「アルミラージ」の版間の差分

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en:Al-Mi'raj (英語版)を大幅強化したので(oldid 1063484701)から訳出して反映. なお →‎起源: は削除判断 "皮膚病"en:Shope papilloma virusは米国産の病原菌で16世紀欧州角兎の解明可だが,13世紀アラブ角兎への適用は避けられている(Holliday web, Auer&Seipel Herrlich Wild p65-70)
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[[ファイル:Qazwini-Bordeaux-ms1130-fol54r - rabbit.jpg|thumb|right|300px|"一本の黒い角をもつ兎のような黄色い獣"<ref name="wiedemann"/>{{right|{{small|— [[ザカリーヤー・カズウィーニー|カズヴィーニー]]著の宇宙誌。ボルドー市立図書館蔵本。1565年作の写本<ref name="bordeaux"/>。}}}}]]
[[ファイル:Qazwini-Bordeaux-ms1130-fol54r - rabbit.jpg|thumb|right|300px|"一本の黒い角をもつ兎のような黄色い獣"<ref name="wiedemann"/>{{right|{{small|— [[ザカリーヤー・カズウィーニー|カズヴィーニー]]著の宇宙誌。ボルドー市立図書館蔵本。1565年作の写本<ref name="bordeaux"/>。}}}}]]
'''アルミラージ'''または'''アル=ミラージ'''([[アラビア語]]: المعراج ''al-mi'raj'')は、角の生えた[[ウサギ]]に似た動物。[[インド洋]]に浮かぶとされる島ジャジラト・アル=ティニン島(Jazirat al-Tinnin)に棲息すると言われる。その名前は、[[ムハンマド]]が[[昇天の書|昇天する際に通った天への道]]と同じ名前である。
'''アルミラージ'''または'''アル=ミラージ'''([[アラビア語]]: المعراج ''al-mi'raj'')は{{Refn|group="注"|その名前は、[[ムハンマド]]が[[昇天の書|昇天する際に通った天への道]]と同じ名前である。}}、角の生えた兎([[ウサギ]]に似た伝説上の動物。[[インド洋]]に浮かぶとされる「竜の」(ジャジラト・アル=ティニン Jazirat al-Tinnin)に棲息すると言われる。


[[イスカンダル]]こと[[アレクサンドロス3世|アレクサンドロス大王]])がこの島で竜の被害を聞き、生贄用の牡牛を、[[硫黄]]や[[鉤|鉄鉤]]を詰め込んだ牛皮のダミーにすり替え、竜退治に成功、報酬のひとつとしてこの兎を受け取った。また、この兎を目にすると、あらゆる野獣は逃げ出すと伝わる。
== 概要 ==
[[File:Al-miraj and Serpent.png|thumb|464x464px|竜(''上'')が食らっている肉塊は硫黄詰めの牛<ref>{{harvp|Moor|2012|p=269}} and note 9</ref>。</br>有角のノウサギ (中央){{right|{{small|— カズヴィーニー宇宙誌の最古本。[[バイエルン州立図書館]]所蔵本。arab. 464写本、第63葉。1279/1280年あるいは1377年製作。}}<ref name=bayerische_staatsbibiothek/><ref name=bayerische_staatsbibiothek-LOCdata />{{Refn|group="注"|写本の完成は、著者の晩年の1280年<ref name=bayerische_staatsbibiothek-LOCdata /> (あるいは1279年)との鑑定もあるが<ref name=bayerische_staatsbibiothek/>、1377年との説もある<ref name=bayerische_staatsbibiothek/>}}。}}]]
13世紀の[[アラブ]]、[[ペルシア]]世界の学者、[[ザカリーヤー・カズウィーニー|ザカリーヤ・イブン・ムハンマド・アルカズヴィーニー]](1203–1283)の記した[[宇宙誌]]『被造物の驚異』にて[[アレクサンドロス3世|イスカンダル(アレクサンドロス3世)]]が、インド洋上のジャジラト・アル=ティニン島([[竜]]の島の意)を訪れたときのエピソードとともに紹介されている<ref name="moor"/><ref name="ettinghausen"/>


よく知られる原典は[[ザカリーヤー・カズウィーニー|カズヴィーニー]]の宇宙誌(13世紀)であるが、中世の写本には特にこの角兎の名称は記述されないとされる。
:島にはかつて恐ろしい竜が住み着いており、[放っておくと]島民たちの家屋や財産を破壊するので、そうならないよう餌用に毎日2頭の牡牛を供物にささげていた。イスカンダルは島が到着するや島民の訴えを聞き、ある奸計によって竜退治の手助けをおこなった。すなわち牡牛を2頭用意させ、その牛の毛皮をはいで[[硫黄]]と鉄[[鉤]]を詰め込ませた。竜がいざ牡牛を飲み込もうとすると発火し、鉤が体に突きささった。死んだ竜を島民たちは発見し、感謝の印としてイスカンダルに贈り物をした。それが[一本の]黒い角をもった黄色い野うさぎであった<ref name="moor"/>{{Refn|group="注"|以上ビルは・ムーアによる要約。「アル=ミラージ」等の動物名はみえない。要約は2本の底本に基づく。ひとつは[[ワシントンD.C.]]市[[フリーア美術館]]蔵本(FGA 54写本 第61葉表)で、これは{{仮リンク|フリードリヒ・ザーレ|en|Friedrich Sarre|label=ザーレ家}}旧蔵本に同じである<ref name=badiee/>。もうひとつはサンクトペテルブルク市{{仮リンク|ロシア科学アカデミー東洋古文書研究所|en|Institute of Oriental Manuscripts of the Russian Academy of Sciences|label=東洋古文書研究所}}蔵本(D370写本、第64葉表、西暦1580年/ヒジュラ歴988年作)。}}


== カズウィーニーの記述 ==
上には特定の獣名はみえないが、刊行された稿本にはアル=ミラージと見え、また、あらゆる動物達はアル=ミラージを恐れ、それを一目見ると逃げだすと記述される<ref>{{harvp|Ettinghausen|1950|p=66}}、注29。ヴュステンフェルト編本({{harvp||Wüstenfeld ed.|1849|loc='''1''': 13}} )及びエテドイツ訳({{harvp|Ethé tr.|1868|p=230}})に拠る。{{仮リンク|ダミーリー|en|Al-Damiri}}「動物誌」のカイロ版本(へジュラ歴1319年)も参照している。</ref>。この特徴は、アラブ文献に登場する別の一角獣{{仮リンク|カルカダン|en|Karkadann}}と共通している点だと指摘される{{sfnp|Ettinghausen|1950|p=66}}。
[[File:Al-miraj and Serpent.png|thumb|464x464px|竜(''上'')が食らっている肉塊は硫黄詰めの牛<ref name=moor-sbs464>{{harvp|Moor|2012|p=269}} and note 9</ref>。</br>有角のノウサギ (中央){{right|{{small|— カズヴィーニー宇宙誌の最古本。[[バイエルン州立図書館]]所蔵本。arab. 464写本、第63葉。1280年。}}<ref name=bayerische_staatsbibiothek-LOCdata />}}]]

