「冠詞」の版間の差分

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しばしば[[接語]]であり、また直後の語の発音によって変化することがある。たとえば、次の語の語頭が[[母音]]であるときに、次が[[子音]]であるときに比べ、母音を省略したり子音を補ったりすることがよく行われる。英語の定冠詞は、次が子音であるときに弱形の発音を持つ。
しばしば[[接語]]であり、また直後の語の発音によって変化することがある。たとえば、次の語の語頭が[[母音]]であるときに、次が[[子音]]であるときに比べ、母音を省略したり子音を補ったりすることがよく行われる。英語の定冠詞は、次が子音であるときに弱形の発音を持つ。


一部の言語では、[[前置詞]]と隣接するとき、前置詞と結合して[[前置詞と冠詞の縮約|縮約形]]となることがある。フランス語では縮約形を持つ組み合わせの時には、必ず縮約形を使わなければならないが、[[ドイツ語]]ではどちらも取りうるなど、言語によって様々である。
一部の言語では、[[前置詞]]と隣接するとき、前置詞と結合して[[前置詞と冠詞の縮約|縮約形]]となることがある。フランス語では縮約形を持つ組み合わせの時には、必ず縮約形を使わなければならない(例:de+le→du)が、[[ドイツ語]]ではどちらも取りうる(例:von+dem→vomだが定性を強調したい場合はvon demのままとする)など、言語によって様々である。


==冠詞の種類==
==冠詞の種類==
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*その名詞が表すもの総体。~というもの。
*その名詞が表すもの総体。~というもの。
*固有名詞の前で使われることがある。英語では複数形の固有名詞の前(例:[[バハマ]] The Bahamas)。フランス語では国や川の名前の前、また特定の人名、都市名(例:[[ル・コルビュジエ]] Le Corbusier)。
*固有名詞の前で使われることがある。英語では複数形の固有名詞の前(例:[[バハマ]] The Bahamas)。フランス語では国や川の名前の前、また特定の人名、都市名(例:[[ル・コルビュジエ]] Le Corbusier)。
*形容詞を名詞化する。例えば、英語で the rich は「金持ち」を表す。


冠詞は通常単語の前に独立して付が、名詞の後ろに付いて、活用語尾のように見える定冠詞を'''後置定冠詞'''と呼ぶ。[[北ゲルマン語群]]の他、[[バルカン言語連合]]の[[ルーマニア語]]、[[ブルガリア語]]、[[マケドニア語]]、[[アルバニア語]]に見られる。
冠詞は単語の前に独立して付けられる言語が多いが、言語によっては、定冠詞は名詞の後ろに付いて、活用語尾のように見える。このような定冠詞を'''後置定冠詞'''と呼ぶ。[[北ゲルマン語群]]の他、[[バルカン言語連合]]の[[ルーマニア語]]、[[ブルガリア語]]、[[マケドニア語]]、[[アルバニア語]]に見られる。


===不定冠詞、部分冠詞===
===不定冠詞、部分冠詞===
不定冠詞は、不定(文脈上、導入されたもの)を表す名詞の前に置く。一般に、数の [[1]] を表す単語が用いられる(英語は例外)。単数形しかない言語と、単複両形がある言語がある。前者の場合(英語のa/an、ドイツ語のeinとその変化形、[[オランダ語]]のeen等)は、単数の[[可算名詞]]の前にのみ置かれて、名詞が複数の場合や不可算名詞の場合には、未知のものを表す名詞の前でも置かれない。後者の場合、例えばフランス語では、単数の可算名詞には単数形un/une、複数の可算名詞には複数形desが置かれる。
'''不定冠詞'''は、不定(文脈上、導入されたもの)を表す名詞の前に置く。一般に、数の [[1]] を表す単語が用いられる(英語は例外)。単数形しかない言語と、単複両形がある言語がある。前者の場合(英語のa/an、ドイツ語のeinとその変化形、[[オランダ語]]のeen等)は、単数の[[可算名詞]]の前にのみ置かれて、名詞が複数の場合や不可算名詞の場合には、未知のものを表す名詞の前でも置かれない。後者の場合、例えばフランス語では、単数の可算名詞には単数形un/une、複数の可算名詞には複数形desが置かれる。


