グッドガール・アート

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マット・ベイカー作画、『ファントム・レディ』第1シリーズ第17号(1948年4月)。この表紙絵はゴールデンエイジ(1940年代前後)のコミックにおけるグッドガール・アートの最高峰とされることがある[1]

グッドガール・アート: good girl art, GGA[2])とは女性を題材とするイラストレーションのスタイルの一つ。主に米国のコミックブックコミックストリップパルプマガジンでよくみられた[3]。1930年代から1970年代にかけてアメリカン・コミックブック・カンパニー社の通信販売カタログに載っていた言葉が起源[4]。現在ではコミック専門家によって、当時のコミックで描かれていた極度にセクシュアライズ英語版された女性像を指す言葉として使われている[5]。その派生として、セクシーさがさらに強調されたインモラルなバッドガール・アート英語版が1990年代に流行した[1]

歴史[編集]

グッドガール・アートという言葉は1930年代から長期にわたって広い対象を指して使われてきた[1]。SF作家リチャード・A・ルポフはグッドガール・アートを次のように定義している。

魅力的な若い女性を描いた表紙イラストレーション。布地が少ないか体の線が浮き出る服を着ているのが一般的で、性的な刺激を狙ったデザインである。「グッドガール」はそのキャラクターが道徳的だという意味ではなく、ギャングの情婦英語版、タフなタイプ、魔性の女タイプであることも多い[2]

コミック研究者クリストファー・J・ヘイトンは「グッドガール」が読者の目を楽しませながら自身の性的な魅力に気づいていない点が特徴だとしている[1]

グッドガール・アートの人気は1940年代から1950年代にかけてピークを迎えた。支持者は若い男性、特に駐屯地に持ち込まれたコミック以外に女性を見る機会が限られていた米軍人だった[6]。この作風を代表するイラストレーターには、純情な少女が主人公のコミック『トーチー英語版』で知られるビル・ワードや、コミックのゴールデンエイジ英語版に活動していた数少ないアフリカ系漫画家の一人で『ファントム・レディ英語版』で知られるマット・ベイカー英語版がいる[1]

この時期には新聞連載のコミックストリップにもグッドガール・アートが見られた。初期の例にはラッセル・スタムによる『インヴィジブル・スカーレット・オニール英語版』がある。よくランジェリー姿で描かれる女性スーパーヒーローだった[7]

やがてこの言葉の対象は広がり、コミックブックやカートゥーン、ならびにダイジェスト誌英語版ペーパーバック本パルプ雑誌の表紙において、女性キャラクターを挑発的で際どい(ときに非現実的な)シチュエーションで描くスタイルを指すようになった。宇宙空間を背景にしたり、ボンデージや「囚われの姫」タイプの設定で描かれるものなどがあった。

SF雑誌の表紙にグッドガール・アートを描いたイラストレーターではアール・K・バージー英語版(『スタートリング・ストーリーズ』、『スリリング・ワンダー・ストーリーズ』)とハロルド・W・マコーリー英語版(『イマジネーション』、『ファンタスティック・アドベンチャーズ』)の二人が挙げられる。1970年代パルプ小説では、ヘクター・ガリード英語版がポール・ケニオンのスパイ小説「ザ・バロネス英語版」やウォーレン・マーフィーリチャード・サピア英語版のパルプ冒険小説「デストロイヤー」の表紙にグッドガール・アートを描いている。

1985年、ビル・ピアソン英語版によるインディー雑誌 Witzend英語版がグッドガール・アートを集めた特集号を出した。取り上げられたイラストレーターにはブラッド・W・フォスター英語版フランク・フラゼッタフランク・ゴッドウィン英語版ロイ・クレンケル英語版ボブ・マクラウド英語版エド・パシュケ英語版ウィリー・ポガニー英語版トリナ・ロビンスウォーリー・ウッド英語版マイク・ゼック英語版などがいる[8]

1990年から2001年にかけてACコミックス英語版からピアソンの編集で『グッドガール・アート・クォーターリー』が19号にわたって刊行された(『グッドガール・コミックス』数号を含む)[9][10][11]。ピンナップ写真、新作コミック、ビンテージコミックが掲載されていた。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e Hayton, Christpher J.. “Evolving Sub-Texts in the Visual Exploitation of the Female Form: Good Girl and Bad Girl Comic Art Pre- and Post-Second Wave Feminism”. ImageTXT (7.4). https://imagetextjournal.com/evolving-sub-texts-in-the-visual-exploitation-of-the-female-form-good-girl-and-bad-girl-comic-art-pre-and-post-second-wave-feminism/ 2024年3月11日閲覧。. 
  2. ^ a b Lupoff, Richard A. (2001). The Great American Paperback: An Illustrated Tribute to Legends of the Book (1st American ed.). Portland, Oregon: Collectors Press. p. 318. ISBN 9781888054507. https://archive.org/details/greatamericanpap0000lupo 2024年3月12日閲覧。 
  3. ^ Jolley, H. Scott (April 2008). "Heroine Chic". Vanity Fair. No. 572. p. 122. 2013年9月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月12日閲覧
  4. ^ Goulart, Ron (2007). Good Girl Art. New Castle, Pennsylvania: Hermes. ISBN 978-1932563870. https://books.google.com/books?id=H68UAAAACAAJ 2015年12月16日閲覧。 
  5. ^ Lavin, Michael R. (1998-06-01). “Women in comic books”. Serials Review 24 (2): 93–100. doi:10.1080/00987913.1998.10764448. ISSN 0098-7913. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/00987913.1998.10764448. 
  6. ^ Goulart, Ron (1986). Great History of Comic Books. Chicago Contemporary Books. pp. 241 
  7. ^ Heintjes (2017年6月8日). “Not Seen but Not Forgotten: The Invisible Scarlet O'Neil”. Hogan's Alley. 2013年6月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年3月12日閲覧。
  8. ^ Arndt, Richard J. (2007年8月20日). “The Early Independents Index”. Richard J. Arndt. 2024年3月11日閲覧。
  9. ^ GCD :: Series :: Good Girl Art Quarterly”. GCD. 2024年3月11日閲覧。
  10. ^ GCD :: Series :: Good Girl Comics”. GCD. 2024年3月11日閲覧。
  11. ^ GCD :: Series :: Good Girl Art Quarterly”. GCD. 2024年3月11日閲覧。

関連文献[編集]

  • Beaulieu, Dennis (Spring 1996). "Interview with artist Richard Bassford on Wally Wood and Good Girl Art". CFA-APA. No. 40. Comic & Fantasy Art Amateur Press Association.

外部リンク[編集]