13世紀の[[アラブ]]、[[ペルシア]]世界の学者、[[ザカリーヤー・カズウィーニー|ザカリーヤ・イブン・ムハンマド・アルカズヴィーニー]](1203–1283)の記した[[宇宙誌]]『被造物の驚異』にて[[イスカンダル]](≈[[アレクサンドロス3世|アレクサンドロス大王]]が、インド洋上のジャジラト・アル=ティニン島([[竜]]の島の意)を訪れたときのエピソードとともに(写本では絵入りで)紹介されている<ref name="moor"/><ref name="ettinghausen"/>{{Refn|group="注"|カズヴィーニー宇宙誌の中世の写本として:
* ミュンヘン本。[[バイエルン州立図書館]]蔵(arab. 464写本、第63葉)<ref name=moor-sbs464/>。1279/1280年あるいは1377年製作{{Refn|group="注"|写本の完成は、著者の晩年の1280年<ref name=bayerische_staatsbibiothek-LOCdata /> (あるいは1279年)との鑑定もあるが<ref name=bayerische_staatsbibiothek/>、1377年との説もある<ref name=bayerische_staatsbibiothek/>}}。最古の写本<ref name=badiee/>。
* {{仮リンク|フリードリヒ・ザーレ|en|Friedrich Sarre|label=ザーレ家}}旧蔵本。原・[[ワシントンD.C.]]市[[フリーア美術館]]蔵本(FGA 54写本 第61葉表)。推定15世紀作<ref name=badiee/>。
* サンクトペテルブルク本。{{仮リンク|ロシア科学アカデミー東洋古文書研究所|en|Institute of Oriental Manuscripts of the Russian Academy of Sciences|label=東洋古文書研究所}}蔵本(D370写本、第64葉表)。西暦1580年/ヒジュラ歴988年作<ref name="moor"/>。
* ボルドー市立図書館蔵本。1130写本、第54葉表。1565年作<ref name="bordeaux"/>。</br>
が挙げられる}}。

:(要約)島にはかつて恐ろしい竜が住み着いており、[放っておくと]島民たちの家屋や財産を破壊するので、そうならないよう餌用に毎日2頭の牡牛を供物にささげていた。イスカンダルは島が到着するや島民の訴えを聞き、ある奸計によって竜退治の手助けをおこなった。すなわち牡牛を2頭用意させ、その牛の毛皮をはいで[[硫黄]]と鉄[[鉤]]を詰め込ませた。竜がいざ牡牛を飲み込もうとすると発火し、鉤が体に突きささった。死んだ竜を島民たちは発見し、感謝の印としてイスカンダルに贈り物をした。それが[一本の]黒い角をもった黄色いノウサギであった<ref name="moor"/>。

上述した要約の底本や<ref name="moor"/>、他のカズヴィーニー宇宙誌の写本でも角兎について特定の獣名はみえず、アル=ミラージ等の名称は後世の書写士によって書き加えられたのではないか、との意見もあるのだが<ref name="wiedemann"/>、アル=ミラージ(al-miʿrāj)の名称は、19世紀の版本や訳書では確かに確認できる<ref name="ettinghausen"/><ref name="qazwini-ethe-tr"/>{{Refn|group="注"|{{仮リンク|ヘルマン・エテ|en|Carl Hermann Ethé}})によるドイツ訳ではelmiʿrâg′と表記<ref name="qazwini-ethe-tr"/>。エテの注記では、{{仮リンク|サミュエル・ボシャール|en|Samuel Bochart}}の『神聖動物誌 Hierozoïcon』(1663年)にて既にアルミラージ(miʿrâg')の解説があると指摘<ref name="qazwini-ethe-note"/><ref name="bochart"/> 。フーベルト・ダウニヒト<!--Hubert Daunicht-->の研究(『[[フワーリズミー]]の世界地図における東洋』)にもカズウィーニーの異本からとられた意訳があるが、そこではMu'rāš (Muʿrāsh)[?]{{要検証|date=2021年12月}}と読まれている<ref name="daunicht"/>。}}。

イスカンダルが牛皮に詰めさせたのが"硫黄と鉄鉤"のみという部分は、異本ではより雑多な材料の配合となっており、[[ロジン]](植物樹脂)か[[ピッチ (樹脂)|ピッチ]]{{efn2|エテ訳では"[[:de:Fichtenharz|Fichtenharz]]"で<ref name="qazwini-ethe-tr"/>、直訳すると「(マツ科の)[[トウヒ属]]の樹脂」という意味になるが、じっさいは[[天然樹脂|植物樹脂]]の総称である。ダウニヒトの意訳では"[[:de:Pech (Stoff)|Pech]]"すなわちピッチであるが<ref name="daunicht"/>、ウィードマンの訳では[[タール]]({{lang-fr|{{linktext|goudron}}}})<ref name="wiedemann"/>}})、[[硫黄]]、[[石灰]]、[[ヒ素]]らの混合物に鉤を加えたものであった、と記述されている<ref name="qazwini-ethe-tr"/>。{{Refn|group="注"|参考までに該当箇所をエテ訳から重訳する:
:(訳出)竜の島(ジャジラト・アル=ティニン)。広大、かつ居住人口がおり山林ゆたかな島で、城は高い壁に囲まれる。あるとき巨大な竜が出現し、住民がイスカンダルに助けを求めてきた。羊やラクダは屠られ、毎日2頭の牡牛を竜のいる近くの場所に置いていく習わしとなっていた。竜は黒雲のごとくして現れ、目をまばゆい雷光のように閃かせ、口から火が放ち、2頭を食らってはねぐらに帰っていくのである。これを聞いたイスカンダルは、2頭の牡牛を用意せよと命じ、その皮を剥ぎ、中身としてロジン(植物樹脂)、硫黄、石灰、ヒ素を詰め、鉄製の[[鉤]]を(多数)その混合物に括りつけさせた。その(デコイの二頭の牛)を指定の場所に置かせると、竜が出てきて慣例通りそれらを呑み込みかえっていった。だが、その胃の中で火が発火、鉄鉤は消火器内に引っかかり、竜は死に果てた。人々は竜の死を喜び、イスカンダルに素晴らしい贈答品を与えた。その品々のなかにはアル=ミラージという[[ノウサギ]]に似た黄色い動物がおり、一本だけ黒い角が生えていた。この獣を一目みるとあらゆる野生動物は逃げ出すのだという<ref name="qazwini-ethe-tr"/>。
}}

また、あらゆる動物達はアル=ミラージを恐れ、それを一目見ると逃げだすと記述される<ref name="ettinghausen"/>。この特徴は、アラブ文献に登場する別の一角獣{{仮リンク|カルカダン|en|Karkadann}}と共通している点だと指摘される{{sfnp|Ettinghausen|1950|p=66}}。

=== 異本 ===


『被造物の驚異』は当時人気を博し、数多くの写本が作られたためにアルミラージの描写、イラストともに様々なバリエーションが存在する。
『被造物の驚異』は当時人気を博し、数多くの写本が作られたためにアルミラージの描写、イラストともに様々なバリエーションが存在する。
例えばザーレ家旧蔵本(現・フリーア美術館蔵本)の絵は文章に忠実な角兎に描かれているが、ベルリン本{{efn2|ベルリン市{{仮リンク|イスラム美術館 (ベルリン)|de|Museum für Islamische Kunst (Berlin)|label=イスラム美術館}}(元[[ベルリン美術館]]イスラム館)蔵本。}}の絵は雑で"どちらかというと獰猛な犬に似た合成獣"に描かれているとされる<ref name="ettinghausen"/>。最古写本では{{efn2|同じ紙面に角兎も描れているが、ムーアが解説していない。}}竜は肉塊のようなものを食らっている描写である{{sfnp|Moor|2012|p=269}}。
例えばザーレ家旧蔵本(現・フリーア美術館蔵本)の絵は文章に忠実な角兎に描かれているが、ベルリン本{{efn2|ベルリン市{{仮リンク|イスラム美術館 (ベルリン)|de|Museum für Islamische Kunst (Berlin)|label=イスラム美術館}}(元[[ベルリン美術館]]イスラム館)蔵本。}}の絵は雑で"どちらかというと獰猛な犬に似た合成獣"に描かれているとされる<ref name="ettinghausen"/>。最古写本では{{efn2|同じ紙面に角兎も描れているが、ムーアが解説していない。}}竜は肉塊のようなものを食らっている描写である{{sfnp|Moor|2012|p=269}}。


