役に立つ馬鹿

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役に立つ馬鹿: Useful Idiot)は、政治用語で、良い活動をしていると無邪気に信じて実際にはそれと気付かずに悪事に荷担している者、プロパガンダに利用されている者をさす言葉。軽蔑表現。

この用語は元々、西側諸国に存在するソビエト連邦(または東側諸国)のシンパを指す言葉として用いられた。意味としては、本人は自分自身を東側の協力者と思っていないが、実際には都合良く東側の宣伝などに利用されていて東側から軽蔑し冷笑されていた西側諸国にいる左翼知識人(進歩的文化人リベラル良心的勢力、等々)を指す。

起源[編集]

西側メディアで初めて使われたのは、1948年のイタリアの社会民主主義紙『L'Umanità』であると、同年のニューヨーク・タイムズ紙のイタリア政治面で引用している[1]

多くはウラジーミル・レーニンの発言だと記されているが[2][3] 、1987年にアメリカ議会図書館の図書館員グラント・ハリスは、「この発言をレーニンの出版された著作から見つけることはできなかった[5]」との声明を出している。

類似用語の 役に立つ愚者: useful innocents)は、オーストリア系アメリカ人ユダヤ系)経済学者のルートヴィヒ・フォン・ミーゼスが著書 『計画された混沌』 で用いている。この用語はミーゼスにより「混乱して誤った方向に導かれた共鳴者(confused and misguided sympathizers)」と定義される、リベラルな共産主義者に対して用いている[6]

現代での用語[編集]

「役に立つ馬鹿」は、善を促進する力になるというばか正直な考えで知らず知らずのうちに悪意ある企てに協力している人たちに対する軽蔑語[7](悪口)としてしばしば使用される。例として、イスラーム過激派(テロリスト)は宥和主義に基づく好意的なアプローチによって効果的に援助されていると信じるようなコメンテーターが、人々を軽蔑的に描写した際に用いている。アンソニー・ブラウン英語版イギリスタイムズ紙にこう書いた[8]:

イギリスのエスタブリシュメント内の一部の分子は、ヒトラーに共感していたことで悪名高い。今日のイスラミストも同じような支援を楽しんでいる。エドワード8世の時代である1930年代、上流階級やデイリー・メール紙、この時、彼らは左翼活動家だったが、ガーディアン紙やBBCの一部もそうだった。その彼らはグローバルな神権政治こそ望んでいなかったかもしれないが、ソビエト連邦のための西側のアポロジスト[9]であり、「役に立つ馬鹿」の同類だったのだ。

2010年、BBCはラジオドキュメンタリーでハーバート・ジョージ・ウェルズドリス・レッシングといったイギリスの著名作家数名、アイルランドの作家であるジョージ・バーナード・ショー、アメリカのジャーナリストであるウォルター・デュランティ英語版や歌手のポール・ロブスンが、ヨシフ・スターリンのための「役に立つ馬鹿」であったとして紹介された[10]

脚注[編集]

  1. ^ "COMMUNIST SHIFT IS SEEN IN EUROPE; Tour of Two Italian Leaders Behind Iron Curtain Held to Doom Popular Fronts", Arnold Cortesi, New York Times, June 21, 1948 p. 14
  2. ^ Sweeney, John (4 August 2010). "Useful Idiots — Episode 1 of 2". Useful Idiots: The Documentary (Podcast). BBC World Service. 2015年6月1日閲覧
  3. ^ The term "useful idiots" has been attributed to Lenin, as a description of those mindless people in the Western democracies who would always find ways to excuse whatever the Soviet Union did.
  4. ^ Boller, Jr., Paul F.; George, John (1989). They Never Said It: A Book of Fake Quotes, Misquotes, and Misleading Attributions. New York: Oxford University Press. ISBN 0-19-505541-1 
  5. ^ "We have not been able to identify this phrase among Lenin's published works."[4]
  6. ^ "PLANNED CHAOS" p.17 in electronic document; Ludwig von Mises;http://mises.org/books/plannedchaos.pdf
  7. ^  (Pejorative
  8. ^ Browne, Anthony (2005年8月1日). “Fundamentally, we're useful idiots”. The Times (London). オリジナルの2006年1月8日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20060108100233/http://www.timesonline.co.uk/article/0,,1072-1716156,00.html 2010年5月27日閲覧。 
  9. ^ 元来は宗教用語。日本語では「弁証家」「護教家」と訳される。初期キリスト教迫害の時代に信仰の正当性を当時の学問的知識で最大限に論証しようとした人々をさす。神学の祖。この文脈では「ソ連の正しさを弁護しようとする者」という皮肉として用いられている。
  10. ^ Useful Idiots - Part One

関連項目[編集]

外部リンク[編集]