スタスミン

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STMN1
識別子
記号STMN1, C1orf215, LAP18, Lag, OP18, PP17, PP19, PR22, SMN, stathmin 1
外部IDOMIM: 151442 MGI: 96739 HomoloGene: 4063 GeneCards: STMN1
遺伝子の位置 (ヒト)
1番染色体 (ヒト)
染色体1番染色体 (ヒト)[1]
1番染色体 (ヒト)
STMN1遺伝子の位置
STMN1遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点25,884,181 bp[1]
終点25,906,991 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
4番染色体 (マウス)
染色体4番染色体 (マウス)[2]
4番染色体 (マウス)
STMN1遺伝子の位置
STMN1遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点134,195,631 bp[2]
終点134,201,154 bp[2]
RNA発現パターン
さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 血漿タンパク結合
シグナルトランスデューサー活性
tubulin binding
細胞の構成要素 細胞内
細胞質
細胞骨格
微小管

細胞質基質
エキソソーム
neuron projection
生物学的プロセス 神経系発生
mitotic spindle organization
多細胞個体の発生
細胞分化
intracellular signal transduction
response to virus
axonogenesis
neuron projection development
シグナル伝達
脳発生
mitotic cytokinesis
microtubule depolymerization
regulation of microtubule polymerization or depolymerization
negative regulation of microtubule polymerization
negative regulation of Rho protein signal transduction
hepatocyte growth factor receptor signaling pathway
negative regulation of stress fiber assembly
establishment of skin barrier
negative regulation of thrombin-activated receptor signaling pathway
negative regulation of guanyl-nucleotide exchange factor activity
regulation of cytoskeleton organization
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_203401
NM_001145454
NM_005563
NM_152497
NM_203399

NM_019641

RefSeq
(タンパク質)

NP_001138926
NP_005554
NP_981944
NP_981946

NP_062615

場所
(UCSC)
Chr 1: 25.88 – 25.91 MbChr 1: 134.2 – 134.2 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

スタスミン: stathmin)は、ヒトではSTMN1遺伝子にコードされるタンパク質である。Metablastinやoncoprotein 18といった名称でも知られる。

スタスミンは高度に保存された17 kDaのタンパク質であり、細胞骨格の調節に重要な役割を果たす。細胞骨格は細胞質の組織化や細胞分裂、細胞の運動性など多くの細胞過程に必要な足場として機能するため、その変化は重要である[5]。スタスミンは細胞周期の調節にも重要であり[6]真核生物にのみ存在する。

微小管のダイナミクスを調節するスタスミンの機能に関しては、詳細な特性解析がなされている[7]。真核生物では、微小管は細胞骨格を構成する3つの主要な構成要素のうちの1つである。微小管は高度に動的な構造であり、絶えず重合と脱重合を繰り返している。スタスミンは、細胞の要求に応じて迅速に微小管のリモデリングを調節する重要な機能を果たす。微小管はα、βチューブリンからなる円筒型の重合体である。微小管の組み立ては、細胞質の遊離チューブリン濃度によって部分的に決定されている[8]。遊離チューブリン濃度が低い場合、微小管末端の成長速度は低下し、脱重合の速度が増加する[7][9]

機能[編集]

スタスミンの機能は、細胞骨格の調節である。スタスミンは特に、微小管の調節に関与する。微小管は長い中空の円筒形の構造をしており、α、βチューブリンのヘテロ二量体から構成される。チューブリンサブユニットの付加による重合、また喪失による脱重合といった微小管のダイナミクスによって、細胞骨格には変化が生じる[5]。スタスミンは微小管の脱重合の阻害、もしくはチューブリンヘテロ二量体の重合の阻害によってこうした過程を調節する[6]

さらに、スタスミンはシグナル伝達経路の調節にも関与していると考えらえている。スタスミンは細胞内に普遍的に存在するリン酸化タンパク質であり、細胞内で多様な調節経路をリレーし[10]、さまざまなセカンドメッセンジャーを介して機能する。

スタスミンリン酸化状態や遺伝子発現は発生過程を通じて調節されているほか[11]、細胞の増殖、分化、機能を調節する細胞外シグナルに応答した調節も行われる[12]

相互作用[編集]

Stathmin
チューブリン-コルヒチン-ビンブラスチン:STMN4スタスミン様ドメイン複合体構造
識別子
略号 Stathmin
Pfam PF00836
InterPro IPR000956
PROSITE PDOC00487
SCOP 1sa0
SUPERFAMILY 1sa0
利用可能な蛋白質構造:
Pfam structures
PDB RCSB PDB; PDBe; PDBj
PDBsum structure summary
テンプレートを表示