部分冠詞は、フランス語、[[イタリア語]]などに独特の冠詞で、不可算名詞のための不定冠詞と考えられる。起源的には、[[属格|部分の属格]]から発生したもので、そのため属格の[[前置詞]]と定冠詞が合わさった形をしている。フランス語の場合は、属格の前置詞deを用いて、不定冠詞の複数形(男女同形)はde+les→des、部分冠詞は男性形de+le→du、女性形de laとなる。イタリア語の場合は、不定冠詞の複数形は部分冠詞として扱われる。
'''部分冠詞'''は、フランス語、[[イタリア語]]などに独特の冠詞で、不可算名詞のための不定冠詞と考えられる。起源的には、[[属格|部分の属格]]から発生したもので、そのため属格の[[前置詞]]と定冠詞が合わさった形をしている。これは不定冠詞の複数形でも同様である。フランス語の場合は、属格の前置詞deを用いて、不定冠詞の複数形(男女同形)はde+les→des、部分冠詞は男性形de+le→du、女性形de laとなる。イタリア語の場合は、属格の前置詞diを用い、不定冠詞の複数形は部分冠詞として扱われる。


これに対して、[[スペイン語]]、[[ポルトガル語]]には、不定冠詞の単数形から[[アナロジー]]により派生した不定冠詞の複数形が存在する。
これに対して、[[スペイン語]]、[[ポルトガル語]]には、不定冠詞の単数形から[[アナロジー]]により派生した不定冠詞の複数形が存在する。
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===ドイツ語===
===ドイツ語===
[[ドイツ語の文法#冠詞]]参照すること。
[[ドイツ語の文法#冠詞]]参照すること。

単数の可算名詞には不定冠詞が付く。

;定冠詞
*derとその変化形(性、数、格に応じて変化する)

;不定冠詞
*einとその変化形(性、数、格に応じて変化する)

===オランダ語===
単数の可算名詞には不定冠詞が付く。

;定冠詞
*het(中性単数)
*de(通性単数・複数、中性複数)

;不定冠詞
*een


===フランス語===
===フランス語===
[[フランス語の限定詞#冠詞]]参照すること。
[[フランス語の限定詞#冠詞]]参照すること。

;定冠詞
*le(男性単数)
*la(女性単数)
*les(男性・女性複数)

;不定冠詞
*un(男性単数)
*une(女性単数)
*des(男性・女性複数)


===スペイン語===
===スペイン語===
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===イタリア語===
===イタリア語===
[[イタリア語の文法#冠詞]]も参照せよ
[[イタリア語の文法#冠詞]]も参照すること

イタリア語は定冠詞を多用する。たとえば my car は ''il'' mio automobile (''the'' my car) という。
イタリア語は定冠詞を多用する。たとえば my car は ''il'' mio automobile (''the'' my car) という。


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===エスペラント===
===エスペラント===
エスペラントでは置くかどうか迷ったときは置かなくてもよい。数、性、格による変化はない。
エスペラントでは置くかどうか迷ったときは置かなくてもよい。数、性、格による変化はない。

;定冠詞
;定冠詞
*la
*la
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=== アラビア語 ===
=== アラビア語 ===

'''[[アラビア語の冠詞|アラビア語の定冠詞]]'''には数、性、格による変化はない。名詞に定冠詞がつくと形容詞にも定冠詞をつける。イダーファ構文(所有格を用いた、AのBといった構文)の場合では最後の単語(A)にのみ定冠詞をつける。不定冠詞は存在しないが、ほとんどの場合不定名詞の最後にnが付加される。
'''[[アラビア語の冠詞|アラビア語の定冠詞]]'''には数、性、格による変化はない。名詞に定冠詞がつくと形容詞にも定冠詞をつける。イダーファ構文(所有格を用いた、AのBといった構文)の場合では最後の単語(A)にのみ定冠詞をつける。不定冠詞は存在しないが、ほとんどの場合不定名詞の最後にnが付加される。

