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[[Image:shiroten.svg|thumb|120px|right|シロテン。[[縦組み]]での字形の例示。横組みで用いられるかどうかは明らかではない。灰色の枠は字取りを示す。]]
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'''シロテン'''は、日本語の[[句読点]]のひとつ。[[読点]]と[[句点]]の中間の'''半終止符'''に相当する約物として1946年に日本の[[文部省]]が提案したが、実用された例は多くない。
'''シロテン'''は、日本語の[[句読点]]のひとつ。出典により'''ゴマ白点'''という表記も見られる{{R|吉村|page1=55}}。[[読点]]と[[句点]]の中間の'''半終止符'''に相当する約物として1946年に日本の[[文部省]]が提案したが、実用された例は多くない。


字形は読点と同じく、涙滴状で[[縦組み]]の際に[[全角]]取りの右上隅に置かれるが、句点と同じく白抜きとなる。
字形は読点と同じく、涙滴状で[[縦組み]]の際に[[全角]]取りの右上隅に置かれるが、句点と同じく白抜きとなる。
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== 提案 ==
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[[山田美妙]] (1868-1910) は日本語の表記法についてさまざまな実験と提案を行い、[[言文一致体]]の成立に大きな役割をはたした。彼は『日本大辞典』([[1892年|1892]]-[[1893年]]刊)で、読点「、」と句点「。」に加え、それらの中間の約物としてシロテンを用いている{{R|句読点研究会}}。しかし、この表記法が広まることはなく、当の山田も著作で積極的に使うことはなかった。
[[山田美妙]] (1868-1910) は日本語の表記法についてさまざまな実験と提案を行い、[[言文一致体]]の成立に大きな役割をはたした。彼は『日本大辞典』([[1892年|1892]]-[[1893年]]刊)で、読点「、」と句点「。」に加え、それらの中間の約物としてシロテンを用いている{{R|句読点研究会}}{{R|吉村|page1=55}}。しかし、この表記法が広まることはなく、当の山田も著作で積極的に使うことはなかった。


[[1946年]]、[[文部省]]は、省が発行する文書の[[日本語の表記体系|表記法]]のガイドラインとして、『くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)』など4篇の文書を出版した。これは他官庁や一般社会での用字の参考となることも想定していた。『くぎり符号の使ひ方』では、[[読点]](「テン」)は原則として文の中止に用い、直前が終止形であっても文意が続く場合にはテンを用いるとした。しかし、後の場合については「ほかのテンとのつり合ひ上」[[句点]](「マル」)を用いる場合もあるとし、「この項のテンは、言はゞ、半終止符ともいふべきものであるから、将来、特別の符号(例へば「[[Image:U+FE46.svg|12px|&#xFE46;]]<!-- ここでは白ゴマで代用しているがシロテンと白ゴマは異なることに注意 -->〈シロテン〉」のごときもの)が広く行はれるやうになることは望ましい。」とした{{R|文部省}}{{Efn|引用中の漢字は新字体にあらためたが、仮名遣いは原文どおりとした。[[ルビ]]は〈……〉で囲って示した。}}。
[[1946年]]、[[文部省]]は、省が発行する文書の[[日本語の表記体系|表記法]]のガイドラインとして、『くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)』など4篇の文書を出版した。これは他官庁や一般社会での用字の参考となることも想定していた。『くぎり符号の使ひ方』では、[[読点]](「テン」)は原則として文の中止に用い、直前が終止形であっても文意が続く場合にはテンを用いるとした。しかし、後の場合については「ほかのテンとのつり合ひ上」[[句点]](「マル」)を用いる場合もあるとし、「この項のテンは、言はゞ、半終止符ともいふべきものであるから、将来、特別の符号(例へば「[[Image:U+FE46.svg|12px|&#xFE46;]]<!-- ここでは白ゴマで代用しているがシロテンと白ゴマは異なることに注意 -->〈シロテン〉」のごときもの)が広く行はれるやうになることは望ましい。」とした{{R|文部省}}{{Efn|引用中の漢字は新字体にあらためたが、仮名遣いは原文どおりとした。[[ルビ]]は〈……〉で囲って示した。}}。
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== 用例 ==
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[[北村透谷]]は明治21年4月の旅行記概略で初めてシロテンを使用しているが、やがて使わなくなった{{Efn|{{R|松井潤}}の解説を参照}}。英文での[[セミコロン]]のように使われた{{R|楚囚之詩}}{{R|平安時代史事典}}{{R|twitter_fzk06736}}{{R|twitter_terada50397416}}。現代[[日本語]]の正書法では、句読の記号には「[[句点|。]]」と「[[読点|、]]」のように2種の[[約物]]が用いられ、句読の記号としてそれ以上の数の約物が用いられることはほとんどない(詳細は[[句読点]]を参照)。
[[北村透谷]]は明治21年4月の旅行記概略で初めてシロテンを使用しているが、やがて使わなくなった{{Efn|{{R|松井潤}}の解説を参照}}。[[二葉亭四迷]]も『[[浮雲]]』においてシロテン{{R|炉谷義露}}(ゴマ白点{{R|吉村|page1=55}})を用いている。英文での[[セミコロン]]のように使われた{{R|楚囚之詩}}{{R|平安時代史事典}}{{R|twitter_fzk06736}}{{R|twitter_terada50397416}}。現代[[日本語]]の正書法では、句読の記号には「[[句点|。]]」と「[[読点|、]]」のように2種の[[約物]]が用いられ、句読の記号としてそれ以上の数の約物が用いられることはほとんどない(詳細は[[句読点]]を参照)。