スタスミンは2分子の二量体型αβチューブリンと相互作用し、T2S complexと呼ばれる強固な三者複合体を形成する[7]。1分子のスタスミンは、スタスミン様ドメイン(stathmin-like domain、SLD)を介して2分子のチューブリン二量体に結合する[9]。スタスミンによってチューブリンがT2S complexへ隔離された場合、チューブリンは重合することができない状態となり、微小管の組み立ては起こらなくなる[7]。また、スタスミンは微小管の末端に直接作用し、微小管の脱重合の促進も行う[6]

微小管重合の速度は細胞成長の重要な側面をなしており、そのためスタスミンの制御は細胞周期の進行と関係している。スタスミンの調節は細胞周期依存的であり、特定の細胞シグナルに応答するプロテインキナーゼによって制御されている[9]。スタスミンの4つのセリン残基(Ser16、Ser25、Ser38、Ser63)のリン酸化によってスタスミン-チューブリン間の結合は弱まり、細胞質中で微小管の組み立てに利用可能なチューブリンの濃度は上昇する。細胞周期のM期の開始には紡錘体の組み立てが必要となるため、スタスミンのリン酸化が起こらなければならない。微小管の成長と組み立てが起こらない場合、紡錘体を形成することができず、細胞周期は停止する。細胞分裂の最終段階である細胞質分裂時には、準備が整うまで細胞周期の再進行を防ぐため、スタスミンの迅速な脱リン酸化が生じる[9]

臨床的意義[編集]

スタスミンは細胞周期の調節に関与しているため、がんタンパク質にもなりうる。スタスミンが変異によって適切に機能しなくなった場合、無制御な細胞増殖が引き起こされる。スタスミンがチューブリンに結合できない場合、常に微小管重合、そして紡錘体の組み立てが可能となる。紡錘体形成の調節が行われない場合、細胞周期は無制御に進行し、がん細胞の特徴である無制御な細胞成長が引き起こされる[9]

社会的行動における役割[編集]

スタスミン欠損マウスは、本能的な恐怖行動や学習による恐怖行動に欠陥がみられる。スタスミン−/−型のメスのマウスは脅威の評価を十分に行うことができず、本能的な子育て行動や成体の社会的相互作用に影響が生じる。こうしたマウスは仔マウスを回収する動機づけを欠き、巣作りのための安全な場所を選ぶことができない。一方で、社会的相互作用の増加がみられる[13]

出典[編集]

  1. ^ a b c GRCh38: Ensembl release 89: ENSG00000117632 - Ensembl, May 2017
  2. ^ a b c GRCm38: Ensembl release 89: ENSMUSG00000028832 - Ensembl, May 2017
  3. ^ Human PubMed Reference:
  4. ^ Mouse PubMed Reference:
  5. ^ a b “Structural plasticity in actin and tubulin polymer dynamics”. Science 325 (5943): 960–3. (August 2009). Bibcode2009Sci...325..960K. doi:10.1126/science.1168823. PMC 2864651. PMID 19696342. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2864651/. 
  6. ^ a b c “The role of stathmin in the regulation of the cell cycle”. Journal of Cellular Biochemistry 93 (2): 242–50. (October 2004). doi:10.1002/jcb.20187. PMID 15368352. 
  7. ^ a b c d “Stathmin: a tubulin-sequestering protein which forms a ternary T2S complex with two tubulin molecules”. Biochemistry 36 (36): 10817–21. (September 1997). doi:10.1021/bi971491b. PMID 9312271. 
  8. ^ “N-terminal stathmin-like peptides bind tubulin and impede microtubule assembly”. Biochemistry 44 (44): 14616–25. (November 2005). doi:10.1021/bi0512492. PMID 16262261. 
  9. ^ a b c d e “The oncoprotein 18/stathmin family of microtubule destabilizers”. Current Opinion in Cell Biology 14 (1): 18–24. (February 2002). doi:10.1016/S0955-0674(01)00289-7. PMID 11792540. 
  10. ^ “A single amino acid difference distinguishes the human and the rat sequences of stathmin, a ubiquitous intracellular phosphoprotein associated with cell regulations”. FEBS Letters 264 (2): 275–8. (May 1990). doi:10.1016/0014-5793(90)80266-L. PMID 2358074. 
  11. ^ “Stathmin gene family: phylogenetic conservation and developmental regulation in Xenopus”. The Journal of Biological Chemistry 268 (22): 16420–9. (August 1993). doi:10.1016/S0021-9258(19)85437-6. PMID 8344928. 
  12. ^ “A single cDNA encodes two isoforms of stathmin, a developmentally regulated neuron-enriched phosphoprotein”. The Journal of Biological Chemistry 264 (21): 12134–7. (July 1989). doi:10.1016/S0021-9258(18)63830-X. PMID 2745432. 
  13. ^ “Stathmin reveals dissociable roles of the basolateral amygdala in parental and social behaviors”. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 105 (38): 14620–5. (September 2008). Bibcode2008PNAS..10514620M. doi:10.1073/pnas.0807507105. PMC 2567152. PMID 18794533. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2567152/. 

関連文献[編集]

外部リンク[編集]