「ディリクレの関数」の版間の差分

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'''ディリクレの関数'''(ディリクレの-かんすう)とは、[[実数]]全体の成す集合 '''R''' 上で定義される次のような[[関数 (数学)|関数]]のことである。
'''ディリクレの関数'''(ディリクレの-かんすう)とは、[[実数]]全体の成す集合 '''R''' 上で定義される次のような[[関数 (数学)|関数]]のことである。


:<math>
: <math>
f(x) =
f(x)=
\begin{cases}
\begin{cases}
1 & (x \in \mathbb{Q})\\
1 & (x \in \mathbb{Q})\\
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</math>
</math>
ただし、'''Q''' は[[有理数]]全体の成す集合である。
ただし、'''Q''' は[[有理数]]全体の成す集合である。
式からかるように、この関数はいたるところで不連続である。さらに、
式からかるように、この関数はいたるところで不連続である。さらに、
: <math> \sup \int^{a}_{b} f(x) dx = a-b</math>
: <math>\sup \int^a_b f(x)dx=a-b</math>
: <math> \inf \int^{a}_{b} f(x) dx = 0</math>
: <math>\inf \int^a_b f(x)dx=0</math>
が成り立つから、(sup&int; を[[上積分]]、inf&int; を[[下積分]]という)ディリクレの関数はリーマン[[積分]]不可能であることがかる。([[ルベーグ積分]]は可能で、その値は 0 である。これは、[[可算無限集合]]である '''Q''' は[[ルベーグ測度]]に関して零集合であることによる)
が成り立つから、(sup&int; を[[上積分]]、inf&int; を[[下積分]]という)ディリクレの関数はリーマン[[積分]]不可能であることがかる。([[ルベーグ積分]]は可能で、その値は 0 である。これは、[[可算無限集合]]である '''Q''' は[[ルベーグ測度]]に関して零集合であることによる)


==周期性==
==周期性==
この関数は、任意の有理数aに対して<math> f(x+a) = f(x) </math> となる。これは有理数全体の集合が[[群 (数学)|加法について閉じている]]ことによる。
この関数は、任意の有理数aに対して <math>f(x+a)=f(x)</math> となる。これは有理数全体の集合が[[群 (数学)|加法について閉じている]]ことによる。


また、この関数は無限個の周期を持ち、かつ定数関数とならない一例である。
また、この関数は無限個の周期を持ち、かつ定数関数とならない一例である。
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==連続関数の極限としての表示==
==連続関数の極限としての表示==
ディリクレの関数は、[[ペーター・グスタフ・ディリクレ|ディリクレ]]本人によって、
ディリクレの関数は、[[ペーター・グスタフ・ディリクレ|ディリクレ]]本人によって、
: <math> f(x) = \lim_{n \to \infin}\lim_{k \to \infin} \cos^{2k}(n! \,\pi x) </math>
: <math>f(x)=\lim_{n\to \infin} \lim_{k\to \infin} \cos^{2k} (n!\, \pi x)</math>
と表せることが示されている(したがってディリクレ関数は 2 階の[[ベール関数]]の一例である)。その方法は次による。
と表せることが示されている(したがってディリクレ関数は 2 階の[[ベール関数]]の一例である)。その方法は次による。