;定冠詞
;定冠詞
*ال (al-)
*ال (al-)

2008年3月4日 (火) 15:19時点における版

冠詞の分布
  不定冠詞と定冠詞
  定冠詞のみ
  不定冠詞と後置定冠詞
  後置定冠詞のみ
  冠詞なし

冠詞(かんし)とは、主にインド・ヨーロッパ語族セム語派において、名詞の前または後に置かれ、定不定を示す限定詞である。

他の限定詞と同様、名詞の中では一番外側にあるのが普通である。が表示される言語では、冠詞はそれらに従って変化することが多い。

しばしば接語であり、また直後の語の発音によって変化することがある。たとえば、次の語の語頭が母音であるときに、次が子音であるときに比べ、母音を省略したり子音を補ったりすることがよく行われる。英語の定冠詞は、次が子音であるときに弱形の発音を持つ。

一部の言語では、前置詞と隣接するとき、前置詞と結合して縮約形となることがある。フランス語では縮約形を持つ組み合わせの時には、必ず縮約形を使わなければならない(例:de+le→du)が、ドイツ語ではどちらも取りうる(例:von+dem→vomだが定性を強調したい場合はvon demのままとする)など、言語によって様々である。

冠詞の種類

冠詞の使い分けは、各言語に共通の傾向はあるが、違いもある。

定冠詞

定(文脈上、同定できるもの)を表す名詞の前に置く。

  • 既出のもの。それ。
  • 一つしかないと一般に認知されているもの。太陽(英語 the sun、ドイツ語 die Sonne、フランス語 le soleil)など。
  • その名詞が表すもの総体。~というもの。
  • 固有名詞の前で使われることがある。英語では複数形の固有名詞の前(例:バハマ The Bahamas)。フランス語では国や川の名前の前、また特定の人名、都市名(例:ル・コルビュジエ Le Corbusier)。
  • 形容詞を名詞化する。例えば、英語で the rich は「金持ち」を表す。

冠詞は単語の前に独立して付けられる言語が多いが、言語によっては、定冠詞は名詞の後ろに付いて、活用語尾のように見える。このような定冠詞を後置定冠詞と呼ぶ。北ゲルマン語群の他、バルカン言語連合ルーマニア語ブルガリア語マケドニア語アルバニア語に見られる。

不定冠詞、部分冠詞

不定冠詞は、不定(文脈上、導入されたもの)を表す名詞の前に置く。一般に、数の 1 を表す単語が用いられる(英語は例外)。単数形しかない言語と、単複両形がある言語がある。前者の場合(英語のa/an、ドイツ語のeinとその変化形、オランダ語のeen等)は、単数の可算名詞の前にのみ置かれて、名詞が複数の場合や不可算名詞の場合には、未知のものを表す名詞の前でも置かれない。後者の場合、例えばフランス語では、単数の可算名詞には単数形un/une、複数の可算名詞には複数形desが置かれる。

部分冠詞は、フランス語、イタリア語などに独特の冠詞で、不可算名詞のための不定冠詞と考えられる。起源的には、部分の属格から発生したもので、そのため属格の前置詞と定冠詞が合わさった形をしている。これは不定冠詞の複数形でも同様である。フランス語の場合は、属格の前置詞deを用いて、不定冠詞の複数形(男女同形)はde+les→des、部分冠詞は男性形de+le→du、女性形de laとなる。イタリア語の場合は、属格の前置詞diを用い、不定冠詞の複数形は部分冠詞として扱われる。

これに対して、スペイン語ポルトガル語には、不定冠詞の単数形からアナロジーにより派生した不定冠詞の複数形が存在する。

各言語の冠詞

英語

単数の可算名詞には不定冠詞が付く。定冠詞は数とは無関係に付く。

定冠詞
  • the(子音の前では普通弱形の発音となる)
    代名詞の it, they に当たる。
不定冠詞
  • a (子音の前)、an (母音の前)
    代名詞の one に当たる。

