摂動函数

数学の数理最適化の分野において、摂動函数（せつどうかんすう、英: perturbation function）とは、主問題と双対問題を関連づける任意の函数である。そのような任意の函数は元の問題の摂動を定義する事実から、その名が付けられた。多くの場合、この函数は制約条件をシフトする形状を取る。

文献によっては、価値函数が摂動函数と呼ばれ、摂動函数は二重函数（bifunction）と呼ばれることもある。

定義

分離的な局所凸空間の二つの双対組 $\left(X,X^{*}\right)$ と $\left(Y,Y^{*}\right)$ が与えられるとする。このとき、与えられた函数 $f\colon X\to \mathbb {R} \cup \{+\infty \}$ に対する主問題を次で定義する。

$\inf _{x\in X}f(x).\,$

制約条件が存在するならば、それら制約条件を $f=f+I_{\text{constraints}}$ として函数 $f$ に含めてしまうこともできる。ここで $I$ は指示函数である。このとき $F:X\times Y\to \mathbb {R} \cup \{+\infty \}$ が摂動函数であるための必要十分条件は、$F(x,0)=f(x)$ である。

双対性

双対性のギャップは、次の不等式の右辺と左辺の差で与えられる。

$\sup _{y^{*}\in Y^{*}}-F^{*}(0,y^{*})\leq \inf _{x\in X}F(x,0),$

ここで $F^{*}$ は両変数についての凸共役である。

摂動函数 F をどのように選んでも弱双対性は成立する。また強双対性が成立するための条件は数多く存在する。例えば、F が真結合凸函数で、下半連続かつ $0\in \operatorname {core} (\operatorname {Pr} _{Y}(\operatorname {dom} F))$ であり（ここで $\operatorname {core}$ は代数的内部を表し、$\operatorname {Pr} _{Y}$ は $\operatorname {Pr} _{Y}(x,y)=y$ で定義される Y の上への射影である）、X と Y がフレシェ空間であるなら、強双対性は成立する。

例

ラグランジアン

$(X,X^{*})$ と $(Y,Y^{*})$ を双対組とする。（f(x) を最小化する）主問題と、関連する摂動函数 (F(x,y)) が与えられたとき、ラグランジアン $L:X\times Y^{*}\to \mathbb {R} \cup \{+\infty \}$ は、F の y に関する負の共役（すなわち、凹共役）である。すなわち、ラグランジアンは次で定義される。

$L(x,-y^{*})=\inf _{y\in Y}\left\{F(x,y)-y^{*}(y)\right\}.$

特に、弱双対ミニマックス方程式は次のように表される。

$\sup _{y^{*}\in Y^{*}}-F^{*}(0,y^{*})=\sup _{y^{*}\in Y^{*}}\inf _{x\in X}L(x,y^{*})\leq \inf _{x\in X}\sup _{y^{*}\in Y^{*}}L(x,y^{*})=\inf _{x\in X}F(x,0).$

主問題が、${\tilde {f}}(x)=f(x)+I_{\mathbb {R} _{+}^{d}}(-g(x))$ に対し

$\inf _{x:g(x)\leq 0}f(x)=\inf _{x\in X}{\tilde {f}}(x)$

で与えられるとする。このとき、摂動が

$\inf _{x:g(x)\leq y}f(x)$

で与えられるなら、摂動函数は

$F(x,y)=f(x)+I_{\mathbb {R} _{+}^{d}}(y-g(x))$

となる。したがって、ラグランジアン双対性との関連は、L が明らかに次で与えられることから分かる。

$L(x,y^{*})={\begin{cases}f(x)+y^{*}(g(x))&{\text{if }}y^{*}\in \mathbb {R} _{+}^{d}\\-\infty &{\text{else}}\end{cases}}$.

フェンシェル双対性

詳細は「フェンシェルの双対性定理」を参照

$(X,X^{*})$ と $(Y,Y^{*})$ を双対組とする。ある線型作用素 $T:X\to Y$ とその随伴作用素 $T^{*}:Y^{*}\to X^{*}$ の存在を仮定する。また主目的函数（指示函数による制限も含む）は、$J:X\times Y\to \mathbb {R} \cup \{+\infty \}$ に対して $f(x)=J(x,Tx)$ と表すことが出来るものとする。このとき、摂動函数は次で与えられる。

$F(x,y)=J(x,Tx-y)$.

特に、主目的函数が $f(x)+g(Tx)$ であるなら、摂動函数は $F(x,y)=f(x)+g(Tx-y)$ で与えられるが、これはフェンシェル双対性の伝統的な定義である。