MEMORIA メモリア

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MEMORIA メモリア
Memoria
監督 アピチャッポン・ウィーラセタクン
脚本 アピチャッポン・ウィーラセタクン
製作 アピチャッポン・ウィーラセタクン
ダイアナ・ブスタマンテ
サイモン・フィールズ英語版
キース・グリフィス
シャルル・ド・モー英語版
マイケル・ウェバー
フリオ・チャベスモンテス英語版
出演者 ティルダ・スウィントン
エルキン・ディアス
ジャンヌ・バリバール
フアン・パブロ・ウレゴ英語版
アグネス・ブレッケ
ダニエル・ヒメネス・カチョ英語版
撮影 サヨムプー・ムックディプローム
編集 リー・チャータメーティクン英語版
製作会社 キック・ザ・マシーン
バーニング・ブルー
アンナ・サンダース・フィルムズ
ザ・マッチ・ファクトリー
ピアノ英語版
Xストリーム・ピクチャーズ英語版
iQIYI
配給 アメリカ合衆国の旗 NEON
公開 フランスの旗 2021年7月15日 (カンヌ国際映画祭)
日本の旗 2022年3月4日
上映時間 136分[1]
製作国 タイ王国の旗 タイ
 コロンビア
フランスの旗 フランス
ドイツの旗 ドイツ
メキシコの旗 メキシコ
中華人民共和国の旗 中国
言語 英語
スペイン語
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MEMORIA メモリア』 (Memoria) は、2021年タイコロンビアフランスドイツメキシコ中国合作のドラマ映画。監督はアピチャッポン・ウィーラセタクン。主演はティルダ・スウィントン。共演はエルキン・ディアス、ジャンヌ・バリバールフアン・パブロ・ウレゴ英語版、アグネス・ブレッケ、ダニエル・ヒメネス・カチョ英語版ら。

本作は第74回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、ナダヴ・ラピド監督の『הַבֶּרֶךְ』と共に審査員賞を受賞した。

ストーリー[編集]

コロンビアの地方都市で蘭の栽培業を営むジェシカは、呼吸器疾患で入院している妹のカレンを見舞うために休暇を取り、首都ボゴタの妹夫婦の家に滞在していた。ある夜、バンッ!という大きな破裂音をきいて、眠りから目覚めるジェシカ。

病院のベッドで、ジェシカに犬の話をするカレン。轢き逃げされた見知らぬ犬を動物病院に預けたが、その晩から体調を崩し、忘れてしまったのだという。入院は犬の呪いだと気にするカレン。

謎の破裂音を何度も聞くジェシカ。だが、周囲の人々には聞こえていないようだ。カレンの夫の紹介で録音スタジオを訪ね、音響技師のエルナンに音の再現を依頼するジェシカ。翌日、公園でジェシカと落ち合ったエルナンは、再現した録音テープをジェシカに渡し、ついでに買い物にも付き合った。

退院したカレンやその家族とレストランで食事をするジェシカ。病院で犬の話などしていないと真顔で話すカレン。カレンの夫から聞いた亡くなった知人についても、生きていると言う。録音スタジオを再訪すると、エルナンという技師は存在していなかった。それでも特に追求することもなく、淡々と休暇を過ごし続けるジェシカ。

病院で知り合ったアニエスという女医の紹介で、洞窟の発掘現場を見学し、古代の骨に思いを馳せるジェシカ。謎の音を聞き始めてから睡眠不足なジェシカは、診察を受けても原因が分からず、気晴らしに緑の深い郊外の村へ向かった。

村でも破裂音を聞き、出どころを探すジェシカに話しかけて来る地元の男。彼もエルナンと名乗り、全てを記憶するのでテレビなどは見ないと奇妙な言動を続けた。全ての物には記憶(メモリア)が残っており、エルナンはその波動を読み取るのだという。エルナンがジェシカの腕に触れると、ジェシカにも過去の様々な音や人声が聞こえた。やがて、破裂音を聞いて我に返り、窓辺で耳を澄ますジェシカ。

森の奥深くで奇妙な音を立てながら浮かび上がる異星の宇宙船。破裂音は、この宇宙船が加速する際の衝撃波だったのだ。宇宙船は空高く飛び去り、複数の人が、その音を聞いた様子だった。

女医のアニエスは、火山で起こった地震や、発掘現場で見つかった新たな骨の記録を報告書にまとめ、村のエルナンは頭に響く音を聞き、山々には様々な音が響き渡っていた。

キャスト[編集]

製作[編集]

2018年3月、アピチャッポン・ウィーラセタクンが脚本と監督を務める新作に、ティルダ・スウィントンが出演することが発表された[2]。ウィーラセタクンは作品の製作にあたって、ボゴタカリメデジンピハーオ英語版チョコ県アンデス山脈やジャングルなど、コロンビアの各地を偵察した。さらに刑務所精神病院を訪れ、心理学者に取材を行い[3]薬物の幻覚症状について記録し、それらの要素を脚本に盛り込んだ[4]。2019年8月、ジャンヌ・バリバールダニエル・ヒメネス・カチョ英語版フアン・パブロ・ウレゴ英語版、エルキン・ディアスがキャストに加わった[5]。作品の題材となる音は、ウィーラセタクンが騒音を繰り返し耳にした体験から着想を得ている[6]