== イドリースィーの記述 ==
== 起源 ==

アルミラージの由来となったのは皮膚病に感染したウサギだという。皮膚病を伝染させる[[ウイルス]]に感染したウサギは額に[[腫瘍]]が発生し、赤く膨れて隆起する。隆起、膨張した額の腫瘍はまるで角が生えているような錯覚を見せ、またおどろおどろしさを醸成する。そこから猛獣アルミラージの伝説が生まれていったと言われる。
角兎については'''アラージ'''(ʿarāj{{efn2|元の典拠であるフランス訳{{lang|fr|a'radj}}という表記が使われる( {{仮リンク|ピエール・アメデ・ジョーベール|en|Pierre Amédée Jaubert|Jaubert|label=ジョーベール}}による)。}}、{{lang-ar|عرَاج}})という名称で[[イドリースィー]]の地理書『[[ルッジェーロの書|世界横断を望む者の慰みの書』(1154年頃)の稿本に記載されているが、竜が住む島はモスタシャイン[?](<!--Mustashiayn-->{{lang-ar|مستشيين }}{{efn2|フランス訳書では Mostachiin。}}といい、、西アフリカに在することになっている<ref name=idrisi-jaubert/>{{Verify source|date=2022年1月|title=アラビア語表記・カナ表記}}。この稿本によればイスカンダルこと「二つの角を持つ者({{仮リンク|ズー・ル・カルナイン|en|Dhu'l-Qarnayn}})」は、同様の作戦("油、硫黄、石灰、ヒ素"の混合物を皮に詰め、鉄鉤をつけさせた囮の牛)で竜を攻略、そして[[劇物]]は"はらわた([[消化器官]])の中で発火し、[怪物]は死に果てた"<!--"s'enflamma dans ses entrailles et il expira"--><ref name=idrisi-jaubert/><ref name=idrisi-jaubert/>。

近年の編訳本では、'''バクラージ''' (baqrāj{{efn2|フランス訳表記は bagrāğ (Hadj Sadokの訳)・}}、{{lang-ar|{{linktext|بقراج}}}})という名称が記される{{Verify source|date=2022年1月|title=アラビア語表記・カナ表記}}。やはり黄金のような山吹色の毛並みをした、一角兎のような獣であることに変わりはなく、現れるとあらゆる動物を退散させると伝えている。しかし、イスカンダルがこれを入手した事情が異なる。王はラーカー(Lāqā)という島を訪れ、そこで[[沈香]]を採取したが、はじめ香りを放たなかった。しかし島を離れるやその積荷は馥郁たる黒い香木となり、そのなかの厳選品で交易をして得た品々のなかにこの角兎があった<ref name=idrisi-hadi_sadok/>。

== その他 ==

また '''アル=マハラージ'''(al-Maharāj{{efn2|al-Maharāǧが、典拠でのローマ字表記。}}、{{lang-ar|المهرَاج}})という名で、{{仮リンク|イブン・アル=ワルディー|en|Ibn al-Wardi}}の『驚異の真珠』に転載されている{{Verify source|date=2022年1月|title=アラビア語表記・カナ表記}}<ref>{{harvp|Daunicht|1968|p=501, note 1}}</ref>{{Refn|group="注"|El-Mua'râdjというローマ字表記がラテン語訳にみえる<ref name=ibn-al-wardi-latin/>。}}

[[File:Al-Miraj and Serpent from Walters Manuscript.png|thumb|272x272px|タニン島の竜と角兎<!--Dragon of Tannin Island and Horned Rabbit-->
{{right|{{small|— 『被造物の驚異の[トルコ語]訳本』{{efn2|''Tercüme-yi ʿAcāʾib ül-maḫlūḳāt'' {{lang|ar|ترجمه عجائب المخلوقات}}.}}。米[[メリーランド州]][[ボルチモア]]市[[ウォルターズ美術館]]蔵 W.659写本、第155葉裏。1717年作}}{{sfnp|Ettinghausen|1950|p=10}}<ref name="walters" />}}。]]

カズヴィーニーの宇宙誌のトルコ語訳の写本もあり(18世紀、ウォルターズ美術館蔵本){{Refn|group="注"|現在データベースでは"12 Ramaḍān 1121 AH / 1717 CE"の成立とあるが<ref name="walters" />、エティングハウゼンはウォルターズ・ギャラリー蔵本は1709年/へジュラ歴1121年の作と記述する。}}{{sfnp|Ettinghausen|1950|p=10}}、竜の島と角兎のエピソードも挿絵入りで掲載される(上図)。また、[[オスマン帝国]]時代の歴史家{{仮リンク|イブン・ズンブル|de|Ibn Zunbul}}著『世界の法則』(Qanun al-Dunya)にも記載があり、イスタンブール本([[トプカプ宮殿]]博物館附属図書館蔵 R 1638写本)の 第15葉裏にその挿絵がみられる<ref>{{harvp|Moor|2012}} {{URL|1=https://books.google.com/books?id=WGvWp5XDuikC&pg=PA278 |2=p. 278, Fig. 6}}</ref>。

== イスカンダルの竜退治 ==

イスカンダルが、硫黄などの[[危険物]]を詰めた牛を囮にして竜退治を行ったという事績は、カズウィーニ宇宙誌などのいわば自然科学の文献以外にも、[[叙事詩]]・中世[[ロマンス]]のたぐいの文学に記述されている。

=== ペルシア叙事詩 ===
竜の島で竜退治を行ったとカズウィーニに記されるイスカンダルは、[[フェルドウスィー]]の叙事詩『[[シャー・ナーメ]](王書)』に列記されるペルシアの王のひとりとされていることが某論文に指摘される{{sfnp|Moor|2012|p=269}}。『シャー・ナーメ』では、イスカンダル(シカンダル)王が、5頭の牡牛の中に毒と[[原油|油]](から蒸留した[[ナフサ]]){{Refn|group="注"|ウォーナー訳では"naphtha"。現代アラビア語やペルシア語ではナフス({{lang|ar|{{linktext|نفت}}}})は「原油」の意味となっているが(オグデン論文では"oil")、古代においては"原油から{{仮リンク|分別 (化学)|en|Fractionation|label=分別}}された発火性の高い軽質成分、強臭いで、きわめて揮発性のある液体"を指す<ref name=mayor/>。。}}を詰め込んで膨らませ、山上から投げつけて竜に喰わせた<ref name="ogden"/><ref name="ferdowsi-warner-tr"/>。

=== 古典シリア語版 ===
イスラム教圏でこのイスカンダル竜退治伝説が知られるようになった源流は、7世紀に[[シリア語]]に起こされた『[[アレクサンドロス・ロマンス]]』(偽カリステネス)だとされる<ref name="ogden"/>{{シリア語版以外にこのエピソードが残っていないが、その祖本としてかつて古いギリシア語版(*δ本)が存在し、そこには竜退治物語が所収されていたとみなされる<ref name=nawotka/>。}}。同作においては、アレクサンドロスが<ref>シリア語の名前はローマ字表記すると Aleksandros であり、シリア語題名にみえる。また、{{harvp|Budge|1889|p=xx}}にもシリア語が記述される。</ref>、小ぶりの牛を生贄にさせるなど数日間のじらしをかけて竜を攻略し、ついに腹をすかせた竜のために大き目の牡牛を用意させ、身をそぎ、[[石膏]]、ピッチ([[瀝青]])、鉛、硫黄を詰めさせ、それを食らわせた。すると竜は頭をどっと地につけて、口をあんぐりと開けたので、その中に熱した真鍮の玉を放り込ませると、竜は息絶えた<ref name="ogden"/><ref name="budge"/>。

