「ソフトウェア・シンセサイザー」の版間の差分

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===1980年代===
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[[デジデザイン]]社によるSoftsynth・Turbosynth、[[マサチューセッツ工科大学|MIT]]のBarry Vercoeによる[[Csound]]など、非リアルタイムの音響合成が提案される。
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[[IRCAM]]のMiller Pucketteによって初期の[[Max (ソフトウェア)|Max]]が開発され、モジュラ方式のリアルタイム音響合成が試行され始める。
[[IRCAM]]のMiller Pucketteによって初期の[[Max (ソフトウェア)|Max]]が開発され、モジュラ方式のリアルタイム音響合成が試行され始める。
Bogas Productionsの[[Super Studio Session]]など、[[PCM音源|PCM]]ソフトシンセ機能を内蔵した作曲ソフトウェアが登場するが、多くの場合作曲の便宜のためのものに過ぎず、収録に用いられる音質水準ではなかった。
Bogas Productionsの[[Super Studio Session]]など、[[PCM音源|PCM]]ソフトシンセ機能を内蔵した作曲ソフトウェアが登場するが、多くの場合作曲の便宜のためのものに過ぎず、収録に用いられる音質水準ではなかった。



2009年6月20日 (土) 17:06時点における版

ソフトウェア・シンセサイザーsoftware synthesizer)とは、コンピュータ上でシンセサイザー機能を提供するソフトウェアである。広義にはCPUによって音信号を合成するソフトウェアすべてを指すが、狭義には歴史的に専用ハードウェアで提供されてきた楽器用シンセサイザーの発音回路をコンピュータソフトウェアによってデジタル信号処理で再現したもの、およびその楽器としての類型を指す。

短縮してソフトシンセsoft synth)、実体がないためヴァーチャルシンセvirtual synth)などと呼称されることもある。なお「ソフトシンセサイザ(SOFTSYNTHESIZER)」はヤマハの登録商標(登録第4026952号)である。

歴史

1980年代

デジデザイン社によるSoftsynth・Turbosynth、MITのBarry VercoeによるCsoundなど、非リアルタイムの音響合成が提案される。 IRCAMのMiller Pucketteによって初期のMaxが開発され、モジュラ方式のリアルタイム音響合成が試行され始める。 Bogas ProductionsのSuper Studio Sessionなど、PCMソフトシンセ機能を内蔵した作曲ソフトウェアが登場するが、多くの場合作曲の便宜のためのものに過ぎず、収録に用いられる音質水準ではなかった。

1990年代

QuickTime Musical InstrumentsMicrosoft GS Wavetable SW Synthといった、GMGSフォーマット規格対応の簡易なPCMソフトシンセがOSに付属され、PCにおけるMIDIデータの演奏が広く一般化する。 Nemesys社のGigasamplerによってソフトウェアサンプラーのハードディスクストリーミング技術が実用化される。 1996年プロペラヘッド・ソフトウェア社のReBirth RB-338によってローランドTB-303TR-808TR-909が再現されるなど、ハードウェアの代替としてのソフトシンセが実用化され始める。 1998年にはプロペラヘッド・ソフトウェア社によってアプリケーション型シンセの同期規格ReWireが、1999年にはスタインバーグ社によってプラグイン規格VSTインストゥルメントが発表されるなど、ソフトシンセ製品の連携やモジュール化が進む。

2000年代

ストレージ容量の増大とともに、ギガバイト単位の大容量サンプルライブラリーが多数登場する。サンプルライブラリーが肥大化する一方で、Modartt社のPianoteqによって省容量な物理モデリングでアコースティックピアノが再現されるといった動きもある。

ソフトシンセを開発している企業はヨーロッパのベンチャー企業が多い。1980年代以来、世界のシンセサイザー市場は日本の楽器メーカーが一大勢力を築いていたが、ソフトシンセが普及した2000年代になって、この勢力地図は塗り替えられつつある。