任意の有理数 ''q'' を考える。[[階乗|''n''!]] ''q'' は、十分大きな ''n'' に対して恒等的に[[整数]]である。それに比べ、無理数 ''r'' は、いくら ''n'' を大きく取っても ''n''! ''r'' が整数にならない。従って、ディリクレの関数は、次のように変形できる。
任意の有理数 ''q'' を考える。[[階乗|''n''!]] ''q'' は、十分大きな ''n'' に対して恒等的に[[整数]]である。それに比べ、無理数 ''r'' は、いくら ''n'' を大きく取っても ''n''! ''r'' が整数にならない。従って、ディリクレの関数は、次のように変形できる。
:<math>
: <math>
f(x) =
f(x)=
\begin{cases}
\begin{cases}
1 & (n!\,x \in \mathbb{Z})\\
1 & (n!\,x \in \mathbb{Z})\\
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</math>
</math>
ただし、'''Z''' は整数全体の成す集合。さてここで、関数
ただし、'''Z''' は整数全体の成す集合。さてここで、関数
:<math>
: <math>
F(x) =
F(x)=
\begin{cases}
\begin{cases}
1 & (x \in \mathbb{Z})\\
1 & (x \in \mathbb{Z})\\
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\end{cases}
\end{cases}
</math>
</math>
を表示できれば、''f''(''x'') = lim[''n''&rarr;&infin;] F(''n''!''x'') となって決着がつく。(''F'' は単独で考えても興味深い関数である。)
を表示できれば、''f''(''x'') = lim[''n''&rarr;&infin;] F(''n''!''x'') となって決着がつく。(''F'' は単独で考えても興味深い関数である。) ''F'' は、[[不連続]]でありながらも[[周期的]]である。一定の[[周期]]を持つ関数として[[三角関数]]を考える。cos<sup>2</sup>(&pi;''x'') は、''x'' が整数であれば 1 を返し、それ以外であれば [0, 1) 内の実数を返す。[0, 1) 内の実数は、無限回[[冪乗]]することによって 0 に収束させることが出来る。また、1 はいくら冪乗しても恒等的に 1 となって変化しない。これより、
: <math>F(x)=\lim_{k\to \infin} \cos^{2k} (\pi x)</math>
''F'' は、[[不連続]]でありながらも[[周期的]]である。一定の[[周期]]を持つ関数として[[三角関数]]を考える。cos<sup>2</sup>(&pi;''x'') は、''x'' が整数であれば 1 を返し、それ以外であれば [0, 1) 内の実数を返す。[0, 1) 内の実数は、無限回[[冪乗]]することによって 0 に収束させることが出来る。また、1 はいくら冪乗しても恒等的に 1 となって変化しない。これより、
: <math>F(x) = \lim_{k \to \infin} \cos^{2k}(\pi x) </math>
が結論付けられる。従って、
が結論付けられる。従って、
: <math>f(x) = \lim_{n \to \infin} F(n!x) = \lim_{n \to \infin}\lim_{k \to \infin} \cos^{2k}(n! \pi x) </math>
: <math>f(x)=\lim_{n\to \infin} F(n!x)=\lim_{n\to \infin} \lim_{k\to \infin} \cos^{2k} (n!\pi x)</math>
となる訳である。
となる訳である。



2011年5月30日 (月) 08:46時点における版

ディリクレの関数(ディリクレの-かんすう)とは、実数全体の成す集合 R 上で定義される次のような関数のことである。

ただし、Q有理数全体の成す集合である。 式から分かるように、この関数はいたるところで不連続である。さらに、

が成り立つから、(sup∫ を上積分、inf∫ を下積分という)ディリクレの関数はリーマン積分不可能であることが分かる。(ルベーグ積分は可能で、その値は 0 である。これは、可算無限集合である Qルベーグ測度に関して零集合であることによる)

周期性

この関数は、任意の有理数aに対して となる。これは有理数全体の集合が加法について閉じていることによる。

また、この関数は無限個の周期を持ち、かつ定数関数とならない一例である。

連続関数の極限としての表示

ディリクレの関数は、ディリクレ本人によって、

と表せることが示されている(したがってディリクレ関数は 2 階のベール関数の一例である)。その方法は次による。

任意の有理数 q を考える。n! q は、十分大きな n に対して恒等的に整数である。それに比べ、無理数 r は、いくら n を大きく取っても n! r が整数にならない。従って、ディリクレの関数は、次のように変形できる。

ただし、Z は整数全体の成す集合。さてここで、関数

を表示できれば、f(x) = lim[n→∞] F(n!x) となって決着がつく。(F は単独で考えても興味深い関数である。) F は、不連続でありながらも周期的である。一定の周期を持つ関数として三角関数を考える。cos2x) は、x が整数であれば 1 を返し、それ以外であれば [0, 1) 内の実数を返す。[0, 1) 内の実数は、無限回冪乗することによって 0 に収束させることが出来る。また、1 はいくら冪乗しても恒等的に 1 となって変化しない。これより、

が結論付けられる。従って、

となる訳である。