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'''先行研究'''(せんこうけんきゅう) |
'''先行研究'''(せんこうけんきゅう)は、学術[[論文]]の執筆において、当該領域で、自分の研究よりも先んじて発表された研究を指す。学術論文では、先行研究を自分の研究の参考にし、その結果とそこから生じた判断をふまえた上で、それに独自の見解を接木し、あるいはそれを批判して、自己の学説として発表することが求められる。 |
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== 意義 == |
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科学の分野でそれなりの研究を行おうという場合、まず先行研究を調べることが必要である。やってみようと思うことが、すでに行われたもので、内容に何ら変わりのないものであれば、研究それ自体に意味がない場合もある。しかし、それ以上に重要なことは、自分の行おうとする研究が、科学の流れの中においてどのような位置にあるのかを知ることである。それを把握した上で、自分の得た結果について考察を行うならば、そこから得られる判断の位置づけもまた明らかになる。 |
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== 見つからなかった場合 == |
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それまで誰も着目しなかった領域については、先行研究も存在しないことになる。これは往々にして全く新しい展開を科学の世界に作る物となるが、その場合、その論文を裏付ける事実が他にはないことになる。先行研究なしで学術論文を発表した場合、筆者の思い込みの可能性など、研究テーマの正当性が問題にされることもあり得る。 |
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もっとも、科学の分野において、全く先行研究のない研究論文はなかなか存在しない。これは、一つには科学の研究が |
もっとも、科学の分野において、全く先行研究のない研究論文はなかなか存在しない。これは、一つには科学の研究が技術の向上に基づいていることによる。実験操作にしても、例えば[[生物]]の細部の研究は、[[虫眼鏡]]から[[顕微鏡]]へ、という風に科学技術の進歩と結びついている。従って、新たな展開はそれ以前の技術による研究を土台として行われるものである。普通は全く新しい分野といっても、それまでのすべての分野と無関係に存在するものではないから、少なくとも[[参考文献]]は存在するのが普通である。 |
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ただ、先行研究がなかなか見つからず、後になって発見される例もある。有名なのは[[メンデルの法則]]で、その発表の40年ほど後に、新発見として発表された後にすでに発表されたものであることが判明した。本来ならば彼の研究を先行研究として、それを超える結果を示すべき状況ではあったわけである。もっともこの場合にも、それ以外の多数の交配実験に関する研究は参考にされている<ref>実際には彼らはメンデルの研究を知っていて無視したのだ、という説もあり、これについては科学史上の |
ただ、先行研究がなかなか見つからず、後になって発見される例もある。有名なのは[[メンデルの法則]]で、その発表の40年ほど後に、新発見として発表された後にすでに発表されたものであることが判明した。本来ならば彼の研究を先行研究として、それを超える結果を示すべき状況ではあったわけである。もっともこの場合にも、それ以外の多数の交配実験に関する研究は参考にされている<ref>実際には彼らはメンデルの研究を知っていて無視したのだ、という説もあり、これについては科学史上のミステリーの一つになっている</ref>。 |
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もう少しややこしいのは、先行研究が別分野にあった場合である。 |
もう少しややこしいのは、先行研究が別分野にあった場合である。矛盾した表現のようではあるが、例のないことではない。例えば、生物個体数の増加を表す[[数理モデル|モデル]]である[[ロジスティック方程式]]は、[[生態学]]の分野では[[20世紀]]初頭に[[ショウジョウバエ]]などの実験[[個体群]]の研究から導き出されたものであるが、実は[[19世紀]]に[[ピエール=フランソワ・フェルフルスト]]がすでに発表したものであることが後に判明した。これは、彼の研究が[[人口統計学]]という同じ現象を扱う別分野であったためである。 |
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== 方法 == |
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先行研究を探すには、いくつかの方法がある。 |
先行研究を探すには、いくつかの方法がある。 |
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代表的なのは、論文からその参考文献を探す方法である。ある分野の研究を行おうとする場合、少なくともその問題に関する |
代表的なのは、論文からその参考文献を探す方法である。ある分野の研究を行おうとする場合、少なくともその問題に関する文献や記述のある著作ぐらいは目にしているはずである。それがまっとうなものであれば、その巻末などにそれに関する参考文献が列記されているから、それを探し出してくる。そうして手に入れた論文にも参考文献が付いているから、さらに研究を遡ることが可能になる。あまりに広くて歴史の古い分野だと、すべてを遡るわけにはいかないが、そういう流れの中で重要な鍵になる文献は拾い上げられるようになる。 |
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また、検索用の雑誌から探すのも基本的な手法である。このような先行研究の探索は、どの分野においても重要であるから、ある程度の規模を持つ分野であれば、そのような探索の手助けとなる雑誌が発行されている。それらは往々にして |