日本語以外の言語では3種以上の句読の記号をもつ場合があるので、日本語への翻訳の際にこれらを正確に区別するためにシロテンを使うことがあ{{R|形而上学|page1=173-174}}{{Efn|{{R|山川兵庫}}の解説を参照}}。
日本語以外の言語では3種以上の句読の記号をもつ場合があるので、日本語への翻訳の際にこれらを正確に区別するためにシロテンを使うことがあった{{R|形而上学|page1=173-174}}{{Efn|{{R|山川兵庫}}の解説を参照}}。


文部省は[[縦組み]]([[縦書きと横書き|縦書き]])の例のみ示している。実際、[[横組み]](横書き)での用例があるかどうかは定かでない。
文部省が『くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)』を出版した時点で[[縦組み]]([[縦書きと横書き|縦書き]])の例のみ示していたが、現在、[[文化庁]]が公開している『くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)』では、印刷の便宜上、[[横組み]](横書き)での用例ってる{{R|文部省}}


== 脚注 ==
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2021年12月22日 (水) 12:23時点における版

シロテン。縦組みでの字形の例示。横組みで用いられるかどうかは明らかではない。灰色の枠は字取りを示す。

シロテンは、日本語の句読点のひとつ。出典によりゴマ白点という表記も見られる[1]:55読点句点の中間の半終止符に相当する約物として1946年に日本の文部省が提案したが、実用された例は多くない。

字形は読点と同じく、涙滴状で縦組みの際に全角取りの右上隅に置かれるが、句点と同じく白抜きとなる。

提案

読点(テン)。縦組み。
句点(マル)。同じく。

山田美妙 (1868-1910) は日本語の表記法についてさまざまな実験と提案を行い、言文一致体の成立に大きな役割をはたした。彼は『日本大辞典』(1892-1893年刊)で、読点「、」と句点「。」に加え、それらの中間の約物としてシロテンを用いている[2][1]:55。しかし、この表記法が広まることはなく、当の山田も著作で積極的に使うことはなかった。

1946年文部省は、省が発行する文書の表記法のガイドラインとして、『くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)』など4篇の文書を出版した。これは他官庁や一般社会での用字の参考となることも想定していた。『くぎり符号の使ひ方』では、読点(「テン」)は原則として文の中止に用い、直前が終止形であっても文意が続く場合にはテンを用いるとした。しかし、後の場合については「ほかのテンとのつり合ひ上」句点(「マル」)を用いる場合もあるとし、「この項のテンは、言はゞ、半終止符ともいふべきものであるから、将来、特別の符号(例へば「﹆〈シロテン〉」のごときもの)が広く行はれるやうになることは望ましい。」とした[3][注釈 1]

用例

北村透谷は『明治21年4月の旅行記概略』で初めてシロテンを使用しているが、やがて使わなくなった[注釈 2]二葉亭四迷も『浮雲』においてシロテン[5](ゴマ白点[1]:55)を用いている。英文でのセミコロンのように使われた[6][7][8][9]。現代日本語の正書法では、句読の記号には「」と「」のように2種の約物が用いられ、句読の記号としてそれ以上の数の約物が用いられることはほとんどない(詳細は句読点を参照)。

日本語以外の言語では3種以上の句読の記号をもつ場合があるので、日本語への翻訳の際にこれらを正確に区別するためにシロテンを使うことがあった[10]:173-174[注釈 3]

文部省が『くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)』を出版した時点では、縦組み縦書き)の例のみ示していたが、現在、文化庁が公開している『くぎり符号の使ひ方〔句読法〕(案)』では、印刷の便宜上、横組み(横書き)での用例となっている[3]

脚注

注釈

  1. ^ 引用中の漢字は新字体にあらためたが、仮名遣いは原文どおりとした。ルビは〈……〉で囲って示した。
  2. ^ [4]の解説を参照
  3. ^ [11]の解説を参照

出典

  1. ^ a b c 吉村明子「明治の文体 : 特に欧文体を中心として」『日本文學』第21巻、1963年10月20日、44-57頁。 
  2. ^ 境田稔信「第3回『近代国語辞書に見る句読点』のまとめ」『句読点研究会ニュース』第3号、句読点研究会、2001年8月、 オリジナルの2016年4月23日時点におけるアーカイブ。 
  3. ^ a b 文部省教科書局国語調査室『くぎり符號の使ひ方〔句讀法〕(案)』(PDF)文部省、1946年3月https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/series/56/56.html2021年12月21日閲覧 
  4. ^ 松井潤 (2018年9月24日). “「楚囚之詩・第一」④ 壮士”. 詩をよむ日日. 2021年12月22日閲覧。
  5. ^ 炉谷義露. “白い読点”. 小説家になろう. ヒナプロジェクト. 2021年12月22日閲覧。
  6. ^ 北村透谷第一」『楚囚之詩』1889年https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8763942021年12月22日閲覧。"余と生死を誓ひし壮士等の 数多あるうちに余は其首領なり﹆"。 
  7. ^ 平安時代史事典角川書店ISBN 978-4-04-031700-7 
  8. ^ 山田邦和による2021年3月30日午前10:33のツイート2021年12月22日閲覧。
  9. ^ teradaによる2019年9月29日午前9:14のツイート2021年12月22日閲覧。
  10. ^ アリストテレス形而上学』 上、出隆(訳)、岩波書店〈岩波文庫〉、1959年12月5日。"「教義的なものが人間である」と言うがごときである﹆"。 
  11. ^ 山川兵庫. “「〜がある」と「〜である」の違い1”. Cornerstone. 2021年12月22日閲覧。

関連項目