ユーリ古細菌
ユーリ古細菌 | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Thermococcus gammatolerans
| |||||||||
分類 | |||||||||
| |||||||||
学名 | |||||||||
"Euryarchaeota" Garrity and Holt 2002 | |||||||||
下位分類(綱) | |||||||||
目、科については本文参照 |
ユーリ古細菌(ユーリこさいきん、ユリアーキオータ、Euryarchaeota)は、メタン生成菌や高度好塩菌を中心とした古細菌の分類群である。この他にも超好熱菌や好熱好酸菌、硫酸還元菌、嫌気的メタン酸化菌など多様な生物が含まれており、既知の古細菌の8割以上が分類される。下位分類としては9綱を含み(記載されているのは8綱)、原核生物の門としては最大の多様性を持つ。また、種ベースでも原核生物の3%を占め、6番目の規模を持つ。
1984年にレイクが古細菌界として定義したものである[1]。1990年にカール・ウーズが16SrRNA配列に従いユーリ古細菌界として再定義した[2]。他の古細菌群とは基本的に16S rRNA系統解析によって区別されており、形態・細胞表層構造、代謝系は非常に多様である。幅広い極限環境に適応していることから、ギリシャ語のευρυς(ラテン文字:eurys;エウリュス、意味:広い)にちなんで命名された。
一方で、2015年には国際原核生物命名規約の範囲に門を含めることが提案されている。ユーリ古細菌の場合、タイプ指定はメタノバクテリウム綱(Methanobacteria)となるため、メタノバクテリウム門(Methanobacteraeota)という名称が優先される[3]。ただし、名称にバクテリアを含むうえEuryarchaeotaが既に広く使用されていることから、同時にEuryarchaeotaを保存名とすることも提案されている。
その他の動きとしては、分岐年代を基準とした分類で、クレン古細菌側が大規模な統合を受ける一方、ユーリ古細菌は3門(ユーリ古細菌門、テルモプラズマ門、ハロバクテリウム門)に分割する提案がある[4]。
特徴
16S rRNA系統解析により定義された門であり、共通する性質は乏しい。クレン古細菌との比較では、やや細菌寄りの細胞骨格や細胞分裂機構を持っている。ESCRT複合体の代わりにZリング関連タンパク質(FtsZ、Min[要曖昧さ回避]など)があり、MreBを持つものも多い。転写関連遺伝子(RpoG、Rpc34、Elf1)やリボソームタンパク質(S25e、S30e、L13e、L38e)のいくつかを保有しないことも特徴である。
メタン生成菌の系統が多く、主要9綱のうち5綱がメタン生成菌のみから構成され、1綱がメタン生成菌を1部含み、1綱が生成メタン菌ではないもののメタン生成経路を備えている。高度好塩菌もメタノミクロビウム綱の姉妹群とされる。記載されているメタン生成菌は全てこのユーリ古細菌に含まれる。
分類
- ユーリ古細菌門/Euryarchaeota
- アルカエオグロブス綱/Archaeoglobi - 硫酸、酸化鉄などを還元する嫌気性の超好熱菌。海洋熱水鉱床、油田などからの分離例が多い。
- アルカエオグロブス目/Archaeoglobales
- アルカエオグロブス科/Archaeoglobaceae
- アルカエオグロブス目/Archaeoglobales
- ハロバクテリウム綱/Halobacteria - 塩湖、塩田など好塩環境から分離される好気従属栄養生物。
- メタノバクテリウム綱/Methanobacteria
- メタノバクテリウム目/Methanobacteriales
- メタノバクテリウム科/Methanobacteriaceae - メタン生成菌。淡水系や動物の消化器官から分離例が多い。
- メタノテルムス科/Methanothermaceae - メタン生成菌。超好熱性。
- メタノバクテリウム目/Methanobacteriales
- メタノコックス綱/Methanococci
- メタノコックス目/Methanococcales - メタン生成菌。海洋性。
- メタノカルドコックス科/Methanocaldococcaceae - メタン生成菌。超好熱性。
- メタノコックス科/Methanococcaceae - メタン生成菌。海洋性。
- メタノコックス目/Methanococcales - メタン生成菌。海洋性。
- “メタノミクロビウム綱”/“Methanomicrobia” - メタン生成菌。淡水系や動物の消化器官から分離例が多い。
- メタノミクロビウム目/Methanomicrobiales
- メタノコルプスクルム科/Methanocorpusculaceae
- メタノミクロビウム科/Methanomicrobiaceae
- メタノスピリルム科/Methanospirillaceae
- メタノレグラ科/Methanoregulaceae
- メタノサルキナ目/Methanosarcinales
- メタノケッラ目/Methanocellales
- メタノケッラ科/Methanocellaceae
- ANME I-III - 嫌気性メタン酸化古細菌
- メタノミクロビウム目/Methanomicrobiales
- メタノピュルス綱/Methanopyri - メタン生成菌。超好熱性。
- メタノピュルス目/Methanopyrales
- メタノピュルス科/Methanopyraceae
- メタノピュルス目/Methanopyrales
- テルモコックス綱/Thermococci - 海洋性の超好熱菌。
- テルモコックス目/Thermococcales
- テルモコックス科/Thermococcaceae
- テルモコックス目/Thermococcales
- テルモプラズマ綱/Thermoplasmata
- テルモプラズマ目/Thermoplasmales - 好熱好酸菌。
- メタノマッシリイコックス目/Methanomassiliicoccales
- メタノマッシリイコックス科/Methanomassiliicoccaceae - メタン生成菌。水田、脊椎動物など。
- Marine Group II - 海洋性。有光層に多く、プロテオロドプシンを持つものもいる[5]。
- メタノナトロナルカエウム綱/Methanonatronarchaeia
- メタノナトロナルカエウム目/Methanonatronarchaeales
- メタノナトロナルカエウム科/Methanonatronarchaeaceae
