2]

習性

肉食性で湿潤な環境を好む、光を避ける。森林の落ち葉や朽ち木の間、洞穴れきの隙間などに生息する。

配偶行動としては、婚姻ダンスを行うものが知られている。雌は雄の尾節に掴まり、前後につながって移動し、雄が地上においた精包を受け取る。産卵時には雌は地中に小さな穴を掘って潜り、卵を腹につけて孵化まで保護する。

分布と分類

世界の熱帯を中心に広く分布する。日本では琉球列島にヤイトムシ、ウデナガサワダムシ、小笠原諸島にサワダムシなどを産する。

サソリモドキ

クモガタ類の中で、ヤイトムシ目とサソリモドキ目は近縁であり、かつてヤイトムシ類はサソリモドキ目に含まれる時期もあった(有鞭類#定義の変遷、およびサソリモドキ#呼称も参照)。この2群は、捕脚状の触肢・尾部の形・感覚用の第1脚など多くの共通点をもち、まとめて有鞭類(Uropygi)をなす[3]

下位分類

  • ケリヤイトムシ科 Calcitronidae
  • サワダムシ科 Hubbardiidae
  • ムカシヤイトムシ科 Protoschizomidae
  • ヤイトムシ科 Schizomidae

参考画像

参考文献

  • 内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、中山書店。

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i A., Dunlop, Jason; C., Lamsdell, James. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3). ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  2. ^ Santos, Adalberto J.; Ferreira, Rodrigo Lopes; Buzatto, Bruno A. (2013-05-22). “Two New Cave-Dwelling Species of the Short-Tailed Whipscorpion Genus Rowlandius (Arachnida: Schizomida: Hubbardiidae) from Northeastern Brazil, with Comments on Male Dimorphism” (英語). PLoS ONE 8 (5): e63616. doi:10.1371/journal.pone.0063616. ISSN 1932-6203. PMC PMC3661548. PMID 23723989. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0063616. 
  3. ^ Garwood, Russell J.; Dunlop, Jason (2014-11-13). “Three-dimensional reconstruction and the phylogeny of extinct chelicerate orders” (英語). PeerJ 2: e641. doi:10.7717/peerj.641. ISSN 2167-8359. https://peerj.com/articles/641/. 

関連項目