ムハンマド・デイフ

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ムハンマド・デイフ
محمد الضيف
生誕 ムハンマド・ディヤーブ・イブラーヒーム・アル＝マスリー
(1965-08-12) 1965年8月12日（58歳）
アラブ連合共和国の旗 アラブ連合共和国占領下、ガザ地区ハーンユニス難民キャンプ
現況 潜伏中
住居 パレスチナ国の旗 パレスチナ、ガザ地区の地下トンネル(推定)
国籍 パレスチナ国の旗 パレスチナ
別名 アブ・ハーレド
首謀者(ハマス内での別名)
猫の7つの命を持つ男
民族 パレスチナ人
出身校 ガザ・イスラーム大学
職業 イッズッディーン・アル＝カッサーム旅団司令官
活動期間 1987年～現在
団体 ハマス(イッズッディーン・アル＝カッサーム旅団)
肩書き 司令官
政党 ハマス
敵対者 イスラエル軍
宗教 イスラム教
犯罪者現況 ガザ地区で潜伏中
配偶者 ウィダード・アスフーラ（2007年に結婚、2014年に死亡）
子供 4人(2人は死亡済)
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ムハンマド・デイフ (アラビア語: محمد الضيف 、文語アラビア語発音：Muḥammad al-Ḍayf(ないしはal-Ḍaif), ムハンマド・アッ＝ダイフ、口語アラビア語発音： 文語アラビア語発音：Moḥammed al-Ḍeif, モハンメド・アッ＝デイフ、英字表記例：Mohammed Deif、1965年8月12日 - ) は、パレスチナ自治区のガザ地区に本拠地を置くイスラム原理主義組織ハマースの軍事部門であるイッズッディーン・アル＝カッサーム旅団の司令官 (他国の軍隊における参謀長に相当) 。

2002年から現在まで就いている。

本名はムハンマド・ディヤーブ・イブラーヒーム・アル＝マスリー(アラビア語: محمد دياب إبراهيم المصري、文語アラビア語発音：Muḥammad Diyāb Ibrāhīm al-Miṣrī, ムハンマド・ディーヤーブ・イブラーヒーム・アル＝ミスリー[1], 口語アラビア語発音：Moḥammed Diyāb Ibrāhīm al-Maṣrī, モハンメド・ディヤーブ・イブラーヒーム・アル＝マスリー）。

青年期の経歴[編集]

ムハンマド・デイフは1948年の第1次中東戦争の後にエジプト（当時はアラブ連合共和国と呼称）占領下にて設置されたハーン・ユニス難民キャンプで1965年に誕生し、ムハンマドと名付けられた[2][3]。 ムハンマド・デイフの家族はラムレ近郊のアル・クベイバ出身だが、1948年の第一次中東戦争中にシオニストの民兵によって逃亡するか追放された[4][5]。イスラエルの諜報機関であるイスラエル総保安庁(シン・ベット)によると、ムハンマドの父親か叔父のどちらかが、1950年代にパレスチナ過激派によって行われたイスラエルへの散発的な襲撃に参加していたという[6][7]。

ムハンマドの幼少期の生活や生い立ちの詳細についてはあまり知られていないが[8]、伝えられるところによれば、ムハンマドは低所得の家族を養うために学校を一時中退し、父親と一緒に室内装飾品製造業で働き、後に小さな養鶏場を始めたという[9][10]。ムハンマドはガザ・イスラーム大学で化学を勉強していたとされており[11][12]、1988年に学士号を取得して卒業した[13]。

大学在学中、ムハンマドは演劇に情熱を注ぎ、以前住んでいたナクバの土地への帰還を切望するパレスチナ難民にちなんで「ザ・リターナーズ」という劇団を設立した。彼は歴史上の人物を含む多くの役を演じた[14][15]。

ハマスの戦闘員としての経歴[編集]

