ガエターノ・グアダーニ

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ガエターノ・グアダーニ(Gaetano Guadagni、1729年12月11日 - 1792年10月11日)は、イタリアカストラート歌手。ヘンデルオラトリオグルックオペラを歌い、とくにグルック『オルフェオとエウリディーチェ』のオルフェオ役で知られる。

生涯[編集]

グアダーニの若いころについてはよくわかっていない。ローディあるいはヴィチェンツァの生まれで[1][2]、1746年にパドヴァサンタントーニオ・ダ・パードヴァ聖堂でアルト・カストラートとしてデビューした[1]

1748年からロンドンで歌っていたが、ヘンデルは彼に注目して自らのオラトリオを歌わせた[1][3]。ヘンデルの1750年のシーズンで初登場し[4]、『メサイア』と『サムソン』(ミカ役)の再演、および『テオドーラ』(ディディマス役)の初演で歌った[3]

ロンドンでグアダーニはデイヴィッド・ギャリックについて俳優としての演技を学び、演技派の歌手として知られた[1][3][5]。1753年にロンドンを去り、リスボンで有名なカストラートのジョアッキーノ・コンティに学んだようである[1]。1754年にはパリコンセール・スピリチュエルで、さらにヴェルサイユ宮殿でも歌った。1755年にはロンドンに戻り、ギャリックに雇われてドルリー・レーンの劇場で歌った[1]

1750年代後半にはイタリア各地で歌うだけでなくヨーロッパ中から注文が来る、きわめて有名な歌手であった[1]ウィーンでは1762年にハッセのオペラ『クレリアの勝利』のホラティウス・コクレス役でデビューし、同年10月にはグルック『オルフェオとエウリディーチェ』のオルフェオ役を演じた。翌1763年にはトラエッタ『タウリスのイフィジェニア』のオレステス、1764年にはハッセ『エジェリア』のメルクリウス、1765年にはガスマン『オリンピーアデ』のメガクレと『愛の勝利』のアポロ、およびグルック『テレマコ』の主人公を演じた[1]

『オルフェオとエウリディーチェ』はグアダーニがオルフェオを演じることを前提として書かれた作品であり、歌唱と演技を結びつけるグアダーニの能力があってはじめて現在の形にすることが可能であった[6]。オルフェオはグアダーニの当たり役となり、ロンドン(1770年)やミュンヘン(1773年)などの地で『オルフェオとエウリディーチェ』を上演する際にもグアダーニがオルフェオを演じた[7]

1767年からは主にヴェネツィアとパドヴァに住み、1772年にはヴェネツィアで聖マルコ騎士に叙勲された[1]。同年ザクセン選帝侯フリードリヒ・クリスティアンの未亡人マリア・アントーニアに招かれてミュンヘンに数年間住んだ[1]。晩年に声域はソプラノ・カストラートになっていた[1]。1776年にヴェネツィアの聖ベネデット劇場とポツダムフリードリヒ2世の前で歌った後、パドヴァに居を定めた。その後も歌手としての活動を続けたが、1785年に脳卒中で倒れた後はほとんど言葉を話すことができなくなり、1792年にパドヴァで没した[1]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l Pini (2003).
  2. ^ Grove Onlineではローディ生まれとする
  3. ^ a b c P. Cattelan, “Guadagni, Gaetano (opera)”, Grove Music Online, doi:10.1093/gmo/9781561592630.article.O007189 
  4. ^ 三澤 (2007), p. 176.
  5. ^ Heartz (1995), p. 191.
  6. ^ Heartz (1995), pp. 179, 189.
  7. ^ Heartz (1995), p. 206.

参考文献[編集]

  • Pini, Andrea (2003), “GUADAGNI, Gaetano”, Dizionario Biografico degli Italiani, 60, https://www.treccani.it/enciclopedia/gaetano-guadagni_(Dizionario-Biografico) 
  • Heartz, Daniel (1995), Haydn, Mozart, and the Viennese School, 1740-1780, W.W. Norton & Company, ISBN 0393037126 
  • 三澤寿喜『ヘンデル』音楽之友社〈作曲家 人と作品〉、2007年。ISBN 9784276221710