逆望遠

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

逆望遠(ぎゃくぼうえん)は写真レンズなどの複数枚の要素から成るレンズの構成様式のひとつで、ガリレオ式(ガリレオ型)望遠鏡のような望遠レンズ(テレフォト型)とは逆の、前群を凹・後群を強い凸とする非対称型の構成様式で、広角レンズに向く。アンジェニューによるレンズ名レトロフォキュRetrofocus )の英語読み「レトロフォーカス」が、この方式を指す一般名詞のごとくに広く使われており、そちらのほうが通りが良い。

概要[編集]

逆望遠の例

先頭のレンズを被写体側に張り出した大きな凹メニスカスレンズとする。そうすることによって、各方向から入射する主光線の角度を並行に近付け、その画角に相当する焦点よりも実際の焦点の位置を後ろにもってゆく。この構成が使われる主な写真用レンズは、一眼レフカメラ用の広角固定焦点レンズや、ズームレンズでは広角~標準域である。

完成度の高い構成例として、後群を被写体側から順に「凸(絞り)凹凸凸」とする処方が知られている。実際に、日本の1980年前後の頃の一眼レフカメラメーカー各社の28mmと35mmの一般的な口径のレンズには、前述の大きな凹メニスカス1枚を前群とし、凸(絞り)凹凸凸を後群とした5群5枚のものが多い[1]

名称[編集]

逆望遠という呼称は、前群を強い凸・後群を凹とすることでその合成焦点距離に比してレンズユニットの全長を短くしている望遠タイプの逆、という意味である。また「レトロフォーカス」は、「レトロ = 後ろ」「フォーカス = 焦点」で、焦点を後ろへ移動させた(つまり光学系を前に移動させた)構成という意である。

用途[編集]

一眼レフカメラ[編集]

ビオゴンに代表される、以前の対称型広角レンズバックフォーカスが短く、像面の間近にレンズエレメントがあるため、一眼レフカメラではミラーと干渉してしまう。このため一眼レフカメラで広角レンズを使用するときはミラーアップして装着し使用する等の手段が採られていたが、一眼レフカメラの利点が失われ不便であった。これに対し逆望遠ではレンズのバックフォーカスが長く取れ、一眼レフカメラでもミラーアップすることなく通常通りの撮影ができる。この形式により、一眼レフカメラは全ての撮影に対応できるようになった。また超広角域では、レフレックスカメラでなくとも対称型とすることが難しいため、近年のミラーレスカメラ用でも[2]超広角のレンズは逆望遠型である。

ズームレンズ[編集]

逆望遠型の設計を応用するとズームレンズとすることができる。1970年代から実用化された2群ズームはこの逆望遠の前後間隔を変化することで焦点距離を変える。近年の一眼レフカメラ用の超広角ズームの多くが2群ズームかつ逆望遠である。

レンジファインダーカメラ[編集]

レンジファインダーカメラ用の広角レンズではバックフォーカスが短くてもよいため、以前は対称型の広角レンズも多かったが、自動露出化の際に、フィルム面の前にTTL露出計のセンサが出るような形式のものではそれがぶつかるので逆望遠タイプとしたものもあった。

名称[編集]

逆望遠形式を持つレンズに、西ドイツのカール・ツァイスディスタゴン、東ドイツのカール・ツァイスフレクトゴンの名を付けている。またシュナイダー・クロイツナッハでは逆望遠形式のレンズについて当初クルタゴンとしたが、後に逆望遠型以外のレンズと同じアンギュロンに統一した。

歴史[編集]

逆望遠の原理はハリウッドの映画カメラマンだったジョーゼフ・ベイリー・ウォーカーが1932年に特許を取得しており、同時に前の凹レンズと後ろの主光学系の間隔を変化させることでズームレンズになる事も示している。市販された写真レンズとしては、1950年のアンジェニュー「レトロフォーカス」が初とされている。

参考文献[編集]

  1. ^ 朝日ソノラマ『写真レンズの基礎と発展』 pp. 172~174
  2. ^ 銀塩と違いデジタルカメラでは焦点面の前にフィルタなどが入るという事情もあるが。
  • 「写真レンズの歴史」(ルドルフ・キングズレーク著/朝日ソノラマ/1999)