リディア・デイヴィス

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リディア・デイヴィス
Lydia Davis
誕生 (1947-07-15) 1947年7月15日(70歳)
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 マサチューセッツ州ノーサンプトン
職業 小説家翻訳家
言語 英語
国籍 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
最終学歴 バーナード・カレッジ
活動期間 1976年 -
文学活動 フラッシュフィクション
主な受賞歴 ブッカー国際賞(2013年)
配偶者 ポール・オースター(離婚)
アラン・コート
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リディア・デイヴィス(Lydia Davis、1947年7月15日 - )は、アメリカ合衆国小説家翻訳家。主として短編小説の分野で活躍しており、特にわずか1、2行で終わるものを含む非常に短い作品(フラッシュフィクションと呼ばれる)の書き手としてよく知られている[1][2][3]。著書としてこれまでに数冊の短編集と長編小説『話の終わり』を出しているほか、フロベールプルーストサルトルなどフランス文学の訳書がある。

経歴[編集]

マサチューセッツ州ノーサンプトンに生まれる。父はコロンビア大学の英語教授で批評家のロバート・ゴータム・デイヴィス、母は女性誌や『ニューヨーカー』に作品を発表している小説家ホープ・ヘイル・デイヴィスで、これ以上ないほど文学的な環境に育った。父の教え子の中にはシルヴィア・プラスノーマン・メイラーポール・オースターなどがいる[4]

小学生時代からサミュエル・ベケットドス・パソスなどの作品に親しみ、早いうちから作家を志した。バーナード・カレッジで学んでいたころはもっぱら詩を書いていたという[5]。大学卒業後は翻訳で生計を立てつつアイルランドやフランスで生活した[6]。1974年にポール・オースターと結婚し、一児をもうけたが、1977年に離婚。のちに抽象画家のアラン・コートと再婚し、彼との間にも一児をもうけている[7][4]

1976年、最初の短編集『十三人目の女』を出版。1994年に、現在のところ唯一の長編である『話の終わり』を出版。2009年にはそれまでの4冊の短編集をまとめた The Collected Stories of Lydia Davis が刊行され、若い読者に注目されるきっかけとなった。グッゲンハイム賞、ラナン賞、マッカーサー賞などを受賞、2007年には短編集 Varieties of Disturbance全米図書賞最終候補[8]。2013年にはブッカー国際賞を受賞している。

本国ではフランス文学の翻訳家としても知られている[6]。これまでにフーコーブランショミショーサルトルミシェル・レリスミシェル・ビュトールなどの訳書を出しており、2002年にはプルーストの『失われた時を求めて』の「スワン家の方へ」を80年ぶりに新訳して高い評価を得た。この功績により、2003年にフランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエを受けている[8]。その後はフロベールの『ボヴァリー夫人』の新訳などを出しており、スペイン語やスウェーデン語からの翻訳も手掛けている[4]

2013年現在はニューヨークに住み、ニューヨーク州立大学オールバニ校でクリエイティブ・ライティングの教授を務めながら創作活動を行っている[9][10]

作風[編集]

創作の中心は短編小説であり、その作風はしばしばカフカベケットに例えられる。デイヴィスの作品集には寓話風のものやエッセイに近いもの、旅行記風のものや取扱説明書のように書かれたものなど、1作ごとに異なるといえるほど様々な形式の短編が収められており、中には数行や1行で終わる極端に短い作品も少なくない[4][8]。こうした「短さ」は今では彼女の代名詞のように扱われており、本国では現代におけるフラッシュフィクションの代表的な書き手とも評されている[11]。文体は感情を排した無機質なもので、物語は一見抽象的であり(登場人物はほとんどの場合、代名詞だけで示される)、いわゆる普通の小説にあるような筋と言えるものはほとんどない[8]

こうした作風に至ったきっかけは、大学卒業後に読んだ詩人ラッセル・エドソン英語版の風変りな短編集であった。それまでは『ニューヨーカー』に載るような正統派の短編を書こうとしていたが、以来1冊のノートに短い文章を内容を問わずことあるごとに書き連ねるようになり、ここから「十三人目の女」(『ほとんど記憶のない女』所収)をはじめとする独特な短編を作り出すようになった。近作もこのように1冊の「小さな黒いノート」に書き込んだ内容をもとにしており、このノートに書き込むとどんな内容でも小説になってしまうとインタビューで語っている[4]

デイヴィスはまた、自分は出来事が継起する物語を書くことに興味はなく、出来事の裏で起こっている、人間が何を考え、どう意識が動くかというプロセスにつねに興味を持っていると述べている。彼女の作品がしばしば完成した物語ではなく、その途中のプロセスとなっているのはそのためである。唯一の長編『話の終わり』は、語り手と年下の男性との恋愛の顛末を、時系列の物語と、その物語を書こうとしている現時点での語り手の話を平行して語るという形式の作品である。デイヴィス自身は、自分は長編向きの作家ではないと述べており、今後も新たな長編の執筆は予定していないと語っているが、この作品を代表作に挙げる評論家も少なくない[8]

著書[編集]

日本語訳[編集]

  • 岸本佐知子訳 『ほとんど記憶のない女』 白水社、2005年/白水Uブックス、2011年
  • 岸本佐知子訳 『話の終わり』 作品社、2010年
  • 岸本佐知子訳 『サミュエル・ジョンソンが怒っている』 作品社、2015年
  • 岸本佐知子訳 『分解する』 作品社、2016年

出典[編集]

  1. ^ Read 15 Amazing Works Of Fiction In Less Than 30 Minutes”. 2016年10月6日閲覧。
  2. ^ Leslie, Nathan. "That 'V' Word.". Field Guide to Writing Flash Fiction. Ed. Masih, Tara L. Brookline, MA, USA: Rose Metal Press, 2009, 8-9; 11-14.
  3. ^ The Book Gets Fatter: Lydia Davis's "Can't and Won't", Michael LaPointe, LA Review of Books”. 2016年10月6日閲覧。
  4. ^ a b c d e リディア・デイヴィス 『サミュエル・ジョンソンが怒っている』 岸本佐知子訳、作品社、2015年、235-241頁(訳者解説)。
  5. ^ 032c.com. “LYDIA DAVIS: Storytelling, a Strange Impulse”. 2014年3月5日閲覧。
  6. ^ a b リディア・デイヴィス 『ほとんど記憶のない女』 岸本佐知子訳、白水社、2005年、191-197頁(訳者解説)。
  7. ^ Knight, Christopher J. (1999). “An Interview with Lydia Davis”. Contemporary Literature 40 (4): 525–551. doi:10.2307/1208793. http://www.jstor.org/stable/1208793. 
  8. ^ a b c d e リディア・デイヴィス 『話の終わり』 岸本佐知子訳、作品社、2010年、268-274頁(訳者解説)。
  9. ^ Sherwin, Adam (2013年5月23日). “World's most concise short story writer Lydia Davis wins Booker International Prize 2013”. Independent. http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/news/worlds-most-concise-short-story-writer-lydia-davis-wins-booker-international-prize-2013-8627388.html 2013年5月23日閲覧。 
  10. ^ Lydia Davis is Lillian Vernon Distinguished Writer-in-Residence”. New York University. 2013年5月23日閲覧。
  11. ^ The Book Gets Fatter: Lydia Davis's "Can't and Won't", Michael LaPointe, LA Review of Books”. 2016年10月6日閲覧。