=== トルコ語の叙事詩 ===

後の時代に、[[オスマン帝国]]の詩人{{仮リンク|アフメディー|tr|Ahmedî}} (1413年没)が{{仮リンク|イスケンデルナーメ|tr|İskendernâme (Ahmedî)|label=『イスケンデルナーメ』}}を作詩した。これは『シャー・ナーメ』や、[[ニザーミー]]の{{仮リンク|イスカンダル・ナーメ|de|İIskandernāme|label=『イスカンダル・ナーメ』}}らペルシア文学を素材としたとされる。このアフメディーの詩においては、イスケンデル({{lang|tr|İskender}})が竜退治の際に鉤を武器とするが、状況は多少異なる。すなわち、千本の毒塗り鉤を牛牽き戦車にとりつけ、解毒剤を服用したのち竜に突進した。竜は頭部や口の周りに致命傷を受けた<ref name="bagci"/>。同様な戦略は、『シャー・ナーメ』の{{仮リンク|イスファンディヤール|en|Esfandiyār}}王子が使うと指摘されるが、王子は多数の剣を突き立てた馬牽き馬車を使って竜に立ち向かう<ref name="bagci"/>。


== 注釈 ==
== 注釈 ==
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{{Reflist|30em|refs=
{{Reflist|30em|refs=
<ref name=badiee>{{cite journal|last=Badiee |first=Julie |author-link=<!--Julie Badiee-->|title=The Sarre Qazwīnī: An Early Aq Qoyunlu Manuscript? |journal=Ars Orientalis |volume=14 |date=1984 |url=https://books.google.com/books?id=5R7v9726QlMC&q=%22Miraculous+Hare%22 |pages=93, endnote 4<!--97–113--> |jstor=4629331}}</ref>
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<ref name="bayerische_staatsbibiothek">{{Cite web|url=https://www.digitale-sammlungen.de/en/view/bsb00045957?page=130 |title=Qazwīnī, Zakarīyā Ibn-Muḥammad al-: Kitāb ʿAǧāʾib al-maḫlūqāt wa-ġarāʾib al-mauǧūdāt |last=Qazwini |first=Zakariya Ibn Muhammad |website=Münchener DigitalisierungsZentrum Digitale Biliothek |date=1279–1377|page=63r |accessdate=2021-12-31}}</ref>
<ref name="bayerische_staatsbibiothek">{{Cite web|url=https://www.digitale-sammlungen.de/en/view/bsb00045957?page=130 |title=Qazwīnī, Zakarīyā Ibn-Muḥammad al-: Kitāb ʿAǧāʾib al-maḫlūqāt wa-ġarāʾib al-mauǧūdāt |last=Qazwini |first=Zakariya Ibn Muhammad |website=Münchener DigitalisierungsZentrum Digitale Biliothek |date=1279–1377|page=63r |accessdate=2021-12-31}}</ref>


<ref name="bayerische_staatsbibiothek-LOCdata">{{Cite web|url=https://www.wdl.org/en/item/8962/ |title=The Wonders of Creation |last=Qazwini |first=Zakariya Ibn Muhammad |website=Library of Congress |date=1260–1280|pages=131|accessdate=2021-12-31}}</ref>
<ref name="bayerische_staatsbibiothek-LOCdata">{{Cite web|url=https://www.wdl.org/en/item/8962/ |title=The Wonders of Creation |last=Qazwini |first=Zakariya Ibn Muhammad |website=Library of Congress |date=1260–1280|pages=131|accessdate=2021-12-31}}</ref>

<ref name="bochart">{{cite book|last=Bochart |first=Samuel |author-link=:en:Samuel Bochart |editor-last=Rosenmueller |editor-first= Ernst Friedrich Carl |editor-link=:en:Ernst Friedrich Karl Rosenmüller |title=Hierozoicon, sive bipartitum opus de animalibus S. Scripturae.. |volume=3 |place=Leipzig |publisher=[[:en:Weidmannsche Buchhandlung|Weidmann]] |year=1796 |orig-year=1663 |url=https://books.google.com/books?id=7dxjgW6V_F4C&pg=PA851 |page=851}} {{in lang|la}}</ref>


<ref name="bordeaux">{{Cite web|url=https://bibliotheque.bordeaux.fr/in/imageReader.xhtml?id=h::BordeauxBNSA_1256&pageIndex=106 |title=Les merveilles de la création et les curiosités des choses existantes. Traité de cosmographie et d'histoire naturelle de Qazwînî (Ms 1130) |last=Qazwini |first=Zakariya Ibn Muhammad |website=Bibliothèque municipale de Bordeaux |date=1565 |page=54r|accessdate=2021-12-31}}</ref>
<ref name="bordeaux">{{Cite web|url=https://bibliotheque.bordeaux.fr/in/imageReader.xhtml?id=h::BordeauxBNSA_1256&pageIndex=106 |title=Les merveilles de la création et les curiosités des choses existantes. Traité de cosmographie et d'histoire naturelle de Qazwînî (Ms 1130) |last=Qazwini |first=Zakariya Ibn Muhammad |website=Bibliothèque municipale de Bordeaux |date=1565 |page=54r|accessdate=2021-12-31}}</ref>


<ref name="budge">{{cite book|editor-last=Budge |editor-first=Ernest A. Wallis |editor-link=:en:E. A. Wallis Budge |title=Tašʻítā d-Aleksandros bar Pílípos Malkā d-Maqedonāye |trans-title=The History of Alexander the Great, Being the Syriac Version of the Pseudo-Callisthenes |volume=1 |location=Cambridge |publisher=The University Press |date=1889 |url=https://books.google.com/books?id=_14LmFqhc8QC&pg=PA108 |page=108}}</ref>
<ref name="ettinghausen">{{cite book|last=Ettinghausen |first=Richard |authorlink=:en:Richard Ettinghausen |others= |title=The Unicorn |location=Washington, D.C. |publisher=Smithsonian Institution |year=1950 |url=http://www.rhinoresourcecenter.com/pdf_files/131/1311808615.pdf?view |pages=66–67, Plate 44<!--PDF版では 270ページ目だが、紙面にそうとは印刷されていない--> |series=Freer Gallery of Art occasional papers. vol. 1. no. 3 / Studies in Muslim Iconography I |isbn=9781258518929}} [https://asia.si.edu/wp-content/uploads/2017/06/ettinghausen-unicorn.pdf 全画像ファイル]@スミスソニアン<!--スミスソニアン asia.si.edu のファイルはバイト数が大きくロードが重いが、検索もでき、また画像部も含む。--><!--https://books.google.com/books?id=qB_6u0Zz-AQC&q=%22yellow+hare+%22 --></ref>


