シッダ医学

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シッダ医学(シッダいがく)とは、南インド、主にタミル地方に伝わる特有の医学である。インドには他にもユナニ医学アーユルヴェーダなどの伝統医学が存在するが、その中でもシッダ医学は最も古いといわれ、その起源は1万2千年前から6千年前まで遡る。医学を発展させたうちの1人、ダンバントリは北インドのアーユルヴェーダを創設したといわれている。また、ドイツで発祥したホメオパシーもシッダ医学の文献をもとにしてできたといわれている。

シッダ医学の特徴[編集]

微量の薬でも効果があり(例:マスタードシードサイズ)、薬がない場合の治療法があり(例:アダンガル技術など)、薬の中には何世代先の分まで保つものがあり(例:消費期限が400年先)、薬の中には、病気を治すとともに細胞を若返らせるものもあり(例:カーヤカルパ)、貧しい人でお金がなくても、低コスト・低価格で薬を提供でき(例:3週間で30ルピー)、比較的短期間で治療が可能で、そして、ありとあらゆる病気に対応している。

シッダ医学には次の八項目の診断・検査の方法がある。すなわち、脈診、眼診、声診、触診、色(肌色)診、舌診、便診、尿診。このうち脈診と尿検査はシッダ医学の際立った特徴である。

魂、環境、心、身体、社会の全ての完璧な健康を目指す[編集]

“薬について”

「身体の不調を治すものが“薬”であり、心の不調を治すものが“薬”であり、来る病を予防するものが“薬”であり、死をなくすものが“薬”である」(maruppathu udalnoi marunchenaragum , maruppathu uninoi maruncehnaragum , maruppathu ininoi varamaikku , maruppathu saavai marunchenaraamee)

シッダによると魂と身体が1つになる理由はこの世で経験を積み、賢明になり、大いなる存在へと近づくことである。そのためには 、環境、社会、心、魂、身体全てが健康でなければいけない。シッダ医学の薬学のアプローチは、身体の病気に対する薬ではなく、心の不調、予防医学、そして社会、環境問題までおよんでいる。

不老不死へのアプローチ[編集]

シッダ医学は唯一不老不死を目指す世界で1つの医学である。

小宇宙と大宇宙[編集]

シッダ医学は人間の身体が小宇宙であり、身体に存在する全てのものは宇宙に存在し、身体に影響する全てのものは環境に影響することを述べている。つまり、健康的に生きる1番の生き方は自然に沿って生きることであり、環境を守ることである。

5元素[編集]

シッダ医学は全ての存在(原子すらも)が5つの要素でできており、それらは“見えない存在”が“見える存在”としてたまたま現れている。

その5つの要素とは

  1. 空間(動かないもの、どこまでも広がるもの、時間)
  2. (冷たいもの、ぬるぬるしているもの、やわらかいもの、色がないもの、液体)
  3. (熱いもの、色を与えるもの、見えないもの、乾いているもの)
  4. (乾いているもの、重さが無いもの、動きを与えるもの、呼吸)
  5. (動かないもの、重いもの、荒いもの)

であり、地球上全ての存在がこの5元素により構成されている。例えば水を例にとると、水は液体だが、火の要素である熱を加えると風になり、水の要素である冷たさを加えると地となる。

金属の利用[編集]

シッダ医学は水銀を主にした金属を使う初めての医学である。例えば、その1つは少量で生活習慣病などの病気を治すことができ、更には長い期間使うことができる。

ムップ[編集]

ムップとは特別な調合法で、3種類のを調合してできる。薬の効き目を良くし、解毒し、病気の治りを早め、薬の完成を早める。

カーヤカルパ[編集]

カーヤカルパとは身体を石のように固くし、強くし、身体を病や死、老化から防ぐことをいう。その中にはアシュタンガヨーガ、ハーブ、金属の薬などが含まれる。

96タットゥバ[編集]

人間の身体には魂を保つための96つの仕組みがある。それは全ての人間に共通し、変わることがないものである。また、解剖学的、生理学的な部分だけでなく、心理学的な部分、死なども含まれている。様々な考え方があるが、ユギムニの考え方は以下である。

ブータ
5元素(空、風、火、水、地)
ポリ
5つの感覚器官(耳、皮膚、目、舌、鼻)
プラン
5つの感覚(聞くこと、触れること、見ること、味、匂い)
カンメンディリヤ
5つの動器官(手、足、生殖器、排泄器官、口)
ニャーナメンディリヤ
5つの感覚器官を通して感じとる5つの感覚

カラナン[編集]

アリヴ[編集]

ナーディ[編集]

ヴァーユ[編集]

アーサヤン[編集]

コサム[編集]

  • アーダラム
  • マンダラム
  • マラム
  • トダム
  • イーダナイ
  • グナム
  • ヴィナイ
  • ラガン
  • アバスタイ

シッダ医学を発展させたシッダたち[編集]

彼らはただの人間ではなく修行のよって悟りと神通力を得た“シッダ(完成した者、超越した者、タミル語圏ではシッダール)”と見なされ、長寿を得た。この中の18人のシッダによって完成させたのがシッダ医学だとされる。

ティルムーラルは中でもシッダ医学に対し最大の貢献をした。彼は特に身体の健康を維持すること(予防医学)を大切にすることを何度も唱えていることで有名である。伝説によると彼は3千年生き、1年に1つの詩を書き残した。その3千もの詩は現代医学の観点からもいっても非常に貴重な情報が隠されている。

彼の残した詩に以下のものがある。

「身体を破壊することは魂を破壊することであり、ヴィジョンを受け取るのは不可能となる、身体をまもる道を学べ、身体をまもることは魂をまもること」(undambai ariir uyral ariva , chidambada meyanyanam cheravu maattaru , udanmbai baraakum udanar arinche , udambai baratenei uyir baratene)

『十八人のシッダは、ナンディ、ティルムーラル、カランギナダル、ボーガル、コンガナル、アガスティヤル、シヴァヤ=シッダル、チェンディケーサル、カマラムニ、パタンジャリ、サタイムニヴァル、マチャムニ、クナッカンナル、プンナケーサル、コーラッカル、テーラーイヤル、スンダラル、イダイカダル である。』(引用文献:南インドの伝統医学/佐藤任著 出帆新社)

シッダ医学の現状[編集]

シッダ医学は「アーユルヴェーダよりも効く」と地元の人が口を揃えて言うにもかかわらず、世界にはおろか南インドにすら知られていない。シッダーたちが残した文献は非常に難しく、ほとんどが詩で書き残されているため、そのほとんどはまだ英訳されてもいないし、解読されてもいない。しかし、シッダ医学は南インド、主にタミル地域で伝えられ、伝統的なプラクティショナーは多数存在する。

参考文献[編集]

  • 佐藤任『南インドの伝統医学―シッダ医学の世界』出帆新社〈伝統医学シリーズ〉、2006年。 

関連項目[編集]