概略

1990年代後半からPCの性能が飛躍的に向上したことにより、シンセサイザーの発音回路をPCのソフトウェアでエミュレートすることが可能になった。ソフトシンセは、PCのディスプレイを使用できるため視認性に優れ、音色などのデータ管理が容易であり、場所をとらず、処理能力が許す限り無制限に台数を増やすことができ、温度変化の影響を受けず、コンピュータ内部で完結してデジタル録音できるため音質劣化を回避できる。その価格の安さと利便性により、2000年代になって大いに普及が進んでいる。

難点は、コンピュータの性能が要求されること、レイテンシの発生が避けられないこと、専用の物理的な操作パネルがなくPCの管理が必要なため迅速な作業に向かず、専用ハードウェアと比べて堅牢性が劣りやすいことなどである。物理的な操作パネルの欠如はしばしばMIDIコントローラーやフィジカルコントローラーと呼ばれる汎用の周辺機器によって補完される。

方式

多くのソフトシンセはそれ単体で発音させることもできるが、実際に音楽制作で使う際には他のソフトと連携させる必要があるため、ホストとなるシーケンサーソフト上でプラグインの形で制御される。現在はシーケンサーの開発元がそれぞれに提唱した複数の制御方式があり、統一はされていない。VST、TDM、RTAS、MAS、DXiAUなどの方式がある。

バリエーション

アナログ音源(比較的単純なシンセサイザーの発音回路)をソフトに置き換えたもの、ビンテージ楽器をシミュレートしたもの、サンプラーに大別される。

アナログ音源をソフトに置き換えたもの

バーチャルアナログ音源のソフトウェア版である。音源の構造が比較的簡素であり、要求されるPCの性能もさほど高くない。単純な倍音合成方式から独自の変調方式まで、幅広い個性がある。フリーウェアも含めて多数のソフトが存在する。

ビンテージ楽器をシミュレートしたもの

ビンテージ楽器をシミュレートしたものは、ソフトシンセが普及するにあたって大きな役割を果たしている。実物は希少ゆえに高価で入手が難しいが、ソフトシンセならば手軽にその音を再現でき、ハードウェアにつきものの故障もない。このカテゴリーのソフトシンセの多くは楽器の発音構造や電子回路そのものを特性まで忠実に再現しており、実物そっくりに描写されたパネルで操作することができる。しかし、実物と音色は似ているが音質は物理音源を用いたバーチャルアナログシンセと同様である。

ハモンドオルガンローズメロトロンなどの電気楽器、ミニモーグプロフェット5アープ2600などのアナログシンセサイザーデジタルシンセサイザーDX7など、名機と呼ばれる鍵盤楽器はほとんどがソフトシンセで再現されている。従来のサンプラーPCM音源のような「実物の音を録音したもの」との大きな違いはその音の再現方法にある。

サンプラー

サンプラーは膨大な音色ライブラリーの読み出し・管理と視覚的な編集作業が必要なことから、比較的早い時期にハードウェアからソフトウェアへの転換が図られた。ソフトウェアサンプラーは大容量のハードディスクを使えるのが一番の利点であり、従来では考えられなかった数ギガバイトの容量をもつ高品位なピアノやオーケストラの音色ライブラリーもある。例として生楽器の再現では実物に近づける為に各音程毎にサンプリングする場合があり、演奏する際は瞬時に大容量の波形データを読み出すことになるので高性能のPCが必要となる。

サンプラーと同じ系統のものとして一般的なPCM音源のシンセをソフトウェア化したもの (e.g. ローランド・VSC) もあるが、数は少ない。PC一台にいくつもの音源をインストールできるソフトシンセの世界にあっては、「一台でどんな音色でもボタン一つで出せる」PCMシンセの利点は薄れてしまう。

またギタードラムなどの単一の生楽器の音色と演奏プログラミングに特化したソフトを、サンプラーに含めることもある。

その他

その他、特殊なソフトシンセにはサンプルを加工してグラニュラー・シンセシスを行うものや、MetaSynthなど周波数スペクトルから音を合成するもの、ReaktorMaxSuperColliderなどモジュールやプログラミングによりシンセサイザ回路を構築するもの、VOCALOIDなど音声合成により朗読または歌唱を再現するものがある。