<ref name="daunicht">{{citation |last=Daunicht |first=Hubert K. |author-link=<!--Hubert K. Daunicht--> |title=Der Osten nach der Erdkarte al-Ḫuwārizmīs: Beiträge zur historischen Geographie und Geschichte Asiens '' |trans-title=The East in the al-Khwārizmī World Map: A Contribution to Historical Geography and Asian History |volume=2 |location=Bonn |publisher=s.n.<!--publisher not identified,-->|date=1968 |url=https://books.google.com/books?id=BXT5c7Rwv5AC&q=haken |pages=500–502}}. {{in lang|de}}</ref>
<ref name=moor>{{harvp|Moor|2012|p=269}} and note 8</ref>


<ref name="ettinghausen">エッティングハウゼンによる版本解説({{harvp|Ettinghausen|2012|p=269}}; note 29)。ヴュステンフェルト編本({{harvp||Wüstenfeld ed.|1849|loc='''1''': 13}} )及びエテのドイツ訳本({{harvp|Ethé tr.|1868|p=230}})に拠る。{{仮リンク|ダミーリー|en|Al-Damiri}}「動物誌」のカイロ版本(へジュラ歴1319年)も参照している。</ref>
<ref name="wiedemann">{{cite web|last=Wiedemann |first=Michel |authorlink=<!--Michel Wiedemann--> |others=Claude Saint-Girons |title=Les lièvres cornus, une famille d'animaux fantastiques |date=28 March 2009 |url=http://symposium.over-blog.fr/article-29574343.html |access-date=2021-12-28 |accessdate=2021-12-31|lang=fr}}</ref>

<ref name="ferdowsi-warner-tr">{{citation|ref={{SfnRef|Warner|Warner tr.|1912}}|last=Ferdowsi |first= |author-link=:en:Ferdowsi |others=Warner, Arthur George; Warner, Edmond Warner (trr.) |chapter=§27 How Sikandar reached the Land of the Narmpái, how he fought and was victorious, how he slew a Dragon, ascended a mountain, and was forewarned of his own Death |title= The Sháhnáma of Firdausí |volume=1 |location= |publisher=Kegan Paul, Trench, Trübner Co., Ltd. |date=1912 |chapter-url=https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.82412/page/n163/mode/2up |pages=150–153}}. [https://books.google.com/books?id=CixkKv_ywoMC&pg=PA147 Reprinted 2004], Routeledge.</ref>

<ref name=ibn-al-wardi-latin>{{citation |last=Ibn-al-Wardī |first=ʻUmar Ibn-Muẓaffar |author-link=:en:Ibn al-Wardi |chapter=2 |title=Fragmentum libri Margarita mirabilium: Prooemium, Caput II., III., IV. et V. continens, |volume=1 |location= |publisher=Oriental Department of the [[:en:University of Bonn|]] |date=1968 |url=https://books.google.com/books?id=WiU-AAAAcAAJ&pg=PA58&q=leporis |pages=57–58}}. {{in lang|la}}</ref>

<ref name=idrisi-hadi_sadok>{{cite book|last=Idrisi |first=Muhammad al-|author-link=:en:Muhammad al-Idrisi |others=Hadj-Sadok, |Mohammed (tr.)<!--|translator-last=Hadj-Sadok |translator-first=Mohammed -->|title=al-Maghrib al-ʻArabī min Kitāb Nuzhat al-mushtāq<!--Nuzhat al Muštaq. 6e siècle de l'hégire (12e après J.-C.)--> |script-title=ar:المغرب العربي من كتاب نزهة المشتاق |location=Paris |publisher=Publisud |year=1983 |url=https://books.google.com/books?id=mS0aAQAAMAAJ&q=lièvre |pages=60–61 |isbn=<!--2866000439, -->9782866000431 |oclc=22203340|quote={{lang|ar|دابة في خلق الأرنب يبرق شعره في صفرة كما يبرق الذهب ، يسمى بقراج وفي رأسه قرن واحد أسود ، اذا رأته الأسود وسباع الوحش والطير وكل دابة هربت منه}} [ノウサギの形の動物で、その毛は黄金が輝くように黄色く輝いていた。名を baqrāj といい、頭には黒い角があった。獅子/猛獣も獣も鳥も、すべての動物がそれを見ると逃げだすのだ]。}}</ref>

<ref name=idrisi-jaubert>{{cite book|last=Idrisi |first=Muhammad al-|author-link=:en:Muhammad al-Idrisi |translator-last=Jaubert |translator-first=P. Amédée |translator-link=:en:Pierre Amédée Jaubert |others=|title=Geographie d'Édrisi<!--Kitāb nuzhat al-muštāq fī iẖtirāq al-afāq: 1--> |script-title=ar:المغرب العربي من كتاب نزهة المشتاق |volume=1 |location=Paris |publisher=Imprimerie royale |year=1836 |url=https://books.google.com/books?id=JY4p5HZq-EsC&pg=PA200 |pages=198–200}}</ref>

<ref name=mayor>{{cite book|last=Mayor |first=Adrienne |author-link=:en:Adrienne Mayor |title=Greek Fire, Poison Arrows, and Scorpion Bombs: Biological and Chemical Warfare in the Ancient World |location=Woodstock, NY |publisher=Overlook Duckworth |date=2009 |url=https://books.google.com/books?id=QysqAQAAIAAJ&q=naphtha |page=227 |isbn=0715638521<!--, 9780715638521-->}} [https://books.google.com/books?id=M_v57ETfcvQC&lpg=PP1 digital copy]</ref>

<ref name="moor">ムーアによる写本要約({{harvp|Moor|2012|p=269}}; note 8)。2本の底本(フリーア美術館蔵本=ザーレ家旧蔵本、およびサンクトペテルブルク本)に基づく。</ref>

<ref name=nawotka>{{cite book|last=Nawotka |first= Krzysztof |author-link=<!--Krzysztof Nawotka--> |title=Syriac and Persian Versions of the Alexander Romance |editor-last=Moore |editor-first=Kenneth Royce |editor-link=<!--Kenneth Royce Moore--> |work=Brill's Companion to the Reception of Alexander the Great |location=|publisher=BRILL |year=2018 |url=https://books.google.com/books?id=ZJJyDwAAQBAJ&q=+Kraków&pg=PA534 |page=534<!--524–542-->|isbn=<!--9004359931, -->9789004359932}}</ref>

<ref name="ogden">{{cite book|last=Ogden |first=Daniel |author-link=<!--Daniel Ogden--> |title=Sekandar, Dragon-Slayer |editor1-last=Stoneman |editor1-first=Richard |editor1-link=<!--Richard Stoneman--> |editor2-last=Erickson |editor2-first=Kyle |editor2-link=<!--Kyle Erickson-->|editor3-last=Netton|editor3-first=Ian Richard |editor3-link=:en:Ian Richard Netton |work=The Alexander Romance in Persia and the East |location=Groningen |publisher=Barkhuis |year=2012 |url=https://books.google.com/books?id=gDPgh3IQumAC&pg=PA278 |pages=277–279 |isbn=<!--9491431048, -->9789491431043}}, citing Davis tr. (2006), pp. 506–508 and {{harvp|Warner|Warner tr.|1912|loc='''VI''': 506–508}} of Ferdowsi.</ref>

<ref name="qazwini-ethe-note">エテ訳本{{harvp|Ethé tr.|1868}}、フライシャーによる巻末注、 [https://books.google.com/books?id=qyc-AAAAcAAJ&pg=PA475 p. 475]</ref>
<ref name="qazwini-ethe-tr">エテによるドイツ訳 {{harvp|Ethé tr.|1868|pp=230–231}}</ref>