ムハンマド・デイフは、第一次インティファーダ中にハマスが設立されてから数週間後の 1987年にハマスに加わったとされる[16][17]。ムハンマドは組織への関与を理由に1989年にイスラエル当局によって逮捕された。16か月の拘留後、捕虜交換で釈放された[18]。釈放後すぐに、ムハンマドはハマスの武装部隊であるイッズッディーン・アル＝カッサーム旅団の設立に貢献した[19][20]。

ムハンマド・デイフは、それぞれ1993年と1996年にイスラエルによって暗殺されたイマード・アクル（口語発音：イマード・アケル）（英語版）とヤフヤー・アイヤーシュ（英語版）（日本語慣用表記：ヤヒヤ・アイヤーシュ）に近い存在であった。 ムハンマドはアイヤーシュとともに訓練を受け、爆弾製造を学んだ。アイヤーシュが暗殺された後、ムハンマド・デイフは標的にされるのを避けるためにプロフィールを縮小した[21][22][23]。

ムハンマドは1990年代から2000年代初頭にかけて、1996年のヤッファ通りのバス爆破事件（英語版）など、数多くの自爆テロの首謀者であった[24][25][26][27][28]。彼はまた、1990年代のイスラエル国防軍の兵士であったシャハル・シマニ、アリエ・フランケンタール、ナクション・ワックスマンの誘拐とその後の殺害を指揮したとされている[29]。

2000年5月にムハンマド・デイフはイスラエルの要請によりパレスチナ国家当局によって逮捕されたが[30][31]、12月に何人かの協力者の助けを得て脱獄した[32]。

アル＝カッサーム旅団の司令官として[編集]

2002年7月にイスラエルがサラ・シェハデを暗殺した後、ムハンマド・デイフはアル・カッサム旅団の司令官となった[33]。 ムハンマド・デイフがイスラエルによる暗殺未遂で重傷を負った後、2006年7月から2012年11月までの間、デイフの副官アフマド・アル＝ジャアバリーが実効的な指揮を執った[34][35]。

2015年9月にアメリカ合衆国国務省は、デイフと他の 3 人のハマスの指導者を米国の特別指定世界的テロリストのリストに指定した[36]。2023年12月には欧州連合(EU)がムハンマドを2023年のテロのブラックリストに指定した[37]。

戦略[編集]

デイフ氏は、アル・カッサム旅団をアマチュア集団の集団から、イスラエルに侵攻できる「軍隊」と呼ばれる組織化された軍事部隊に変革させた功績があるとされている。彼の軍事戦略は「上と下」戦略と呼ばれ、ロケット弾でイスラエル領土を攻撃し、イスラエルとの国境に侵入するために使用される地下トンネルを建設することに基づいて構築された[38]。

2023年パレスチナ・イスラエル戦争[編集]

アル・カッサム旅団の最高位の指揮官として、ムハンマド・デイフはパレスチナ・イスラエル戦争のきっかけとなったイスラエルへの奇襲攻撃の指揮に関与しており、ハマスに近い関係者によれば、ムハンマドは2021年の戦争に向けて計画を立て始めていたという。ラマダン期間中にイスラエル軍がアル＝アクサー（日本語慣用表記：アル・アクサ、アルアクサ等）を襲撃する場面がきっかけとなったとされている[39]。 フランスの報道機関France24によると、ムハンマドは10月7日の襲撃事件の首謀者である[40]。 攻撃開始の決定は、ムハンマド・デイフとガザ地区ハマスの指導者ヤヒヤ・シンワル（アヤフヤー・アッ＝スィンワール）によって共同で下された[41][42]。

ハマスによるイスラエルへの攻撃後、ロイター通信の報道によると、過去2年間にわたり、デイフはハマスが新たな紛争に興味がないとイスラエルを騙していたという。この欺瞞キャンペーンには、 2022年8月と2023年5月のイスラエルとパレスチナ・イスラム聖戦の衝突に参加しないという決定が含まれており、イスラエルにハマスが「戦闘準備ができていない」という印象を与え、戦闘に参加する可能性があるとの印象を与えた。ガザの労働者に経済的インセンティブを与えることで抑制する。

