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'''ペラグラ'''({{lang-it|Pellagra}})は、[[内分泌学|代謝内分泌疾患]]の一つで、[[ナイアシン]]欠乏症(栄養失調)である。Pellagraは[[イタリア語]]で「[[皮膚]]の痛み」を意味する。
'''ペラグラ'''({{lang-it|Pellagra}})は、[[内分泌学|代謝内分泌疾患]]の一つで、[[ナイアシン]]欠乏症(栄養失調)である。Pellagraは[[イタリア語]]で「[[皮膚]]の痛み」を意味する。栄養不良([[亜鉛]]、[[鉄]]、[[ビタミンB2]]、[[ビタミンB6|B6]])のある者は、ペラグラを発症するリスクが高くなる。[[ニコチンアミド|ニコチン酸アミド]]及びビタミンB群の投与により治療する<ref name=clinicalneurol.48.202 />


== 解説 ==
ナイアシンは[[必須アミノ酸]]のひとつである[[トリプトファン]]から体内で[[生合成]]されるので、トリプトファンが欠乏することでもナイアシンが欠乏し、結果ペラグラを発症する。
ナイアシンは[[必須アミノ酸]]のひとつである[[トリプトファン]]から体内で[[生合成]]されるので、トリプトファンが欠乏することでもナイアシンが欠乏し、結果ペラグラを発症する。


臨床的には、血中トリプトファン濃度の低下を生じていても血中[[ニコチン酸]]濃度の低下を生じない事もある<ref name=jocd.33.477 />。
治療においては、[[ニコチンアミド|ニコチン酸アミド]]及びビタミンB群を経口摂取する。


== 原因 ==
== 原因 ==
ペラグラ[[トウモロコシ]]を主食とする地域でよくみられるが、トウモロコシのナイアシンは[[アルカリ]]で処理すること ([[ニシュタマリゼーション]]) によって吸収されるようになる([[メキシコ]]の[[トルティーヤ]]は良い例である)。ペラグラは季節性で、日差しが強くなるうえに食事の内容が主にトウモロコシ製品に偏る春から夏にかけて起こりやすい。
[[遺伝病]]である[[ハートナップ病]](トリプトファンが腸から吸収されない病気)の患者はペラグラを発症する。また、[[トウモロコシ]]を主食とする地域でよくみられるが、トウモロコシのナイアシンは[[アルカリ]]で処理すること ([[ニシュタマリゼーション]]) によって吸収されるようになる([[メキシコ]]の[[トルティーヤ]]は良い例である)。ペラグラは季節性で、日差しが強くなるうえに食事の内容が主にトウモロコシ製品に偏る春から夏にかけて起こりやすい。


遺伝、トウモロコシ以外の原因として栄養摂取障害があり、極端な偏食によって発症した例が報告されている<ref>葭矢信弘、庄司昭伸、北島淳一 ほか、「[https://www.jstage.jst.go.jp/article/skinresearch1959/27/4/27_4_702/_article/-char/ja/ ペラグラの4例]」 皮膚 Vol.27 (1985) No.4 P.702-708, {{DOI|10.11340/skinresearch1959.27.702}}
[[アルコール使用障害]]患者や[[拒食症]]患者など、栄養不良(特に[[鉄]]、[[ビタミンB2]]、[[ビタミンB6|B6]])のある者は、ペラグラになるリスクが高くなる。また、[[遺伝病]]である[[ハートナップ病]](トリプトファンが腸から吸収されない病気)の患者はペラグラを発症する。
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; 栄養摂取障害を生じる例、
* 化学療法<ref name=jocd.33.477>一ノ宮愛、西本勝太郎、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jocd/33/4/33_477/_article/-char/ja ペラグラの1例] 日本臨床皮膚科医会雑誌 33巻 (2016) 4号 p.477-482, {{doi|10.3812/jocd.33.477}}</ref>


