時と悟りの勝利

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時と悟りの勝利』(ときとさとりのしょうり)HWV 46a/46b/71 は、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルが1707年に作曲したイタリア語オラトリオ。ヘンデルが作曲した最初のオラトリオであり、後にイギリスに渡ったヘンデルによって2回にわたって改作され、『時と真理の勝利』と改題の上で上演されている。

美や快楽といった過ぎ去るものよりも、時や悟りを重んずるべきという内容の寓意劇である[1][2]

時と悟りの勝利(1707年)[編集]

『時と悟りの勝利』(イタリア語: Il Trionfo del Tempo e del Disinganno、HWV 46a)は、1707年にローマで作曲された全2部からなるオラトリオである。ヘンデルがオペラでなくオラトリオを書いたのは、当時のローマでオペラの上演が禁止されていたという外的な理由にもとづく[3][4]

台本はパンフィーリ枢機卿(en)による[5]

合唱曲は1曲も含まれていない[6]。器楽に特徴的な箇所が多い。第1部の途中に現れる「ソナタ」は独奏オルガンほかさまざまな楽器による手のこんだ独奏パッセージを含む[2]

ヘンデルの初期の伝記を書いたマナリングによると、この曲を指揮したアルカンジェロ・コレッリは、ヘンデルによるフランス風序曲を理解できず、ヘンデルはイタリア風のシンフォニアを別に書いたという[7]

時と真理の勝利(1737年)[編集]

ヘンデルは1737年に旧作を大幅に改訂し、『時と真理の勝利』(イタリア語: Il Trionfo del Tempo e della Verità、HWV 46b)と改題して上演した。歌詞はイタリア語のままである。

この改訂版では原曲にあった半音階主義の多用を簡略化し、あわせて新しい音楽がつけ加えられた[8]。2部から3部に増やされ、合唱が加えられている。

1737年3月23日にロンドンコヴェント・ガーデンで上演された[9]。1739年にも再演されている[10]

ヘンデルの没後、この版が演奏される機会はほとんどなかったが、2000年にNaxosから全曲を録音した3枚組CDが出た[11]

時と真理の勝利(1757年)[編集]

最晩年の1757年に、歌詞を英語に改めた『時と真理の勝利』(英語: The Triumph of Time and Truth、HWV 71)を上演している。これはヘンデルが上演した最後の新作オラトリオとなった。ヘンデルはすでに失明していたが、助手のジョン・スミス(John Christopher Smith)の助けによって改作された[12]

台本はトマス・モーレルによって英語に翻訳された[12][13]

1757年3月11日に初演された。同年の四旬節のシーズン中に4回演奏され、1758年にも1回演奏された[13]

登場人物[編集]

1707年の初版では登場人物は以下の4人であった。

  • 美(Bellezza、ソプラノ)
  • 快楽(Piacere、ソプラノ)
  • 時(Tempo、テノール)
  • 悟り(Disinganno、アルト)

脚注[編集]

  1. ^ 渡部(1966) p.36
  2. ^ a b ホグウッド(1991) p.62
  3. ^ 渡部(1966) pp.33-34,176
  4. ^ ホグウッド(1991) p.61
  5. ^ ホグウッド(1991) pp.60,77
  6. ^ 渡部(1966) p.176
  7. ^ ホグウッド(1991) pp.61-62
  8. ^ ホグウッド(1991) p.237
  9. ^ ホグウッド(1991) p.238 および p.502訳註52
  10. ^ ホグウッド(1991) pp.273-275
  11. ^ HANDEL: Trionfo del Tempo e della Verita (Il), Naxos Records, https://www.naxos.com/catalogue/item.asp?item_code=8.554440-42 (46bのリブレットとその英訳が見られる)
  12. ^ a b ホグウッド(1991) pp.402-403
  13. ^ a b 渡部(1966) p.153

参考文献[編集]

  • クリストファー・ホグウッド 著、三澤寿喜 訳『ヘンデル』東京書籍、1991年。ISBN 4487760798 
  • 渡部恵一郎『ヘンデル』音楽之友社〈大作曲家 人と作品 15〉、1966年。ISBN 4276220157 

外部リンク[編集]