撮影[編集]

主要な撮影は、2019年8月にコロンビアで開始し[7]、8週間かけて行われた[8]

公開[編集]

2019年11月、NEON米国での配給権を獲得した[9]。本作は、2021年7月15日にカンヌ国際映画祭で上映された[10]

日本では2022年3月4日に東京(有楽町・新宿・渋谷)・札幌・名古屋・京都(2館)・梅田・神戸・福岡の10館で劇場公開された後、全国順次公開された[11]

評価[編集]

本作は批評家から絶賛されている。Rotten Tomatoesでは12個の批評家レビューのうち92%が支持評価を下し、平均評価は10点中8.3点となった[12]MetacriticのMetascoreは11個の批評家レビューに基づき、加重平均値は100点中91点となった。サイトは本作の評価を「幅広い絶賛」と示している[13]

ガーディアン』のピーター・ブラッドショー英語版は、映画に満点となる5つ星を与え、「静かな写実主義と神秘性を排した映画言語、この監督(ウィーラセタクン)は、生者と死者、過去と現在、現世と異界が隣り合わせに存在する世界観を完全に観客に納得させることが出来る。」と評した[14]。『ロサンゼルス・タイムズ』のジャスティン・チャン英語版は、「試写室の床に顎を打ち付けられるような結末」と形容し、カンヌで上映されていた他の作品に無い魅力を放っていたと語った[15]

バラエティ』のピーター・デブリュージュは、本作のストーリーを「ジェシカが耳にする破壊的な音は、ある種の警鐘であり、"人が死んだら何が残るのか"、"各場所で人々が目撃した全てのものは化石の痕跡のようなものになるのか"という、人間が説明できない世界の次元に彼女を強制的に引き込む。」と表現し、「作品の不穏な音はウィーラセタクンが体験した繰り返される騒音から着想を得たもので、ペドロ・アルモドヴァルの『ペイン・アンド・グローリー』での耳鳴りの扱いを想起させるが、ここでは、個人的な診断を共有して観客の共感を呼ばせるというよりは、不快な病気を観客にそのまま負わせているようで、予測不可能な大音量の聴覚的爆発を小さなテロ攻撃として組み込み、その他の部分の禅的な体験をあえて遮ぎらせている。」と評した[6]

出典[編集]

  1. ^ MEMORIA”. Cannes Film Festival. 2021年7月20日閲覧。
  2. ^ Nordine, Michael (2018年3月15日). “Tilda Swinton to Star in Palme d'Or Winner Apichatpong Weerasethakul's 'Memoria'”. IndieWire英語版. 2019年8月27日閲覧。
  3. ^ Des nouvelles de Memoria, le prochain film d'Apichatpong Weerasethakul” (2019年11月14日). 2021年7月20日閲覧。
  4. ^ Le cinéaste thaïlandais Apichatpong transpose ses fantômes en Colombie” (2018年11月23日). 2021年7月20日閲覧。
  5. ^ Lang, Jaime (2019年8月27日). “See the First Set Photos of Tilda Swinton, Apichatpong Weerasethakul 'Memoria' Shoot (EXCLUSIVE)”. Variety. 2019年8月27日閲覧。
  6. ^ a b Peter Debruge. “‘Memoria’ Review: The Amazon Jungle Offers a Fresh Playground for Apichatpong Weerasethakul’s Usual Obsessions”. Variety. 2021年7月20日閲覧。
  7. ^ Raup, Jordan (2019年8月27日). “Apichatpong Weerasethakul Begins Shooting 'Memoria' Starring Tilda Swinton”. The Film Stage. 2019年8月27日閲覧。
  8. ^ Le cinéaste thaïlandais Apichatpong transpose ses fantômes en Colombie” (2018年11月23日). 2021年7月20日閲覧。
  9. ^ Grater, Tom (2019年11月7日). “AFM Action: Neon Buys Tilda Swinton Arthouse Pic 'Memoria'”. Deadline Hollywood. 2019年11月7日閲覧。
  10. ^ The Films of the Official Selection 2021”. Cannes Film Festival (2021年6月3日). 2021年6月3日閲覧。
  11. ^ MEMORIA メモリア 劇場情報”. 「映画館に行こう!」実行委員会. 2022年3月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月9日閲覧。
  12. ^ Memoria”. Rotten Tomatoes. 2021年7月20日閲覧。
  13. ^ Memoria”. Metacritic. 2021年7月20日閲覧。
  14. ^ Peter Bradshaw. “‘Memoria review – Apichatpong Weerasethakul and Tilda Swinton make a dream team”. The Guardian. 2021年7月20日閲覧。
  15. ^ Justin Chang. “Even from afar, the Cannes Film Festival delivers movies worth celebrating”. Los Angeles Times. 2021年7月20日閲覧。

外部リンク[編集]