* [[胃切除術]]後<ref name=clinicalneurol.48.202>永石彰子、田邊洋、上野正克 ほか、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/48/3/48_3_202/_article/-char/ja/ 胃切除後に生じた非アルコール性ペラグラの1例] 臨床神経学 48巻 (2008) 3号 p.202-204, {{doi|10.5692/clinicalneurol.48.202}}</ref>
==症状と診断==
* [[アルコール使用障害]]患者<ref>水上勝義、牧野裕、入谷修司 ほか、「アルコール性ペラグラ脳症の3剖検例」 精神医学 (1990) 32 5号, p.503-509, {{doi|10.11477/mf.1405902838}}</ref>
[[File:Pellagra2.jpg|thumb|光線過敏による皮膚炎を発症したペラグラ患者]]
* 偏食、[[拒食症]]患者<ref>河村園美、「拒食症患者に発症したペラグラの1例」 皮膚臨床 39, 483-486, 1997, {{naid|50005110448}}</ref><ref name=jocd.33.477 />
ペラグラは、ナイアシン不足に加えて日光に当たることによって発症する。まず[[光線過敏|光線過敏症]]が生じ、顔に左右対称の赤い発疹が出る。


== 症状 ==
その後、[[消化管]]全体が侵されて吐き気、嘔吐、便秘、下痢などの症状が現れ、舌と口に[[口内炎]]が生じる。また、喉や[[食道]]にも炎症が起こる。
[[File:Pellagra2.jpg|thumb|光線過敏による皮膚炎を発症したペラグラ患者]]
ペラグラは、ナイアシン不足に加えて日光に当たることによって発症する。まず[[光線過敏|光線過敏症]]が生じ、顔に左右対称の赤い発疹が出る。その後、[[消化管]]全体が侵されて吐き気、嘔吐、便秘、下痢などの症状が現れ、舌と口に[[口内炎]]が生じる。また、喉や[[食道]]にも炎症が起こる。


その後、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全([[脳症]])による錯乱、[[見当識]]の喪失、[[幻覚]]、[[健忘]]などが起こり、最悪の場合死に至る。
症状が進行すると、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全([[脳症]])による錯乱、[[見当識]]の喪失、[[幻覚]]、[[健忘]]などが起こり、最悪の場合死に至る。


== 歴史 ==
== 歴史 ==
[[1735年]]に[[スペイン]]で記録されたのが初出である。[[トウモロコシ]]を主食とする[[イタリア]]北部などで猛威をふるい、「イタリア病」、「アストゥリアス病」などと呼ばれた。
[[1735年]]に[[スペイン]]で記録されたのが初出である。{{要出典範囲|[[トウモロコシ]]を主食とする[[イタリア]]北部などで猛威をふるい、「イタリアらい病」、「アストゥリアスらい病」などと呼ばれた。|date=2018年3月}}


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[[1926年]]に、[[アメリカ合衆国|アメリカ]]の医学者[[ジョゼフ・ゴールドバーガー]]([[:w:Joseph Goldberger|Joseph Goldberger]])によって肉や牛乳に含まれる何らかの栄養が不足することが原因であると突き止められ、[[1937年]]になって[[コンラッド・エルヴェージェム]]([[:w:Conrad Elvehjem|Conrad Elvehjem]])によりその物質がナイアシンだと判明した。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://merckmanual.jp/mmhe2j/sec12/ch154/ch154h.html ナイアシン] メルクマニュアル医学百科
* [http://merckmanual.jp/mmhe2j/sec12/ch154/ch154h.html ナイアシン] メルクマニュアル医学百科
* 葭矢信弘庄司昭伸、北島淳一 ほか、「[https://www.jstage.jst.go.jp/article/skinresearch1959/27/4/27_4_702/_article/-char/ja/ ペラグラの4例] 皮膚 Vol.27 (1985) No.4 P.702-708, {{DOI|10.11340/skinresearch1959.27.702}}
* 柴田克己、[https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/82/10/82_KJ00005070338/_article/-char/ja ペラグラ患者ナイアシン栄養状態 : 尿中のナイアシン異化代謝産物量は低下するが,血液中のNAD含量は低下しない] ビタミン 82巻 (2008) 10号 p.556-558, {{doi|10.20632/vso.82.10_556}}