<ref name="walters">{{cite web |url=https://openn.library.upenn.edu/Data/0020/Data/WaltersManuscripts/html/W659/description.html |title=fol. 155b: Dragon of Tannīn Island and Horned Rab[b]it |work=Walters Ms. W.659, Turkish version of the Wonders of creation |publisher=The Digital Walters |last=Qazwini|first=Zakariya Ibn Muhammad|last2=ibn Muḥammad Shākir Rūzmah-ʾi Nāthānī |first2=Muḥammad (scribe)|location= |access-date=2021-12-28}}. Also [https://art.thewalters.org/detail/84067/dragon-of-tannin-island-and-horned-rabit/ description page]@Walters Museum</ref>

<ref name="wiedemann">{{cite web|last=Wiedemann |first=Michel |authorlink=<!--Michel Wiedemann--> |others=Claude Saint-Girons |title=Les lièvres cornus, une famille d'animaux fantastiques |date=28 March 2009 |url=http://symposium.over-blog.fr/article-29574343.html |access-date=2021-12-28 |lang=fr}}</ref>
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* {{cite book|last=Moor|first=Bilha |author-link=<!--Bilha Moor--> |title=''Shahnama'' Kings and Heroes in 'Aja'ib al-Makhluqat Illustrated Manuscripts |editor1-last=Melville |editor1-first=Charles |editor1-link=:en:Charles P. Melville |editor2-last=van den Berg |editor2-first=Gabrielle |editor2-link=<!--Gabrielle van den Berg--> |work=Shahnama Studies II: The Reception of Firdausi’s Shahnama |location= |publisher=BRILL |year=2012 |url=https://books.google.com/books?id=WGvWp5XDuikC&pg=PA269 |pages=269–270; Fig. 6 (p. 278); Fig. 1 (Plate 23) |isbn=<!--9004211276, -->9789004211278}}


* {{cite book|ref={{SfnRef|Ethé tr.|1868}}|last=al-Qazwīnī |first=Zakariyyā ibn Muḥammad ibn Maḥmūd |others=Ethé, Hermann (trans.) |title=Die Wunder der Schöpfung: Nach der Wüstenfeldschen Textausgabe, mit Benutzung und Beifügung der Reichhaltigen Anmerkungen und erbesserungen des Herrn Prof. Dr. Fleischer |volume=1 |place=Leipzig |publisher=Fues’s Verlag |year=1868 |url=https://books.google.com/books?id=qyc-AAAAcAAJ&pg=PA230 |pages=230–231}} {{in lang|de}}
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* [[ドラゴンクエストシリーズ]] - 「アルミラージ」という一本角を持つ兎のモンスターが登場する。
* [[ドラゴンクエストシリーズ]] - 「アルミラージ」という一本角を持つ兎のモンスターが登場する。



2022年1月3日 (月) 13:25時点における版

"一本の黒い角をもつ兎のような黄色い獣"[1]
カズヴィーニー著の宇宙誌。ボルドー市立図書館蔵本。1565年作の写本[2]

アルミラージまたはアル=ミラージアラビア語: المعراج al-mi'raj)は[注 1]、角の生えた兎(ノウサギ)に似た伝説上の動物。インド洋に浮かぶとされる「竜の島」(ジャジラト・アル=ティニン Jazirat al-Tinnin)に棲息すると言われる。

イスカンダルことアレクサンドロス大王)がこの島で竜の被害を聞き、生贄用の牡牛を、硫黄鉄鉤を詰め込んだ牛皮のダミーにすり替え、竜退治に成功、報酬のひとつとしてこの兎を受け取った。また、この兎を目にすると、あらゆる野獣は逃げ出すと伝わる。

よく知られる原典はカズヴィーニーの宇宙誌(13世紀)であるが、中世の写本には特にこの角兎の名称は記述されないとされる。

カズウィーニーの記述

竜()が食らっている肉塊は硫黄詰めの牛[3]
有角のノウサギ (中央)
— カズヴィーニー宇宙誌の最古本。バイエルン州立図書館所蔵本。arab. 464写本、第63葉。1280年頃。[4]

13世紀のアラブペルシア世界の学者、ザカリーヤ・イブン・ムハンマド・アル=カズヴィーニー(1203–1283)の記した宇宙誌『被造物の驚異』にてイスカンダル(≈アレクサンドロス大王)が、インド洋上のジャジラト・アル=ティニン島(の島の意)を訪れたときのエピソードとともに(写本では絵入りで)紹介されている[5][6][注 3]

(要約)島にはかつて恐ろしい竜が住み着いており、[放っておくと]島民たちの家屋や財産を破壊するので、そうならないよう餌用に毎日2頭の牡牛を供物にささげていた。イスカンダルは島が到着するや島民の訴えを聞き、ある奸計によって竜退治の手助けをおこなった。すなわち牡牛を2頭用意させ、その牛の毛皮をはいで硫黄と鉄を詰め込ませた。竜がいざ牡牛を飲み込もうとすると発火し、鉤が体に突きささった。死んだ竜を島民たちは発見し、感謝の印としてイスカンダルに贈り物をした。それが[一本の]黒い角をもった黄色いノウサギであった[5]

上述した要約の底本や[5]、他のカズヴィーニー宇宙誌の写本でも角兎について特定の獣名はみえず、アル=ミラージ等の名称は後世の書写士によって書き加えられたのではないか、との意見もあるのだが[1]、アル=ミラージ(al-miʿrāj)の名称は、19世紀の版本や訳書では確かに確認できる[6][9][注 4]

イスカンダルが牛皮に詰めさせたのが"硫黄と鉄鉤"のみという部分は、異本ではより雑多な材料の配合となっており、ロジン(植物樹脂)かピッチ[注 5])、硫黄石灰ヒ素らの混合物に鉤を加えたものであった、と記述されている[9][注 6]

また、あらゆる動物達はアル=ミラージを恐れ、それを一目見ると逃げだすと記述される[6]。この特徴は、アラブ文献に登場する別の一角獣カルカダン英語版と共通している点だと指摘される[13]

異本

『被造物の驚異』は当時人気を博し、数多くの写本が作られたためにアルミラージの描写、イラストともに様々なバリエーションが存在する。 例えばザーレ家旧蔵本(現・フリーア美術館蔵本)の絵は文章に忠実な角兎に描かれているが、ベルリン本[注 7]の絵は雑で"どちらかというと獰猛な犬に似た合成獣"に描かれているとされる[6]。最古写本では[注 8]竜は肉塊のようなものを食らっている描写である[14]

イドリースィーの記述

角兎についてはアラージ(ʿarāj[注 9]アラビア語: عرَاج‎)という名称でイドリースィーの地理書『[[ルッジェーロの書|世界横断を望む者の慰みの書』(1154年頃)の稿本に記載されているが、竜が住む島はモスタシャイン[?](アラビア語: مستشيين [注 10]といい、、西アフリカに在することになっている[15][要検証]。この稿本によればイスカンダルこと「二つの角を持つ者(ズー・ル・カルナイン英語版)」は、同様の作戦("油、硫黄、石灰、ヒ素"の混合物を皮に詰め、鉄鉤をつけさせた囮の牛)で竜を攻略、そして劇物は"はらわた(消化器官)の中で発火し、[怪物]は死に果てた"[15][15]

近年の編訳本では、バクラージ (baqrāj[注 11]アラビア語: بقراج‎)という名称が記される[要検証]。やはり黄金のような山吹色の毛並みをした、一角兎のような獣であることに変わりはなく、現れるとあらゆる動物を退散させると伝えている。しかし、イスカンダルがこれを入手した事情が異なる。王はラーカー(Lāqā)という島を訪れ、そこで沈香を採取したが、はじめ香りを放たなかった。しかし島を離れるやその積荷は馥郁たる黒い香木となり、そのなかの厳選品で交易をして得た品々のなかにこの角兎があった[16]