また、検索用の雑誌から探すのも基本的な手法である。このような先行研究の探索は、どの分野においても重要であるから、ある程度の規模を持つ分野であれば、そのような探索の手助けとなる雑誌が発行されている。それらは往々にして抄録・アブストラクトと呼ばれ、その分野に関する、過去のある期間ごとに発行された論文の題名・著者・雑誌名、内容の要約やキーワードなどが列記されており、自分の求める論文をそこから探すことが出来る(理屈である)。 |
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== 問題 == |
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先行研究を知ることは、見方を変えると |
先行研究を知ることは、見方を変えると先入観、予断を持つことであり、そのために研究やその結果がゆがめられる可能性がある。 |
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古くは[[ファーブル]] |
古くは[[ジャン・アンリ・ファーブル|ファーブル]]が、先行研究を調べることに頼るのを再三にわたって戒めている。これは、彼の時代の[[昆虫学]]では習性に関するまともな研究がほとんどなかったため、役に立たない上に誤ったものが多かったという事情がある。[[ルイ・パスツール|パスツール]]が[[カイコ]]の病気の研究のための基礎知識を得るため、ファーブルの元を訪れたが、その際、パスツールがあまりにカイコに無知なことに驚くと同時に、そのような無垢の状態でこそ、新しい研究も可能なのだと誉めている。ただしファーブル自身は先行研究を軽視するあまりに、ある種の[[カメムシ]]が[[卵塊]]を保護するという観察を否定する、といった失敗もしている。 |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
2016年4月23日 (土) 11:38時点における版
先行研究(せんこうけんきゅう)は、学術論文の執筆において、当該領域で、自分の研究よりも先んじて発表された研究を指す。学術論文では、先行研究を自分の研究の参考にし、その結果とそこから生じた判断をふまえた上で、それに独自の見解を接木し、あるいはそれを批判して、自己の学説として発表することが求められる。
意義
科学の分野でそれなりの研究を行おうという場合、まず先行研究を調べることが必要である。やってみようと思うことが、すでに行われたもので、内容に何ら変わりのないものであれば、研究それ自体に意味がない場合もある。しかし、それ以上に重要なことは、自分の行おうとする研究が、科学の流れの中においてどのような位置にあるのかを知ることである。それを把握した上で、自分の得た結果について考察を行うならば、そこから得られる判断の位置づけもまた明らかになる。
見つからなかった場合
それまで誰も着目しなかった領域については、先行研究も存在しないことになる。これは往々にして全く新しい展開を科学の世界に作る物となるが、その場合、その論文を裏付ける事実が他にはないことになる。先行研究なしで学術論文を発表した場合、筆者の思い込みの可能性など、研究テーマの正当性が問題にされることもあり得る。
もっとも、科学の分野において、全く先行研究のない研究論文はなかなか存在しない。これは、一つには科学の研究が技術の向上に基づいていることによる。実験操作にしても、例えば生物の細部の研究は、虫眼鏡から顕微鏡へ、という風に科学技術の進歩と結びついている。従って、新たな展開はそれ以前の技術による研究を土台として行われるものである。普通は全く新しい分野といっても、それまでのすべての分野と無関係に存在するものではないから、少なくとも参考文献は存在するのが普通である。
ただ、先行研究がなかなか見つからず、後になって発見される例もある。有名なのはメンデルの法則で、その発表の40年ほど後に、新発見として発表された後にすでに発表されたものであることが判明した。本来ならば彼の研究を先行研究として、それを超える結果を示すべき状況ではあったわけである。もっともこの場合にも、それ以外の多数の交配実験に関する研究は参考にされている[1]。
もう少しややこしいのは、先行研究が別分野にあった場合である。矛盾した表現のようではあるが、例のないことではない。例えば、生物個体数の増加を表すモデルであるロジスティック方程式は、生態学の分野では20世紀初頭にショウジョウバエなどの実験個体群の研究から導き出されたものであるが、実は19世紀にピエール=フランソワ・フェルフルストがすでに発表したものであることが後に判明した。これは、彼の研究が人口統計学という同じ現象を扱う別分野であったためである。
方法
先行研究を探すには、いくつかの方法がある。
代表的なのは、論文からその参考文献を探す方法である。ある分野の研究を行おうとする場合、少なくともその問題に関する文献や記述のある著作ぐらいは目にしているはずである。それがまっとうなものであれば、その巻末などにそれに関する参考文献が列記されているから、それを探し出してくる。そうして手に入れた論文にも参考文献が付いているから、さらに研究を遡ることが可能になる。あまりに広くて歴史の古い分野だと、すべてを遡るわけにはいかないが、そういう流れの中で重要な鍵になる文献は拾い上げられるようになる。
また、検索用の雑誌から探すのも基本的な手法である。このような先行研究の探索は、どの分野においても重要であるから、ある程度の規模を持つ分野であれば、そのような探索の手助けとなる雑誌が発行されている。それらは往々にして抄録・アブストラクトと呼ばれ、その分野に関する、過去のある期間ごとに発行された論文の題名・著者・雑誌名、内容の要約やキーワードなどが列記されており、自分の求める論文をそこから探すことが出来る(理屈である)。
問題
先行研究を知ることは、見方を変えると先入観、予断を持つことであり、そのために研究やその結果がゆがめられる可能性がある。
古くはファーブルが、先行研究を調べることに頼るのを再三にわたって戒めている。これは、彼の時代の昆虫学では習性に関するまともな研究がほとんどなかったため、役に立たない上に誤ったものが多かったという事情がある。パスツールがカイコの病気の研究のための基礎知識を得るため、ファーブルの元を訪れたが、その際、パスツールがあまりにカイコに無知なことに驚くと同時に、そのような無垢の状態でこそ、新しい研究も可能なのだと誉めている。ただしファーブル自身は先行研究を軽視するあまりに、ある種のカメムシが卵塊を保護するという観察を否定する、といった失敗もしている。
脚注
- ^ 実際には彼らはメンデルの研究を知っていて無視したのだ、という説もあり、これについては科学史上のミステリーの一つになっている
関連項目
- 既往文献(既往論文)