ドイツ語

ドイツ語の文法#冠詞も参照すること。

単数の可算名詞には不定冠詞が付く。

定冠詞
  • derとその変化形(性、数、格に応じて変化する)
不定冠詞
  • einとその変化形(性、数、格に応じて変化する)

オランダ語

単数の可算名詞には不定冠詞が付く。

定冠詞
  • het(中性単数)
  • de(通性単数・複数、中性複数)
不定冠詞
  • een

フランス語

フランス語の限定詞#冠詞も参照すること。

定冠詞
  • le(男性単数)
  • la(女性単数)
  • les(男性・女性複数)
不定冠詞
  • un(男性単数)
  • une(女性単数)
  • des(男性・女性複数)

スペイン語

英語と異なり、主語となる名詞には原則的に定冠詞がつく。不定冠詞はその意味を強調するときにのみ使われ、無冠詞は主語では許されない。また、不定冠詞の複数形は「いくつかの」(英語のsome)と同じように使われることが多い。

定冠詞
  • el(男性単数)
  • los(男性複数)
  • la(女性単数)
  • las(女性複数)
  • lo(中性)
不定冠詞
  • un(男性単数)
  • unos(男性複数)
  • una(女性単数)
  • unas(女性複数)

なお、女性名詞でも、a あるいは ha で始まる単語で、その音節にアクセントが来る場合には、el や un が使われる。

例: el agua(水)、un hada(妖精) cf. La Habana(ハバナ: キューバの首都)、la ansiedad(不安)

また、中性形は形容詞を名詞化する際に使われる。

例: Lo maravilloso de esta ciudad es la gastronomía.(この街のすばらしい点は美食です)

ポルトガル語

定冠詞
  • o(男性単数)
  • os(男性複数)
  • a(女性単数)
  • as(女性複数)
不定冠詞
  • um(男性単数)
  • uns(男性複数、綴り注意)
  • uma(女性単数)
  • umas(女性複数)

イタリア語

イタリア語の文法#冠詞も参照すること。

イタリア語は定冠詞を多用する。たとえば my car は il mio automobile (the my car) という。

定冠詞
  • il(男性単数)
    "s impura" の前では lo ただし母音の前では l'
  • i(男性複数)
    母音、"s impura" の前では gli
  • la(女性単数)
    母音の前では l'
  • le(女性複数)
不定冠詞
  • un(男性単数)
    "s impura" の前では uno unoも母音の前ではunとなる
  • una(女性単数)
    母音の前では un'
部分冠詞

部分冠詞の語形変化は di +定冠詞と同じである。

  • del(男性不可算)
    "s impura" の前では dello ただし母音の前ではdell'
  • dei(男性複数)
    母音、"s impura" の前では degli
  • della(女性不可算)
    母音の前では dell'
  • delle(女性複数)

エスペラント

エスペラントでは置くかどうか迷ったときは置かなくてもよい。数、性、格による変化はない。

定冠詞

アラビア語

アラビア語の定冠詞には数、性、格による変化はない。名詞に定冠詞がつくと形容詞にも定冠詞をつける。イダーファ構文(所有格を用いた、AのBといった構文)の場合では最後の単語(A)にのみ定冠詞をつける。不定冠詞は存在しないが、ほとんどの場合不定名詞の最後にnが付加される。

定冠詞
  • ال (al-)
    定冠詞の後に太陽文字がくると太陽文字を促音で発音する。その際に前に名詞がある場合は定冠詞のaが発音されない場合もある。
  • كتاب (kitābun)ある本
    الكتاب (al-kitābu)その本
    الكتاب الجميل (al-kitābu l-jamīlu)その美しい本
    السفير (as-safīru)その大使 <س(s)は太陽文字>
    كتاب السفير (kitābu s-safīri)その大使の本 <イダーファ構文>