その他

また アル=マハラージ(al-Maharāj[注 12]アラビア語: المهرَاج‎)という名で、イブン・アル=ワルディー英語版の『驚異の真珠』に転載されている[要検証][17][注 13]

タニン島の竜と角兎
— 『被造物の驚異の[トルコ語]訳本』[注 14]。米メリーランド州ボルチモアウォルターズ美術館蔵 W.659写本、第155葉裏。1717年作[19][20]

カズヴィーニーの宇宙誌のトルコ語訳の写本もあり(18世紀、ウォルターズ美術館蔵本)[注 15][19]、竜の島と角兎のエピソードも挿絵入りで掲載される(上図)。また、オスマン帝国時代の歴史家イブン・ズンブルドイツ語版著『世界の法則』(Qanun al-Dunya)にも記載があり、イスタンブール本(トプカプ宮殿博物館附属図書館蔵 R 1638写本)の 第15葉裏にその挿絵がみられる[21]

イスカンダルの竜退治

イスカンダルが、硫黄などの危険物を詰めた牛を囮にして竜退治を行ったという事績は、カズウィーニ宇宙誌などのいわば自然科学の文献以外にも、叙事詩・中世ロマンスのたぐいの文学に記述されている。

ペルシア叙事詩

竜の島で竜退治を行ったとカズウィーニに記されるイスカンダルは、フェルドウスィーの叙事詩『シャー・ナーメ(王書)』に列記されるペルシアの王のひとりとされていることが某論文に指摘される[14]。『シャー・ナーメ』では、イスカンダル(シカンダル)王が、5頭の牡牛の中に毒と(から蒸留したナフサ[注 16]を詰め込んで膨らませ、山上から投げつけて竜に喰わせた[23][24]

古典シリア語版

イスラム教圏でこのイスカンダル竜退治伝説が知られるようになった源流は、7世紀にシリア語に起こされた『アレクサンドロス・ロマンス』(偽カリステネス)だとされる[23]{{シリア語版以外にこのエピソードが残っていないが、その祖本としてかつて古いギリシア語版(*δ本)が存在し、そこには竜退治物語が所収されていたとみなされる[25]。}}。同作においては、アレクサンドロスが[26]、小ぶりの牛を生贄にさせるなど数日間のじらしをかけて竜を攻略し、ついに腹をすかせた竜のために大き目の牡牛を用意させ、身をそぎ、石膏、ピッチ(瀝青)、鉛、硫黄を詰めさせ、それを食らわせた。すると竜は頭をどっと地につけて、口をあんぐりと開けたので、その中に熱した真鍮の玉を放り込ませると、竜は息絶えた[23][27]

トルコ語の叙事詩

後の時代に、オスマン帝国の詩人アフメディートルコ語版 (1413年没)が『イスケンデルナーメ』トルコ語版を作詩した。これは『シャー・ナーメ』や、ニザーミー『イスカンダル・ナーメ』ドイツ語版らペルシア文学を素材としたとされる。このアフメディーの詩においては、イスケンデル(İskender)が竜退治の際に鉤を武器とするが、状況は多少異なる。すなわち、千本の毒塗り鉤を牛牽き戦車にとりつけ、解毒剤を服用したのち竜に突進した。竜は頭部や口の周りに致命傷を受けた[28]。同様な戦略は、『シャー・ナーメ』のイスファンディヤール英語版王子が使うと指摘されるが、王子は多数の剣を突き立てた馬牽き馬車を使って竜に立ち向かう[28]

注釈

  1. ^ その名前は、ムハンマド昇天する際に通った天への道と同じ名前である。
  2. ^ 写本の完成は、著者の晩年の1280年[4] (あるいは1279年)との鑑定もあるが[7]、1377年との説もある[7]
  3. ^ カズヴィーニー宇宙誌の中世の写本として: が挙げられる
  4. ^ ヘルマン・エテ英語版)によるドイツ訳ではelmiʿrâg′と表記[9]。エテの注記では、サミュエル・ボシャール英語版の『神聖動物誌 Hierozoïcon』(1663年)にて既にアルミラージ(miʿrâg')の解説があると指摘[10][11] 。フーベルト・ダウニヒトの研究(『フワーリズミーの世界地図における東洋』)にもカズウィーニーの異本からとられた意訳があるが、そこではMu'rāš (Muʿrāsh)[?][要検証]と読まれている[12]
  5. ^ エテ訳では"Fichtenharz"で[9]、直訳すると「(マツ科の)トウヒ属の樹脂」という意味になるが、じっさいは植物樹脂の総称である。ダウニヒトの意訳では"Pech"すなわちピッチであるが[12]、ウィードマンの訳ではタールフランス語: goudron[1]
  6. ^ 参考までに該当箇所をエテ訳から重訳する:
    (訳出)竜の島(ジャジラト・アル=ティニン)。広大、かつ居住人口がおり山林ゆたかな島で、城は高い壁に囲まれる。あるとき巨大な竜が出現し、住民がイスカンダルに助けを求めてきた。羊やラクダは屠られ、毎日2頭の牡牛を竜のいる近くの場所に置いていく習わしとなっていた。竜は黒雲のごとくして現れ、目をまばゆい雷光のように閃かせ、口から火が放ち、2頭を食らってはねぐらに帰っていくのである。これを聞いたイスカンダルは、2頭の牡牛を用意せよと命じ、その皮を剥ぎ、中身としてロジン(植物樹脂)、硫黄、石灰、ヒ素を詰め、鉄製のを(多数)その混合物に括りつけさせた。その(デコイの二頭の牛)を指定の場所に置かせると、竜が出てきて慣例通りそれらを呑み込みかえっていった。だが、その胃の中で火が発火、鉄鉤は消火器内に引っかかり、竜は死に果てた。人々は竜の死を喜び、イスカンダルに素晴らしい贈答品を与えた。その品々のなかにはアル=ミラージというノウサギに似た黄色い動物がおり、一本だけ黒い角が生えていた。この獣を一目みるとあらゆる野生動物は逃げ出すのだという[9]
  7. ^ ベルリン市イスラム美術館ドイツ語版(元ベルリン美術館イスラム館)蔵本。
  8. ^ 同じ紙面に角兎も描れているが、ムーアが解説していない。
  9. ^ 元の典拠であるフランス訳a'radjという表記が使われる( ジョーベール英語版による)。
  10. ^ フランス訳書では Mostachiin。
  11. ^ フランス訳表記は bagrāğ (Hadj Sadokの訳)・
  12. ^ al-Maharāǧが、典拠でのローマ字表記。
  13. ^ El-Mua'râdjというローマ字表記がラテン語訳にみえる[18]
  14. ^ Tercüme-yi ʿAcāʾib ül-maḫlūḳāt ترجمه عجائب المخلوقات.
  15. ^ 現在データベースでは"12 Ramaḍān 1121 AH / 1717 CE"の成立とあるが[20]、エティングハウゼンはウォルターズ・ギャラリー蔵本は1709年/へジュラ歴1121年の作と記述する。
  16. ^ ウォーナー訳では"naphtha"。現代アラビア語やペルシア語ではナフス(نفت)は「原油」の意味となっているが(オグデン論文では"oil")、古代においては"原油から分別英語版された発火性の高い軽質成分、強臭いで、きわめて揮発性のある液体"を指す[22]。。

