FIRE ムーブメント

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FIREFinancial Independence, Retire Early)ムーブメントとは、 経済的独立と早期退職を目標とするライフスタイルを啓蒙するムーブメントである。この生活モデルは、ブログポッドキャスト、およびオンラインフォーラムで共有されている情報を通じて2010年代より大きな注目を集め、特にミレニアル世代に人気が高まった[1][2][3][4][5]

FIREを達成するための方法は、収入増や支出減を模索しながら、意図的に貯蓄率を最大化することである。 その目的は、(FIRE達成後の)生涯の支出を賄うのに十分な不労所得を得ることだ。 FIREムーブメントの支持者は、(退職後の資産の取り崩しに関して)4%ルールを提案しており、推定年間生活費の少なくとも25倍の貯蓄目標を設定している。 経済的独立を達成すると、労働所得は付属的となり、標準的な定年よりも数十年早く退職が可能になる。

以下の2つを達成するとFIREを達成できる。

  1. 貯蓄率を高め、生活費25年分を貯蓄する。
  2. 投資インフレ調整後の利回りを4%以上にする。

背景[編集]

FIREは、ファイナンシャルプランナーによって一般的に推奨されている10〜15%をはるかに超える積極的な貯蓄率によって達成される[6]。一定の収入と支出を想定し、投資収益を無視すると、次のことがいえる。

  • 10%の貯蓄率のとき、1年分の生活費を貯蓄するには (1 - 0.1) ÷ 0.1 = 9年間の労働所得が必要。
  • 25%の貯蓄率のとき、1年分の生活費を貯蓄するには (1 - 0.25) ÷ 0.25 = 3年間の労働所得が必要。
  • 50%の貯蓄率のとき、1年分の生活費を貯蓄するには (1 - 0.5) ÷ 0.5 = 1年間の労働所得が必要。
  • 75%の貯蓄率のとき、1年分の生活費を貯蓄するには (1 - 0.75) ÷ 0.75 = 0.33年間の労働所得が必要。

この例から、貯蓄率が上がるにつれて退職までの時間が大幅に短縮されると結論付けることができる。 このため、FIREを追求する人々は、収入の50%以上を貯蓄しようとしている[7]。75%の貯蓄率では、「4%の安全な資産の取り崩しルール」によって提案されている生活費25年分の貯蓄には10年もかからない。

生活費25年分の資産を
作るのに必要な年数[8]
貯蓄率 投資利回り
1% 5% 10%
5% 175年[9] 65年[10] 40年[11]
10% 118年[12] 51年[13] 33年[14]
20% 69年[15] 36年[16] 25年[17]
40% 32年[18] 21年[19] 16年[20]
60% 15年[21] 12年[22] 10年[23]
80% 6年[24] 5年[25] 5年[26]


投資利回りはインフレ調整後の実質利回り。計算式は以下の通り。貯蓄率をp、投資利回りをr、必要な年数をxと置くと、下記の方程式を解きxを求めれば良い。pとrの単位は倍率。つまり貯蓄率5%、投資利回り10%なら、p=0.05でr=1.1。

比較対象として、国民経済計算の家計貯蓄率によると、2019年度の日本の家計貯蓄率は5.6%[27]。この貯蓄には預金投資が含まれる。また、この数字は勤労者世帯と年金生活者世帯を合わせた数字であり、勤労者世帯の家計貯蓄率は年金生活者世帯よりも高い。

定年まで43年間働いて、生活費25年分の資産を作るには、貯蓄率10%の場合は投資利回り7%[28]、貯蓄率15%の場合は投資利回り5%[29]が必要。厚生年金の保険料率は2020年現在は給与・賞与の18.3%で、GPIFの実質的な運用利回りは2.39%[30]であり、これは給与17年分[31]の資産に相当する。給与は税と健康保険が引かれるため、手取りで考えると17年よりも多い。なお、厚生年金は世代間扶養であり、受給世代の年金を現役世代が負担しているので、もう少し話は複雑である。