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2018年3月8日 (木) 07:34時点における版

ペラグラ
皮膚炎症を起こした患者
概要
診療科 内分泌学
分類および外部参照情報
ICD-10 E52
ICD-9-CM 265.2
DiseasesDB 9730
MedlinePlus 000342
eMedicine ped/1755
Patient UK ペラグラ

ペラグライタリア語: Pellagra)は、代謝内分泌疾患の一つで、ナイアシン欠乏症(栄養失調)である。Pellagraはイタリア語で「皮膚の痛み」を意味する。栄養不良(亜鉛ビタミンB2B6)のある者は、ペラグラを発症するリスクが高くなる。ニコチン酸アミド及びビタミンB群の投与により治療する[1]

解説

ナイアシンは必須アミノ酸のひとつであるトリプトファンから体内で生合成されるので、トリプトファンが欠乏することでもナイアシンが欠乏し、結果ペラグラを発症する。

臨床的には、血中トリプトファン濃度の低下を生じていても血中ニコチン酸濃度の低下を生じない事もある[2]

原因

遺伝病であるハートナップ病(トリプトファンが腸から吸収されない病気)の患者はペラグラを発症する。また、トウモロコシを主食とする地域でよくみられるが、トウモロコシのナイアシンはアルカリで処理すること (ニシュタマリゼーション) によって吸収されるようになる(メキシコトルティーヤは良い例である)。ペラグラは季節性で、日差しが強くなるうえに食事の内容が主にトウモロコシ製品に偏る春から夏にかけて起こりやすい。

遺伝、トウモロコシ以外の原因として栄養摂取障害があり、極端な偏食によって発症した例が報告されている[3]

栄養摂取障害を生じる例、
  • 化学療法[2]

症状

光線過敏による皮膚炎を発症したペラグラ患者

ペラグラは、ナイアシン不足に加えて日光に当たることによって発症する。まず光線過敏症が生じ、顔に左右対称の赤い発疹が出る。その後、消化管全体が侵されて吐き気、嘔吐、便秘、下痢などの症状が現れ、舌と口に口内炎が生じる。また、喉や食道にも炎症が起こる。

症状が進行すると、疲労、不眠、無感情を経て、脳の機能不全(脳症)による錯乱、見当識の喪失、幻覚健忘などが起こり、最悪の場合死に至る。

歴史

1735年スペインで記録されたのが初出である。トウモロコシを主食とするイタリア北部などで猛威をふるい、「イタリアらい病」、「アストゥリアスらい病」などと呼ばれた。[要出典]

1926年に、アメリカの医学者ジョゼフ・ゴールドバーガー(Joseph Goldberger)によって肉や牛乳に含まれる何らかの栄養が不足することが原因であると突き止められ、1937年になってコンラッド・エルヴェージェムConrad Elvehjem)によりその物質がナイアシンだと判明した。

脚注

  1. ^ a b 永石彰子、田邊洋、上野正克 ほか、胃切除後に生じた非アルコール性ペラグラの1例 臨床神経学 48巻 (2008) 3号 p.202-204, doi:10.5692/clinicalneurol.48.202
  2. ^ a b c 一ノ宮愛、西本勝太郎、ペラグラの1例 日本臨床皮膚科医会雑誌 33巻 (2016) 4号 p.477-482, doi:10.3812/jocd.33.477
  3. ^ 葭矢信弘、庄司昭伸、北島淳一 ほか、「ペラグラの4例」 皮膚 Vol.27 (1985) No.4 P.702-708, doi:10.11340/skinresearch1959.27.702
  4. ^ 水上勝義、牧野裕、入谷修司 ほか、「アルコール性ペラグラ脳症の3剖検例」 精神医学 (1990) 32 5号, p.503-509, doi:10.11477/mf.1405902838
  5. ^ 河村園美、「拒食症患者に発症したペラグラの1例」 皮膚臨床 39, 483-486, 1997, NAID 50005110448

外部リンク