原昭二

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Jump to navigation Jump to search

原 昭二(はら しょうじ、昭和2年(1927年)1月 5日 - )は薬学者。東京薬科大学名誉教授。 世界に先駆けて、光学異性体(対掌体)を高速液体クロマトグラフィー (HPLC)で分割することに成功し、核磁気共鳴(NMR)によって、鏡像体過剰率(混合比率)の高精度な計測法を確立した。さらに二酸化炭素の超臨界流体を用いて、秒単位の光学分割技術を開発したことで知られる。

業績[編集]

初期の業績[編集]

スペーサーを導入した高分割能をもつカラム
鏡像体過剰率

原 昭二は、昭和25年(1950年)、東京大学医学部薬学科を卒業し、東京大学大学院に進んで、薬化学を専攻した。初期の研究は、分析化学、合成化学の基礎を研鑽することに始まり、業績として液体クロマトグラフィーの技術革新[1]、天然有機化合物の構造研究、合成研究(猛毒成分として知られるアコニット・アルカロイドの構造決定、サラマンダーアルカロイド の全合成 [2] など)、広領域にわたって先導的な成果を得た。これらの研究に携わった経験と、研鑽から得られた科学・技術は、革新的な、キラル分割(光学分割、Optical Resolution)法の発見と キラル化学、Chiral Chemistry の中核となるシステム構築に展開された。


キラル化学の革新[編集]

キラルなセレクター(光学分割の機能に関わる部分)をもつ、高効率の充填カラムを創製して、対掌体の分割能をもつHPLC(高速液体クロマトグラフィー )を開発した[3]。 さらに、カラムのもつ選択性を増強するため、セレクターの結合に長鎖のスペーサーを導入した。この固定相表面の非選択的な相互作用は小さく、広範囲のセレクタンドに対して分割能を示した[4]。 D-、および L-アミノ酸の非等量混合物の自己会合に基づく、プロトンNMRスペクトルの非等価共鳴を初めて検証し、核磁気共鳴を用いる鏡像体過剰率計測法を確立した[5]。 超臨界流体の二酸化炭素を移動相とするクロマトグラフィーによって、対掌体混合物を秒単位で分割した[6]。 また、キラルな界面活性剤を合成して、動電クロマトグラフィーで対掌体を分割し、キラル識別能をもつミセルの形成を証明した[7]。 通常の合成法で得られる生成物はラセミ体(対掌体の等量混合物)なので、非ラセミ体を合成する有力な手段として、「不斉合成」asymmetric synthesis は、合成化学の課題の一つとなり、不斉能を発揮する触媒の設計は、その中核をなすとされてきた。また、非ラセミ混合物の計測は、専ら、感度の低い「旋光計」を用いる手法で行われてきた。上記のように、キラルHPLCが開発され、また、NMRによるピーク分裂に基づいた、高感度の測定法が確立されたので、対掌体の非等量混合物を分割し、混合比率を計測する、従来のコンセプトは、全面的に革新された [8]


文献[編集]

  1. ^ 共著 「薄層クロマトグラフィー基礎と応用」南山堂(1963) / 共著 「最新液体クロマトグラフィー基礎と応用」南山堂(1978)
  2. ^ S.Hara,K.Oka: A Total Synthesis of Samandarone, J.Am.Chem.Soc., 89,1041(1967); K.Oka, S.Hara: Denial of the Proposed Structure of Salamander Alkaloids, Cycloneosamandarine. Total Synthesis of Cycloneosamandione and Supposed Cycloneosmandaridine, J.Am.Chem.Soc.,99,3859(1977)
  3. ^ S.Hara,A.Dobashi: Liquid Chromatographic Resolution of Enantiomers on Normal-Phase Chiral Amide Bonded-Silica Gel, J.Chromatogr.,188,543 (1979)
  4. ^ Y. Dobashi, S. Hara: Extended Scope of Chiral Recognition Applying Hydrogen Bond Associations in Nonaqueous Media: (R,R)-N,N’-Di-isopropyltartramide (DIPTA) as a Widely Applicable Resolving Agent, J.Am. Chem. Soc., 107, 3406 (1985)
  5. ^ A. Dobashi, N. Saito, Y. Motoyama, S. Hara: Self-Induced Non-equivalence in the Association of D- and L-Amino Acid Derivatives, J.Am. Chem. Soc., 108, 307 (1986)
  6. ^ S. Hara, A. Dobashi, K. Kinoshita, T. Hondo, M. Saito, M. Senda:Carbon Dioxide Supercritical Fluid Chromatography on a Chiral Diamide Stationary Phase for the Resolution of D- and L-Amino Acid Derivatives, J. Chromatogr., 371, 153 (1986);A. Dobashi, Y. Dobashi, T. Ono, S. Hara, M. Saito, S. Higashidate,Y. Yamauchi: Enantiomer Resolution of D- and L-Amino Acid Derivatives by Supercritical Fluid Chromatography on Novel Chiral Diamide Phases with Carbon Dioxide, J. Chromatogr.,461, 121 (1989)
  7. ^ A. Dobashi, T. Ono, S. Hara, J. Yamaguchi: Optical Resolution of Enantiomerswith Chiral Mixed Micelles by Electrokinetic Chromatography, Anal. Chem., 61, 1984 (1989)
  8. ^ 原 昭二・古賀憲司・首藤紘一編、「モレキュラー・キラリティー」高次機能分子の開拓と創薬への展開をめざして」化学同人(1993)



略歴[編集]

  •  埼玉県志木市出身。
  •  1944年(昭和19年)埼玉県立浦和中学校(現・浦和高等学校)卒業。
  •  1944年(昭和19年)浦和高等学校(旧制)入学 
  •  1947年(昭和22年)浦和高等学校卒業。 
  •  1947年(昭和22年)東京大学医学部薬学科(現・薬学部)入学。
  •  1950年(昭和25年)東京大学医学部薬学科卒業。同年 薬剤師免許を取得。
  •  1958年(昭和33年)東京薬科大学講師。   
  •  1960年(昭和35年)東京大学薬学博士(学位)を取得。 
  •  1960年(昭和35年)東京薬科大学教授。
  •  1964年(昭和39年)日本薬学会奨励賞受賞。 
  •  1986年(昭和61年)Tswett Chromatography Medal 受賞。
  •  1990年(平成 2年)日本薬学会第111年会組織委員会委員長。
  •  1992年(平成 4年)東京薬科大学名誉教授。
  •  1992年(平成 4年)Symposium on Molecular Chilrality 組織委員長。
  •  1994年(平成 6年)日本薬学会有功会員に推挙される。
  •  1999年(平成11年)Molecular Chirality Research Organization(MCRO) を創設。
  •  2000年(平成12年)MCRO chairmanとして活動し、Symposium on Molecular Chirality は年次的な開催となって、この分野で世界の先端をゆくシンポジウムへと成長した。隔年次には、Symposium on Molecular Chirality Asia が組織され、シンポジウムの規模は、アジア全域に拡大された。
  •  2014年(平成26年)MCRO 名誉会長に推挙される。

叙勲[編集]


生い立ち[編集]

原 昭二の生家、「朝日屋原薬局」は、明治20年代に創業、同45年、志木市本町通りに移転した。 明治・大正期に繁栄した薬局の典型として、平成15年7月有形文化財(建造物)として文化庁に登録された。薬剤師の妻、温代によって、現在も営業が続けられている。 原 温代は、湧永製薬副会長で、紫綬褒章を受賞した、不破亨の姉に当たる。