4%ルール[編集]

資産の取り崩し方として4%ルール(Trinity study)というのが提案されている。もし、物価上昇率と同じ利率で無リスクで運用できる方法が仮にあったとして、その場合は4%ずつ取り崩すと25年で資産は無くなる。トリニティ大学の Philip L. Cooley らが、1926年~1995年の過去データを使って計算した所、アメリカ居住者が、資産をアメリカ株式(S&P 500)とアメリカ債券(長期高格付け社債)で株式と債券を75:25にして資産運用し、インフレも加味して初期資産の4%に相当する金額を毎年取り崩した場合、資産が0ドルより多く残る確率は、25年後は確率100%、30年後は確率98%という計算結果になった(論文のTable 3の75% Stocks/25% Bonds)[8][32]ジェレミー・シーゲルの調査によると、1980年~2012年のデータでは30年保有の場合は株式を68%にするのが現代ポートフォリオ理論では最もリスクが低くインフレ調整後の利回りは5%台[33]

そして、4%ルールに基づいてFIREが成功するには、早期退職から一般的な定年までの間に、資産を減らさないようにするために、実質利回り4%以上の資産運用が必要になる。GPIFの2001年度~2019年度の実質利回りは2.39%[30]であり、4%を実現するにはGPIFよりもリスクを取った運用が必要となる。なお、GPIFは2014年10月から株式の割合が50%となったが、その前は24%、2013年6月以前は20%(実質利回り目標1.1%)であったため、リスクの低い運用が元々行われていた[34]

歴史[編集]

FIREムーブメントの背後にある主要なアイデアは、 Vicki RobinとJoe Dominguezによって書かれた1992年のベストセラーの本Your Money or Your Life [35][36] 、およびJacob Lund Fiskerによる2010年のEarly Retirement Extremeに由来する[37]。これらの作品は、経済的独立を達成するための、投資からの収入とシンプルな生活を組み合わせることの基本的枠組みを提供した。特に、後者の作品では、貯蓄率と退職時期の関係に言及している。これにより、想定されるレベルの収入と支出を考慮して、彼らの退職時期を手軽に予測することを可能にした。

2011年に開始されたブログ「Mr. Money Mustache」は、 節約を通して早期退職を達成するという考えに関心を寄せ、FIREムーブメントの拡散に大きな影響を与えた[38][39]。他のブログやポッドキャストでも、FIREの概念はオンラインで激しく議論され、洗練され推進され続けている。 2018年に、FIREムーブメントは伝統的な主要メディアによって大きな報道された[7][35][36][38]。同年後半に The Harris Poll が行った調査によると、45歳以上の裕福なアメリカ人の26%がFIREムーブメントの概念を認識しており、11%が名前を聞いたことがあるとしている[40]

批判[編集]

貯蓄率を上げることの難しさ[編集]

一部の批評家は、FIREムーブメントは「高所得者のものである」[41]と主張し、FIREに必要な高い貯蓄率を低所得で達成することの難しさを指摘している[38]

生活水準を下げることは苦痛を伴うが、社会人1年目であれば質素に暮らすことは一般的かつ難しくないため、例えば、良い大学を卒業し、いきなり年収1000万円ある人が300万円で質素に生活し、適切に資産運用すれば30歳頃にはFIREできる。同じく、若くして結婚して、夫婦共に高収入であるとFIREは比較的容易である。

投資実質利回り4%の難しさ[編集]

もう一つの一般的な批判は、FIREムーブメントによる早期退職者の貯蓄が十分でないという批判である。 FIREによる退職フェーズは70年ほども続く可能性があり、30年の伝統的な退職期間のために開発された4%ルールを適用することは不適切である、と批評家は指摘している。この批判は、伝統的な退職モデルよりもはるかに長い期間にわたる4%ルールの実証的証拠の欠如に基づいている[7]