襲撃当日、デイフ氏は2021年以来となる音声演説を行い、アル＝アクサー・モスクの「冒涜」と2023年に数百人のパレスチナ人が殺傷されたことへの対応としてこの攻撃を正当化した。彼はパレスチナ人とアラブ系イスラエル人に対し「占領者を追放し、壁を破壊する」よう呼び掛けた。 「アル＝アクサーの大洪水作戦」の開始を発表し、デイフは次のように述べた。アメリカと西側の支援を考慮して、責任を問われずにもう楽しむことはできないということを敵に理解してもらうために、私たちはこのすべてに終止符を打つことに決めました。」

暗殺未遂[編集]

ムハンマド・デイフは1995年以来イスラエルの「最重要指名手配者リスト」のトップに位置している。 2023年10月現在、ムハンマド・デイフは少なくとも7回のイスラエルの暗殺未遂を生き延びている[43]。ムハンマド・デイフへの最初の暗殺未遂は、彼がアル・カッサム旅団の指導者に就任する前の2001年の空爆によるものであった[44][45][46]。イスラエルは2002年9月にデイフの車を攻撃して再び殺害しようとした。この未遂のビデオ映像には、男が血まみれのデイフフを引きずり出す様子が映っている。

2003年と2006年7月にも、イスラエルはハマス指導部の会合が開かれていた家を襲撃するという再挑戦を試みた。2006年7月の未遂は、デイフが大学の講師の一人を訪ねていた際に、彼の家を空爆したとも言われている。

2014年のガザ戦争中の2014年8月、イスラエル空軍はガザ市のシェイク・ラドワンの家を空爆し、彼を暗殺しようとした。ハマスはデイフの殺害を否定したが、2015年にイスラエル諜報機関によって確認された。2021年のイスラエル・パレスチナ危機の最中の2021年5月、イスラエル軍はデイフを殺害しようとした。 1週間に2回の試みだったが、どちらの試みも失敗したことが判明した。

2023年のイスラエル・ハマス戦争中の2023年10月、デイフの父親の家がイスラエル軍の空爆を受け、デイフの弟と他の家族2人が死亡した。空爆がディーフを標的としたものかどうかは不明である。

デイフの生存により、イスラエルの敵対者の間で彼は「9つの命を持つ猫」というあだ名が付けられた。

健康への影響[編集]

2006年の暗殺未遂事件の後、デイフさんは頭蓋骨に破片が入り込み治療のためエジプトで3カ月を過ごし、頭痛の治療のために毎日精神安定剤を服用し続けている。

デイフは7回の暗殺未遂で目と手足を失い、車椅子生活になったと考えられている。ハマスはこれらの主張を肯定も否定もしておらず、彼の健康状態についてもコメントしていない。しかし、2023年12月にイスラエル軍が入手した映像では、デイフの状態はかなり良くなり、両手を使い、自分の二足で歩き始めたものの、まだ若干足を引きずり、時折車椅子を使用していることが示されていた。