- メタノナトロナルカエウム目/Methanonatronarchaeales
- アルカエオグロブス綱/Archaeoglobi - 硫酸、酸化鉄などを還元する嫌気性の超好熱菌。海洋熱水鉱床、油田などからの分離例が多い。
この他にも多くの未培養系統が残されている。
特徴
- アルカエオグロブス綱/Archaeoglobi - 海洋熱水鉱床、油田などから分離される嫌気性の超好熱菌。硫酸還元菌であるArchaeoglobus、鉄を酸化するFerroglobus、第二鉄を還元するGeoglobusの3属がある。
- テルモプラズマ綱/Thermoplasmata - ユーリ古細菌の中では唯一ヒストンを欠く。
- テルモプラズマ目/Thermoplasmatales - 陸上の硫気孔、温泉など。クレン古細菌のスルフォロバス目と同じく好熱好酸菌だが、それよりも低pHに適応し(好熱性は低い)、大半の種はpH1以下でも増殖できる。Picrophilusを除いて細胞壁を欠損する。偏性好気性の従属栄養生物が多い。
- メタノマッシリイコックス目/Methanomassiliicoccales - メタン菌。外膜を持つ。2018年現在Methanomassiliicoccus luminyensisのみが記載。この種はヒト大腸内でメチルアミンを分解していると考えられる。
- テルモコックス綱/Thermococci - 有機物を発酵する嫌気性の従属栄養生物で、海洋熱水系に広くみられる。全種が超好熱性。Pyrococcus furiosusは研究の進んでいる古細菌種である。
- メタノバクテリウム綱/Methanobacteria - 動物の消化器官、熱水泉、下水、湖沼、その他広い淡水系に分布するメタン菌。人体からもMethanobrevibacterが比較的よく検出される。細胞壁にシュードムレインという構造を持つ。
- メタノコックス綱/Methanococci - 海底熱水鉱床や海底沈殿物など主に海洋系に分布するメタン菌。Methanocaldococcus jannaschiiは最初にゲノムが解析された古細菌である。主に水素+二酸化炭素系でメタンを生成する。
- "メタノミクロビウム綱"/"Methanomicrobia" - 主に水田や湖沼、シロアリ、反芻動物の消化器官などに分布するクラスII メタン菌。酢酸を利用する種が多いが代謝形態は多様性に富む。
- メタノミクロビウム目/Methanomicrobiales - 水素+二酸化炭素系のほかに、ギ酸、アルコール+二酸化炭素系でメタンを生成する。
- メタノサルキナ目/Methanosarcinales - 酢酸をメタン生成の基質に用いることのできる種が多く、硫化ジメチルを利用できる種もいる。バイオガスの生産にMethanosaeta、Methanosarcinaが重要。
- メタノケッラ目/Methanocellales - 以前Rice Claster Iと呼ばれていたもの。水田や湖水、泥炭地に生息するメタン菌。
- メタノピュルス綱/Methanopyri - 超好熱性のメタン菌。Methanopyrus kandleri1種のみが分離されている。生物の生育限界温度である122℃で増殖するStrain 116を含む。細胞壁はメタノバクテリウム綱と同様シュードムレインであるが、その外側を更にS層が覆う。
- メタノナトロナルカエウム綱/Methanonatronarchaeia - シベリアの超塩水ソーダ湖の嫌気性沈殿物より分離された、好塩・好アルカリ・好熱性のメタン菌Methanonatronarchaeum thermophilum1種のみ。
- ハロバクテリウム綱/Halobacteria - いわゆる高度好塩菌。2018年現在約250種を含み、記載されている古細菌の約半数を占める。好気従属栄養性で、バクテリオロドプシンにより光エネルギーも利用する。
脚注
- ^ ここで言う古細菌界は、現在でいうクレン古細菌などを含んでいない。クレン古細菌はエオサイト界として独立の界が与えられ、真核生物の祖先として想定する(エオサイト説)。一方、古細菌界(ユーリ古細菌)は細菌の祖先に位置付けられていた
- ^ Woese 1990.
- ^ Aharon Oren et al. (2015). “Proposal to include the rank of phylum in the International Code of Nomenclature of Prokaryotes”. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology 65: 4284–4287. doi:10.1099/ijsem.0.000664.
- ^ Parks, D.H., et al. (2018). “A standardized bacterial taxonomy based on genome phylogeny substantially revises the tree of life”. Nature Biotechnology. doi:10.1038/nbt.4229.
- ^ Frigaard, N. U., et al. (2006). “Proteorhodopsin lateral gene transfer between marine planktonic Bacteria and Archaea”. Nature 439 (7078): 847-50. doi:10.1038/nature04435. PMID 16482157.
- ^ Gupta, R. S., et al. (2015). “Phylogenomic analyses and molecular signatures for the class Halobacteria and its two major clades: a proposal for division of the class Halobacteria into an emended order Halobacteriales and two new orders, Haloferacales ord. nov. and Natrialbales ord. nov., containing the novel families Haloferacaceae fam. nov. and Natrialbaceae fam. nov.”. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 65: 1050-69. doi:10.1099/ijs.0.070136-0. PMID 25428416.