2020年10月20日現在、S&P 500の過去10年間の利回り(配当金と米国配当課税込み)は年13.01%(ドル建て)[42]であり、アメリカのインフレ率は2%程度[43]のため、インフレ調整後の利回りは4%を大きく超えている。ジェレミー・シーゲルの調査によると、1802年~2013年のアメリカの株式のインフレ調整後の利回りは6.7%[33]。ただしこれらは過去の話であり、未来も同じ状況にあるかは当然未知である。またバンガード米国トータル債券市場ETF(NASDAQ: BND)の過去10年間のトータルリターンは2020年9月末現在、年3.57%[44]のため、投資適格債だけではリスクテイクは不十分であり、株式の比率を高め、より大きくリスクを取る必要がある。

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ Brenoff, Ann (2018年4月24日). “7 Things You Can Learn From The FIRE Movement” (英語). Huffington Post. https://www.huffingtonpost.com/entry/fire-movement-lessons-early-retirement_us_5ad8c586e4b03c426dac4e01 2018年7月7日閲覧。 
  2. ^ Wong, Kristin. “The Basics of FIRE (Financial Independence and Early Retirement)” (英語). Two Cents. https://twocents.lifehacker.com/the-basics-of-fire-financial-independence-and-early-re-1820129768 2018年7月7日閲覧。 
  3. ^ “Young People Say Screw It, Retire in Their 30s” (英語). Free. (2018年6月5日). https://free.vice.com/en_us/article/qvnwvq/financial-independence-retire-early 2018年7月7日閲覧。 
  4. ^ Avenue, Next. “What 30-Year-Old Retirees Can Teach The Rest Of Us” (英語). Forbes. https://www.forbes.com/sites/nextavenue/2014/03/21/what-30-year-old-retirees-can-teach-the-rest-of-us/#3ddb5f1137b0 2018年10月22日閲覧。 
  5. ^ A Growing Cult of Millennials Is Obsessed With Early Retirement. This 72-Year-Old Is Their Unlikely Inspiration” (英語). Money. 2018年10月22日閲覧。
  6. ^ When should I start saving for retirement?”. Money. 2018年12月18日閲覧。
  7. ^ a b c Stokel-Walker. “FIRE: The movement to live frugally and retire decades early” (英語). www.bbc.com. 2018年12月18日閲覧。
  8. ^ a b クリスティー・シェン、ブライス・リャン『FIRE 最強の早期リタイア術 最速でお金から自由になれる究極メソッド』岩本正明訳、ダイヤモンド社、2020年。ISBN 4478108579
  9. ^ ln(1+25*(1/0.05-1)*ln(1.01))/ln(1.01) - Wolfram|Alpha
  10. ^ ln(1+25*(1/0.05-1)*ln(1.05))/ln(1.05) - Wolfram|Alpha
  11. ^ ln(1+25*(1/0.05-1)*ln(1.10))/ln(1.10) - Wolfram|Alpha
  12. ^ ln(1+25*(1/0.10-1)*ln(1.01))/ln(1.01) - Wolfram|Alpha
  13. ^ ln(1+25*(1/0.10-1)*ln(1.05))/ln(1.05) - Wolfram|Alpha
  14. ^ ln(1+25*(1/0.10-1)*ln(1.10))/ln(1.10) - Wolfram|Alpha
  15. ^ ln(1+25*(1/0.20-1)*ln(1.01))/ln(1.01) - Wolfram|Alpha
  16. ^ ln(1+25*(1/0.20-1)*ln(1.05))/ln(1.05) - Wolfram|Alpha
  17. ^ ln(1+25*(1/0.20-1)*ln(1.10))/ln(1.10) - Wolfram|Alpha
  18. ^ ln(1+25*(1/0.40-1)*ln(1.01))/ln(1.01) - Wolfram|Alpha
  19. ^ ln(1+25*(1/0.40-1)*ln(1.05))/ln(1.05) - Wolfram|Alpha
  20. ^ ln(1+25*(1/0.40-1)*ln(1.10))/ln(1.10) - Wolfram|Alpha
  21. ^ ln(1+25*(1/0.60-1)*ln(1.01))/ln(1.01) - Wolfram|Alpha
  22. ^ ln(1+25*(1/0.60-1)*ln(1.05))/ln(1.05) - Wolfram|Alpha