脚注

  1. ^ a b c Wiedemann, Michel (2009年3月28日). “Les lièvres cornus, une famille d'animaux fantastiques”. 2021年12月28日閲覧。
  2. ^ a b Qazwini, Zakariya Ibn Muhammad (1565年). “Les merveilles de la création et les curiosités des choses existantes. Traité de cosmographie et d'histoire naturelle de Qazwînî (Ms 1130)”. Bibliothèque municipale de Bordeaux. p. 54r. 2021年12月31日閲覧。
  3. ^ a b Moor (2012), p. 269 and note 9
  4. ^ a b Qazwini, Zakariya Ibn Muhammad (1260–1280). “The Wonders of Creation”. Library of Congress. pp. 131. 2021年12月31日閲覧。
  5. ^ a b c d ムーアによる写本要約(Moor (2012), p. 269; note 8)。2本の底本(フリーア美術館蔵本=ザーレ家旧蔵本、およびサンクトペテルブルク本)に基づく。
  6. ^ a b c d エッティングハウゼンによる版本解説(Ettinghausen (2012), p. 269; note 29)。ヴュステンフェルト編本( & Wüstenfeld ed. (1849), 1: 13 )及びエテのドイツ訳本(Ethé tr. (1868), p. 230)に拠る。ダミーリー英語版「動物誌」のカイロ版本(へジュラ歴1319年)も参照している。
  7. ^ a b Qazwini, Zakariya Ibn Muhammad (1279–1377). “Qazwīnī, Zakarīyā Ibn-Muḥammad al-: Kitāb ʿAǧāʾib al-maḫlūqāt wa-ġarāʾib al-mauǧūdāt”. Münchener DigitalisierungsZentrum Digitale Biliothek. p. 63r. 2021年12月31日閲覧。
  8. ^ a b Badiee, Julie (1984). “The Sarre Qazwīnī: An Early Aq Qoyunlu Manuscript?”. Ars Orientalis 14: 93, endnote 4. JSTOR 4629331. https://books.google.com/books?id=5R7v9726QlMC&q=%22Miraculous+Hare%22. 
  9. ^ a b c d e エテによるドイツ訳 Ethé tr. (1868), pp. 230–231
  10. ^ エテ訳本Ethé tr. (1868)、フライシャーによる巻末注、 p. 475
  11. ^ Bochart, Samuel (1796). Rosenmueller, Ernst Friedrich Carl. ed. Hierozoicon, sive bipartitum opus de animalibus S. Scripturae... 3. Leipzig: Weidmann. p. 851. https://books.google.com/books?id=7dxjgW6V_F4C&pg=PA851  (ラテン語)
  12. ^ a b Daunicht, Hubert K. (1968), Der Osten nach der Erdkarte al-Ḫuwārizmīs: Beiträge zur historischen Geographie und Geschichte Asiens [The East in the al-Khwārizmī World Map: A Contribution to Historical Geography and Asian History], 2, Bonn: s.n., pp. 500–502, https://books.google.com/books?id=BXT5c7Rwv5AC&q=haken . (ドイツ語)
  13. ^ Ettinghausen (1950), p. 66.
  14. ^ a b Moor (2012), p. 269.
  15. ^ a b c Idrisi, Muhammad al- (1836). Geographie d'Édrisi. 1. Paris: Imprimerie royale. pp. 198–200. https://books.google.com/books?id=JY4p5HZq-EsC&pg=PA200 
  16. ^ Idrisi, Muhammad al- (1983). al-Maghrib al-ʻArabī min Kitāb Nuzhat al-mushtāq. Hadj-Sadok,. Paris: Publisud. pp. 60–61. ISBN 9782866000431. OCLC 22203340. https://books.google.com/books?id=mS0aAQAAMAAJ&q=lièvre. "دابة في خلق الأرنب يبرق شعره في صفرة كما يبرق الذهب ، يسمى بقراج وفي رأسه قرن واحد أسود ، اذا رأته الأسود وسباع الوحش والطير وكل دابة هربت منه [ノウサギの形の動物で、その毛は黄金が輝くように黄色く輝いていた。名を baqrāj といい、頭には黒い角があった。獅子/猛獣も獣も鳥も、すべての動物がそれを見ると逃げだすのだ]。" 
  17. ^ Daunicht (1968), p. 501, note 1
  18. ^ Ibn-al-Wardī, ʻUmar Ibn-Muẓaffar (1968), “2”, Fragmentum libri Margarita mirabilium: Prooemium, Caput II., III., IV. et V. continens,, 1, Oriental Department of the [[:en:University of Bonn|]], pp. 57–58, https://books.google.com/books?id=WiU-AAAAcAAJ&pg=PA58&q=leporis . (ラテン語)
  19. ^ a b Ettinghausen (1950), p. 10.
  20. ^ a b Qazwini, Zakariya Ibn Muhammad. “fol. 155b: Dragon of Tannīn Island and Horned Rab[bit]”. Walters Ms. W.659, Turkish version of the Wonders of creation. The Digital Walters. 2021年12月28日閲覧。. Also description page@Walters Museum
  21. ^ Moor (2012) p. 278, Fig. 6
  22. ^ Mayor, Adrienne (2009). Greek Fire, Poison Arrows, and Scorpion Bombs: Biological and Chemical Warfare in the Ancient World. Woodstock, NY: Overlook Duckworth. p. 227. ISBN 0715638521. https://books.google.com/books?id=QysqAQAAIAAJ&q=naphtha  digital copy
  23. ^ a b c Ogden, Daniel (2012). Stoneman, Richard; Erickson, Kyle; Netton, Ian Richard. eds. Sekandar, Dragon-Slayer. Groningen: Barkhuis. pp. 277–279. ISBN 9789491431043. https://books.google.com/books?id=gDPgh3IQumAC&pg=PA278 , citing Davis tr. (2006), pp. 506–508 and Warner & Warner tr. (1912), VI: 506–508 of Ferdowsi.
  24. ^ Ferdowsi (1912), “§27 How Sikandar reached the Land of the Narmpái, how he fought and was victorious, how he slew a Dragon, ascended a mountain, and was forewarned of his own Death”, The Sháhnáma of Firdausí, 1, Warner, Arthur George; Warner, Edmond Warner (trr.), Kegan Paul, Trench, Trübner Co., Ltd., pp. 150–153, https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.82412/page/n163/mode/2up . Reprinted 2004, Routeledge.
  25. ^ Nawotka, Krzysztof (2018). Moore, Kenneth Royce. ed. Syriac and Persian Versions of the Alexander Romance. BRILL. p. 534. ISBN 9789004359932. https://books.google.com/books?id=ZJJyDwAAQBAJ&q=+Kraków&pg=PA534 
  26. ^ シリア語の名前はローマ字表記すると Aleksandros であり、シリア語題名にみえる。また、Budge (1889), p. xxにもシリア語が記述される。
  27. ^ Budge, Ernest A. Wallis, ed (1889). Tašʻítā d-Aleksandros bar Pílípos Malkā d-Maqedonāye [The History of Alexander the Great, Being the Syriac Version of the Pseudo-Callisthenes]. 1. Cambridge: The University Press. p. 108. https://books.google.com/books?id=_14LmFqhc8QC&pg=PA108 
  28. ^ a b Baǧci, Serpi̇l (2004). “Old Images for New Texts and Contexts: Wandering Images in Islamic Book Painting”. Muqarnas 21 (Essays in Honor of J. M. Rogers): 22–23. JSTOR 152334. https://books.google.com/books?id=knVwZW_ogBQC&pg=PA22. 
参考文献

関連項目