IPS方式

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IPS方式(IPSほうしき)とは In Plane Switching の略で液晶ディスプレイの一形式。

概要[編集]

液晶分子を基板と平行な面内(in-plane)で回転させ、複屈折の変化で光をスイッチングする液晶駆動方式のこと。液晶のガラス基板の面方向に電界を加えて液晶分子を駆動し、電界が存在しない無電圧状態で光を遮蔽する。

TN方式では偏光板に挟まれた液晶分子を「ねじれ」させて偏光し、またVA方式では液晶分子をガラス面と垂直方向に回転させて偏光するため、斜めから液晶画面を見ると、液晶分子に邪魔されて映像が見えなくなる。そのため、視野角がせいぜい上下160度左右170度程度しかない。それに対し、IPS液晶では液晶分子をガラス面と平行方向に回転させるため、上下左右178度の広い視野角をもち、どの位置で見ても色の変化がほとんどない。そのため、家族みんなで見る大画面テレビや、高級感のあるテレビに向いている。

欠点としては、バックライトの光が漏れやすく、純粋な「黒」を表現しにくいため、一人でムーディな映画などを見るにはVA方式の方が適している。また、コントラスト比を高めることが難しく、応答時間が長いため、動きの激しい動画や対戦型格闘ゲームにはTN方式の方が適している。

歴史[編集]

1990年代頃までは液晶パネルと言えばTN液晶しか存在しなかったが、「応答時間が長い」「視野角が狭い」などのTN液晶の欠点を改善するために1990年代頃より様々な方式が考案された。その一つがIPS方式である。

最初にTN方式と比べて有利な分子配列を提唱したのは、ドイツのフラウンホーファー研究機構に勤めるGuenter Baurで、1990年1月9日に最初の特許を米国で取得した。ドイツにおけるIPS方式の特許はメルク社に供与された。

その後、日立研究所の近藤克己率いるチームがこの技術の改善に取り組んだ。1992年、日立は薄膜トランジスタアレイをマトリックスとして相互に接続することでピクセル間の分子を制御する方式を考案し、IPS液晶の実用化に成功。日本において特許を申請し、1996年に世界初のIPS方式のディスプレイを製品化した。日立は1998年にIPS液晶の視野角をさらに改善した「スーパーIPS」方式を実用化し、液晶パネルを大画面テレビや大画面ディスプレイに利用する道が開けた。

1990年代後半において、日立とNECはIPSパネルの最初期に実用化したパネルメーカーとして大いに繁栄した。1996年には韓国のサムスン電子もIPS液晶の実用化に成功。また、LGエレクトロニクスも実用化に成功し、その後は韓国、日本、および台湾の様々なLCDメーカーもIPSパネルの製造を開始し、様々な会社から様々な製品がリリースされている。

現在ではジャパンディスプレイLGディスプレイのみが「IPS方式」を名乗って製品化している。その他のメーカーはIPS方式を独自に改善した方式で、独自のブランドを採用し、その方式の違いにより、様々な名称が付けられている。

技術開発[編集]

「IPS」は日本のこの分野においてはジャパンディスプレイ社(かつては日立ディスプレイズが所有していた)の登録商標(日本第1764666号ほか)である。

日立 IPS方式 [1][2]
名前 愛称 開発年 性能 透過率/
コントラスト比
脚注
Super TFT IPS 1996 広視野角 100/100
Base level
多くのパネルがTrueColourをサポート。応答時間を犠牲にした。 また、非常に高価であった。
Super-IPS S-IPS 1998 Colour shift free 100/137 ピクセルリフレッシュタイミングを改良。
Advanced Super-IPS AS-IPS 2002 高透過率 130/250 従来のS-IPSパネルのコントラスト比を大幅に改善。
IPS-Provectus IPS-Pro 2004 高コントラスト比 137/313 より広い色域と高コントラスト比。
IPS alpha IPS-Pro 2008 高コントラスト比 次世代の IPS-Pro。
IPS alpha next gen IPS-Pro 2010 高コントラスト比
Light leakage improved IPS IPS-NEO 2014 省エネルギー
LGエレクトロニクス IPS方式
名前 愛称 開発年 脚注
Horizontal IPS H-IPS 2007 電極位置をずらすことによってコントラスト比を向上した。また、白表現を向上するため、NECの偏光フィルムを使用したモデルもあった。
Enhanced IPS E-IPS 2009 低消費電力、対角視野角向上、さらには5msへ応答時間を短縮。
Professional IPS P-IPS 2010 1070000000色(30ビットの色深度)をサポート。
Advanced High Performance IPS AH-IPS 2011 低消費電力化のための改良、解像度の向上とPPI、およびより大きい光透過率。厳密に言うと後述のAFFS方式でありIPSではない

特徴[編集]

視野角が広い上に色度変移色調変化が少ないため、初期には高級なテレビモニタDTP用のモニタに採用されていたが、開発が進み、廉価帯のテレビモニタにも採用されるようになった。

2016年現在では、8K画素(水平7,680×垂直4,320)程度のものまで開発されている。

液晶を構成する素材の関係でTN方式と配列が違うため、若干色温度が低くなる(黄色っぽくなる)傾向がある。このため、専用の回路でこれを補正することが行われている。

駆動電圧は他の駆動方式にくらべて大きい。

水平回転のため応答速度を高くしづらいが、応答速度のばらつきは小さい。

開口率が低いため高輝度化が難しかったが、改良により、開口率を向上した製品が登場した。

全遮断時でもバックライト光の透過率が高く、高コントラスト化が難しい。

表示ムラができないようにするためと必要な電圧を低く抑えるために、通常は画素電極が櫛歯状に形成されている。

TFTアクティブマトリックス液晶表示装置として使われることが多い。

基本的にTN方式と比べて製造コストが高かったが、LG電子によりTN方式並みに製造コストを抑えた「e-IPS」というパネルも開発されている。

バリエーション[編集]

各パネルメーカーで様々な名称が採用されている。逆に言うと、液晶の駆動方式の名称からパネルの供給元が分かる。

Advanced Hyper-Viewing Angle (AHVA)[編集]

AUOが開発したIPS方式のバリエーション。BenQのディスプレイなどで採用されている。

SFT (Super-Fine-TFT)[編集]

NEC(現・Tianma Japan)が開発した技術で、2018年現在は産業用機器のディスプレイに採用されている。A-SFT (Advanced-SFT)、SA-SFT (Super Advanced-SFT)、UA-SFT (Ultra Advanced-SFT) と性能を向上させている。

Plane to Line Switching (PLS)[編集]

サムスンが2010年に開発したIPS方式のバリエーション。サムスンは2020年に大型液晶パネルの製造から撤退した。

参照[編集]

  1. ^ IPS-Pro (Evolving IPS technology)
  2. ^ http://www.barco.be/barcoview/downloads/IPS-Pro_LCD_technology.pdf

外部リンク[編集]