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ この出自表示部分のニスバについては文語発音であってもアル＝マスリーになっていることが多い。
  2. ^ “イスラエル奇襲攻撃の黒幕、ハマスのデイフ司令官とは何者か？”. Newsweek日本版 (2023年10月12日). 2023年12月21日閲覧。
  3. ^ Messing, Dafna (2021年5月11日). “Who are you, Mohammed Diab Ibrahim al-Masri, aka Muhammed Deif?” (英語). Alma Research and Education Center. 2024年2月18日閲覧。
  4. ^ “Who Is Mohammed Deif? Hamas' Elusive Commander Remains A Mystery Figure” (英語). Free Press Journal. 2024年2月18日閲覧。
  5. ^ O'Connor, Tom (2023年10月13日). “Mohammed Deif, Che Guevara to Gaza, Bin Laden to Israel, faces last stand” (英語). Newsweek. 2024年2月18日閲覧。
  6. ^ “Who is ‘The Guest’: the Palestinian mastermind behind deadly Israel incursion”. www.ft.com. 2024年2月18日閲覧。
  7. ^ Sofuoglu, Murat. “Who is Mohammed Deif — the military leader of Hamas?” (英語). Who is Mohammed Deif — the military leader of Hamas?. 2024年2月18日閲覧。
  8. ^ “Mohammed Deif: The one-eyed Hamas chief in Israel's crosshairs” (英語). (2021年5月30日). https://www.bbc.com/news/world-middle-east-57253521 2024年2月18日閲覧。 
  9. ^ “Who Is Mohammed Deif? Hamas' Elusive Commander Remains A Mystery Figure” (英語). Free Press Journal. 2024年2月18日閲覧。
  10. ^ “Mohammed Deif, the Voice of War” (英語). english.aawsat.com. 2024年2月18日閲覧。
  11. ^ Raghavan, Sudarsan (2023年1月23日). “Mohammed Deif, the shadowy figure who heads Hamas’s military wing” (英語). Washington Post. ISSN 0190-8286. https://www.washingtonpost.com/world/middle_east/mohammed-deif-the-shadowy-figure-who-heads-hamass-military-wing/2014/08/02/ed68c46e-1a85-11e4-85b6-c1451e622637_story.html 2024年2月18日閲覧。 
  12. ^ “Hamas’ deadly ‘phantom’: the man behind the attacks” (英語). Australian Financial Review (2023年10月26日). 2024年2月18日閲覧。
  13. ^ Al-awsat, Asharq. “Middle-east Arab News Opinion” (ウクライナ語). eng-archive.aawsat.com. 2024年2月18日閲覧。
  14. ^ Al-awsat, Asharq. “Middle-east Arab News Opinion” (ウクライナ語). eng-archive.aawsat.com. 2024年2月18日閲覧。
  15. ^ “Mohammed Deif, the Voice of War” (英語). english.aawsat.com. 2024年2月18日閲覧。
  16. ^ “Who Is Mohammed Deif? Hamas' Elusive Commander Remains A Mystery Figure” (英語). Free Press Journal. 2024年2月18日閲覧。
  17. ^ “Hamas’ deadly ‘phantom’: the man behind the attacks” (英語). Australian Financial Review (2023年10月26日). 2024年2月18日閲覧。
  18. ^ “Has Hamas military chief, Mohammed Deif, escaped death again?”. 2024年2月18日閲覧。
  19. ^ “Hamas’ deadly ‘phantom’: the man behind the attacks” (英語). Australian Financial Review (2023年10月26日). 2024年2月18日閲覧。
  20. ^ Al-awsat, Asharq. “Middle-east Arab News Opinion” (ウクライナ語). eng-archive.aawsat.com. 2024年2月18日閲覧。
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  23. ^ Raghavan, Sudarsan (2023年1月23日). “Mohammed Deif, the shadowy figure who heads Hamas’s military wing” (英語). Washington Post. ISSN 0190-8286. https://www.washingtonpost.com/world/middle_east/mohammed-deif-the-shadowy-figure-who-heads-hamass-military-wing/2014/08/02/ed68c46e-1a85-11e4-85b6-c1451e622637_story.html 2024年2月18日閲覧。 
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  30. ^ “Who Is Mohammed Deif? Hamas' Elusive Commander Remains A Mystery Figure” (英語). Free Press Journal. 2024年2月18日閲覧。
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  34. ^ “Who is Mohammed Deif, the elusive Hamas commander behind the attack on Israel?” (英語). CNBCTV18 (2023年10月11日). 2024年2月18日閲覧。
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  41. ^ Sanz, Juan Carlos (2023年10月18日). “Mohamed Deif and Yahya Sinwar, the masterminds of the Hamas attack who top Israel’s most wanted list” (英語). EL PAÍS English. 2024年2月18日閲覧。
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  44. ^ “Mohammed Deif, the Voice of War” (英語). english.aawsat.com. 2024年3月20日閲覧。
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  46. ^ “Who is Mohammed Deif whom Israel tried to assassinate several times” (英語). CNBCTV18 (2021年5月19日). 2024年3月20日閲覧。

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