筆談

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筆談(ひつだん)とは、通常であれば会話できる距離にいる人との間で、発話によってではなく、互いに文字を書いて意思を伝え合うこと。

概要[編集]

筆談は直接の会話が成り立たたないか直接の会話を避けるべき特殊な状況下において用いられる。

障害者[編集]

筆談の典型例としては、耳や口の不自由者と日本手話に拠らずに会話をする場合があるが、いちいち書く手間により、とっさの話など手話より意思疎通が劣る弱点がある。日本の刑事裁判では、手話が使えない被告人が陳述する場合に、紙やタブレット端末を用いた筆談が採られている[1]

病院などの公共施設やバスなどの公共交通機関には筆談具(筆談器、筆談ボード)が設置されていることも多い。

近年(2014年時点での近年)、タブレット用の「筆談アプリ」が開発されてきている。最近のタブレットには音声認識機能があるので、聴覚障害者はタブレット画面に指で文字を書き、健聴者のほうにはしゃべってもらってそれを自動的に文字に変換して画面に表示する、ということもでき、よりスムーズに会話ができるようになった。また、離れた場所にいる聴覚障害者同士がネット経由で指で書いた文字で会話することもできる[2]

音声言語が苦手な人[編集]

別言語話者同士のコミュニケーションにも用いられる。漢字文化圏の別言語使用者同士が会話をする場合や、英語の読み書きは出来るが会話・ヒアリングが出来ない日本人が、筆談で英語圏の人間と意思疎通を図るといったことがよく行われる。

このほか、筆談はラジオ番組進行中にスタジオ内のスタッフとのやり取りや、盗聴が疑われる環境下など、音声での会話を避けるべき特殊な状況下においても用いられる。

ダイビング時[編集]

筆談は、スキューバダイビングの水中での会話にも用いられる。磁石のペンでなぞると、そこが黒くなるボードなどを用いる。

漢字による別言語話者の筆談[編集]

利点[編集]

欠点[編集]

  • 日本で作られた和製漢字や、韓国で作られた韓国国字を使っても相手の国に通じない。
  • 漢字で書いても、国によっては全く違う意味になってしまうことがある。
  • 各国によって、漢語表記の差異がある。たとえば「湯」の字は、日本語では「温めた水」という意味だが、中国語普通話では「スープ」の意味である。
  • 大韓民国朝鮮民主主義人民共和国では、表音文字のハングルが使われ、漢字の使用頻度はあまり高くない、また漢字教育を殆ど受けていない世代もいるため、漢字の読み書きが出来る韓国人は、少数派になっている。
  • ベトナム社会主義共和国では、かつてチュノムでのベトナム語漢字教育があったが、クオック・グーによるアルファベット表記が一般的になったため、漢字を理解出来るベトナム人が非常に少なくなっている。
  • 中華人民共和国やシンガポールでは北京語簡体字、中華民国は華語繁体字香港マカオでは広東語繁体字、日本では日本語新字体旧字体と二つあり、簡体字と新字体は同じ形をしていないため、相手の国では意味が通じない場合がある。
  • 近代以前の筆談は、共通文語(=漢文)の知識の上で行われたため、通用性が高いが、現代の筆談は、それぞれ国の国語に含まれている漢語の語彙に基づくものであるため、相手国の言語について理解できなければ、単語の域に限られる。

各国の漢語表記の差異[編集]

英語 日本語 朝鮮(韓国)語 中国語 ベトナム語
letter 手紙 片紙 信、書信 書、書信
tissue 塵紙 休紙 草紙、廁紙、衛生紙、手紙 繶衛生
gift 贈り物 膳物 贈品、禮物 𧵟贈
bill 勘定 外上 帳單
dining table 食卓 食卓 餐桌
cheque 小切手 手票 支票 支票
name card,
business card
名刺 名銜/啣 名片 名帖
maid 女中 食母 女傭
prohibit 禁止 禁止 禁止
cancel 取消 取消 取消 挅𠬃
study 勉強 工夫 學習 學習
mathematics 数学 數學 數學 算學
very 大変 大端 非常
prisoner 囚人 囚徒  囚犯、囚徒、犯人 囚人
side room 脇部屋 舍廊, 斜廊 側房

日本と中国と北朝鮮・韓国の漢字の使われ方[編集]

漢字 日本語での意味 朝鮮(韓国)語での意味 中国(北京)語での意味
彼(かれ) (あの、あちら) 相手
他(ほか) (ほか)
[3] あゆ なまず なまず
[3] かつお カムルチー おおうなぎ
[3] はぎ カワラヨモギ よもぎ
何時 なんじ,いつ いつ いつ
工夫 よい考えや方法を見つけ出す 勉強 時間

これは中国が漢字を伝えるときに、誤解した可能性もあると思われる。

繁体字と簡体字と新字体との差異[編集]

繁体字 簡体字 新字体 解説
新字形
簡略化のわずかな差
簡: 部分の簡化、新体: 記号化
簡: 単純簡化、新体: 複雑部の置換
广 新形: 減画、簡: 削除、新体: 記号化
新形: 減画+筆画交換、簡: 記号化、新体: 減画
残存部(日)の数

実例[編集]

日本人とベトナム人の筆談[編集]

インドシナ物語》の作者の丸山静雄は、ベトナムで取材の時、現地のベトナム人と筆談を行ったことがある(1981年より以前)。

以下はもとの本の章節からの引用。

わたしは終戦前、ベトナムがまだフランスの植民地であったころ、朝日新聞社の特派員としてベトナムに滞在した。わたしはシクロ(三輪自転車)を乗りついだり、路地から路地にわざと道を変えて、ベトナムの民族独立運動家たちと会った。大方、通訳の手をかり、通訳いない場合は、漢文で筆談したが、結構、それで意が通じた。いまでも中年以上のものであれば、漢字を知っており、わたしどもとも漢字で大体の話はできる。漢字といっても、日本の漢字と、二の地域のそれとはかなり違うが、漢字の基本に変りはないわけで、中国-ベトナム-朝鮮-日本とつながる漢字文化圏の中に、わたしどもは生きていることを痛感する。 — 「インドシナ物語」,丸山静雄,講談社,昭和五十六年十月二十六日第一刷発行,ASIN: B000J7UJ4Q

英語圏等での筆談時の注意点[編集]

英語は知っているが話せない(発音・ヒアリングが出来ない)日本人が、筆談で現地の人と意思疎通を図るということは海外旅行などでよく行われるが、文字の表記について一部注意を要する。

主な注意
  • アラビア数字の「1」と「7」の書き分け。活字の数字は世界共通だが、手書きによる数字の書き方は、必ずしも世界共通ではない。

脚注[編集]

  1. ^ “話せぬ被告、タブレット端末で筆談 さいたま地裁裁判で”. 朝日新聞. (2014年5月11日). http://www.asahi.com/articles/ASG5952Z3G59UTNB01H.html 2014年11月8日閲覧。 
  2. ^ NHK Eテレ 2014年11月28日昼 放送
  3. ^ a b c 『中学校国語教科書3年』、光村図書、2004年

関連項目[編集]