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肘打ち

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

肘打ち(ひじうち)とは、格闘技において、(猿臂)の部分を使って相手を攻撃する技。エルボー・スマッシュ (elbow smash) 、エルボーとも言う。

概要

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肘打ち
肘による試割り

人間の肘の骨は非常に硬い。そのため肘は拳のような鍛錬が必要なく、負傷することも少ないので肘は使いやすい部位である。肘は防御にも使用される。背中に向かって肘を後ろに突き出す、いわゆる「肘鉄砲(略して「ひじてつ」)」は動作も単純で、武芸の素人や女性でも攻撃力が大きい技である。大きく動かせるのは肩関節だけなので、往々にして肩を中心とした回転運動のみとなりやすい。したがって、体をひねり横からぶつける形か、垂直もしくは斜めに振り上げるか振り下ろす形に使われることが多く、拳のように前に突く動作は(相手に対して半身になりカニ歩きで体当たりする形を除けば)難しい。また肘打ちは有効距離が短いので肘打ちは接近戦でしか使えず、多様な打ち方を習得し的確に肘を相手にヒットさせるにはそれなりの熟練が必要となる。肘は中国拳法では拳、肩と共に三拳と呼んで距離に応じて使い分けるとする。八極拳では体を開きながら肘を前に突き出す頂肘という技が看板になっている。

肘打ちで頭部を攻撃すると、肘と同様に硬い頭骨と肘に顔の皮膚が挟まれて裂けるように切れることが多いため、多くの格闘技の試合では頭部への肘打ちは禁止となっている。

ムエタイは肘の使用を認めており、その攻撃力の大きさから肘打ちを多用する。IOC承認国際競技連盟である国際アマチュアムエタイ連盟のアマチュアムエタイでもヘッドギア、肘あてはするが肘打ちが認められている。

ムエタイをもとに日本で創始されたキックボクシングでは、肘打ちは団体ごとに使用可能か禁止かが分かれている。日本のキックボクシングでは肘打ちを認めている場合が多い(K-1では禁止)が、欧州では禁止されていることが多い。

空道では接近戦で道着を掴み相手をコントロールしながら肘打ちを使用することが多い、顔面には頑丈な防具スーパーセーフを着用しているため皮膚のカットを狙うことは至難の業だが、体重を乗せて頭部へのダメージを与える目的で使用される。

総合格闘技でも団体によって異なり、PRIDEやかつてのパンクラスなどでは頭部への肘打ちは禁止されていたが、UFCなどの北米団体では多くが頭部への肘打ちを認めている。総合格闘技においては肘はスタンドだけでなくグラウンド状態でも放つことができ、特に上になった状態からの肘は有効であり、多くの選手が使っている。下からでも有効に使うことは可能であり、アンデウソン・シウバトラヴィス・ルターに対して三角絞めで捕えた状態で下から肘を連打して勝利している。また、ミルコ・クロコップ石井慧に対して下から肘を放ち流血させドクターストップで勝利している。

肘打ち、アンコール・ワット、(12世紀)、カンボジア

ラウェイ大相撲アマチュア相撲では防具、肘あてなしで肘打ちが認められている。

IOC承認国際競技連盟である国際サンボ連盟のアマチュアのコンバットサンボ男子ではヘッドギアはするが肘あてなしで肘打ちが認められている。寝技では禁止である[1]

プロレスにおいては書籍『プロレス年鑑 1971年度版』(東京スポーツ新聞社)によると反則である[2]。一方、書籍『ザ・ストロング・スタイル』(山本小鉄)の章「過酷なる<技>大研究」によると上腕部や前腕部で打ってもよく関節部分で打つと反則となる[3]。同著に掲載された「日本プロレスリング・コミッション認定プロレスリング競技規約」では肘の鋭角的な攻撃が反則となっている[4]。序盤での繋ぎ技、中盤から終盤での大技・そしてフィニッシュ・ホールドとして等、様々な状況で使われている。また、非常に多くの派生技のバリエーションを持っており、派手な予備動作をともなうパフォーマンス的な要素の大きいバージョンも多用される。

武道・武術や格闘技の未経験者でも相手に重傷を負わせてしまいやすい非常に危険な行為であるため、とくに防具をつけないスポーツでは一発退場などの厳罰を与えられることが一般的である[要出典]

12 to 6

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12 to 6とは、総合格闘技において、壁時計の12時から6時の軌道の肘打ち、下方向に向けて打ち降ろす肘打ちを意味する用語[5]。「12時から6時」はあくまで床に対しての軌道であり、選手の体勢は関係しない[5]。「12 to 6」はアメリカの総合格闘技レフェリーであるジョン・マッカーシーによって最初に定義され、2000年に策定された統一ルールにおける正式な定義として認められた[6]。ルールがほとんどなかったUFCの第1回大会『UFC 1』では、ケビン・ローズイヤーが「12 to 6」を使用していた[7]

