ポテンシャル (英 : potential )は、潜在力、潜在性を意味する物理 用語。
最初にポテンシャル(スカラーポテンシャル )の考え方を導入したのは、ジョゼフ=ルイ・ラグランジュ である(1773年 )。ラグランジュの段階ではポテンシャルとは言われておらず、これをポテンシャルと呼んだのは、ジョージ・グリーン である(1828年 )。カール・フリードリヒ・ガウス 、ウィリアム・トムソン 、ペーター・グスタフ・ディリクレ によってポテンシャル論における三つの基本問題として、ディリクレ問題 、ノイマン問題、斜交微分の問題が注目されるようになった。
ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー )のことをポテンシャルと呼ぶこともある。
空間 内において、空間内の各点に働く力 F が、当該点上のある定まった量 V から、
F
=
−
∇
V
(
=
−
grad
V
)
⋯
(
1
)
{\displaystyle {\boldsymbol {F}}=-\nabla V(=-\operatorname {grad} V)\qquad \cdots (1)}
として求まる時、V を力 F のポテンシャル と言う。上式の関係より、V は勾配におけるスカラーポテンシャルである。なお、gradは勾配 、
∇
{\displaystyle \nabla }
はナブラ である。
一つの質点 を考え、これが力 F の作用する場 (力場)にあり、当該質点が dl =(dx , dy , dz )だけ変位 した時、その力のなした仕事 dW は(以下、直交座標系 を考える)、
d
W
=
F
⋅
d
l
=
F
x
d
x
+
F
y
d
y
+
F
z
d
z
{\displaystyle \mathrm {d} W={\boldsymbol {F}}\cdot \mathrm {d} {\boldsymbol {l}}=F_{x}\mathrm {d} x+F_{y}\mathrm {d} y+F_{z}\mathrm {d} z}
となる。(Fx , Fy , Fz )は力 F の各座標成分である。ポテンシャルに関して、
F
x
=
−
∂
V
∂
x
,
F
y
=
−
∂
V
∂
y
,
F
z
=
−
∂
V
∂
z
{\displaystyle F_{x}=-{\partial V \over {\partial x}},\quad F_{y}=-{\partial V \over {\partial y}},\quad F_{z}=-{\partial V \over {\partial z}}}
と表現できるなら、
d
W
=
−
∂
V
∂
x
d
x
−
∂
V
∂
y
d
y
−
∂
V
∂
z
d
z
=
−
d
V
{\displaystyle \mathrm {d} W=-{\partial V \over {\partial x}}\mathrm {d} x-{\partial V \over {\partial y}}\mathrm {d} y-{\partial V \over {\partial z}}\mathrm {d} z=-\mathrm {d} V}
となる。
力の作用する範囲内で質点が、位置AからBへ運動する間になす仕事 W A-B は、
W
A
−
B
=
V
A
−
V
B
{\displaystyle W_{\mathrm {A-B} }\,=V_{\mathrm {A} }-V_{\mathrm {B} }}
となる。V A は位置Aでのポテンシャル、V B は位置Bでのポテンシャルである。この結果は、質点の動いた経路に依らない。どのような経路を通るかに関わらず、なした仕事がどの経路でも等しい場合、この時に質点に働く力を保存力 (conservative force)と言う。また、保存力のみが作用する場(力場)を保存力場 (conservative force field)と言う。また保存力では、質点が位置Aから出発して位置Aに戻る経路(閉じた経路)の場合、質点のなした仕事は、途中の通った道筋に関係なくゼロとなる。
このように(スカラー)ポテンシャルによる力は保存力となる。また、逆に保存力は必ずポテンシャルを伴うことが言える。
式(1)について、F は力なので、これに関しての質量 m の質点(簡単のため1質点を想定)の運動方程式 は、
F
=
m
d
2
r
d
t
2
=
−
∇
V
{\displaystyle {\boldsymbol {F}}=m{\mathrm {d} ^{2}{\boldsymbol {r}} \over {\mathrm {d} t^{2}}}=-\nabla V}
となる。d2 r /dt 2 は質点の加速度である。真中と右辺にそれぞれ dr /dt をかけ、時間 t で積分すると次の式を得る。
1
2
m
(
d
r
d
t
)
2
+
V
(
r
)
=
c
o
n
s
t
a
n
t
{\displaystyle {1 \over 2}m\left({\mathrm {d} {\boldsymbol {r}} \over {\mathrm {d} t}}\right)^{2}+V({\boldsymbol {r}})=\mathrm {constant} }
これは、
d
d
t
(
d
r
d
t
)
2
=
2
d
r
d
t
⋅
d
2
r
d
t
2
{\displaystyle {\mathrm {d} \over {\mathrm {d} t}}\left({\mathrm {d} {\boldsymbol {r}} \over {\mathrm {d} t}}\right)^{2}=2{\mathrm {d} {\boldsymbol {r}} \over {\mathrm {d} t}}\cdot {\mathrm {d} ^{2}{\boldsymbol {r}} \over {\mathrm {d} t^{2}}}}
及び、
d
d
t
V
(
r
)
=
d
r
d
t
⋅
∇
V
(
r
)
{\displaystyle {\mathrm {d} \over {\mathrm {d} t}}V({\boldsymbol {r}})={\mathrm {d} {\boldsymbol {r}} \over {\mathrm {d} t}}\cdot \nabla V({\boldsymbol {r}})}
から求められる。constantは時間 t に関しての積分から出てくる定数 である。これは積分して得られた式の左辺において、第一項が運動エネルギー であり、それと第二項の V (r )との和が一定であることを意味し、この場合、V (r )のことをポテンシャルエネルギー (位置エネルギー )と呼ぶ。形式上ポテンシャルと同じ形だが、この時のV (r )のr は質点の位置であり、r = r (t )である。