  23. ^ ln(1+25*(1/0.60-1)*ln(1.10))/ln(1.10) - Wolfram|Alpha
  24. ^ ln(1+25*(1/0.80-1)*ln(1.01))/ln(1.01) - Wolfram|Alpha
  25. ^ ln(1+25*(1/0.80-1)*ln(1.05))/ln(1.05) - Wolfram|Alpha
  26. ^ ln(1+25*(1/0.80-1)*ln(1.10))/ln(1.10) - Wolfram|Alpha
  27. ^ 家計可処分所得・家計貯蓄率四半期別速報(参考系列) - 内閣府
  28. ^ ln(1+25*(1/0.10-1)*ln(1.07))/ln(1.07) - Wolfram|Alpha
  29. ^ ln(1+25*(1/0.15-1)*ln(1.05))/ln(1.05) - Wolfram|Alpha
  30. ^ a b GPIFの運用目標|年金積立金管理運用独立行政法人
  31. ^ ln(1+17*(1/0.183-1)*ln(1.0239))/ln(1.0239) - Wolfram|Alpha
  32. ^ Retirement Savings: Choosing aWithdrawal Rate That Is Sustainable
  33. ^ a b Real Returns Favor Holding Stocks – Marotta On Money
  34. ^ 基本ポートフォリオの考え方|年金積立金管理運用独立行政法人
  35. ^ a b Tergesen, Anne; Dagher, Veronica (2018年11月3日). “The New Retirement Plan: Save Almost Everything, Spend Virtually Nothing” (英語). Wall Street Journal. ISSN 0099-9660. https://www.wsj.com/articles/the-new-retirement-plan-save-almost-everything-spend-virtually-nothing-1541217688 2019年1月28日閲覧。 
  36. ^ a b Kurutz, Steven (2018年9月1日). “How to Retire in Your 30s With $1 Million in the Bank” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2018/09/01/style/fire-financial-independence-retire-early.html 2019年1月28日閲覧。 
  37. ^ Bejder, Eva (2018年12月15日). “[Get off the hamster wheel - with enough money for the rest of your life]” (Danish). Stå af hamsterhjulet - med penge nok til resten af livet. Denmark: DR2.. https://www.dr.dk/tv/se/temaloerdag-sta-af-hamsterhjulet-med-penge-nok-til-resten-af-livet/-/temaloerdag-sta-af-hamsterhjulet-med-penge-nok-til-resten-af-livet 2019年1月29日閲覧。 
  38. ^ a b c Moss, Stephen (2018年11月20日). “Can anyone retire in their 30s? Meet the people who say yes” (英語). The Guardian. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/money/2018/nov/20/can-anyone-retire-in-their-30s-meet-the-people-who-say-yes 2018年12月18日閲覧。 
  39. ^ Pennington (2018年2月23日). “FIRE followers Down Under seek early retirement” (英語). The Sydney Morning Herald. 2019年1月29日閲覧。
  40. ^ The Harris Poll (2018年11月27日) (英語) (PDF). The FIRE Movement Survey. TD Ameritrade.. https://s1.q4cdn.com/959385532/files/doc_downloads/research/2018/FIRE-Survey-full-research.pdf 2019年1月29日閲覧。 
  41. ^ Howard. “Being frugal is for the rich” (英語). The Outline. 2018年12月18日閲覧。
  42. ^ S&P 500® - S&P Dow Jones Indices USDとNET TOTAL RETURNと10 YEARを選択
  43. ^ Inflation, consumer prices for the United States (FPCPITOTLZGUSA) | FRED | St. Louis Fed
  44. ^ バンガード・インベストメンツ・ジャパン - 商品案内 - バンガードETF