禁止

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眼窩骨に与えるダメージおよび脊椎を損傷する可能性を理由に、2000年に策定された統一ルールにおいて「12 to 6」は禁止となり、レフェリーは肘打ちの判定を行う際に「12 to 6」の定義を使用することが推奨されるようになった[6][8][9]。2009年にジョン・ジョーンズはこの反則によって失格負けとなった[5]

禁止の解除

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「12 to 6」によるジョン・ジョーンズの敗戦が物議を醸したことに加え、「12 to 6」自体は最も危険な肘打ちにはあたらないとして、ジョー・ローガンをはじめとする多くの総合格闘技評論家が長年にわたって「12 to 6」を禁止するルールの撤廃を求めていた[10][11]

2024年1月30日にボクシング・コミッション協会の総合格闘技ルール委員会が開かれ、統一ルールにおける「12 to 6」禁止事項の撤廃を提案し、委員会はこれを受け入れた[11]。これを受けてUFC代表のダナ・ホワイトは、ジョン・ジョーンズの失格負けを覆すことを検討すると話した[12]

「12 to 6」は2024年11月1日から有効となった[13]。UFCでは、11月9日に開催された『UFC Vegas 100』でジリアン・ロバートソンによって「12 to 6」が有効となって以降初めて使用された[14]

日本団体ではRIZINは当初から「12 to 6」を有効としていた。修斗では2023年3月1日から、DEEPでは2024年11月1日から、パンクラスでは2025年1月1日から「12 to 6」が有効となった[15][16]

出典

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  1. ^ INTERNATIONAL SAMBO RULES (COMBAT SAMBO) 2023” (pdf). 国際サンボ連盟. p. 38 (2023年7月20日). 2025年10月7日閲覧。 “A painful hold shall involve locking opponent’s arms or legs (with the attacker’s arms or legs) in the ground position”
  2. ^ 東京スポーツ新聞社 編『プロレス年鑑 1971年度版』(第3刷)東京スポーツ新聞社、日本、1971年6月2日、279頁。「反則行為」 
  3. ^ 山本小鉄「過酷なる<技>大研究」『ザ・ストロングスタイル』後藤完夫(解説)(第一刷)、タッチダウン、日本、1982年9月10日、58頁。「ELBOW SMASH」 
  4. ^ 山本小鉄『ザ・ストロングスタイル』後藤完夫(解説)(第一刷)、タッチダウン、日本、1982年9月10日、106 - 107頁。「日本プロレスリング・コミッション認定プロレスリング競技規約」 
  5. ^ a b c 反則「下方向に向けて打ち降ろす肘打ち(12時から6時の肘打ち)(downward pointing elbow strike(12 to 6))」 |”. www.mmaofficials.jp. 2025年10月8日閲覧。
  6. ^ a b “Were the elbows used by Yoel Romero legal?” (英語). Bloody Elbow. https://www.bloodyelbow.com/2014/1/16/5317576/ufc-fight-night-35-big-john-mccarthy-explanation-of-12-6-elbows-calls-yoel-romeros-win 2025年10月8日閲覧。 
  7. ^ EMagraken (2014年3月17日). “UFC 1 v. The Unified Rules of MMA; Some Fun With History” (英語). Combat Sports Law. 2025年10月8日閲覧。
  8. ^ Cain, Jeff (2018年7月29日). “The 12-to-6 Illegal Elbow Explained” (英語). MMAWeekly.com | UFC and MMA News, Results, Rumors, and Videos. 2025年10月8日閲覧。
  9. ^ Fighter tries to take advantage of No Soccer Kick rule. Doesn't work out” (英語). mixedmartialarts.com (2012年2月6日). 2025年10月8日閲覧。
  10. ^ Johnston, Mike (2024年10月30日). “New MMA rules including legal '12 to 6' elbows go into effect for UFC Edmonton” (英語). Sportsnet.ca. 2025年10月8日閲覧。
  11. ^ a b Officials vote to remove '12-6 elbow' ban in MMA” (英語). ESPN.com (2024年7月24日). 2025年10月9日閲覧。
  12. ^ Reddy, Rajneesh Suhas (2024年7月28日). “Dana White breaks silence on overturning Jon Jones' loss after 12-6 elbow ban lift: "We had an incompetent referee"” (英語). www.sportskeeda.com. 2025年10月8日閲覧。
  13. ^ Officials vote to remove '12-6 elbow' ban in MMA” (英語). ESPN.com (2024年7月24日). 2025年10月8日閲覧。
  14. ^ Nambiar, Abhishek (2024年11月10日). “MMA's first-ever legal 12-6 elbow strike comes with a hilarious "Jon Jones" twist” (英語). www.sportskeeda.com. 2025年10月8日閲覧。
  15. ^ プロ公式ルールを改訂”. 日本修斗協会 公式ウェブサイト (2023年2月24日). 2025年10月11日閲覧。
  16. ^ MMAユニファイドルールの新しいグラウンド定義、DEEPは11月から、パンクラスは来年1月から採用”. BoutReview (2024年10月21日). 2025年10月11日閲覧。