紫外破綻

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紫外破綻は理想的な黒体により放出されるエネルギーに対する、レイリー・ジーンズの法則(グラフでは"classical theory"として描かれている)の短波長における誤差である。短波長でははるかに顕著になるこの誤差は黒の曲線(レイリー・ジーンズの法則により古典力学的に予測されたもの)と青の曲線(プランクの法則で予測された測定曲線)の差である。

紫外破綻英語: ultraviolet catastrophe)もしくはレイリー・ジーンズの破綻英語: Rayleigh–Jeans catastrophe)は、熱平衡状態にある理想的な黒体は全ての周波数範囲で放射し、周波数が高くなるにつれてより多くのエネルギーを放出するという19世紀後半から20世紀初頭における古典物理学の予測。放射されたエネルギーの総量(すなわち、全ての周波数範囲における放射の合計)を計算することにより、黒体が任意に大量のエネルギーを放出する可能性が高いことを示すことができる。これは全ての物質が絶対零度に近づくまでそのエネルギーの全てを瞬時に放射することになり、黒体の振る舞いに関して新たなモデルが必要であることを示している。

紫外破綻という言葉は1911年にポール・エーレンフェストにより最初に使われたが、この概念は1900年のレイリー・ジーンズの法則の統計的導出より生じた。これはレイリー・ジーンズの法則が105 GHz未満の放射周波数の実験結果を正確に予測するが、これらの周波数が電磁スペクトル紫外線領域に到達するころに経験的観察とは異なり始めるという事実を指す[1]。この言葉が登場して以来、量子電磁力学紫外発散英語版などの場合と同じように同様の現象の予測に使われてきた。

問題[編集]

紫外破綻は平衡状態にある系の全ての調和振動子モード(自由度)はの平均エネルギーを持つという古典統計力学等分配原理から生じる。

MasonのA History of the Sciences[2]における一例は、弦を用いたマルチモード振動を示している。固有振動子として、弦は弦の長さにより特定モード(調和共鳴における弦の定常波)で振動する。古典物理学ではエネルギーのラジエーターは固有振動子として機能する。さらに各モードは同じエネルギーを持つため、固有振動子のエネルギーの大部分はほとんどのモードがあるより短い波長とより高い周波数にある。

古典電磁気学によると、単位周波数当たりの3次元空洞内の電磁モードの数は周波数の2乗に比例する。したがって、これは単位周波数当たりの放射電力はレイリー・ジーンズの法則に従い、周波数の2乗に比例する。よって所与の周波数における電力とと全放射電力はより高い周波数が考慮されるため無制限となる。このことは空洞の全放射電力は無限とは観測されず、非物理学的である。この点は1905年にアインシュタインレイリー卿ジーンズにより独立に指摘された。

解決法[編集]

マックス・プランクは(当時としては)いくつか奇妙な仮定をすることにより強度スペクトル分布関数の正しい形を導出した。 具体的には、電磁放射は量子と呼ばれるエネルギーの離散的なパケットでのみ放出・吸収できると仮定した。

, hプランク定数

プランクの仮定により電磁分布関数の正しい形が導かれた。

アインシュタインサティエンドラ・ボースはプランクの量子を現実の物理的粒子(現在光子と呼ばれているもので、数学的な空想ではない)であると仮定することにより問題を解決した。彼らはボルツマンのスタイルの統計力学を光子のアンサンブルに修正した。アインシュタインの光子はその周波数に比例するエネルギーを持っており、未発表であったストークスの法則と光電効果を説明することができた[3]。この仮説は発表されると、アインシュタインの1921年のノーベル物理学賞受賞決定において、同委員会により引用された[4]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ McQuarrie, Donald A.; Simon, John D. (1997). Physical chemistry: a molecular approach (rev. ed.). Sausalito, Calif.: Univ. Science Books. ISBN 978-0-935702-99-6 
  2. ^ Mason, Stephen F. (1962). A History of the Sciences. Collier Books. p. 550 
  3. ^ Stone, A. Douglas (2013). Einstein and the Quantum. Princeton University Press 
  4. ^ The Nobel Prize in Physics: 1921”. Nobelprize.org. Nobel Media AB (2017年). 2017年12月13日閲覧。 “For his services to Theoretical Physics, and especially for his discovery of the law of the photoelectric effect.”

関連文献[編集]